Kanon Fantasia

 

 

 

第9話 ラサ村の幽霊騒動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船を下りて旅を再開した祐一達。
一度は行く先の変更も考えたのだが、祐一が浩平の言葉をそのまま伝えたところ、佐祐理がちょっとした問題とやらを気にかけ、やはりサーガイアへ向かうこととなった。

祐一 「こうなることも浩平の思惑通りだったのかな?」

さやか 「彼女の性格を把握していれば、大して難しいことでもないでしょ」

誰かが、それも知っている人間であるなら尚更、佐祐理は困っている者を放っておけない性質だった。
そして、佐祐理が行くと言うなら舞が反対するはずもない。
祐一としては浩平の思惑に乗るのは釈然としないが、逃げるという選択肢はもっと気に食わなかったので、あえて真っ向から挑むことにした。
いずれ鼻を明かしてやるつもりでいる。

祐一 「ところで一つ気になるんだけど」

さやか 「何かな?」

祐一 「八輝将ってやつだ。どれほどのものなんだ。浩平の実力は俺や舞と大差があるとは思えなかったんだが・・・」

さやか 「知りたい? 腰抜けるかもよ」

祐一 「伝説の千人斬りの男を見たんだ、今更腰抜かすほどの相手もそうそういないだろう」

さやか 「千人斬りを見た、ねぇ」

伝説となった魔人の力はあんなものではない。
そう言っておきたい気もしたが、今は黙っておくことにさやかはした。
言ってどうなるものでもない。

さやか 「半端じゃなく強いわよ。大武会に出てたら、まず八輝将がベスト8になるでしょうね」

祐一 「そんなに強いのか?」

舞 「・・・興味ある」

さやか 「三年前のだけど、データがあるよ。もっとも、三年あれば人間いくらでも変わりようはあるから、参考程度にしかならないけど」

 

 

 

 

 

八輝将丸秘データ

空間使い・長森瑞佳
 魔力4690

重剣士・七瀬留美
 魔力3200

花使い・椎名繭
 魔力2830

音波使い・上月澪
 魔力2990

風水師・川名みさき
 魔力6380

忍び・里村茜
 魔力3300

吟遊詩人・柚木詩子
 魔力3940

糸使い・深山雪見
 魔力2770

 

 

 

 

祐一 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

さやか 「どう? 数字だけ見ても段違いでしょ」

大会参加者の平均魔力を倍近く上回っている者がほとんどだった。
特に川名みさきの魔力は圧倒的と言えた。

祐一 「あの人が、そんなにすごいのか・・・」

もちろん、魔力だけが強さの判断基準にならないのは、祐一が誰よりも深く信じていることだ。
しかし、このメンバーはおそらく魔力だけでなく、総合的な実力も圧倒的に高いのだろう。

さやか 「ちょっと特殊な技を使う連中だけど、全員揃えば一軍に匹敵すると言われてる。そして折原浩平は、この八人を従えているってわけよ」

祐一 「・・・こいつは、敵にまわすと手強いな」

舞 「・・・でも、戦ってみたい」

データ上からでも伝わってくる八輝将の強さに震えると共に、二人は未知なる強敵との対戦を望んでいた。
強さを求める者の性であろうか。

佐祐理 「あ、見てください、村がありますよ」

一人だけそれとは関係のない者が呑気にそう告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

セーレス国の東西に伸びる街道から少し外れた場所にある村、ラサ。
何故少し外れた場所に彼らがいるかというと、平たく言えば迷ったのである。

さやか 「みんな方向音痴だよね」

祐一 「お・ま・え・の・所為だろうが!」

近道があるとか言っておてんこ小隊を迷子に導いたのは、まさしくさやかであった。
一番旅慣れしている人間だと思って頼った結果がこれだった。
村が見付からなければ危うく野宿になるところだ。
幸いにして、ラサの村はそれなりに人の流通もあるらしく、宿屋も存在していた。

