Demon Busters!



   第一章 空からきた少女  −12−





















 結局、ルッツはあれから五発の雷撃に耐え、六発目を前にしてようやく全てを白状した。よくもったと褒めてやってもよいだろう。
 無垢ゆえに無慈悲なかなたの雷には、一片の容赦も込められておらず、全てが相手が気を失わないぎりぎり最大の苦痛を与えるものだった。
 そして、リディアの居所に関する情報を吐き出し、ようやく解放されると安堵したルッツにかなたが与えたのは、意識を完全に刈り取る最大級の六発目の雷撃だった。
 死んではいないだろうが、一生身体に障害が残るだろう。
 とはいえ同情する余地はない。
 最初の五発はリディアの居場所を聞き出すためのもの。最後の一発は、レイチェルの命を奪ったことに対する怒りの一撃だ。己の所業の報いが、全て己に返ってきたに過ぎない。
 アンディの下へ戻った祐漸とかなたの頭には、もうルッツという男のことはなかった。
 むしろ気になるのは、聞き出したリディアの居場所に関することだ。

「魔道研究所、か・・・」
「ああ。また意外なところ・・・と俺は思ったんだが、どうやらおまえはそうでもないみたいだな」

 話を聞いたアンディの表情は、驚きよりも、どこか納得したような感じがした。

「昨夜言ってた、当たらずとも遠からずとかいうのが関係してるのか?」
「ああ」

 頷きながら足下に置いた荷を背負って踵を返すアンディ。

「すまないが、時間が惜しい。話は移動しながらでもいいか?」
「構わん。どの道俺も行くんだからな」
「・・・いいのか?」
「俺というより、それだな」

 祐漸は横にいるかなたを指差す。
 先ほどまで怖いほど怒りを露にしていた少女は、今はもうすっかり元の様子に戻っていた。それでいて、今までにない、少し張り詰めた雰囲気を纏わせていた。
 緊張している、或いは気負っている、というわけではないが、これまでの彼女からはあまり感じられなかった強い意志のようなものが感じられた。
 時間からすれば、たった一日の仲だ。
 だが、何年共にいたとしても一片の親愛の情も生まれない者達もいれば、ほんの一瞬すれ違っただけで分かり合う者達もいる。ましてや記憶を失っているかなたにとって、世界は一昨日の時点から始まっているようなものだ。たった一日といえど、彼女にとっては記憶の中では半分近くを占める時間。
 最初はそこまで重く考えてはいなかっただろう。祐漸を除けば、記憶を失ってからはじめて触れた優しさ、安らぎ。そんな心地良さを感じる人達。
 それが大きくなったのは、失ったからだ。
 失ってはじめて大切なものに気付く、というが、かなたにとってはそれはもっと重い意味を持っていた。
 目覚めた時の彼女はまっさらな存在だった。
 自我を確立させたばかりの彼女にとって、世界とはとても狭く、その中で出会った人間一人一人の存在が占める割合は、思っている以上に大きい。その内の一人を失った。一人分の価値はそれが何人の中の一人であろうと同じだが、そんなものは理屈だ。百人の知り合いの内一人を失うのと、たった四人の知り合いの内一人を失うのとで、どちらが心に大きな影響を及ぼすか。
 僅か一晩共に過ごしたリディアとレイチェルの存在がかなたの中で実際どのくらいの意味を持っていたのかはわからない。けれど今のかなたはレイチェルの死に悲しみと怒りを覚え、攫われたリディアを取り戻す決意に燃えていた。
 そして、祐漸は彼女と行動を共にする約束をしている。となれば、彼女が行くのなら必然的に祐漸も行くことになる。

(必然的に、か。俺もこいつに毒されたか?)

