Kanon Fantasia

 

 

 

第3話 大武会開催

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都中央闘技場。
普段は騎士団の修練場として使われているその場所を、今日は超満員の観客が埋め尽くしていた。
華音王国最大のイベント、華音大武会の開始である。

 

 

予選は既に始まっていた。
大会参加者数は、当日受付も含めて三百人以上を数えた。
この内、予選最終戦から中央の闘技舞台で試合が行われる。
そして本戦に進んだ八人で改めて組み合わせを行い、トーナメント形式の本戦が行われることになるのだった。

大会参加者は、魔力査定システムによってその実力を計測され、優勝候補クラスが予選でつぶしあわないような組み合わせがなされている。
査定基準になるのは、本人の魔力と、装備している武器の攻撃力、魔力の三つである。
会場には巨大魔法スクリーンが設けられており、闘技舞台で行われる試合に際しては、そこに両選手のデータが映し出させる仕組みになっていた。

祐一 「チッ、嫌なシステムだな」

当然のことながら、これは祐一にとってプラス要素を一切含まないシステムだった。
誰もが彼の魔力0という事実を知ることになり、組み合わせに際しても予選で優勝候補クラスと当たる可能性が出てしまう。

さやか 「まぁまぁ、いいじゃない。プラスに考えるのが大事よ」

祐一 「どうやってだよ。っていうかなんだよその格好は?」

会場まで一緒にやってきて、一緒に受付を済ませた巫女、さやかは会場に入るなり、薄布を垂らした傘を被ってしまっていた。

さやか 「ま、これは気にしないで。綺麗な顔は隠した方がより神秘性が増すのよ」

祐一 「わけわかんねえよ」

さやか 「でね、さっきのことだけど」

祐一 「聞けよ」

さやか 「みんなが魔力0のことを知る。その君がもし優勝すれば、一気に汚名挽回よ〜」

祐一 「・・・一つ教えておいてやろう。汚名は返上するもので、挽回するのは名誉だ」

さやか 「軽いジョークなのにぃ」

どうにもこのさやかという女は苦手だった。
何を話しても祐一は手玉に取られてしまう。
年上と言ってもそれほど歳が離れているとも思えないのだが。

さやか 「さあ、そろそろ予選最終戦が早いブロックでは始まってる頃ね」

祐一 「・・・俺ももうすぐだ」

 

 

 

 

 

 

 

ワァアアアアアアア

大歓声が巻き起こっている。
闘技舞台上での最初の試合は、Aブロック予選最終戦。
対戦者は・・・。

 

北川潤
 魔力1420 武器・シルバーランス、攻撃力990、魔力850

ガゼル
 魔力840 武器・アイアンスピア、攻撃力870、魔力690

 

奇しくも両者槍使いによる戦いとなった。
相手も隣国ではそれなりに名の知られた槍使いであったが、優勝候補の名は伊達ではない。
試合時間1分47秒で、勝利は潤のものとなった。

ガゼル 「見事・・・。これほどの槍の使い手がいたとは・・・」

潤 「あんたもいい線いってたぜ。ま、上には上がいるってことさ」

歓声が高まる。
ちなみに、潤が北辰王の息子であるということは多くの人間が知らないことだった。
それでも潤の人気が高いのは、その実力と人懐っこい性格ゆえである。
初出場ながら、優勝候補筆頭だった。

 

 

 

 

 

 

佐祐理 「はぁ・・・はぁ・・・間に合いましたぁ」

お弁当作りにこってしまった佐祐理は家を出るのが少し遅れた。
お陰で人並みに飲み込まれ、会場に到着するのがすっかり遅れてしまった。
観客席に入った時には、ちょうど潤の試合が終わった時だった。

佐祐理 「あははー、席がありませんねー」

俊之 「倉田さん、こっちへどうぞ」

佐祐理 「はぇ? あ、久瀬さん」

声をかけてきたのは、倉田よりは下位ながらも、貴族の一員である久瀬家の長男で、久瀬俊之だった。

佐祐理 「久瀬さんは大会には参加してないんですか?」

俊之 「僕は頭でっかちでね。体を動かす方はどうも苦手なんだよ」

一応彼も騎士団に所属しているのだが、剣の方はあまり得てではなかった。
とはいえ、決して弱いというわけでもなく、何より俊之の戦術理論は歴戦の将達も唸らせるものがあり、騎士団の中でも評価は高い。

俊之 「今日は川澄さんの応援かい?」

佐祐理 「あと、祐一さんもですよ」

俊之 「彼か・・・」

佐祐理 「あ、もう次の試合ですね。観戦です観戦」

 

 

 

 

 

 

それからも続々と各ブロックの予選最終戦が行われていく。

審判 「勝者、美坂香里!」

香里 「ま、こんなものでしょ」

 

美坂香里
 魔力1310 武器・アイアンアックス、攻撃力1020、魔力580

 

 

名雪 「ふぅ、なんとか勝ったよ」

 

水瀬名雪
 魔力1240 武器・アイアンソード、攻撃力750、魔力720

 

 

舞 「・・・・・・」

 

川澄舞
 魔力1800 武器・ミスリルソード、攻撃力820、魔力990

 

 

さやか 「ぶいっ!」

 

美しき謎の巫女
 魔力1350 武器・白木拵えの刀、攻撃力1100、魔力950

 

 

 

他にさらに二人。

赤の剣士
 魔力? 武器・長剣、攻撃力?、魔力?

