Demon Busters!



   第一章 空からきた少女  −7−





















「そういえばおまえ」

 クライムタウンの中心部へ近付いた辺りで、祐漸は一つ気になっていたことをかなたに問いかけた。

「さっきの連中のところで使ってた箒やら何やらの掃除道具はどこから出したんだ?」
「ん? ん〜〜〜・・・・・・・・・・・・どこだろう?」
「こっちが聞いてるんだが」

 例によって考え込むかなた。どうやら無意識に行っていたことのようで、本人にもその出所がわかっていなかったようだ。
 それもそのはずだ。
 祐漸の目にすら、あれらの道具は“まったく何もない場所から出てきた”としか見えなかったのだから。
 あの場においてその不思議さにまで気を回す余裕を持っていたのは祐漸だけで、他の誰も気にかけていなかったようだったが、かなたが手にしていた箒などの道具は突然かなたの手の中に出現していた。どこかから取り出した過程などはなく、フィルムのコマが一つ変わったらそこにあったようなデタラメな現れ方だったのだ。
 物質の転移や生成などを行う魔法は、高度な技術ではあるが存在しないわけではない。しかし、それらを使用してもあんな芸当な不可能だろう。

「よくわかんないけど、こんな感じ」

 そう言ってかなたが眼前に手をかざすと、そこにはハタキが握られていた。やはり出現する際の過程がまったく感じられなかった。

「どこから、とか、どうやって、って聞かれてもわからないよ。ただ、こういうことができる、って思ったからやっただけで」
「なるほどな」

 頭で考える理屈ではなく、体が覚えている本能で自らが有する能力を知っているということか。理屈の部分は、きっと失った記憶の内にはあるのだろうが、それがなくても能力の行使は可能ということだ。
 おそらく、モンスターの攻撃をかわしたり、無法者達を組み伏せた体術にしてもそうしたものだ。
 かなたの特徴については色々とわかってきたが、それによって彼女の正体に近付くどころか、ますます謎が深まるばかりだった。依然として、天條かなたという少女は得体が知れない。

「まぁ、そのことはいい。あともう一つ、言っておくことがある」
「なに?」
「これから会う連中相手には、さっきみたいなことは通用しない。だから余計なことはせずにおとなしくしてろ」
「ふぇ、何で?」
「さっきの奴らには、まだ救いがあった。根っこの底から腐ってたわけじゃないからな。だがこの先にいる連中は、自分の意志で腐った道を選んでる根っからの悪人どもだ」
「んー、そうかなぁ?」
「そうだ」

 純粋な少女には根っからの悪人というものが想像できないのか、首を捻って不思議がっている。この他人を疑わない性格はある種貴重なのかもしれないが、ここはあえて現実というものを教えておくべきところだった。
 余計なことをされて交渉が失敗しては、一応困る。

「でも祐漸君の言うとおりだとして、なんでだろ?」
「何がだ?」
「どうして悪いことをするの? 悪いことしたって、楽しくないよ。いいことをした方が、自分だって嬉しいと思うし・・・」
「だから、そう思えない、性根の捩れた連中ってことだ」
「そうなのかな?」
「覚えておけ。この世には、煮ても焼いても食えない奴ってのがいるものなんだよ」
「ん〜・・・・・・・・・・・・・・・?」

 また考え込む。
 しばらくそうしていればいいと思った。
 そうすれば交渉中に余計な口を挟んできたりもしないだろう。
 それから少しして、先頭を歩いていたアンディが足を止めた。

「着いたぞ」

 道中では時々笑い顔も見せてたまに話にも参加していたアンディだったが、今は表情を厳しくしていた。戦場に立つ時の顔だ。
 祐漸も軽く気を引き締める。
 ここから先は、悪党どもの住まう魔窟だった。









