Kanon Fantasia

 

 

 

第13話 影で動くもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お風呂。
それは疲れを流す場所。
人にとって一つの安らぎを覚える瞬間。

栞 「はぁ〜、極楽極楽です」

人間としての感情が欠落しているらしい栞だったが、お風呂に安らぎを覚える感覚はなくなっていないらしい。

栞 「こうやって暖かいお風呂に入りながらつめたーいアイスを食べたら最高です〜」

さやか 「それは溶けるでしょ」

栞 「あ、そうですね。って、どちらさまですか?」

大して驚きもせずに突然話し掛けてきた相手に問い掛ける。
風呂屋なのだから他に客がいても不思議ではない。

さやか 「隣りいい?」

栞 「はい、どうぞ」

長い髪を一束ねにして、さやかは栞の隣りの湯船に浸かる。

さやか 「いや〜、極楽極楽」

栞 「ですね〜」

少女が二人、お風呂の安らぎに表情を崩している。

さやか 「ああ、そうそう、さっきの質問。私はね、さやかって言うの」

栞 「そうですか。私は美坂栞と言います」

さやか 「美坂・・・どっかで聞いたような・・・聞かないような・・・・・・」

栞 「結構ありきたりな苗字なんじゃないですか?」

さやか 「どうだろ? ま、出てこないってことはそうなのかもね。それよりもあなた・・・・・・」

栞 「はい?」

さやか 「・・・・・・・・・ふぅん」

栞 「?」

さやか 「・・・ううん、なんでもないよ」

栞 「えっと、よくわかりませんけど、そうですか。あ、私そろそろ行きますね」

さやか 「うん。縁があったらまったね〜」

栞 「はい。さようなら」

湯船から上がり、栞は脱衣所の方へ歩いていった。
残ったさやかは、顔半分くらい湯に浸かるまで沈みこむ。

さやか 「ぶくぶくぶくぶく」

泡を立てて遊んでみたりする。

さやか 「・・・なんか・・・調子出ないねぇ」

すぅっと細められた目は、普段祐一達に見せているものとはまるで違う、冷たい輝きを宿していた。

さやか 「幽が女の子連れてるのなんていつものことだって言うのに・・・・・・ま、それはいいとして。昔の私だったらどうしたろ? 今の子・・・」

いくつもの顔を思い浮かべる。
幽、そしてその周りに集まる女達の顔。
ただ女を傍に置いておくのが好きな奴だった。
本当にただの遊びだけのこともあれば・・・。

さやか 「・・・どこまでいくと本気なのか、よくわからない奴だからねぇ、アイツは」

幽が傍に置く女によく抱いた感情。
かつてのそれは、おそらく嫉妬と呼べるものだろう。
今、さやかの調子が狂っているのは、嫉妬という感情にではなく、それを昔ほど感じない自分を不思議に思ってのことだった。

さやか 「・・・アレやると、どうも前の自分とどこか違ってくる。そのうち戻ってくけど、やっぱり変わってる。それはいいんだけど・・・・・・あれ? 私なんで悩んでるんだろ?」

よくわからない。

さやか 「いかんいかん、ガラにもなくセンチになってる。場所が悪いよね、サーガイアなんて」

一度頭まで完全に湯船に入り込む。
そして一気に上がった瞬間、もとのさやかに戻った。

さやか 「よーし、洗い流し完了。さて、そろそろみんな戻ってくるでしょ・・・・・・ん?」

風呂から出ようとすると、何かただならぬ気配を感じた。
しかも、以前どこかで感じた、知っている存在のものだった。

さやか 「ふぅん、いよいよおもしろくなりそうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みさき 「浩平君」

浩平 「いいタイミングだな。あの連中も思惑通りに動いてくれてるみたいだ」

みさき 「でもいいの? 彼らのことはまだよくわかってないんだよ」

浩平 「だから、それをこれから確かめるんじゃないか。みさきさんは瑞佳と一緒にここを頼むよ。澪は俺と一緒に行動。他のみんなは予定通りに」

みさき 「大丈夫だよね?」

浩平 「何かあったら澪に知らさせるから。心配するなよ」

みさき 「うん、気をつけて」

浩平 「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽 「・・・きな臭ぇな」

栞 「はい?」

幽 「影でこそこそしやがって。まぁ、楽しめそうだからいいがよ」

栞 「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者仲間の、いざという時の集合場所は、冒険者ギルドである。
新しい仲間の登録もあったので、学院を後にした祐一達はまずギルドへ向かった。

