Demon Busters!
第一章 空からきた少女 −9−
天條かなたは自分のことがわからない。
そもそもこの名前にしても、響きの良い言葉を適当に選んで自分でつけたものであり、本名であるかどうかも定かではなかった。
一体自分はどこの誰なのか、それに関する情報がかなたの中には一切ないのだ。
知識はある。というか、あるらしい。
頭の中を探ると、そういったものはいくらでも溢れ出してくる。
例えるなら、そう、辞書のようなものだ。
すぐには思い浮かばないことでも、時間をかけて調べてみれば、必要な情報が出てくる。むしろ脳内に蓄積されている情報量だけならば、普通の人間を遥かに凌駕しているのではないかと思うほどだ。
かなたが自らの思考の中に入ると、そこに浮かぶイメージは“知識の海”とでも呼ぶべきものだった。
そこに無数に存在する知識の欠片に触れると、かなたの脳裏には瞬時にそれに関する情報が浮かんでくる。一度触れた知識は、新たな記憶としてかなたの頭に刻まれる。知識を一つ、また一つ吸収していく度に、かなたは自分の中にある知識で知りえたところの“人間”という存在に近付いていっているような気がした。
しかし、無限に広がっているのではないかとさえ思える知識の海の中をいくら探っても、かなた自身に関する情報はまったく見付からなかった。
得た知識から客観的に見た自分という存在に対する考察、のようなものならばある。
それによると、自分はどうやら普通の人間ではないらしい。
では一体何者か。
わからない。
しかし、そうした知識とはまた別に、かなたは自分という存在ができること、できないことというのを“知って”いた。
例えば、どうやれば普通に歩くよりも速く移動できるか。
例えば、どうやれば少ない労力で大きな力を生み出せるか。
例えば、どうやれば魔法のような力を使えるか。
何故そんなことができるのか、頭で考えてもわからない。そうした情報は、彼女の知識の海には存在していないらしい。
けれどできる。
そして、できることが当たり前のことだとかなたは思っている。
それは漠然とした思いではなく、確信だった。
理由などいらない。自分には、それができるのだ。
そう、例えば――
ギュルグウォアァーーーッ!!!
正面から襲い掛かってくる巨大ワームに対して、軽くステップを踏んで左手の方へ動く。
ワームの牙が地面を抉り、敷地の塀を噛み砕く。
とてつもない破壊力だった。
人間の体など、間違いなく簡単に砕けてしまうだろう一撃だったが、かなたはまったく脅威に感じていなかった。
巨体に似合わぬスピードがあるとは言っても、かなたが踏み出す一歩はそれよりもずっと速い。
また、ワームが動く瞬間を、かなたは簡単に見定めることができた。
おそらくは微細な筋肉の動きや、空気の揺れから一瞬早く動きを読んでいるのだろう。もっとも後から考えてそんな感じだろうと思っているだけで、かなた自身は自分がどうやってそれを可能にしているのかを、その場で詳細に考えたりなどしていない。ただ自然に体がそれを理解し、動いている。
何であれ、普通に動いても相手より速い上、動きの先読みもしているのだからかなたがワームの攻撃に当たる道理はなかった。
「よっ、ほっ・・・・・・っと」
繰り返し向かってくるワームを軽くいなしながら屋敷内を跳び回る。その度に建物が破壊されて行っているが、当事者達はまるで気にしない。
「私の屋敷が、私の屋敷が・・・・・・ひ、ひぇーっ!!」
途中、どこかでそんな悲鳴が上がっていたが、誰も構うことはなかった。
ワームの攻撃は牙によるものだけでなく、時には尾による薙ぎ払いも襲ってきたが、それすらもかなたは軽々とかわしてみせた。
軽い調子で攻撃を避けながら、かなたが頭を悩ませているのはまったく別の事柄だった。
「えっと・・・・・・どうやって戦うんだろ?」
戦うと決めたものの、かなたには自分がどういう戦い方ができるのかということに関しては、やはり情報がなかった。