キラーマン
 魔力1440 武器・ヘルクロー、攻撃力1140、魔力860

 

 

 

 

 

ちなみに、最終的な戦闘能力というのは、魔力と身体的な能力、それに武器の強さを合わせて考えられる。
ただ、身体的能力は様々な要素を含むため、単純に数値化することはできない。
こればかりは仕方のないことだが、人間見えないものよりも見えるもので物事を判断してしまうため、どうしても魔力の高さで優劣を決めてしまうのだった。
一部の国では魔術師が異様に優遇されているのがそのいい例である。
騎士団が最高の地位を築いている華音は少し珍しいのだ。
北辰王は魔力で全てを判断するのをよしとしない人間だった。
しかしその精神が、国中の人間にまで伝わっているかどうかは別問題である。

 

 

 

 

 

それはさておき、最後のGブロック、予選最終戦。
祐一の対戦相手は、先日倉田邸で会ったあの男だった。

ローラント 「いやぁ、君か、曲芸師君。ここまで来るとはまあまあだが、運がなかったね。この僕と対戦することになって。しかし安心したまえ、僕に負けても恥じゃない。何故なら僕は優勝する男だからだよ」

祐一 「ごたくはいいからさっさと構えろよ」

ローラント 「ははははは、よく聞こえなかったな。なんだって?」

祐一 「この間は佐祐理さんのお客様だから黙ってたけど、てめえはむかつく」

ローラント 「うーん、無知とは罪。この僕に対してそんな口を聞くのは蛮勇というものだよ」

 

ローラント
 魔力1170 武器・シルバーレイピア、攻撃力900、魔力890

相沢祐一
 魔力0 武器・バスターソード、攻撃力1080、魔力730

 

表示された情報に、観客席から失笑が漏れる。
当然それは、祐一の魔力0という項目に対してだった。
力の差は歴然、誰もがこの試合の結果を確信していた。

ローラント 「さぁ、来たまえ。遊んであげるよ、曲芸師君」

祐一 「・・・その口二度と聞けなくしてやる」

 

多くの者がまったく注目しない中、僅かに数人、その姿を見詰めていた。

北辰 「あれが、秋子の甥か」

秋子 「祐一さん・・・避けては通れない戦いでしょうね、あなたには」

名雪 「祐一・・・」

香里 「見せてもらいましょうか」

潤 「水瀬や美坂が注目する奴、どれほどのもんかな?」

舞 「・・・見せてやれ、祐一」

佐祐理 「祐一さん、がんばってください」

さやか 「いけいけごーごー」

 

 

ドッ!

ローラント 「へ・・・?」

世界が反転するのを眺めながら、ローラントは生まれてはじめて間の抜けた顔というのをしていた。
体が宙に浮いている。何故?
一部の者を除いて、それに答えられる者はいなかった。
見ていなかったというのもあるが、見えなかったというのが正しい。
それほどの祐一の打ち込みは速かった。

ドサッ

反転したローラントは、無様にも闘技舞台の上に落ちた。
一瞬にして間を詰めて相手を吹き飛ばした祐一は、振り返って剣を向ける。

祐一 「油断してる奴倒しても自慢にならないからな。今の一撃は手加減してやった。今度はそっちが来いよ」

ローラント 「き、貴様ァ! 人が親切にしてりゃあ調子に乗りやがってェ!!」

キレたローラントは確かに強かった。
しかしそれはあくまで一般レベルで見ればの話。
剣の腕は、祐一からすればまったくお遊戯のようなものだった。

祐一 「よく憶えとけ。俺は曲芸師じゃない、剣士相沢祐一だ」

ローラント 「ひっ・・・!」

振りぬかれた祐一の大剣は、ローラントの鼻先数センチを掠める。
そのままローラントは気絶し、勝負はあった。

 

 

 

 

 

本戦進出者

北川潤    魔力1420
美坂香里   魔力1310
水瀬名雪   魔力1240
川澄舞    魔力1800
美しき謎の巫女 魔力1350
赤の剣士   魔力?
キラーマン  魔力1440
相沢祐一   魔力0

 

大半は予測通りの面々が揃ったわけだが、二人ほどまったく不可解な存在があった。
一人は魔力0の相沢祐一。
そしてもう一人は、何故か魔力査定が出来なかった赤の剣士。こちらは全身をすっぽりマントで覆っており、まったく正体不明だった。

審判 「ではこれより、本戦の組み合わせ抽選会を行います。その後昼休みを取り、午後二時から本戦の開始となります。では、本戦に進出する方々は前へ」

闘技舞台の上には、本戦進出者八人が並んでいた。
その前に数人の審判員がおり、穴の開いた箱が置かれている。

 

潤 「なぁ、美坂。あの赤の剣士とかいう奴、なんで魔力がわからないんだと思う?」

香里 「さあ。もしかしたらあのマントに何か仕掛けがあるのかもね」

 