 無論、祐漸とてレイチェルとは戦友の夫人としても、また個人的にも尊敬に値する女性として親しくしてきた。自分のことを「お兄ちゃん」と呼んで慕っていたリディアのことも当然憎からず思ってもいた。ゆえにレイチェルの死や、リディアが拉致されたことに対して憤りを覚える心はある。
 しかし同時に、祐漸はどこまでもプロの傭兵であった。
 ボランティアで戦場に立っているのではないのだ。今現在も祐漸はレジスタンス組織“鷹の爪”に雇われている身であり、その仕事に利することを優先して考えるべき立場にあった。
 それに対して、同じく“鷹の爪”の幹部としての立場がありながら、アンディがこれからが取ろうとしている行動は組織の利益に反することだ。拠点の一つを帝国軍に潰された今、“鷹の爪”としては態勢を整えることを大事だった。一個人の事情は、切り捨てなくてはならない状況だった。
 それでもアンディは、組織よりも個人の事情を優先させる。自分の妻と娘のことなのだから、それは当然のことであり、誰にも責める権利はない。
 だが本来なら、それに祐漸が付き合う理由はない。少なくとも、普段の祐漸の行動理念からすれば。

(依頼でもなく、自分のためでもないことのために戦うのはいつ以来のことか・・・)

 乗り気でないわけではない。
 むしろそうした行動も悪くないという思いがあった。
 そうした辺りこそが、毒されていると思うところなのだが。

(しかし、魔道研究所か・・・・・・厄介だな)



 帝国軍には、正規軍とはまったく別の指揮系統に類する部署が三つ存在していた。
 最強の軍団“ナイツ”を擁する特殊戦術部。
 機械技術の発展に力を注ぐ技術開発部。
 そして魔法戦士をはじめとする魔法技術の研究開発を行っているのこそが、魔道研究部であった。
 魔道研究所は文字通り、その魔道研究部の本部が置かれている場所である。
 “ナイツ”も謎の多い部隊だが、それにも増して魔道研究所の異質さは、帝国軍内でも際立っている。魔法戦士の強化技術は、実は魔道研究部の設立以前から基本構想は存在していたものであり、それをさらに強力なものに仕立て上げたのは魔道研究部の成果に違いないが、それ以外でどんな研究を行っているのかはまったく不透明であった。
 レジスタンス勢力はそれなりに帝国軍内部の情報を集めているが、魔道研究部に関しては全てが謎が包まれており、その不気味さゆえに、研究所本部が他の施設が大きく離れた地点に置かれ、守りも手薄でありながら今まで誰も襲撃をかけようとはしてこなかった。
 ルベリア帝国最大の闇の一つ、それが魔道研究所であった。



 そんな場所へ、たった三人で乗り込もうというのは無謀以外の何物でもなかった。
 祐漸一人ならば良い。
 それなら、皇帝の目の前まで行って帰ってくる程度のことだってやり遂げてみせると思っていた。自惚れがないとは言わないが、祐漸は決して自分の力を過信してはいない。冷静に考えて、自分にはそれだけのことができるという確信があった。
 しかし、そこに何らかの目的が加わるとなると話は別だ。
 敵中に単身乗り込み生還する。それだけならばどんなに困難でもこなすことは可能だが、その中で何かを為そうとすれば、難易度は格段に跳ね上がる。
 ましてや、人一人を救出することが目的となると――

「・・・・・・・・・」
「ん、なに?」
「・・・いや」

 かなたは正直頼りになるかどうか不明だった。
 この少女が祐漸すら脅かす力の持ち主であることはわかっている。祐漸と同じように、困難な状況に放り込まれても自分の身一つ守ることは容易にやってのけるだろう。けれどこの難しい目的をこなすためにこの少女が果たしてどれほどの役に立つか。
 アンディはそうした面では頼りになる存在だった。
 けれど残念ながら、アンディの実力は祐漸やかなたには遠く及ばない。身体能力的には並の人間である彼には、一対多数の戦闘に対応することはできない。そもそもまともな人間が一人で複数の相手、それも訓練された兵士ともなれば尚更、その相手をすることは困難どころか不可能に近い。それをこなせてしまう祐漸やかなたの力が非常識なのだ。
 だが、強いだけで常に事が成るとは限らないものだ。

(かなたの力とアンディの機転を併せ持ったような奴が相方なら楽なんだが・・・・・・まぁ、ないものねだりだな)