自分の能力で何が可能で、何が不可能かはわかる。
問題は、それをどう扱えば目の前の巨大生物に通用するのかということだ。
あれだけ大きくては、体術では何の効果も望めないだろう。
「祐漸君は、あの剣でばぁーんってやってたんだよね・・・・・・」
一度大きく跳躍してワームの攻撃をかわし、距離を取ったところで右手を宙にかざす。
脳裏に、それをイメージする。
これはかなたが持つ能力の中でも殊更特殊なものらしいのだが、かなたはそれを自然に使いこなす。
こうあれと思い描いた物体が、かなたの手の中に生まれるのだ。
忽然と。
何の媒体も必要とせずに。
いや、正確には媒体となっているものはある。かなたはその存在を自らの中に感じ取っていた。けれど、やはりそれに関する知識を見付けることはできず、ただそういうものがある、ということしかわからなかった。
けれど確かにそれはあって、それを利用してかなたはイメージした物体を生み出すことができる。
かなたが思い描いたのは、武器。
祐漸が扱っているのと同じ大剣が、かなたの右手の中に現れた。
「よぅ・・・しぃーーーーー!?」
ズシリという感触がして、かなたの体が大きく右に傾ぐ。
「お、重い〜〜〜!!」
重みに耐え切れず、かなたは足場にしていた崩れかけた屋根の上から転落する。
そこへ襲い掛かってきたワームの攻撃を、剣を手放すことによって回避した。かなたの手を離れた剣はしばらくそこに残っていたが、かなたの意識がそこから外れると、最初から何もなかったように消失した。
「もう〜、祐漸君ばかぢからだ・・・」
かなたの筋力は、おそらく同年代の一般的な女性と比べれば強い方だった。しかし、祐漸が扱っている剣は規格外の重量を持っているのだ。それと同じ武器を扱うだけの力は、かなたの細い腕にはなかった。
そういうわけで、祐漸と同じやり方で戦う案は却下だった。
けれど武器を使うという発想は、少なくとも素手で戦うよりはずっと良いもののように思えた。
ならば今度は、もっとかなた自身が扱いやすい武器を想像する。
「んー、やっぱり長い方がかっこいいかな?」
長くて、細くて、祐漸の剣よりも軽くて扱いやすいもの。
そう考えて探っていくと、かなたの頭の中には様々な種類の武器のイメージが浮かんでくる。これも知識の海に存在する情報で、おそらく普通の人間なら見たこともないだろう武器のことまで詳細に知ることができた。
使い方もわからないような奇抜な武器は必要ない。
とにかくまずは扱いやすいという点に絞ると、やはりオーソドックスな武器が残る。
「うん、これだ!」
パッとイメージしたものが手の中に現れる。
握り締めるとそれもなかなかの重みを感じたが、祐漸の剣に比べれば大分マシだった。
かなたが手にしたのは、槍だった。
穂先についた真っ直ぐな刃の横に、左右に張り出した二つの刃がついている、いわゆる十文字槍と呼ばれるものだ。
長さに関しては祐漸の剣よりも上だが、細いため重量はそこそこで、しかも柄が長いため重心が偏ることがなく、あまり力を込めずとも取り回すことができた。
もちろんこの武器も、熟練した扱いをするには慣れが必要なのだろうが、かなたはその点の心配はしていなかった。
手に馴染むというほどではないが、この武器の使い方は何となくわかる。そしてかなたの体はそれを表現できるだけの能力を有していた。
「それじゃ、いっくよぉー!」
柄の中ほどを持ち、槍を沸きに抱えて跳躍し、これまで逃げ回ってきた相手に自ら向かっていく。
これまで丸腰だった相手が武器を手にしていることに対して何も思うところはないのか、巨大ワームは変わらず殺気を振り撒きながら突進してくる。
空中に躍り出たかなたには、回避運動が取れないように思えた。
だがかなたは、手にした槍の重さを利用して全身を旋回させ、その反動で体の位置を変える。
ワームの牙が宙を切り、かなたの眼前には無防備なワームの胴体が晒されていた。
「えぇいっ!」
パシィッ!