「やぁ、どうもアンディさん、いつもお世話になっております」

 屋敷の主、ドン・ドルーアは見た目からして実にわかりやすい悪徳商人だった。
 まるまる太った体の上に、横に楕円形となった頭が乗っており、悪事と金のことだけを考えていそうな濁った色の目がついている。
 暗黒街を牛耳るボスの一人だけあって、さすがに威圧感はあった。一般人なら目を合わせただけで竦み上がるくらいの凄みもある。
 だが、アンディはそんな相手を前にしてもまったく動じることはなかった。
 祐漸からすれば、この男も所詮は猿山の大将くらいのものにしか見えない。
 もう一人、かなたは何を考えているのかよくわからない。考え込むのはやめたようだが、常のようなニコニコ顔ではなく、不思議そうな表情で辺りを窺っている。端で見れば真面目なすまし顔に見えなくもない。そうしていると確かに美少女なので、ドンやその取り巻きの興味津々という視線がたまにそちらに向いていた。

「今日もいつもどおりということでよろしいのですかな?」
「ああ」

 この相手を前に一歩も引かない精神力の持ち主、ということでアンディはよく武器商との交渉役を務めることが多かった。だからドンとも面識があり、話もスムーズに進んだ。
 しかし祐漸は、どこかきな臭い空気を感じていた。

(きな臭いと言えばこの場所そのものが常にきな臭いわけだが、それはそれとして・・・)

 何かよくない感じがするのだ。
 いつものことだが、祐漸のこうした勘はよく当たる。

「ところでねぇ、アンディさん」
「ん?」
「実は最近、ちょっとばかり上からの取締りが強くなってましてね、若干品薄気味なんですよ」

 交渉がある程度進んだところでこう切り出したドンを見て、祐漸はどうやら今回も自分の勘が当たりそうだという確信を深めた。

「何だと? さっき、いつもどおりという話になっていたはずだが?」

 アンディが軽く語気を強めて問い返す。

「ええ、ええ。もちろん、ご注文どおりの量を揃えることはできます。ただ、ねぇ?」
「要するに、値段の問題か」
「お話が早くて助かります」

 値をつり上げようとするドン。この程度ならば予測の範囲内の出来事だ。ある意味ここからが交渉の本番と言える。

「どれくらいだ?」
「こんなものでいかがですかな?」

 ドンが示した価格を見て、祐漸は呆れた。
 随分と吹っかけてきた。
 こう言い出したからにはそこそこの価格は考えていたが、これは予想の遥か上を行っている。はっきり言って、一レジスタンス勢力程度がそうそう出せるような金額ではなかった。
 やはりおかしい。
 相手もこちらの事情はある程度把握しているだろうから、こんな価格では交渉にならないことはわかっているだろうに。

「また随分な値上げだな」

 驚きはあったろうが、アンディは冷静に返す。

「私どもも商売ですからな」
「悪いがこれでは、俺に預けられた分では到底払い切れん。それに、いくらなんでも吹っかけすぎだろう」
「では、ご購入を諦められますか?」
「適正な価格での再検等を要求する。それで駄目なら、他を当たるまでだ」
「まぁまぁ、お待ちを。こちらとて聞く耳がないわけではありませんとも」

 しばらくはそんな調子で話が長引きそうだった。
 商売と言っている以上、向こうも売らない気でいるというわけではない。クライムタウンにいる武器商はこの男だけではない。せっかくの取引相手を商売敵に取られるような真似をするとも思えない。
 完全に“鷹の爪”との取引をやめようというならわかるが、引き止めたところを見るとそうでもなさそうだ。
 それからドンは少しずつ値を下げて話を進めていくが、なかなか交渉はまとまらない。
 冷静なアンディも徐々に痺れを切らし始めていたが、その度にそれを読んだようにドンが巧みな話術で引き止める。
 実のない話もかなり交えつつ、交渉はダラダラと続いていった。

(妙だな)

 いくらなんでも話に無駄が多すぎる。
 気を抜くと自分もドンの話術に引き込まれそうになるのを堪えつつ、祐漸は状況の不自然さを少しずつ感じ始めていた。
 そういえば、ドンの取り巻きの人数も随分多いような気がした。
 ここがドンの屋敷ということを考えればおかしくもないのかもしれないが、こちらは僅か三人。しかも既に何度も取引を行っている者同士なのだから、信用とまではいかないまでも、ここまで警戒する必要性はないのではないか、というくらいの人数が部屋の内外に控えていた。
 ドンの話、必要以上に配備された人数。
 違和感は強まる一方だった。