佐祐理 「すいませーん、一晩泊まれますかー?」

主人 「え? あ、ええ、はい、どうもいらっしゃいませ」

宿屋の主人は恰幅のいい男だったが、心なしか少しやつれているように見えた。
応対に出る時も少し呆けている感じだった。

主人 「どうぞこちらへ。いい部屋を用意させていただきます」

佐祐理 「ありがとうございます」

祐一 「しかし・・・他に全然客がいないな」

主人 「・・・ええ。ちょっと最近不況でして」

佐祐理 「それは大変ですね。でも、がんばればいつか報われますよ。がんばってくださいっ」

パァーっと後光が差していそうな佐祐理の笑顔が宿屋の主人を照らす。
その大きな陽の気が、この宿屋に漂う陰の気を洗い流していくようだ。

祐一 「・・・さすがは佐祐理さん」

舞 「・・・・・・」

少し湿っぽい感じはしたが、部屋はよく手入れされていて、旅の疲れを癒すには十分なものだった。

祐一 「今日は普通に寝れそうだな、舞」

舞 「・・・うるさい」

赤くなって俯く舞。
昨夜は船の上で一夜を明かしたわけだが、そこで舞が船に弱いという事実が発覚した。
ひどい船酔いで、モンスターが現れていた時もずっと気持ち悪くてうなされていたという。

さやか 「ま、誰にだって苦手なものはあるよね」

佐祐理 「そうですよっ。舞にはいっぱいいいところあるんだから」

舞 「・・・・・・」

祐一 「口下手、愛想悪い、手が早い・・・・・・悪いところも多いけどな」

ぽかっ

祐一 「ほらそういうところが」

ぽかぽかっ

舞 「・・・知らない」

ぷいと顔を背けて、舞は部屋を出て行った。
散歩にでも行くのかと思い、佐祐理もあとを追っていった。

祐一 「やれやれ」

さやか 「仲いいね、あの二人」

祐一 「まあな」

さやか 「君はいいね〜。両手に花状態で」

祐一 「・・・そんないいことばかりでもないさ。あの二人のすごさを見せられる度に、自分の才能のなさを実感させられるからな」

さやか 「確かに、才能は大きな武器だけど。でも、それを補えるだけの努力をすることができる。これも一つの才能じゃないかな。君には、それが出来ると思うよ」

祐一 「そう思ってがんばってきたけどな・・・」

さやか 「なーに落ち込んでんのっ。君はまだまだ若いんだから、人生悟っちゃうのは早いよ」

祐一 「・・・そういう台詞を言うからおまえの年齢が疑わしいんだよ。ほんとに何歳なんだ?」

さやか 「ひ・み・つ♪」

 

 

佐祐理 「きゃーっ!」

 

 

祐一 「な!? 何だ?」

さやか 「下の方からみたいだけど」

祐一 「何かあったのか」

悲鳴を聞いた祐一はすぐさま剣を取って部屋を飛び出す。
一人残ったさやかは少し考えてから・・・。

さやか 「ま、任せておけばいっか」

ベッドの上で横になった。

 

 

 

祐一 「どうした、佐祐理さんっ?」

佐祐理 「あ、祐一さん。ごめんなさい、大きな声出して」

祐一 「? 何かあったんじゃ・・・」

舞 「・・・気をつけて。まだいる」

佐祐理を背中に庇うようにして、舞が何かに対して警戒している。
まだことの渦中であるらしい。

祐一 「何かいるのか・・・?」

同じように祐一も警戒するが、彼には何かがいるようには感じられなかった。
しかし現に舞と佐祐理は何かを感じ取っている。

 

主人 「ひぇーっ」

 

舞 「あっち!」

新たに悲鳴がした方へ舞が駆け出す。
二人もその後を追っていく。

舞 「いたっ」

祐一 「ゲッ、ゴーストかっ!」

祐一は幽霊が苦手だった。
それは怖いからではなく、魔力でなければ傷つけられない、つまり物質的肉体を持たない存在は、祐一にとって天敵なのだ。
手持ちの武器にもそれなりの魔力が込められているため、戦うことは出来るが、決定的なダメージをこれらの相手に与えるためには、やはり自身の魔力を武器に上乗せする必要があるのだ。

舞 「・・・祐一は下がってて」

祐一 「悔しいが、ここはそうするしかないな」

相手は一体だけ。
舞と佐祐理がいれば問題なく片付くであろう。

佐祐理 「主人さん、これは?」

主人 「も、申し訳ない・・・。実は、これが客が寄り付かなくなった原因でして・・・」

訳ありらしい主人の話を、佐祐理と祐一は聞くことにした。
ゴーストは舞の存在を気にしてか、襲ってくる気配はない。

幽霊が出たのは三週間前。
宿泊客の前に突然現れ、以来何度も現れるうちにそれが噂になり、すっかり客が来なくなってしまったのだという。

佐祐理 「祐一さん、三週間前と言うと・・・」

祐一 「ああ。魔物騒ぎと時間が重なるな」

華音大武会をはじめ、各地で魔物が現れて騒ぎが起き始めたのも三週間前だった。
今のところ被害と呼べるものは出ていないようだが、有害にせよ無害にせよ、この幽霊も魔物騒ぎと関係していると思えるだろう。