受付 「炎術師・沢渡真琴と黒魔女・天野美汐、おてんこ小隊として登録してよろしいですね?」

祐一 「ああ、頼む」

真琴 「なんか、ダサいパーティー名」

美汐 「あまりセンスがいいとは思えませんが」

祐一 「俺もそう思う。じゃんけんで負けたらから仕方なかったんだよ」

少し待っていると、そのじゃんけんの勝者にしてネーミングセンスなしの仲間がやってきた。

さやか 「やっほー、みんな元気だった?」

祐一 「たかが三日ぶりで元気も何もないだろ」

佐祐理 「あははー、さやかさん、お元気でしたかー?」

祐一 「・・・・・・」

舞 「・・・元気?」

祐一 「俺か? 俺がおかしいのか?」

とことんマイペースな仲間達に翻弄されっぱなしの祐一であった。
それはさておき・・・。

さやか 「真琴に美汐だっけ。よろしくね」

真琴 「あぅー、よろしく」

美汐 「よろしくお願いします。こっちの方は迷惑をかけるかもしれませんが・・・」

真琴 「この厭味女は無視しちゃっていいわよ」

美汐 「・・・・・・」

真琴 「・・・・・・」

ばちばちばちばちっ

互いにキッと睨み合い、その間に火花が飛び散る。
それだけで二人の関係が手に取るようにわかった。

さやか 「賑やかになりそうだね」

祐一 「賑やかすぎだ。さてと、ちょっと問題がある」

佐祐理 「どうしました?」

祐一 「この半月ばかりずっと旅を続けて、しかも仲間が増えて、路銀が心許なくなってきた」

さやか 「あー、確かに。よく食べる子もいるしね」

舞 「・・・・・・」

佐祐理が家から持ち出した金がかなりあったので、ここまでまったく余裕でもってきたが、さすがにこれ以上旅を続けるのは苦しい。
ここらでいくらか稼ぐ必要があった。

さやか 「ま、いいんじゃない。どうせ急ぐ旅でもないし、ちょっとくらい路銀稼ぎしてっても・・・・・・」

祐一 「どうした?」

さやか 「ううん、ちょっと失礼ね。お金稼ぎに関しては適当に決めておいてよ」

祐一 「? ああ」

ひょこひょこと跳ねるような調子でさやかは店の奥へ消えていった。
手洗い程度だろうとあたりをつけ、祐一は話を進めることにした。

祐一 「まぁ、あいつの言ったとおり、最初の目的地サーガイアにはついたんだ」

佐祐理 「そういえば、折原さん達からの報酬の件はどうなってるんでしょう?」

祐一 「あまりアテにしてないさ。それより、何かいい仕事は・・・」

?? 「もし、そこの方々」

額をつき合わせて考えていると、一人の男が声をかけてきた。
どこか人のよさそうな雰囲気を漂わせた細身の男だった。

祐一 「誰だ、あんた?」

?? 「これは失礼。私、元木五郎と申します。みなさん、お仕事を探しておられるようで」

佐祐理 「ええ、そうですよ」

五郎 「それはちょうどよかった。実は私は、仕事を頼める人を捜していたのですが、ちょっと込み入った事情なので、ギルドには依頼しづらくて」

祐一 「なるほど。でも、なんで俺達に?」

五郎 「これでもそれなりに旅を続けてきた身でして、人を見る目にはそこそこ長けているつもりです。みなさんは腕もお立ちになり、しかも口が堅そうだ」

祐一 「だから仕事を頼む、と」

五郎 「どうですか? 受けてくださいますか?」

突然仕事の依頼に現れた男を、祐一はしっかり観察する。
どこまでいっても人の良さそうな印象は変わらない。
何か裏があったりする気配はない。

祐一 「どうする? 舞、佐祐理さん」

佐祐理 「佐祐理はリーダーの判断にお任せしますよ」

舞 「(こくり)」

祐一 「真琴と美汐は?」

真琴 「なんでもいいわよ」

美汐 「私も、お任せします」

祐一 「決まりだな。いいぜ元木さん。その話受けた」

五郎 「ありがとうございます。ではさっそく内容を・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドで祐一達に仕事の依頼をした元木五郎は、店を出てから町中を歩いていた。

