Ｋａｎｏｎ Ｆａｎｔａｓｉａ
第６話 魔物討伐指令
魔物と、千人斬りの幽によって引き起こされた大武会の騒動より二週間が経っていた。
この間に、華音王国君主北辰王より、極秘裏にある指令が下された。『魔物討伐指令』
各地の冒険者ギルドに特別部署を設け、魔物関係の事件を調査解決させる依頼を扱わせるようにしたのである。
さらに騎士団の者達にも一部、冒険者としてこの任務に携わるよう通達された。
舞 「・・・祐一、準備はいい？」
祐一 「ああ、いつでも出れる」
倉田邸では、祐一と舞が旅支度をしていた。
もちろん、例の魔物討伐指令に応じるため旅に出るつもりである。
それだけではなく、二人は大武会を通じてさらに上の存在に触れた。
祐一は千人斬りの幽と、一度だけとは言え刃を交し、その最強と呼ばれる力に触れた。
舞は自分の剣を事も無げにかわす謎の巫女と戦った。
二人とも、華音大武会が所詮試合をする大会でしかないことを痛感したのだ。
もっと強くなるためには、外の世界に出て行かなくてはならない。祐一 「行くか」
舞 「（こくり）」
俊之 「行くのかい？」
佐祐理 「はい。佐祐理とて魔術師の端くれ。この事態を傍観していることなどできません」
門を出たところで、佐祐理は久瀬俊之に会った。
どうやらずっとそこで待っていたらしい。俊之 「それは建前だろう。本当はあの二人と一緒に行きたい」
佐祐理 「実はその通りです」
少し照れながらも、はっきりと肯定する佐祐理。
俊之は少しだけ肩を竦める。俊之 「よくお父上が許したものだ」
佐祐理 「半ば強引に説得しましたから。最後には、やがて倉田を継ぐ者として見聞を広めて来いと言われました」
俊之 「あの方らしい。ま、気をつけたまえ。王都の外はわりと物騒なことになっているらしいからね」
佐祐理 「大丈夫ですよ。佐祐理達の行くところ敵なしです」
俊之 「そうだな。華音大武会ベスト８が二人もボディーガードについているんだ。心配はいらないか」
佐祐理 「いえいえ、三人ですよ」
俊之 「？」
さやか 「おまちー」
門の前で話していると、そこに陽気な調子の巫女が現れた。
今日は傘を被っていないが、先ほどの話と照らし合わせて、俊之は彼女が大会に出ていた謎の巫女だとわかった。俊之 「君も一緒に？」
さやか 「まぁね。舞との試合はうやむやになっちゃったし、彼にも何かと興味あるしね」
俊之 「これは、ますます心配無用らしい。では、僕はもう行くよ」
佐祐理 「久瀬さんは任務にはつかないのですか？」
俊之 「前にも言ったように、僕は体を動かしての任務は得手じゃないんだ。でも、別の重要な役割もある」
佐祐理 「それは？」
俊之 「それは騎士団の極秘任務だ。残念ながら教えられないな」
佐祐理 「あははー、それもそうですね」
さやか 「大体予想はつくけど、つっこまないでおいてあげる」
俊之 「どうも。では、旅のご無事を祈っていますよ」
そう言って俊之は帰っていった。
佐祐理とさやかは祐一と舞が来るのを待って倉田邸を後にした。
まず向かう先は、冒険者ギルドである。
冒険者ギルド。
文字通り、世界各地を旅する冒険者達が旅先で立ち寄る場所のことである。
大小様々な依頼が寄せられており、冒険者達はそれらの依頼をこなすことで報奨金を受け、旅の資金としている。
彼らの旅の目的は様々だが、主な目的は、大戦以前の遺跡の調査だった。
数千年前に起こった大戦によって、それ以前の文明は滅びてしまったが、その遺跡は各地に残っている。
それらの遺跡を、ある者は好奇心のため、ある者は研究のため、ある者は金のために捜し求めているのである。
だが今は、各地で起こっている魔物騒ぎを収めるための特別依頼所が設けられていた。
