Demon Busters!



   第一章 空からきた少女  −8−





















「残念ですが、もう逃げられませんよ」

 丸い身体を揺らしながら、ドンが悠々とした足取りで近付いてくる。交渉を行っていた部屋を抜け出された時は泡を食っていたようだが、今はもう余裕を取り戻している。
 屋敷を囲む塀の影に隠れたアンディが銃を構えてそちらの様子を窺っている。
 祐漸はそちらを一瞥することもなく、目の前の敵にのみ視線を固定していた。
 ドンは機械化兵の男と対峙する祐漸を見て愉快そうに笑う。

「そちらは私の新しい用心棒でして、機械化兵のラングレー先生ですよ」

 名を告げられた機械化兵が、黒いバイザーの下から鋭い視線を向けてくるのを感じた。
 機械化兵は人間と機械の融合体である。
 現在の技術力では、人間に等しい頭脳や感情を機械技術のみで再現することはできない。そこで人間をベースに機械による強化を行うことで、高い戦闘能力と、様々な状況に即座に対応できる柔軟な思考の両立を可能とした兵士が彼らである。
 もう一つの強化兵、魔法戦士と比べて必要とされる資質が少なく、コストはかかるが強化そのものは容易に行うことができた。

「傭兵、祐漸。あなたの雷名は聞き及んでいますが、正規軍と同規格の機械化兵が相手では所詮は・・・」
「おまえの新しい取引相手とやらは、軍内部の人間か」
「・・・・・・・・・」

 押し黙るドン。沈黙は肯定の証だった。
 魔法による強化技術は、レベルの差はあれど他の国にも存在している。だが、機械化兵だけは、ルベリア帝国の独占技術だった。ある意味、ルベリア帝国軍が各国の軍と一線を画する戦力を有しているのは、機械化兵の存在があるためと言えなくもない。
 最高位の魔法戦士、帝国最強の十二人の“ナイツ”は、それぞれがたった一人で戦局を覆す一騎当千の存在だが、 大局において個人の力が及ぼせる影響力には限界がある。戦争において真にものを言うのは“数”だった。
 機械化兵を中心に編成された部隊こそ、戦場において常に確かな戦果を残してきた、帝国軍の中核なのだ。
 そんな軍の最高機密たる機械化兵の技術が、そう易々と外へ流出するはずがない。
 ラングレーというこの機械化兵が正規軍の技術によって強化されたものならば、その技術をドンへ提供したのは軍内部の人間以外には考えられなかった。
 そして、軍にはレジスタンス“鷹の爪”と敵対する明確な理由があった。

「軍の中で“鷹の爪”の存在を危険視した誰かが、取引相手の武器商を利用してその戦力を削ぎにきたか、或いは何かもっと別の狙いがあるのか」
「・・・・・・お話はこれまで。あなた方にはここで消えていただきます」
「それがおまえの取引相手の意向か」

 ドンの部下達は遠巻きに祐漸達を取り囲んでいるだけで、戦闘の意志があるのはラングレーだけのようだった。
 当然だろう。ただの人間と機械化兵とでは、足並みを揃えて戦うことは困難だ。ましてや大軍での戦闘ならばともかく、こんな小さな局面では。
 そこらの雑兵相手なら、アンディは一人で自分の身を守るくらいのことは造作もない。
 かなたは放っておいてもたぶん問題ないだろう。
 状況としては悪くない。
 祐漸はただ、目の前の機械化兵一人を倒せばいいだけ。乱戦になるよりよほど単純でいい。
 大剣を肩に担ぎ、左手で相手に向けて手招きをする。

「来い。帝国軍の機械化兵の力を見させてもらうぞ」
「・・・後悔するぞ」

 はじめて相手が口を聞く。声帯までは機械化していないようで、人間らしい低い声をしている。

「させてみな」

 久しぶりの強敵を前に昂揚した祐漸が口元を吊り上げる。それに対してあくまで無表情なラングレーは、左腕を前に突き出す。
 腕についた金属部分の中から、小型のマシンガンがせり出てきて、照準が祐漸へ向けられる。
 狙いをつけると即座に射撃を開始する。
 先ほどと同じように剣を回転させて銃弾を弾く祐漸。跳弾が周囲を囲んでいるドンの手下達の下まで飛んでいき、くぐもった悲鳴がいくつか聞こえた。
 銃撃を防ぎながら前へ出た祐漸が、自らの間合いに入ると同時に斬撃を繰り出す。
 ラングレーは一旦射撃を止め、後ろへ下がってそれを回避した。
 再び銃口が祐漸へ向けられるが、その時既に祐漸の姿はラングレーの眼前から消え去っていた。

