Kanon Fantasia

 

 

 

第7話 ねこねこ軍団結成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔物、と総称されている存在。
その中でも自然に大量に生息しているもののことを、俗にモンスターを呼んでいる。
人里から離れれば途端にこのモンスターの住処。
中には人間を襲うものも多く存在していた。

ザシュッ

舞 「・・・佐祐理、そっちに行った!」

佐祐理 「了解ですっ。ファイアランス!」

ボォ!

祐一 「二人とも下がれ、大技行くぜっ! ウィンドクラッシャー!!」

ゴォオオオオオオオッ!!!

三人のコンビネーションにより、現れたモンスターはあっという間に一掃された。
ちなみに祐一の大技ウィンドクラッシャーは、宝剣シルフィードの力を開放して薙ぎ払うことで風の衝撃波を生み出す、所謂必殺技である。

さやか 「いやー、お見事お見事。相変わらず惚れ惚れするチームワークだね〜」

祐一 「おまえも戦え!」

戦いの最中どこにいたのか、終わった途端にさやかが戻ってくる。
旅に出てから五日、何度もモンスターと遭遇しているが、さやかが戦ったことは一度もない。

さやか 「だってさ、巫女は後方支援が基本でしょ」

祐一 「おまえなんか最前線で十分だ。次は真っ先に突っ込ませてやる」

さやか 「私はか弱い巫女さんなのに」

祐一 「嘘付け」

実際さやかが戦うところを見たわけではないが、舞と少なくとも互角以上に戦っていた者がか弱いわけがなかった。しかも大会ベスト8という実績までしっかり存在するのだ。

さやか 「まあまあ、いいじゃない。それより、怪我してたら治してあげるよ〜」

祐一 「おまえに治してもらうくらいなら佐祐理さんに頼む」

佐祐理 「あははーっ、どんどん頼んじゃってください」

さやか 「それじゃあ私の存在意義は?」

祐一 「それが欲しかったら戦え」

さやか 「戦いの中にしか己を見出せないなんて、人間って悲しい生き物よね」

ちょっとアンニュイな表情で呟く。
ひどく哲学的で考えさせられる言葉だったが、次の瞬間にはけらけら笑っているようなさやかが言うと少しも考える気は起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅先で祐一達がそんなやり取りをしている頃、王都の方では彼らに遅れること五日、旅立ちの日を迎えている集団があった。

名雪 「じゃあお母さん、行ってきます」

秋子 「気をつけてね。北川さん、香里ちゃん、この子をお願いね」

潤 「任せてください。俺がついてますって」

香里 「彼は頼りないけど、あたしがいますから大丈夫ですよ」

名雪 「わたし、自分の面倒くらい自分で見られるよ〜」

香里 「なら、朝は自分で起きることね」

名雪 「う〜」

そんなこんなで旅支度を整え、三人は一先ず冒険者ギルドを目指す。
到着すると、すぐに登録を済ませ、パーティーを組むところに話は至ったが、そこで困った事態になり、三人はギルドのある酒場でテーブルを囲んでいた。

香里 「さてと、困ったことになったわ」

潤 「だな」

名雪 「あ、このイチゴのドリンクください」

香里 「話聞きなさい」

名雪 「聞いてるよ。でも、何が問題なの?」

潤 「じゃ、状況を整理してみよう。つまりだ、俺達のクラスは何だ?」

名雪 「えーと、私は騎士だよ。一応」

香里 「あたしはまぁ、戦士って感じかしらね」

潤 「俺は槍使いだ。わかるか、水瀬」

名雪 「う〜ん、バラバラだね」

香里 「バラバラでいいのよ。パーティーっていうのは、互いの短所を埋めあうためにあるんだもの。さてここで問題、あたし達に足りないものは何?」

名雪 「? 何か足りないかな?」

潤 「足りないよ。今のままじゃ、俺達のパーティーにはガンガン行く以外の作戦がなくなってしまうんだ」

香里 「何よその例えは。でもそういうこと」

名雪 「???」

香里 「ったく鈍いわね。モンスターの中には、剣や槍じゃ倒しくい奴らもいるし、怪我をした時即座に快復できる手段も欲しいでしょうが」

名雪 「ああ! なるほど」

つまりそういうことだった。
彼女らのパーティーに足りないもの、それは魔法だった。
簡単なものなら名雪にも香里にも多少は使えるが、はっきり言って専門でない以上、旅をする上では心許ない。
安心して旅をするためには、何かと役立つ魔導師か僧侶の類を一人は入れたいところであった。