もっとも一応は極秘のため、表向きに変化はない。
つまり普通の依頼に混じって魔物関連の依頼が普段より多く並んでいるだけの状態であった。受付 「えー、ではまずギルドに冒険者登録を行っていただきます。説明をしますか？」
佐祐理 「はい、お願いします」
佐祐理はもちろん、祐一や舞も冒険者ギルドははじめてだった。
まったく勝手がわからない。受付 「冒険者登録はまず一人一人行い、それからパーティーを組んでもらいます。もちろん一人でも構いませんが、一人では辛いですから、三人から五人ほどのパーティーを組んで行動することをお勧めします。こちらにお名前とクラスをお書きになり、向こうで魔力測定、武器能力測定を受けていただきます。それからパーティー登録をしてください」
四人は言われたとおりのことをして、登録証を発行してもらった。
次にパーティ登録に入る。受付 「では、登録証を出してください」
佐祐理 「はい」
舞 「・・・・・・」
祐一 「これっすね」
さやか 「どうぞ〜」
受付 「はい。えー、ではリーダーは誰にいたしますか？」
佐祐理 「リーダーですか・・・。うーん・・・やっぱり祐一さんでしょうか」
祐一 「は？ 俺？」
舞 「・・・それがいい」
さやか 「異議なし」
祐一 「ちょ、ちょっと待てよ。なんで一番年下の俺なんだ？」
佐祐理 「佐祐理は冒険のことはよくわかりませんし・・・」
舞 「・・・私がリーダー向きとは思えない」
さやか 「先頭に立つのは面倒くさい」
佐祐理 「というわけで決定です」
受付 「では、パーティー名は？」
検討中・・・。
舞 「・・・タコさんウィンナー」
祐一 「却下だ」
さやか 「おてんこ小隊」
祐一 「ノー」
佐祐理 「さゆりんマイスター」
祐一 「わけがわからん」
難航・・・。
四人 「じゃーんけーん・・・・・・ぽんっ」
さやか 「いぇーい、かっち〜♪」
チーム名、おてんこ小隊に決定。
祐一 「おてんこなのはおまえだけだ・・・」
さやか 「そう？ だってほら」
舞 「・・・お腹空いた」
佐祐理 「あははーあははー」
祐一 「・・・・・・俺は・・・？」
さやか 「類は友を呼ぶし。類」
祐一を指差して言う。
祐一 「俺が中心なのか？」
受付 「・・・決まりましたか？」
佐祐理 「はいっ」
おてんこ小隊
リーダー 剣士・相沢祐一
魔力０ 武器・宝剣シルフィード（風）、攻撃力１７００、魔力１３００魔術師・倉田佐祐理
魔力２５００ 武器・ルーンスタッフ、攻撃力５３０、魔力１６２０剣士・川澄舞
魔力１８００ 武器・クリスタルソード、攻撃力１２８０、魔力１０３０巫女・さやか
魔力１３５０ 白木拵えの刀、攻撃力１１００、魔力９５０
佐祐理 「あれ？ 祐一さん、その剣は？」
祐一 「ああ、これか・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三日前。
祐一は大会の時に幽に折られた剣の代わりを探していた。
そこへやってきたのが、名雪だった。名雪 「やっと見付けたよ」
祐一 「名雪・・・」
名雪 「祐一、旅に出るんだって？」
祐一 「・・・ああ。俺ははっきり言って弱い。けど強くなりたいと今でも思っている。そのためには、俺にはもっともっと知らなくちゃならないことがある」
名雪 「そっか・・・。ならやっぱり、わたしも行こう」
祐一 「何？」
名雪 「騎士団からも、何人かパーティー組んで旅に行くんだよ。香里と北川君が一緒にどうだって誘ってくれてるんだけど、迷ってたんだ。だけど、わたしもやっぱり、強くなりたいから」
祐一 「・・・・・・」
名雪 「祐一、この前はごめん！」
祐一 「え？」