五郎 「・・・おや」

幽 「・・・・・・」

五郎 「これはこれは、随分とお久しぶりです」

幽 「相変わらずのすまし顔じゃねえか、元」

栞 「お知り合いですか?」

元 「・・・今日はまた、かわいらしいお嬢さんを連れていますね」

幽 「まったく可愛げなんざねえがな」

栞 「そんなこと言う人、嫌いです」

元 「ははは・・・・・・。そうそう、せっかくですから、あなたもご招待しましょう、幽」

幽 「フッ、美味い酒とイイ女でも用意してるのか?」

元 「それは残念ながら。しかし十分にあなたを楽しませる要素は揃っていますよ。あなたの宿敵の復活祭ですからね」

幽 「!!」

栞 「(びくっ・・・何? 幽さんの雰囲気が変わった?)」

傍らにいた栞と、元だけが感じ取った幽の発した殺気。
周りの道行く人々は立ち止まって向かい合っている幽達を訝しげに見ながら、関わり合いにならないように避けて歩いていくだけだった。

幽 「元、おまえ・・・・・・俺様を敵に回して五体満足でいられるとでも思ってんのか?」

元 「そう言いながら嬉しそうですよ。私も嬉しいです」

幽 「いいだろう。あの野郎と一緒におまえもぶちのめしてやるよ」

元 「ふふふ、ついに楽しみにしていた時がやってきますよ」

元は幽の横を通り抜けていく。
その際に栞の手許に、一枚の紙切れを置いていく。
どこかの場所を記した地図が描かれていた。

元 「伝説の魔人、千人斬りの幽の首は、この四死聖が一人、牙刃の斎藤元がとる」

幽 「ふんっ、首洗って待ってやがれってあの野郎どもに伝えときな」

元 「ええ。そうそう、その辺で見ているでしょう莢迦さん。あなたも来てくださいね。是非とも会っていただきたい人がお待ちですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

さやか 「・・・これはいよいよおもしろいことになってきたね。アザトゥース遺跡、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

祐一 「アザトゥース遺跡の調査。それが元木五郎の持ってきた依頼だ」

美汐 「特に秘密にしなくてはいけない要素が見当たりませんが・・・」

祐一 「そうだな。けど、何かあるんだろ。大衆に知られたくない何かが」

舞 「・・・ちょっと妙な予感がする」

祐一 「俺もだ。けどなんか、行った方がいいような気がしてる」

佐祐理 「佐祐理はどこまでも祐一さんの行くところに付いて行きますよ」

真琴 「あたしは自分の力がたっぷり振るえるんだったらどこでもいいわよ」

さやか 「なら、決まりでしょ」

祐一 「ああ。次の目的地はアザトゥース遺跡だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、サーガイアを目指していた名雪達の前にも一人の依頼主が現れていた。

?? 「アザトゥース遺跡へ行ってもらいたい」

若い女性の声で全身をマントで覆ったその依頼主は言った。

香里 「自分の正体も明かさないような人の依頼を受けろと言うの?」

?? 「受ける受けないの選択は任せる。けれど、来なければ、あなたの大切な人には二度と会えないかもしれないわね、水瀬名雪」

名雪 「え? それって・・・!」

?? 「待っているわ、ねこねこ集団」

そう言ってマントの女性は掻き消えた。
ただ、最後の言葉は重く名雪の心に押しかかっていた。

名雪 「・・・祐一に、もう会えない?」

香里 「・・・・・・ふぅ、どうやら行くしかないみたいね」

潤 「いいじゃねえか。何か悪巧みがあるなら、返り討ちにしてやるまでだろ

みちる 「そうだそうだー!」

美凪 「・・・名雪さん、ふぁい」

グッと両手の拳を胸の前で握る美凪。
だがせめてもう少し元気よく言って欲しい台詞ではあった。

香里 「リーダー、音頭取ってよ」

名雪 「みんな・・・。うん、行こう、アザトゥース遺跡へ!」

 

 

 

 

 

 

全ての流れは、一箇所に集まろうとしていた。
アザトゥース遺跡へ。
しかしそれは、始まりに過ぎなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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