繰り出した槍の刃が、ワームの表皮を掠める。
「はれ?」
しかし、その一撃は毛ほどの傷もその身に刻んではいなかった。
首を傾げるかなた目掛けて、下からワームの尾が襲いくる。
別のことに意識を取られていても、かなたの体は半ば無意識にその攻撃に対して反応する。
唸りを上げて振り上げられた尾の先に槍の石突を当てることで、弾かれる勢いを利用することで宙を舞って移動する。
かなりの距離を弾き飛ばされたが、建物の屋根の上に降り立ったかなたにはダメージはまったくない。
屋根の上でバランスを取って立ちながら、かなたは手にした槍を見て考え込んでいた。
「ん〜・・・・・・?」
何がいけなかったのだろう。
かなたはしきりに首を捻る。
たださっきの一撃には、思い描いたような手応えがなかった。ここをこう通るはずだ、と思ったはずなのに、途中で邪魔をされて変な軌跡を辿ったような、もっと端的に言えば何か硬いものにぶつかって弾かれたような――
「ああ!」
声を張り上げるかなた。
それでようやく理解した。何故祐漸があんな扱いづらそうな大きな剣を使っているのか。
もちろんそれだけが理由ではないのだろうが、あんなに大きくて硬い生き物相手にダメージを与えるには、あれくらいの武器が必要なのだ。
あの巨大ワームの硬い表皮を貫くには、この槍では威力が足りず、また武器の性能が充分だとしてもかなたのパワーではそれだけの威力を出すこともできない。
「じゃあ、ダメじゃん、これ」
やっとその結論に達した。
かなたの力では、あの怪物相手に武器による攻撃でダメージを与えることはできない。
根本的な戦い方を間違っていたのだ。
「しょうがないなぁ」
槍を消すと、かなたは一つ深呼吸をした。
焦る必要などない。
武器を使った攻撃が駄目ならば、別の手段を取ればいいだけのことだった。
かなたには、自分にそのための能力が備わっていることがわかっていた。
「うん、できる」
原理など知る必要はない。
ただ思い描けばいい。
その力の発現を。
スッとかなたが右手を挙げる。その姿に気付いたワームが再び攻撃を仕掛けんと襲い掛かってくる。
けれどかなたはそれをかわそうとはしない。
かわす必要などなかった。
上に挙げた手を、向かってくる相手の方へと突き出す。
そして力を、解き放つ――
ドォンッ!
炸裂音と共に銃口から散弾が発射される。
ラングレーが新たに用意してきた武器の一つはショットガンだった。通常の銃撃では祐漸の動きを捉えきれないと考え、広範囲に弾を散らすことができるその武器の使用を思い立ったのだろう。
それはある意味正しい。
如何に祐漸といえど、至近距離から発射された散弾を全て見切ることはできない。
結果、回避運動を大きく取る必要があり、その分動きに無駄が生じ、相手に付け入る隙を与えることとなる。
だがここにおいても、祐漸は規格外の反応を見せる。
発射の瞬間、大きく右へ跳んで散弾をかわしたところで、地面を蹴ってさらに大きく反対側まで移動してみせた。右へかわした祐漸へ追い撃ちをかけようと構えを取りかけたラングレーは、逆方向へ動いた祐漸を捉えきれない。
「ぬぁああ!!」
冷静な表情を崩さなかった機械化兵が声を荒げる。祐漸の動きは完全にラングレーの予測を上回るレベルに達しており、機械の体になっても残っている人間としての理性と本能が、どちらも敵の脅威に恐れをなしているのだ。
落ち着いて狙いを定めることもせず、闇雲に振り回すような形でラングレーの右腕が繰り出される。
右腕に装備されているのも、さっきまでのブーストナックルではなく、掠るだけで高圧の電流を流す大型のスタンガンとなっている。それはもはやスタンガンというレベルではなく、直撃すれば相手を消し炭にすることもできる凶悪な
電撃兵器だった。
手持ちサイズでまかなえる電力ではない。その証拠に、右腕のパーツからバックパックに向けて太いコードが数本接続されている。バックパックに蓄えられた電力を腕のパーツで放出しているのだ。
「まったく、物騒なものを」
こんな人間サイズで戦車並の攻撃力を有する兵士が百も二百もいる軍団ともなれば、それは確かにまともな戦力では太刀打ちできない最強の軍団に違いない。
もっとも世の中には、そんな軍団でさえ容易く駆逐する本当の化け物というのが存在しているものだが。
そして、そんな化け物とも戦ったことがある祐漸にとっては、ルベリアの機械化兵とて真の脅威にはなり得ない。
「後がつかえてると言ったろう。そろそろ幕引きだ」
剣を低く構えて駆け出す祐漸目掛けてショットガンの銃口が向けられる。
撒き散らされた散弾が体を掠めるぎりぎりの間隔でかわし、ラングレーの懐深くへ飛び込む。
だが、長大で広い間合いを持つ祐漸の大剣は、逆に近付き過ぎるとその真価を発揮できない。そのためそこで僅かに硬直した祐漸に対し、ラングレーはさらに銃口を向けようとした。
バキッ!