「ね、ね、祐漸君」

 考え込む祐漸の脇を、かなたがツンツンとつついてくる。
 今は相手をしている場合ではないのだが、ふと見た彼女の様子がどこか真剣なものに見えたためそちらを振り返る。

「何だ?」

 思えば、大分前からかなたは退屈そうにそわそわしていたようだった。
 構ってやるのも面倒なので放っておいたのだが――

「なんか変だよ?」
「だから何がだ?」
「だってあの人・・・“全然話を終わらせる気がないよ”」
「!」

 かなたの言葉は、はっきりとした断定だった。
 もうしばらく考えれば、おそらく祐漸も同じ結論に達しただろう。が、かなたはそれよりも早く、その考えに至っていたのだ。
 理屈よりも、直感よりも、彼女はおそらく、ドンの思考を読んだのだ。
 きっとここへ来る前、根っからの悪人がどうこう話していたため、かなたはここへ来てからずっと、ドン・ドルーアという男のことを見ていたのだろう。それがどういう男か、本当に祐漸が教えたように煮ても焼いても食えない男なのかどうかを。
 だから祐漸よりも早くこの男の考えを理解し、この状況に対して感じる違和感の正体に行き着いた。

(状況にばかり目が行って、肝心な部分の見極めを怠ったか)

 物事を深く考えないかなただからこそ、本質的な部分に逸早く気付いたのだろう。見た目のとろさに反して頭の回転が速いことは知っていたが、目の付け所も良い。
 祐漸にしてみれば、一本取られたような形だった。
 ドンの様子を窺うと、今のかなたの声が聞こえたのだろう。ほんの僅かだが、表情に歪みが生じていた。
 それで祐漸は確信した。

(茶番だ)

 ドンの側にははじめから交渉をまとめる気がない。
 ならばこの会合に何の意味がある。
 祐漸は素早く頭の中で考えを巡らせ、いくつもの可能性を思い浮かべた。

「帰るぞアンディ」

 与えられた席から祐漸は立ち上がった。
 いずれの予想が正しいにせよ、これ以上この場に留まることは無意味だった。

「む」

 アンディはかなたほどストレートなものの見方はしないし、祐漸ほどの深読みをするわけでもないが、この状況に対する苛立ちと違和感はあったのだろう。信頼している祐漸の言葉ということもあり、すぐにその意図を汲み取って席を立とうとした。

「まぁまぁ、お待ちを」

 両手を挙げて宥めるような声を出すドン。しかし既に自分の目論見が半ば以上に外れていることに気付いているのか、先ほどまでと違って目が笑っていない。
 互いの間に緊張が走る。
 未だに呑気な顔をしているのはかなたくらいのものだった。

「せっかく来たのですから、もっとゆっくりしていかれるといい」
「悪いが、実のない話に付き合う気はない」

 と、祐漸。
 それでアンディも、ドンの側に取引に応じる気がまったくないことを悟った。
 剣呑な表情でドンに詰め寄る。

「どういうつもりだ? 今になって」

 彼らは完全に損得勘定のみで動く商人だ。金の匂いがしなくなった相手とは決して取引はしない。
 とはいえ、“鷹の爪”側に何か落ち度があったようには思えない。
 確かに今のところ大きな戦果を挙げているわけではないが、帝国に反抗するレジスタンス勢力の中では今でも最大の勢力を持っている集団の一つであり、資金面でもまだ余裕はある。レジスタンス相手の商売を続けるつもりなら、これ以上の取引相手がそう見付かるものではなかった。
 逆に考えるなら、もっと良い取引相手が見付かったか。ならば、それは一体誰か。

「ふぅ・・・残念ですな。お話はこれまでのようで」

 スッとドンが手を上げると、手前と奥の扉が開いて黒服の男達が何人も室内に入ってきた。いずれも武器を手に携えている。
 もはや予測していたことなので、祐漸もアンディも焦りはしないが、警戒を強める。