 祐漸と同等のレベルにある人間などそうそういるものではない。帝国の基準で言えばそれこそ“ナイツ”クラス、それがごろごろしていたらとんでもない話だ。
 今ある戦力でできる最大限を尽す。それが最善だった。
 差し当たってするべきはここにいない戦力をアテにすることではなく、状況の正確な把握だった。

「リディアが俺とあいつの実の娘であることには違いない」

 壊滅した街を離れ、魔道研究所を目指す道すがら、アンディがようやく彼の知ることを語り出した。

「問題なのは、あいつの出自だ」
「レイチェルのか?」
「ああ」

 この時点で祐漸には、僅かながら事のあらましが見え始めていた。
 魔導師であったレイチェル。
 リディアを攫った魔道研究所。
 そして、魔道の才能は血筋によって遺伝するという事実があった。

「あいつには僅かだが、俺が仕えていた王家の血が流れていた。その王家は、元は古くから続く魔道の家系だった」
「リディアにもその血が流れている、ということか」

 祐漸が「亡国の姫」などと冗談で言ったのを「当たらずとも遠からず」と評したのはそういうことだったようだ。

「まだ目覚めていないと、あいつは言っていたがな。それに仮に目覚めたとしても、そんなに大きな力ではないとも言っていた。血は既に大分薄れていたらしいからな」
「だが、魔道研究所の連中がどこからかそれを嗅ぎ付けた、か」
「推測だが、あそこの連中がリディアを狙うとしたら他に理由が考えられん」

 冷静に話しているが、アンディの顔には微かに焦燥の色が浮かんでいた。
 娘の安否を心配しているのだ、当然のことだった。最愛の妻を失ってすぐに行動を起こせるだけでも、この男の心の強さがわかる。だが娘のことにまでなると、完全に冷静でいろというのは無理な話だろう。
 常であれば戦場で判断を誤るような男ではないが、焦りが無茶な行動を誘発する可能性はあった。
 いざという時に何を仕出かすか見当のつかないかなたと合わせて、不安要素だらけの一団だった。やはりもう一人誰かいれば、と思わずにはいられない。

(しかし俺と同等の力の持ち主で知り合いなんて・・・・・・・・・ああ、いたな)

 心当たりがないこともなかった。

(それこそ馬鹿げた話だ)

 そもそもこんな場所にいるはずもなければ、仮にいたとしても彼らの味方をする可能性は非常に低かった。むしろ敵になる可能性の方が高い。

(やめだやめ。つまらんこと考えてないで、この面子でどうするかを考えるとするか)

 本当に、祐漸ほどの男が割り切りながらいつまでも悩むほどに、不安だらけの仕事だった。



















 ロウワータウンは、天上を覆われた街である。ゆえに日中であろうと陽が差すことはなく、人工の灯りが無ければ暗闇に閉ざされることとなる。
 局地的に起こった“謎の雷”によって電力がダウンしたクライムタウンは、一晩明けてようやくその半分ほどが復帰していた。それでも快復したのは非常時用の予備電力のみで、主電力の方は各所で電気を伝えるラインが焼き切れており、完全復旧には相当の時間がかかると見込まれていた。
 そもそも、電力の存在がこのアークタウンにおいてどれほど重要なものであるかは誰もが理解していることであり、そうであればこそそれに対する備えは常に為されていたはずだった。
 にもかかわらず、たった一度の原因不明の落雷によって一つの地域の電力がほぼ全てダウンしたという事態が如何に異常か。その一度の落雷にどれほどの威力があったのか推して知るべしであった。
 当然のことであるが、被害を被ったクライムタウンの誰も――現場のすぐ近くにいた者達でさえ――それがたった一人の少女の姿をした者によって起こされた現象であるなど思いもよらないことだった。ゆえにクライムタウンにおいて、この事態はあくまで原因不明の事故とされていた。
 収まりがつかないのは被害の中心にあった者である。