潤 「もっと早く気付けばよかったな」

香里 「そうね。のんびりしてた所為で、騎士団の有力そうな人達はもう先約が入って旅立っちゃったわ」

名雪 「でもさ、もしかしたら私達と逆の悩みを抱えてる人がいるかもしれないし、探してみようよ」

 

十五分後・・・。

 

香里 「収獲ゼロ、ね」

潤 「慢性的な魔法使い不足だな、こりゃ」

名雪 「見たところ、他のパーティーも魔法使いとかいないみたいだし、いなくてもなんとかならないかな?」

潤 「けどさ、やっぱりパーティー組むからには四人か五人はほしくないか?」

香里 「その意見には賛成だけど、ざっと見渡した感じ、あたし達のレベルについて来れそうなのはいなかったわ」

潤 「駄目か?」

香里 「駄目ね。雑魚ばっかり」

名雪 「それは酷だよ〜。北川君と香里のレベルなんて言ったら、それこそ川澄さんとか祐一くらいじゃないと」

潤 「いっそ秋子さんを誘ってしまうとか」

香里 「今度は逆にあたし達の存在価値が消滅するわよ」

名雪 「それにお母さんは忙しいし」

全員 『う〜ん・・・』

テーブルを囲んで三人で額をつき合わせて悩む。
だが、そんな三人の周りを複数の男達が取り囲んでいた。

香里 「・・・何か用?」

男A 「黙って聞いてればよ、俺らのことを雑魚呼ばわりしてなかったか?」

男B 「おまえら大武会の上位進出者だろうが、世界は広いんだぜ」

男C 「そうそう、井の中の蛙大海を知らずってな。世界を旅してきた俺達はあんなお遊戯大会に出ている奴らとはわけが違うぜ」

どうやら先ほどの会話が気に障ったらしい。
名雪は謝ってことを収めようと思ったが、香里はさらに挑発的な言葉を投げかける。

香里 「雑魚を雑魚と呼んで悪いかしら。もし違うというなら、ここで証明してみせたら?」

名雪 「か、香里〜」

男A 「上等じゃねえかこのアマ」

男B 「俺達に勝てる気でいるのかよ」

男C 「おもしれえ、表に出ろい!」

 

?? 「ちょぉ〜っと待ったぁ〜!!」

 

全員 『?』

突如として響いた幼くて明るい声。

?? 「とぉっ!」

掛け声とともに床を蹴る音がして、何か小さなものが跳び上がった。
それは空中で一回転し・・・・・・見事に着地に失敗した。

?? 「にょわ〜〜〜〜〜!!!!!」

ドンガラガッシャーン

それはテーブルと椅子を薙ぎ倒しながら転がっていき、壁に激突して自分で巻き込んだテーブルと椅子に埋もれて沈黙した。

全員 『・・・・・・・・・』

男A 「さあ、表に出ろい!」

男B 「実力の違いを見せてやるよ」

香里 「望むところだわ」

完全に今起こった出来事を全員で無視して、何事もなかったかのように話を進める。

 

?? 「・・・ちょっと待った〜」

 

全員 『??』

再び横合いから、先ほどの騒々しい声とは打って変わって淡々とした声がした。
皆の注目を集めた声の主は、一人の少女だった。
頭の両側に小さなリボンをつけた黒髪の、少し背の高い大人しげな少女。

男C 「な、なんだよ、おまえは?」

少女 「・・・・・・仲裁屋さん?」

少し考えてから少女はそう言う。
しかも質問調で。

少女 「・・・喧嘩の仲裁に来たのです」

男A 「はん?」

少女 「・・・実は私・・・仲間を探しておりまして。・・・一緒に旅をしてくださる戦士系の方を」

男B 「だ、だから何だよ?」

少女 「・・・そちらの方々が、魔法使い系の仲間を探していると聞き及びました」

名雪 「え、じゃあ、わたし達の仲間になってくれるの?」

少女 「・・・・・・そちらがよろしければ」

名雪 「わたしはおっけ〜だよ〜。ね、香里、北川君」

潤 「おう。俺は美人さんなら尚オッケーだぜ」

香里 「・・・あたしは簡単には認めないわよ」

名雪 「え〜?」

不満げというわけではなさそうだが、香里はその少女を仲間にすることを渋っていた。
品定めをするように少女のことを観察する。
とりあえずわかったことは、魔導師系であるらしいことと、名雪と同等以上の天然系らしいということだった。