「何の真似だ?」

 聞くまでもないことだが、一応便宜上確認しておく。
 こうなった以上、どの道蹴散らして屋敷の外へ出ることになりそうだが、その前に理由くらいは確認してもいいだろう。

「いやいや、“鷹の爪”さんはいい取引相手でしたがね、商売人ってのはより儲けさせてくれる相手の方が好きなものでして」
「つまりそいつの方へ鞍替えか。だが両方相手に商売する道もあったんじゃないのか?」
「それが条件付きなんですよ。あちらさんの取引に応じるなら、“鷹の爪”さんとは縁を切れってね」
「勝手な言い草だな」

 憤慨したような声を出すアンディだが、彼とて理不尽が支配する世界でずっと生きてきた男だ。この世界ではこうしたことがいくらでも起こりうることくらいわかっている。
 それはそれとして、祐漸は未だにおかしな感じがしていた。
 こちらと縁を切りたい。それはわかる。
 一方的に取引を反故にされた“鷹の爪”側と荒事になる可能性もあるから配備する部下の人数も多くする。これもいい。
 しかし祐漸達が大人しく帰ると言えば、わざわざそれを引き止めて事を余計に荒立てる必要はないはずだ。
 つまり、ドンの狙いは別にある。
 というよりも、彼の新しい取引相手との間に交わされた条件の中に、まだ話していない部分があり、そこに祐漸達をこの場に留める、或いはここで始末しようとする意図が隠されていると考えられた。

「誰だ?」
「はい?」
「おまえらの新しい取引相手とやらは誰かと聞いている」

 いくつか予測は立てられるが、まだ確証を得るには至らない。
 祐漸は問いを投げかけた上で、ドンの僅かな表情の変化も見逃さないよう、その目をじっと見据える。
 鋭い眼光を正面から浴びせられて怯んだか、ドンが軽くたじろぐ。が、人数的優位によるためか、余裕の態度は崩れていない。

「さて、それは商売人として明かすわけにはいきませんな」
「何が商売人として、だ。こっちのことはそいつに売ったも同然だろうに」
「それはそれ、これはこれということで」
「なるほど、確かに勝手な言い草だ」

 これ以上はただ話をしていても無駄のようだった。
 この場を切り抜けてさっさと逃げるか、全員を叩きのめして無理矢理事の次第を聞き出すか。いずれにせよ、ひと暴れする必要がありそうだった。

「あの〜、わたしどうなってるのかよくわからないんですけど・・・」

 唯一状況を理解していないかなたが遠慮がちに手を挙げて問いかける。

「わからんならわからんでいいが、とりあえず伏せろ」
「ほぇ?」

 祐漸が剣の柄に手をかけると同時に、アンディはその場にしゃがみ込む。
 唸りを上げて祐漸の大剣が水平に薙ぎ払われる。

「ほわぁーっ!?」

 危ういところでかなたも頭を抱えて地面に伏せ、その頭上を剣先が通過していく。
 反応できたのはその二人だけだった。
 長大な祐漸の剣は部屋一杯にまで届き、壁際に控えていたドンの部下達が手にしていた武器をまとめて弾き飛ばした。武器を弾かれ、よろめいた者が横や後ろにいる者とぶつかり、将棋倒しになって全員が体勢を崩す。ドンもそれに巻き込まれ、丸い体が後ろへ転がっていった。
 悲鳴と怒号が響く室内にあっても冷静な祐漸とアンディは、早くも次の行動を起こしていた。
 ひと薙ぎした剣が止まると同時にアンディは立ち上がり、一番近い窓に向かって駆け出す。床に突っ伏しているかなたの首根っこを掴むと、祐漸もその後に続く。
 窓を打ち破って屋敷の庭に出たところで、ようやく混乱から立ち直った室内から怒声がする。

「何をしている! 逃がすな、追え!」

 金切り声を上げているのはおそらくドンだった。少々想定外の事態に陥るとすぐに余裕が消える辺り、所詮は小物という印象だった。

「祐漸、ドンの狙いは?」
「俺達の始末か、足止めか・・・・・・妙に話を長引かせてたことから考えると後者か、或いは両方か」
「もしそうなら、真の狙いは俺達というより」
「“鷹の爪”のアジトかもしれん」