名雪 「北川君、香里、川澄さん、祐一。う〜、当たりたくない人がいっぱいだよ〜」

 

赤の剣士 「・・・・・・」

 

キラーマン 「くくく、カモばっかりだぜ。どうやら大武会ってもたいしたことなかったみたいだな」

 

舞 「・・・祐一、当たったら本気で」

祐一 「当然。俺は誰にも負けないぜ」

 

さやか 「はて、あれは・・・・・・まさかね」

 

それぞれの思惑を胸に、抽選が開始される。

審判 「では名前を呼ばれた方からどうぞ。ちなみに準々決勝は四試合がよっつの舞台で同時に行われます。箱の中には東西南北のうち一文字が書かれた球が二つずつ入っています。同じ球を引いた者同士が準々決勝を戦うのです。ではまず、北川潤選手」

北川 「ういっす。(ま、誰でもいいさ。どうせここまで来たらみんな実力伯仲だろ)」

審判 「北川選手、北! 続いて美坂香里選手」

香里 「はい。(出来れば北川君は避けたいわね。でもそう思ってると結構・・・)」

審判 「美坂選手、北! 北の舞台は北川潤選手対美坂香里選手」

早くも一つの組み合わせが決まった。
当人達は複雑な面持ちだった。

審判 「では次、水瀬名雪選手」

名雪 「はい。(ほっ、とりあえず二人とは最初の試合を戦わなくてよさそうだよ)」

審判 「水瀬選手、西! 続いて川澄舞選手」

舞 「・・・・・・(誰が相手でも、本気で行くだけ)」

審判 「川澄選手、東! 次は美しき謎の巫女選手」

さやか 「ほいほーい。(だーれがくーるかなー)」

審判 「謎の巫女選手、東! 東の舞台は川澄舞選手対美しき謎の巫女選手。次は赤の剣士選手」

赤の剣士 「・・・・・・」

審判 「赤の剣士選手、南! 続いてキラーマン選手」

キラーマン 「おうよ」

審判 「キラーマン選手、南! 南の舞台は赤の剣士選手対キラーマン選手」

キラーマン 「けけけ、一番マシなところに当たったかな」

赤の剣士 「・・・ちっ、くじ運が悪いな。雑魚かよ」

名雪 「あれ? ていうことは・・・」

審判 「残りの一つは西、相沢選手は西と決定。よって西の舞台は、水瀬名雪選手対相沢祐一選手」

祐一 「名雪と・・・」

名雪 「祐一と・・・」

全ての組み合わせは決まった。
これにて、ついに大武会は本番、本戦へと突入することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩。

佐祐理 「あ、舞ー、祐一さーん、こっちですよー」

舞 「・・・・・・」

祐一 「よ、佐祐理さん・・・と・・・久瀬か」

俊之 「しばらくだね」

倉田家と久瀬家は同じ貴族の間柄ゆえに、古くから交流があった。
その倉田家に世話になっている祐一や舞も、俊之とは知り合いであったが、基本的に反りは合わなかった。

俊之 「試合を見ていたよ。まだまだ二人とも本気になる相手がいないみたいだね」

舞 「・・・これから」

俊之 「だろうね。ここからは全員が優勝候補クラスと見て間違いないだろう。データのない面々もいるけど、実力伯仲と僕は見るね」

そこでちらっと俊之は祐一を見る。
君もその一人さ、とでも言われている気がして、祐一は腹立たしかった。
所詮この男も自分を魔力0と思って蔑んでいるのだと思えた。
あながち間違ってもいないが、俊之は他の者とは少し違う。
久瀬俊之は物事を常に冷静に判断できる人間だった。
魔力という概念は彼にとっては情報の一つに過ぎず、全ての判断基準ではないのだ。
だから魔力0という理由で俊之は祐一を見下すことはしない。
ただ単に俊之は、貴族ではない祐一や舞が最高位の貴族である倉田家に当然のように居候していることがおもしろくないだけだった。

俊之 「まぁ、この大会は僕としても強い者達の詳細なデータが取れる非常にいい舞台だよ。二人とも頑張ってくれたまえ」

祐一 「・・・・・・」

舞 「・・・・・・」

佐祐理 「あははー、そのためには精をつけなくてはいけませんね。佐祐理の特製お弁当ですから、じゃんじゃん食べてくださいねー」

舞 「食べる」

祐一 「ありがとう、佐祐理さん。いただくよ」

一級品の味がする佐祐理の弁当を前にしながら、祐一は対戦相手に決まった名雪のことを考えていた。

水瀬名雪。
祐一の従姉妹で、華音王国最強の水瀬利郎・秋子夫婦の娘。
その血に相応しい才能を昔から発揮しており、今でも騎士団でトップクラスの評価を受けていた。
はっきり言って手強い上に、やりにくい相手ではある。
しかし、優勝するためには誰にも負けるわけにはいかない。
それに名雪は、もっとも身近にあって、幼い頃は常に比べられてきた相手。
本人にそのつもりはなくても、名雪は祐一にとって超えなくてはいけない壁の一つなのだ。

祐一 「(絶対に、勝つ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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