佐祐理 「うーん、幽霊さんに話を聞ければいいんですけど」

祐一 「んな無茶な」

佐祐理 「いいえ、いい考えだと思います。やってみましょう」

祐一 「おいおい・・・」

立ち上がった佐祐理は、幽霊の方へ近付いていく。
言い出したら聞かないのが佐祐理の性格なのを知ってか、舞は警戒を続けつつも佐祐理を前に行かせる。

舞 「・・・佐祐理、気をつけて」

佐祐理 「大丈夫だよ」

ゆっくりと佐祐理は幽霊に向かって手を伸ばす。
まるで猫でもあやすように、焦らず、ゆっくりとした仕草で近付きながら手招きをする。

佐祐理 「怖がらないでください。佐祐理は何もしません。お話を聞かせてもらえませんか?」

祐一 「・・・なぁ舞、幽霊と話なんて出来るものなのか?」

舞 「・・・不可能ではないと思う。試したことはないから、わからないけど」

手招きを受けて、幽霊は徐々に佐祐理に近付いていく。
まだ油断は出来ないので、舞はさらに警戒を強める。

佐祐理 「・・・・・・」

幽霊 「・・・・・・」

少しずつ近付いていき、伸ばされた佐祐理の指先に、幽霊の一部が触れた瞬間、佐祐理の体がビクンと跳ねて倒れ込む。

祐一 「佐祐理さん!?」

舞 「佐祐理! この・・・」

佐祐理 「待って!」

駆け寄ろうとする二人を佐祐理が制する。

佐祐理 「佐祐理は大丈夫ですから。それより、わかりました」

幽霊に触れた瞬間、佐祐理の中にその幽霊が抱いた思念が流れ込んできた。
それに少し驚いて倒れただけだった。

佐祐理 「この幽霊さんは、戦乱で死んでしまった人らしいんです。それで、ちゃんと成仏できたはずだったのに、気付いたらここにいたそうです。誰かに気付いてほしくてさまよっていたそうですけど、みんな怖がるばかりで困っていたそうです」

受け取った思念から、佐祐理が掻い摘んで事情を他の面々に説明する。

祐一 「てことは、こいつも困ってたわけか」

舞 「・・・かわいそう」

佐祐理 「はい・・・、どうにかもう一度成仏させてあげたいですけど、佐祐理は浄化系の術は使えないんです」

祐一 「はて? 何か忘れてないか・・・?」

名案が浮かんだような気がしたが、すぐには思いつかない。
だがすぐに、一人の人間が思い浮かんだ。

祐一 「なんだ、問題ないじゃないか。専門家がいるんだから」

 

 

 

 

祐一 「そういうわけだから起きろ」

さやか 「むにゃむにゃ・・・・・・だめだよぉ〜、ゆう〜、そんな激しくしたら〜」

祐一 「何の夢見てんだおんどりゃぁ!」

ばきっ

さやか 「ふにょん・・・? もう朝?」

祐一 「寝惚けるな。たまには仕事させてやるからちょっと来い」

さやか 「いやだよ〜、眠いから」

祐一 「いいから来い! 巫女らしい仕事をやらせてやる!」

うだうだと駄々をこねるさやかを無理やりベッドから引きずり出し、下の階へ連れて行く。

佐祐理 「なるほど。さやかさんなら巫女さんですから、浄化はお手の物ですね」

舞 「・・・これで解決」

さやか 「ふわぁ〜〜〜。しっかし、一度成仏した霊が戻ってくるなんて、魔物騒ぎといい、霊穴に問題でも起こったかねぇ?」

祐一 「・・・霊穴?」

聞かない単語だった。
眠気を押さえながら除霊をするさやかを見ながら、今回の騒ぎについてこの女が何かを知っているのではないかと祐一は思い始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人 「ありがとうございました! お陰でまた宿屋をやっていけます」

佐祐理 「いいえー、佐祐理は当たり前のことをやっただけですから。結局事件を解決したのはさやかさんですし」

さやか 「ふわぁ〜、眠い」

朝、宿代はいらないと言い出した主人と、やはり払うと言う佐祐理との間で譲り合いがあって少し時間を使ったが、四人は無事、ラサの村を出発した。

佐祐理 「さあ、気を取り直して、サーガイアへ一直線ですよー!」

舞 「はちみつくまさん」

祐一 「もう近道はやめような」

さやか 「む〜、結構根に持つね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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