 アンディは“鷹の爪”の幹部の中でも中心的存在の一人で、祐漸は用心棒的存在の凄腕の傭兵と、どちらも“鷹の爪”を敵に回す場合は大きな障害となる人間だった。アジトを狙うなら、二人をそこから引き離そうと画策するのは理に適っている。
 しかし、もしそうだと仮定すると、解せない点もあった。
 今日がドンとの交渉を行う日だという情報まではつかめたとしても、それに出向くのが祐漸とアンディの二人であるということまで知るのは困難なはずだった。何しろそれが決まったのは昨日の話なのだ。しかもその時点でその話を知っていたのは、一分の幹部達だけである。昨日の今日ではあまりに情報の流れるのが早過ぎるのだ。
 そうなると、考えられる可能性は非常に良くないものとなる。

「内通者がいるな。しかも幹部連中の中にだ」
「まさかとは思いたいがな。やはりこの状況、そうとしか思えんか」

 苦虫を噛み潰したような声を出すアンディ。幹部の選出には、そうした者が出ないよう細心の注意を払ってきただけに、その事実は認め難く、また真実だとしたら非常に悔しいものに違いなかった。

「まぁ、裏切り者か、はたまた最初から間者だったのかは知らんが、そいつのことは後で考えるとして、だ」
「今はアジトのことが気になる。早急に戻るぞ」
「そうしたいところだがな」

 さすがにそこまで相手も無能ではないようだ。
 庭に出て、そこから屋敷の外へ向かおうとしたものの、地の利は相手にあり、早くも回り込まれてしまった。

「さて、どうする」

 仮にアジトが襲撃されたとしても、マスターがいるなら問題はないはずだった。“鷹の爪”の創始者にしてリーダーでもあるあのマスターの実力は誰も知らないが、少なくとも只者でない気配は皆感じている。祐漸にしても、彼と戦えばどちらが勝つかわからないくらいだと思っていた。
 だが同時に、あのマスターはたまにふらっとどこかに消えることがあった。それがいつになるか、どれくらいの期間かがまったく予測できないのが難しいところだ。
 なので、あてにするわけにはいかない。

「えっとぉ・・・・・・とりあえずわたしを下ろしてくれるとうれしいんだけど・・・」
「ああ」

 そういえば屋敷を出る時から猫のように抱えたままだった。あまり重さを感じなかったため、ついそのことを失念していた。

「ほれ」
「ひゃんっ」

 手を離すと地面にどさっと落ちる。

「うぅ、なんか扱いがひどい気がする〜」
「気のせいだ」

 周りには銃を手にした男が三十人余り。祐漸一人ならば余裕で切り抜けられる人数だが。

(全部蹴散らした方が早いか)

 そう思った矢先だった。

「ッ!」

 頭上から殺気を感じた祐漸は、アンディを右の物陰へ向かって蹴り入れ、かなたを後ろの繁みへ放り投げた。
 自身が回避する時間まではなかったため、剣を頭上に持ち上げて旋回させる。
 僅かに遅れて銃撃音。
 回転させた剣が弾丸を弾き落す。
 剣の隙間から頭上を仰ぎ見た祐漸は、右腕に装着したガトリングガンを乱射しながら落ちてくる敵の姿を捉えた。

「ふんっ!」

 銃撃を防いでいる剣の回転を緩めず跳躍し、空中で相手と交錯する瞬間にガトリングガンの先端を切り落とす。
 音が止み、両者は地面に着地するとすぐさま振り返って対峙する。

「なるほどね、そういうことか」

 その敵の正体を知ると、祐漸は自分が脳裏に描いた可能性の内、特に良くない可能性が当たったらしいことに気付いた。
 相手は尋常な人間ではなかった。
 切り落としたガトリングガンは、相手の右腕に直接ついていた。使い物にならなくなったそれが、音を立てて外され、地面に落ちる。ガトリングガンが外れた腕の部分には、金属のパーツが皮膚下に見て取れた。
 機械化兵。
 魔法戦士と並び、ルベリア帝国の強大な軍事力を支える強化兵だった。



















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あとがき
 ようやく第一章後半突入で、次回からは戦闘開始だ。