「こっちだ」

 弧を描くような動きで背後へ回り込んだ祐漸が剣を薙ぎ払う。
 ガキッ、と金属をぶつけ合った音が響く。
 体半分振り返ったラングレーが右腕を立てて祐漸の剣を受け止めていた。腕に仕込んだ金属部品の強度はなかなかのもののようだ。
 一瞬動きの止まった祐漸へ、ラングレーの左腕のマシンガンが向けられる。
 この距離ならば狙わなくても当たる。乱射される銃弾の雨をかわしながら祐漸が後退する。

「ふん、悪くない反応だな」
「・・・・・・」

 挑発的な声を発する祐漸に対してあくまでラングレーの表情は変わらない。
 しかし想定していたよりも祐漸を手強いと見て取ったか、右腕に新たな武器を装着した。背中に装備したバックパックに、いくつかの予備兵装が積んであるようだ。
 右腕に装備したのは、本来の拳よりも一回り大きなナックルだった。

「銃火器だけじゃなく、格闘戦もこなすか」

 まずは左のマシンガンによる射撃。しかし照準精度が低い。これは牽制だった。
 銃を乱射しながら接近を試みるラングレーの本命は、右腕のナックルによる攻撃である。
 見え透いた単純な戦法だが、それゆえに洗練されている。
 祐漸はそれを正面から迎え撃つ。
 銃弾の一部を弾き、残りを避けながら小刻みに動き、相手を誘い込む。
 間合いに入ったところでラングレーが拳を振りかぶる。遅くはないが、余裕で見切れる程度の速さだった。

(いや、これはっ)

 紙一重でかわして反撃を入れようと目論んでいた祐漸だったが、直前でやめて全力の回避行動に移った。
 拳よりも一回り大きなナックルの後部から火が噴き出す。
 加速装置付きのナックルだった。
 数倍の速度にまで加速された拳が祐漸に迫る。
 間一髪かわすことに成功し、拳は地面に叩きつけられた。
 ズンッ!
 轟音と共に激しい地響きが起きる。
 地面が拳を打ち付けられた地点を中心に直径三メートルほど陥没した。

「ヒュウ」

 大した威力の一撃に、祐漸が口笛を鳴らす。
 これが機械化兵である。
 普通の人間の肉体では、今の加速で掛かるGには耐え切れない。肩から先が武器と一緒に吹き飛ぶか、よくても全身の筋肉が切れる。そういった大威力の武装を使用することができるのが、機械化兵の最大の特徴の一つだった。
 今のはさしずめ、加速する拳、ブーストナックルといったところか。
 さしもの祐漸も、あれをまともに喰らってはただでは済まない。

(まぁ、喰らわなければいいわけだがな)

 加速後の拳のスピードは凄まじい。単純なスピード勝負では、祐漸と言えどもあの拳の速さに追いつくことはできない。
 しかし、加速する前の速度は祐漸からすれば気にかけるほどのものではなかった。
 つまり、加速する瞬間さえ見極めてしまえば、回避するのは容易ということだ。
 それを承知の上か、或いは他に手段を用意していないのか、ラングレーはブーストナックルを構えて突進してくる。
 祐漸はゆっくりとした動きで間合いを計り、ブーストナックルの加速のタイミングに最大の注意を払う。
 だがそこへ向けて、ラングレーの左腕のマシンガンが火を吹く。