名雪 「わたし、ひどいこといっぱい言ったよね。やっぱり何もわかってないのはわたしの方だよ。なのに、祐一の気も考えずに自分のことばっかり・・・」
祐一 「いや、それはもういい。おまえの言ったこと全部を納得は出来ないけど、おまえだって大変なんだってのはわかったから。ちょうどよかった。ここで仲直りといこうぜ」
名雪 「うんっ。あ、それと、これ」
そう言って名雪が差し出したのは、布に包まれた大剣だった。
大きさの割りに軽い。祐一 「これは？」
名雪 「お母さんから餞別だって。水瀬家の宝剣の一つで、風属性を宿す大剣、シルフィード」
祐一 「いいのかよ。こんなにいいもの・・・」
名雪 「旅に行くなら武器もそれなりじゃないとって。わたしもそれと対になっている宝剣を貰ったよ」
祐一 「そうか。なら、ありがたく受け取るよ。秋子さんに、ありがとうって伝えてくれ」
名雪 「うん。祐一、気をつけて行ってきてね」
祐一 「おまえもな」
名雪 「旅先で、どこかで会えるといいね」
祐一 「ああ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
祐一 「・・・というわけだ」
佐祐理 「なるほど。そうでしたか。実は佐祐理と舞の武器も倉田家の宝庫から取り出してきたものなんですよ」
舞 「・・・いい剣だ」
祐一 「道理で」
舞が持っている剣も大会の時よりもパワーアップしているように見えていたわけだった。
佐祐理の杖も、魔術師が使う杖としてはそこそこの攻撃力を持っているし、かなり高い魔力を秘めている。祐一 「みんな準備万端ってわけだ」
さやか 「私はそのまんまだけどね」
祐一 「それはそうと、なんでおまえまでついて来るんだ？」
さやか 「一つには、おもしろそうだから。もう一つは・・・」
指を一本立ててまずそう言う。
そこまではいつも通りの陽気な顔だ。
二本目の指を立てた時、笑顔はそのままに、しかし真顔になって言う。さやか 「君が自分自身の答えを出すのを、見させてもらうわ」
祐一 「・・・・・・」
佐祐理 「はぇ〜？ お二人で何のお話ですか？」
さやか 「気にしない気にしない。さ、登録が終わったら、さっそく出発しましょうか。準備は出来てるんでしょ」
祐一 「ああ、そうだな。行くか」
舞 「・・・行く」
佐祐理 「あははー、なんだかドキドキしますね」
祐一 「・・・・・・けど、行くってどこ行くんだ？」
舞 「・・・さあ。佐祐理に任せてるから」
さやか 「どこかアテがあるの？」
佐祐理 「とりあえず、以前佐祐理がお世話になっていた街に行ってみようと思うんです。もしかしたら魔物の被害にあったいるかもしれないので、心配ですから」
祐一 「そこは？」
佐祐理 「ずーっと西に向かった先にある、サーガイアという街です」
さやか 「ああ・・・あそこね。ま、いいんじゃないかな。じゃ、そこで決まりね」
舞 「（こくり）」
第一の目的地は、サーガイア。
大陸に数多に存在する都市の中でも、もっとも魔法学の発達した街であり、魔導師を育成する機関が存在する場所であった。
もちろん、かなり遠い場所なため、そこに至るまでに多くの街に立ち寄ることとなるだろう。さやか 「さあ、リーダー。旅立ちの音頭をとってね」
祐一 「よっしゃ。おてんこ小隊、サーガイア目指して出発！」
佐祐理＆さやか 「おーっ！」
舞 「おー」
祐一 「・・・・・・・・・なぁ、やっぱりパーティー名変えないか？」
さやか 「ダメ」
佐祐理 「あははーっ、いいじゃないですか」
舞 「・・・男は細かいこと気にしない」
かくして、祐一と三人の仲間は王都北海を旅立った。
これが、世界の命運すらもかけた長い長い旅の始まりになろうとは、この時は誰も知る由もなかった。