「ええい、何故です! 何故こんなことになったのです!?」

 倒壊しつくした自身の屋敷を前に、ようやくショックから立ち直ったドン・ドルーアは憤慨を声に現して怒鳴り散らしていた。
 彼にまったくの落ち度がないわけではない。むしろ世の中に対して胸を張れるようなことなど何一つしていないような男に多少の災難が降りかかったとて同情の余地などないと言えばそれまでだが、それでも彼は不運だったと言えよう。
 この男はいつもどおりのことをしただけだ。
 いつものように、より多くの金の匂いがする客を選び、そのために今までの客を切り捨てた。その際に起こったトラブルを力ずくで解決しようとした。
 ただそれだけのこと。
 威張って言えることではないが、クライムタウンでなら、いや、少しでもあくどい商売に手を染めたものなら、大なり小なり誰しもがやっていることを、少しだけ他より強引にやっただけだ。
 そんな彼に因果応報が下ったと言うのは簡単だが、切り捨てた商売相手の反抗はさておき、突然のモンスターの襲来や、原因不明の落雷を予測し、対処することなどできようはずもない。そういう意味で、彼は不運だった。
 とにかく、ドンの被った被害は計り知れなかった。
 一晩明けるまで、当人はずっと茫然自失としていたくらいだ。
 そしてショックから立ち直った彼が求めたのは、憤りをぶつける相手を見つけることだった。
 天災に等しいモンスターや落雷にそれをぶつけても気など晴れない。ゆえに彼の怒りの矛先は、まんまと混乱に乗じて逃げられた前の商売相手に向けられた。

「そうです! 全て彼らが悪いのですっ、よくも私の財を・・・!!」

 この場合、まったくの言いがかりではないのだが、そもそも彼らとの決裂を選んだのはドン自身であり、そうであればこそやはり彼のこの言い分は逆恨みと呼べるものであった。

「このままでは済ませませんよ。そうでしょう、ラングレー先生?」
「・・・・・・ああ」

 落雷の影響で機能不全に陥っていたラングレーも既に快復していた。機械化兵の弱点の一つが雷である以上、当然にその対策も為されている。
 本来であれば、雷一つで機能が停止することなどないのだが、これもやはり昨日の落雷の威力が従来想定されているものより遥かに強力だったことの証明であった。
 しかし、機能は快復しても、ラングレーの心中は冴えなかった。
 状況が混乱の極みにあったため、ドン達はその時あった出来事を正確に認識していないが、ラングレー自身ははっきり覚えている。
 最終的に彼を機能停止へ追い込んだのはあの落雷だったが、その前の時点で既に彼の敗北は決まっていた。その時は意地を張ってみせたが、後になって冷静に分析してみればあの男、祐漸とラングレーとの実力差は明らかだった。あの勝負は、ラングレーの完敗だった。

(あの男は、いったい何者だ?)

 いや、問題はそんなことではない。もっとも考えるべきは、次にあの男と戦うことになった時、どう対応すればいいのかだ。はっきり言って、ラングレーにはあの男に対する勝算がまったく見出せなかった。
 それでも雇い主であるドンがあの者達への意趣返しを考えているのならば、彼もそれに従わねばならない。それが彼に与えられた任務であるのだから。

「特に憎々しいのはあの大剣の男! 下賎な傭兵風情が、あろうことかこのドン・ドルーアを見下したようなあの眼! 実に気に入らん!」
「竜を退治したという噂があるという話だったが」
「ふんっ、売名のためのでまかせに決まっているでしょう!」
「確かに・・・」

 ラングレーの持つデータには、竜と呼ばれる種族の基本的な能力も入力されている。その計り知れない戦闘力を前にしては、如何なあの男とて太刀打ちできまい。
 竜とは超常の存在。
 人間とは根本的に格の違う種族なのだ。
 大陸最強を誇るルベリア帝国の軍団も、竜を前にして出来ることはただ一つ。命ある限り逃げることだけだった。
 脇目も振らず逃げること。
 それが、竜と遭遇した人間の取るべき絶対の行動だった。

「ねぇ」

 ふいに、場違いな声がかけられた。
 振り向いたドンは、その声の主を訝しげな表情で見た。同じくそちらへ目を向け、相手の姿を目に映した瞬間、ラングレーは激しい悪寒に襲われた。
 あの男に感じた戦慄とは違う。
 目が合っただけで殺されるような、本能的な震えが走った。
 こんな感覚は、機械化兵となって以来はじめて感じるものだった。