「っ!」

 狙いは甘い。かわすのは容易だった。
 けれどラングレーの狙いはマシンガンによる攻撃で祐漸を仕留めることではなかった。あくまで本命の一撃は右腕のナックル。マシンガンによる射撃は、祐漸の呼吸を乱してナックルが加速するタイミングを読ませないためのものだった。
 こうした機転は、機械の頭脳では易々と再現できないものだった。
 刻々と変化する状況に合わせた戦法の切り替え。人間の脳ゆえに、そこにはミスも生じやすいが、画一化された機械的思考よりも、人の考える力に重みを置いた結果である。
 それでも常に的確な判断を下せる人間というのは多くない。その点この相手は、機械化兵としてなかなかのレベルにあった。
 眼前に迫る相手の拳。
 銃撃で呼吸を乱された祐漸には、加速の瞬間を先読みして回避行動に入るタイミングを計り切れれなかった。
 ゴォッ、という音を立ててブーストナックルが加速する。
 直撃を避けられぬと見た祐漸は、剣を目の前に立てて防御姿勢を取った。

(ぐっ・・・!)

 重い衝撃が剣から腕を通って全身を貫く。
 文字通り殴り飛ばされた祐漸は、両足で地面に溝を作りながら数メートルを滑って停止した。
 さすがに大したパワーだった。受け止めた両腕が軽く痺れている。
 しかし逆に、その程度のダメージしか祐漸が負っていないことを、周りは訝っていた。

「ば、馬鹿な、戦車の装甲も打ち抜く一撃を受けて何故五体満足でいる!?」

 一番驚きの声を上げているのはドンだった。

「あの剣にそれ以上の強度があるとでも言うのですか!?」

 そうきたか、と祐漸は思う。もっとも普通はそう考えるだろう。
 屈強な魔法戦士といえども、機械化兵が扱う武装による攻撃を正面から受けようなどとは考えないだろう。それほどの威力が持った攻撃を、生身の肉体で受け切れるはずはないのだ。
 ならば当然、それを可能とする要素がどこにあるかと考えれば、武器や防具に行き着くのは自然だ。
 確かに祐漸の剣は、大型のモンスターとの戦闘を想定して鍛えられたものであり、それなりに強度には自信がある。だが、今の一撃を耐えた要因はそれではない。
 あれは技だ。
 拳が剣に触れる瞬間、衝突する点をずらし、力を向かう方向を逸らすことによって、威力の大半を逃がしたのだ。それにより、祐漸の体に届いた衝撃は、実際の三分の一にも満たないものだった。
 百分の一秒の見極めを必要とする超高度の技術だが、祐漸の剣技はそれを可能とする。

(とはいえ、完璧に受け流したつもりでもこれだけの衝撃。やはり威力だけは侮れないな)

 両腕の痺れは数秒で収まった。剣の柄を握り直し、再び相手と対峙する。

「ボスの方と違って、本人はあまり動揺はしてないみたいだな」
「・・・・・・・・・」

 相変わらずラングレーに表情の変化はない。
 けれどそこに、微かな困惑を祐漸は見て取った。

「貴様、何者だ?」

 困惑が口をついて出てくる。祐漸にとって、それはわりと聞き慣れた問いだった。

「そんな問いに、大した意味があると思うのか?」
「貴様の筋力、敏捷性、反応速度・・・いずれを取っても並の人間を遥かに凌駕している。また一般的なミュータントと比較しても、総合的な戦闘力で12.8%上回っている。貴様は強化兵か?」
「違うな。俺は強化兵でも、ミュータントでもない」
「理解不能だ。貴様をただの人間の規格に当てはめることは、ナンセンスだ」
「おいおい、ただの機械にはできない柔軟な思考が機械化兵の売りだろうが。ちょっと規格から外れた相手に出くわしたからって簡単に理解不能で片付けちまうのは、底が知れるぞ」
「データ検証による結果だ。貴様は理解不能の存在。だが、魔法戦士級の能力を有しているものとして対処する」
「そうだ、それでいい」

 戦いの中で相手の正体が知れないことなどいくらでもあることだった。
 人は理解できない相手に対して恐怖を抱く。
 それはいい。
 だが、それで戦わなくてはならない時、最大にして最適な行動を取る必要が生じてくる。
 ラングレーの判断は正しい。
 彼にとって祐漸は理解不能の存在だろうが、敵である事実は変わらない。そしてその力は、単純に見て魔法戦士と同等のもの。即ち、彼の全力をもって対処すべき相手なのだ。