ショットガンの銃身が音を立てて砕け散る。
祐漸は長い刀身を使わず、柄の底を振り上げてラングレーが持つショットガンへ叩き付けたのだ。
「ぐぅぅぅ!!」
それでも尚攻撃を加えようと右腕の大型スタンガンを繰り出すラングレーだったが、祐漸は円を描くような動きで相手の脇から背後へと回り込み、さらにラングレーの右腕の裏を取った。
唸りを上げて下から振り抜かれた剣が腕とスタンガンの連結部を断ち切る。
「まだだ!」
「うぉっ」
一瞬丸腰になったかと思われたラングレーだったが、左腕の手首から先が外れたかと思うと、腕の中から小型のグレネード弾が発射された。さすが、伊達に全身を機械化しているわけではない。
体を仰け反らせて発射された弾丸をかわすと、背後で爆発した。
ほんの少し祐漸の体勢が崩れたところを狙って、ラングレーが右腕を突き出して掴みにかかる。
しかし、その手は虚しく宙を切る。
「おまえと取っ組み合いをする気はない」
崩れた体勢を無理に直そうとはせず、祐漸はそのまま倒れ込んだ。
正確には、半ばまで倒れ込んだところで、体が地面すれすれになるまで沈み込んだ低い体勢を取る。
文字通り奥の手まで出したラングレーは、今度こそ打つ手なく祐漸の前にその身を晒していた。
「おおおらぁっ!!」
両足に力を込め、地面との反動によって体を持ち上げる威力を上乗せして剣を叩き付けるようにして振り上げる。
ドグゥッ!
若干無理な体勢から充分に刃筋の立たない一撃だったため分厚い胸板の装甲は完全には斬れなかったが、威力は充分に伝わり、ラングレーの体は大きく吹き飛ばされ、既に崩れかけた建物を完全に破壊する勢いで突っ込んでいった。
祐漸は振り抜いた剣を頭上で一回転させてから地面に突き立てる。
「ふん、さすがに頑丈だな」
これもまた、機械化兵の特長の一つか。
すぐに瓦礫を押しのけ立ち上がったラングレーは、ダメージは受けているようだったが未だに健在だった。
「ぐ、ぬ・・・」
「とはいえ、大分動きが鈍っているようだな」
「この、程度で・・・機械化兵を、倒せると思うな・・・」
「虚勢を張る」
もっとも、今の一撃は完全に相手を破壊するつもりで放っただけに、それに耐え切った防御力は称賛に値する。やはり常識的な観点で見れば、ルベリアの機械化兵の性能は大したものだった。
「まぁ、次でしっかりとどめを・・・・・・む?」
その瞬間、祐漸は全身に悪寒が走るのを感じた。
原因などは知らない。
ただ、幾多の戦いを潜り抜けてきた祐漸が持つ危機察知能力が、最大限の警笛を鳴らしていた。
剣の柄から手を放したのは、直感的なものだった。
結果として、それが正解だった。
「ッ!!」
空気を無理矢理引き裂いたような轟音が響いた。
凄まじいエネルギーの奔流が暴れ回る。
そして、視界を覆いつくす激しい閃光が巻き起こった。
雷。
そう、それは天空を引き裂き、大地を砕かんばかりの強大な雷撃であった。
規模は小さい。だがそれにゆえにそこに圧縮されたエネルギー量は一体どれほどのものがあるのか。
はっきりとそれを認識できたのは祐漸だけだ。近くにいた他の者は、荒れ狂う雷撃の一部でも受けて感電したか、或いは雷光の閃きを見ただけで気を失っただろう。
祐漸でさえ、全身を震わせる衝撃に何とか耐えている状態だった。
時間にすればほんの数秒。
それで雷撃は収まった。
閃光が止むと、辺りは真っ暗になっていた。今の雷の影響で、この辺り一帯の電力が落ちたようだ。
「今のは・・・・・・かなたか・・・?」
とてつもない力の解放。
数々の敵と戦ってきた祐漸だが、今のはかつてない威力の一撃だった。そんな力を扱える存在として、咄嗟に祐漸の脳裏に浮かんだのは、あの能天気な少女の姿だった。
今この場に、他にあれほどの力を有している可能性のある者はいない。ラングレーが装備していた大型スタンガンと比べてさえ桁が違う。
だがあの一見人畜無害そうな少女と、この驚異的な破壊の力とを結びつけることは、たとえ彼女が人外の存在だと知っていても、冷静な思考の下では到底できそうもなかった。にもかかわらず、祐漸は今の雷撃がかなたの仕業であると確信していた。
「これがあいつの真の力ってわけか」
遥か空の彼方から降ってきて、頑強なアークタウンのプレートを貫き、地表に激突して尚無傷だったことも、この力を見れば納得できるというものだった。
見た目の騙されているととんでもない目に合う。