「今、興味深い話をしてたわね、あんた達」

 それは錯覚だったのか。
 振り向いた瞬間ラングレーは、そこに先日のモンスターよりもさらに巨大なナニカを見たような気がした。
 だが、実際にそこに立っていたのは、大柄なラングレーの腰の高さほどにしか満たない、小さな少女であった。

「その大剣の男のこと、もっと詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「何です、あなたは? 子供の相手をしている暇がありません。とっととお帰りなさい」

 しっしっ、とドンが追い払うように手を振るのを見て、ラングレーは苛立ちを覚える。
 理屈ではない。
 ただ本能で感じるのだ。
 この少女を刺激してはいけない、と。

「口の聞き方を咎めるのは後にしてあげるから、質問に答えなさい」
「誰か、そこのガキを摘み出しなさい」

 しかし、危機感をまったく感じていないドンはさっさと少女に対して無視を決め込んでいた。それがどれほど愚かしいことであるか気付きもせずに。
 それが如何なる存在であるかわからないのか。
 邪険にするなど、ましてや気に留めようともしないことが、どれだけの不遜であるのか。
 本能が告げる。
 頭を垂れろと。
 その者が纏うのは王者の風格だ。
 金色の眼は遥か高みより下賤の者どもを見下ろしている。

「気安く触るな」

 畏れ多くも王に近寄った者は、相応の末路を辿った。
 主に言われるままに少女をその場から連れ出そうとした者達は、少女が軽く手を振っただけで瓦礫の山の向こうまで弾き飛ばされた。
 何が起こったのか、それを理解できる者はその場にいなかった。

「は?」

 暗黒街に君臨するボス、今となっては王の前に平伏すべき矮小な小市民に成り下がった男は、けれどいまだそのことを理解できず、起こった出来事にただ唖然としていた。
 少女の姿をした王が、一歩詰め寄る。

「!!」

 ラングレーは理解していた。
 それは触れてはならないものだと。
 触れればどうなるのかも。
 だが、彼にも僅かばかりのプライドというものがあった。
 帝国の強化技術に身を委ね、機械化兵となった時より、任務に準じる覚悟を決めてきた。
 今、彼に与えられた任務は、ドン・ドルーアの護衛。
 たとえ護衛の対象が人間的に好意を抱けない相手であろうと、たとえ敵が決して力の及ばぬ存在であろうと。

「ぬぁああああああああああああ!!!!!」

 雄叫びを上げて、ラングレーは少女に踊りかかる。
 右腕の装着した、戦車の装甲をも貫く拳、ブーストナックルが火を噴き、最大出力の一撃を解き放つ。
 せめてその一撃で、相手をこの場から遠ざけることができれば、護衛の対象が逃げるための時間稼ぎくらいにはなるだろう。というのは、身体が動いた後で考えた理屈だった。
 これはただの反射。生物が持つ防衛本能が咄嗟に反応し、迫り来る脅威に対して死に物狂いで向かって行ったに過ぎない。
 それでも、自信はあった。
 ただ一撃。
 たったそれだけでも、全てを込めた一撃なればこそ、どれほど強大な相手であろうと、一矢報いることくらいにはなる、と。

「・・・・・・・・・―――――!」

 だから、こんなことがあって堪るものだろうか。
 静かに。
 身長で言えば己の三分の二以下、体重ならば三分の一以下しかない小さな少女が、軽く掲げた手の先。
 そこが境界線だった。
 どんな敵が相手であろうと一矢報いることができると思った一撃は、その線を一ミリたりとも越えることはなかった。

「気安く触るなと言ったはずよ」

 砕け散った。
 突き出した拳が、腕が・・・・・・プライドが。

「アタシはそんなに気が長くないの。だから次が最後よ。大剣の男、祐漸はどこ?」



















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あとがき
 第一章のエピローグにして、次の章へと繋がる話。最後に登場したのは、次の章における重要人物である。さて、誰でしょう?