香里 「仲間に入りたかったら、あたしのテストを受けてもらうわ」

少女 「・・・テスト」

香里 「そうね・・・・・・こいつらをまとめて片付けられるくらいの実力は欲しいわね」

少女 「・・・・・・」

香里が親指を突きつけているのは、先ほどから彼女達に絡んでいる男達であった。
少女はその男達をじーっと見渡し・・・。

少女 「・・・朝飯前です」

そう答えた。
当然男達は怒る。

男A 「こいつら散々人をなめやがってぇ!」

男B 「表に出ろい!」

少女 「・・・その必要はありません」

男C 「何?」

少女はすぅっと自然な動きで男達に近づき、相手が反応するよりも早くそれぞれの体に軽く触れていく。
彼女が通り抜けていった後で、男達は自分達の体の異変に気付いた。

男A 「か、体が、動かねえ・・・」

男B 「お、おいおい、どうなってやがんだ!?」

男C 「こ、この! 動けぇ!」

少女 「・・・みちる」

?? 「ほいさー、美凪ー!」

テーブルと椅子で出来た山を吹き飛ばして、先ほど転がっていったもう一人の少女が飛び出してくる。
赤い髪のツインテールの小さな少女は、天井近くまで跳びあがり、降下しながら固まっている男達に蹴りを喰らわせていく。

男達 『ぐわぁああ!!』

呆気なく男達は倒れた。

少女 「・・・はい、終わりです」

小少女 「ざまーみろー!」

店主 「あのー、お客様。失礼ですが、こうお店を荒されては・・・」

少女 「・・・弁償?」

店主 「出来ますれば」

少女 「・・・・・・・・・残念。持ち合わせがほとんどなかったのです。代わりに、これを」

そう言って少女は懐からいくつかの封筒を取り出す。
全てに毛筆で『進呈』と書かれている。
店主が開けてみると、中にはお米券が入っており、それを見た店主は心底困ったような顔をする。

少女 「・・・だめ?」

店主 「なんと申しますか・・・」

香里 「いいわ」

どさ

カウンターの上に、香里は旅の資金の入っている袋を置いた。
かなりの量がある。

香里 「元はと言えば騒ぎの元凶はあたし達だし」

少女 「・・・でも、お店のものを壊したのは全て私達です」

正しくは、自分で転がった時と男達を蹴り飛ばし時とで、全てツインテールの小さな少女が原因であった。

香里 「いいのよ。これは、あなたをあたし達の仲間に誘うためのお金だと思えば。これくらいの出費に見合うとあたしは見たわ」

名雪 「香里・・・」

潤 「へぇ、美坂がそこまで手放しで人を褒めるのは珍しいな」

香里 「あたしは常に物事を正確に捉えてるのよ。どうかしら?」

少女 「・・・私に異存はありません。むしろ、よろしくお願いします」

香里 「決まりね。あなた、名前は?」

少女 「・・・申し送れました。私、遠野美凪と言います」

小少女 「みちるはみちるって言うんだぞー。しかも美凪の親友だっ」

名雪 「・・・・・・ねぇ、その子・・・」

美凪 「・・・わかりますか。・・・はい、みちるは人間ではありません。・・・精霊・・・とも少し違うのですが・・・そんな感じのものです。・・・けれど、私のパートナーです」

みちる 「そのとおりー」

美凪 「・・・みちるともども・・・よろしくお願いいたします」

名雪 「こちらこそ。わたしは水瀬名雪だよ」

潤 「俺は北川潤」

香里 「美坂香里よ。よろしく、遠野さん」

 

 

 

 

 

ねこねこ集団

リーダー 騎士・水瀬名雪
 魔力1240 武器・宝剣アクアマリン(水)、攻撃力1600、魔力1500

闘士・美坂香里
 魔力1310 武器・プラチナアックス、攻撃力1280、魔力920

槍使い・北川潤
 魔力1420 武器・プラチナランス、攻撃力1190、魔力970

占星術師・遠野美凪
 魔力2470 武器・星見の羅盤、攻撃力200、魔力1950
 +みちる 攻撃力1000、魔力1500

 

 

 

 

 

 

名雪 「占星術師って?」

美凪 「・・・簡単に言うと、星占いです。・・・そっちが本業ですが、魔法も一通り心得ております」

みちる 「美凪は何でもできるからね」

 

潤 「しかしほんと、おまえがああまでして、文字通り買ってる奴も珍しいだろ」

香里 「馬鹿ね。彼女の実力がわからないあなたじゃないでしょ。彼女は相当な戦力になるわ」

 

 

 

かくして、ねこねこ集団(名雪命名)も王都北海を旅立った。
・・・が、ギルド酒場の修理に有り金を叩いたため、次の街で早くも依頼を受けていくはめとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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