「さぁ、続きといこうか!」

 今度は一転して攻めに回ろうと、祐漸が剣を振りかぶった時だった。

「祐漸君!」

 それまでずっと繁みに突っ込んだまま音沙汰のなかったかなたが顔を出して声を張り上げた。
 戦闘中の祐漸はその程度のことで気を取られたりはしないが、続くかなたの言葉を聞いて僅かに眉をひそめた。

「昨日のあれ、きた!」
「何・・・?」

 昨日のあれ、と聞いて思い当たることはいくつかあるが、祐漸とかなたの間に共通する事柄で、尚且つ昨日同じようなシチュエーションがあったことを考えると――

「ッ!」

 眼前で対峙する敵を無視してまで後ろを振り返った祐漸の眼に、巨大な殺気の塊となった異形の存在が映った。

「な!?」

 驚きは誰の声だったか。おそらくこの場にいる内、祐漸とかなたを除く全員が息を呑んでいた。
 体長十メートル余りにも及ぶ大型のモンスター、巨大ワーム。
 本来の街のど真ん中になどでは決して見ることのない怪物の出現に、動揺を隠せるものなどそうそういるものではなかった。

「もしやと思ってはいたが、このタイミングで出てくるか」

 四つある牙の内一つが欠けており、腹部に大きな傷がある。間違いなく、昨日退けた固体と同じものだった。
 真紅の複眼が映すのはかなたと、そして祐漸だった。
 はじめはかなたのみを狙って現れた巨大ワームだったが、前回目的を阻んだ祐漸のことも敵と見なしたのか、殺気を隠すことなく向けてくる。
 その巨体が発する威圧感は、暗黒街の小ボスなどとは比べるべくもなく、機械化兵のラングレーでも到底及ぶものではない。
 人間にとって、圧倒的な脅威の塊。
 佇む恐怖の権化の存在に恐れをなし、ドンの配下達が次々に逃げ出していく。
 勇敢な者、或いは恐怖に駆られてパニックに陥った者が数人、銃を構えて異形の存在へ向けて発砲する。
 しかしそれは蛮勇である。
 銃弾はいとも容易く巨大ワームの皮膚に弾かれ、煩わしそうに振られた尾のひと薙ぎで、残っていた者達は軽く一掃されてしまった。

「逃げた連中の方が賢明だったな」

 時には臆病と罵られようと、敵わぬ相手からは逃げ出すのも正しい選択だった。
 もっとも祐漸からすれば、逃げた者達も、愚かにも挑んでいって死んだ者達もどうでもいい。

(さて、どうするかな)

 ラングレーとの勝負に少し熱が入っていた祐漸は、新たな要素の介入で一転して冷静な思考に入っていた。
 状況は変わった。
 ドンとその配下達は混乱の渦中にあり、祐漸達にまで気を払っている余裕がなくなっている。今ならば逃走を計ることも難しくはない。
 問題は、目の前のこいつである。
 巨大ワームの狙いはかなたと祐漸だ。ドンの追手の振り切ったとしても、これを何とかしない限り逃げ切るのは難しい。また下手に逃げ回って、これがクライムタウンの外へ出てもまずい。
 かといって、これを倒すのはそれなりに骨が折れそうだった。
 ならばと決断を下す。

「アンディ!」

 混乱の最中にあっても、あの男は冷静な判断力を失わない。祐漸の呼びかけにも即座に反応してみせた。

「少してこずる、おまえは先に行け!」
「わかった!」

 それだけで意図は伝わった。祐漸はここにいる敵を倒すことに集中し、アンディは状況が気になるアジトへ一足先に戻る。
 しかしその意図を逸早く見抜いた者がもう一人いた。
 ドンの配下で唯一混乱に巻き込まれていなかったラングレーが、屋敷外への逃走を計るアンディを追って動き出す。
 祐漸は素早くその前へ回り込み、剣の切っ先を突き付けた。