あれは、祐漸自身などよりよほど“理解不能”な化け物だった。
地面にしゃがみ込んで衝撃をやり過ごした祐漸は立ち上がると、まず自分が戦っていた相手の姿を確認しようとする。
暗闇で視界が利かないが、夜目は利く方である。少しすると闇に目が慣れ、ぼんやりとだが見えるようになってきた。
ラングレーは、じっと佇んだまま動かなかった。動く気配すらない。
「あれの影響をまともに受けたか」
機械化兵は金属の塊と言っていい。それでは雷に落ちてくださいと言っているようなものだ。その上精密機械は電気には弱く、それが機械化兵の一つの弱点でもある。
あれほどの雷である。直撃でなくとも、機械化兵の機能を停止させるには充分な威力があった。
「最後はあっけなかったな。まぁ、結果が大して変わったわけでもないが」
動かなくなった敵から、祐漸の興味は失せる。
地面に突き立ったままの剣に手を掛ける。まだ軽く帯電しているが、持てないほどではなかった。
ラングレーのことを笑ってもいられない。祐漸とて、咄嗟の判断で剣を手放さなければ、まともに感電していたはずだった。そうなれば五体満足でいられたかどうか。剣が避雷針の役割を果たし、祐漸自身は
雷の直撃を受けずに済んだのだ。
「さて、この惨状を引き起こしたかわいい破壊神様はどこだ?」
「わ、わ〜、なんか暗いよ? なんでなんで?」
探すまでもなく、向こうから場所を報せてくれていた。
しかし、暗いことに驚いているとは、こうなる結果を予想しなかったのだろうか。しなかったのだろう。
かなたという少女、自身が有する能力については把握しているようだが、それを行使することによって起こり得る事柄に対しては無頓着というか、考えが及んでいない。普通の人間ならば当たり前に思い付く事象の因果関係がすぐには結びつかないのだ。
いつものように考え込めばわかるのだろうが、それよりも先に動く。行動力のある少女だった。その行動の是非は別として。
とりあえず今の雷撃でワームを倒したようだし、もう脅威も去ったと思い、祐漸はかなたの方へ向かって歩き出した。
「ああ、そっか! 暗いなら明かりをつければいいんだ。えーっと・・・・・・」
ポッと小さな明かりが灯り、掌の上にそれを浮かべたかなたの姿が暗闇の中から浮かび上がった。
だが祐漸の眼にはそれとは別のものが映り、目を見張る。
光に引き寄せられるように、ゆらりと巨大な黒い影が蠢くのが見えたのだ。
「かなた、後ろだ!」
「ふぇ?」
顔に疑問符を浮かべながらも、かなたは言われた通りに後ろを振り向く。そこでその存在に気付き、驚きの声を上げた。
「ほわぁ!?」
「伏せろっ!」
祐漸の中でスイッチが切り替わる。
普段は意図的にセーブしている力を解放すると、筋力、速力、感覚、全ての要素が倍増し、戦闘能力が跳ね上がる。
その状態で祐漸は特殊な歩法を用いて、それまでいた場所からかなたがいる場所までの距離を一瞬で移動した。
移動が終わった時には、既に剣を振りかぶっている。
かなたは呆然としてはいたが、体だけは素早く反応し、祐漸の剣の軌道から外れるように身を伏せた。
巨大な影、雷撃を受けて尚生きていたワームが猛烈な勢いで向かってくるのに対して、剣を水平にして斬り付ける。
雷撃で一つは砕けたか、残っていた二つの牙が大剣と交差して折れて飛ぶ。それでもワームの突進は止まらず、刃は剣を振るう祐漸の力と、ワームの突進力の両方を受けてワームの口の
奥にまで食い込んでいく。
尚も動きを止めないワームが前へ進むほど、その場に踏み止まった祐漸の構えた剣がワームの胴体を切り裂いていく。
凄まじい重みが祐漸の腕に負荷をかけるが、祐漸は僅かたりとも後退することはなかった。
そしてついに、祐漸は剣を振り抜いた。
ワームは頭から尾までを完全に真っ二つに両断され、地響きと共にその巨体を地面に打ち付けた。
「・・・・・・・・・ふぅ」
祐漸は振り抜いた剣を顔の高さで構えたまま振り返り、未だに痙攣しているワームを見据えた。
やがて断末魔の声を上げることもなく、ワームは完全に生命活動を停止させた。
戻る
あとがき
2話続けてバトルの回であった。まだまだストーリー全体で言えば序盤ということで、祐漸&かなたの敵としては役不足な相手であったが、モンスターの方にはまだ隠された秘密が・・・と、それはまだ先の話。次回はまたちょっと雰囲気の違った展開に。