「!」
「悪いが通行止めだ、ラングレー。ついでに、おまえの相手をしている暇もなくなりそうなんでな、大人しく引っ込んでろ」
「どういうことだ? あれは一体・・・」

 ラングレーの言葉を最後まで聞いている時間はなかった。
 獲物が動いたことに反応して、ワームも活動を開始したのだ。
 昨日の戦いで祐漸に切り落とされた一つを除いた三本の牙を突き出して襲い掛かってくる。矛先を向けられた祐漸と、その傍にいたため巻き込まれたラングレーが共に攻撃を回避すると、ワームの牙が地面を深く抉った。その巨体が繰り出す一撃は、ラングレーのブーストナックルの威力すらも軽く凌駕していた。
 途中で加速するというようなことはないが、巨体に似合わず元々のスピード自体が速く、しかもリーチが圧倒的な長いため、まともな間合いの計り方が通用しない。
 並の人間はもちろんのこと、強化兵でさえこの怪物に単独で対抗できるものなどまずいない。
 ただし、常識の範囲内では、だが。

「どんな因果があってこんな場所に出てきたのかは知らないが」

 祐漸の放つ気配に微細な変化が現れる。
 それは外から見てもほとんどわからない程度の小さな変化でしかないが、祐漸の中では確かに一つのスイッチが切り替わろうとしていた。
 一段上の戦闘レベルへと――

「ねね、祐漸君」
「・・・・・・・・・」

 変わるはずだったのだが、どうしてこの少女はそういうタイミングでわざわざ話しかけてくるというのか。

「・・・何だ?」
「いや〜、あのですね。あの子はわたしに用があるみたいだし」
「まさか、あれを相手にも話し合いを、とか言い出す気じゃないだろうな」
「さすがにそれは。でもほら、わたしが原因なのに黙って見てるのもあれだし」
「だから?」
「わたしも一緒に戦うよ」
「・・・・・・・・・」

 どういうつもりか。
 いや、おそらくこの少女のことだから深い考えなどはない。言葉の裏などなく、単純に言っていることが思っていることそのものだ。
 それを知った上で祐漸は自分が下す判断に考えを巡らせる。
 ある意味、これはかなたという少女のことをさらによる知るチャンスと言えた。
 空高くから落ちてきて無傷だったこと、何もないところから物を生み出す、或いは取り出す能力、さらにはモンスターの攻撃をかわし、無法者達を容易く組み伏せた体術。謎だらけのかなたの本当の力をここで見ることができるかもしれなかった。
 そもそも、祐漸にかなたの行動を制限する理由も権利もない。ならば好きにさせておけばいい。

「勝手にしろ。ただし、俺の足を引っ張るなよ」
「はーい!」

 戦闘レベルの切り換えはもう少し後にすることにした。
 まずはかなたの実力を見せてもらうことにする。

「で、あのデカブツ相手にどう戦うつもりだ?」
「ん、ん〜・・・・・・・・・・・・」

 いきなり考え込み始めた。どうやらその点に関してはまったく考えていなかったようだ。
 らしいと言えばらしいことだが、いきなり先行きに不安を覚えた。
 かなた自身はそれでもいいかもしれないが、コンビを組んで戦う側としては、敵以前に味方の出方がわからないのでは動きにくい。
 どうしたものかと思いつつ、殺気と闘気のぶつけ合いで巨大ワームを牽制していた祐漸だったが、背後から別の気配を感じてフッとそれを緩める。

「おい、かなた」
「ほぇ?」
「考えるのは自由だが、少しの間一人でそっちとやってろ」

 かなたとワームに背中を向けて、祐漸は背後の相手と改めて対峙する。

「どうやらあっちの方が、先に決着を付けたいらしい」

 ラングレーは、さっきまでは手にしていなかった新しい武装を付けていた。それは対祐漸用か、はたまたワームを殲滅するための用意したものか。いずれにせよ切り札を出してきたと見るべきだろう。

「ドンの指令だ。貴様達も、あのモンスターも、共に排除する」
「大きく出たな。言っておくがおまえじゃ、あのデカブツは倒せんぞ」

 強化兵の中でも、単独であのモンスターと渡り合えるのは“ナイツ”クラスのみだった。

「ましてや、俺を排除する? 無理な話だよ、ラングレー」
「大きく出ているのはどっちだ」
「すぐにわかる。あっちの始末もつけないといけないんでな、今度は倒す気でいかせてもらう」



















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