Demon Busters!
第一章 空からきた少女 −5−
祐漸が戻る少し前まで、幹部達が集まって今後の方針について話し合っていたらしい。組織の行動方針に関しては、祐漸は一切ノータッチだった。あくまで雇われの傭兵、仕事は前線に赴いて戦うこと
の一点に尽きた。
「お、祐漸さん戻ってたッスか」
軽い調子で祐漸とアンディの下へ寄って来た男はルッツ。幹部の中では最も組織に入ってから日が浅いが、顔が広く情報通なことで、有能な男として徐々に皆から頼られるようになっている。厳格な面々から軽薄過ぎる性格があまり好かれていないようだが
、こうした組織は往々にして人材不足である。能力のある人間は貴重ということだ。
この男も祐漸に対して気さくに話しかけてくる数少ない人間だった。
「ちょうどいいところしたね、アンディさん、もう話しましたか?」
「いや、まだこれからだ」
「何だ、早くも次の仕事か?」
戻ってきたばかりで気の早い話だった。
「昨夜の作戦で手に入るはずだった武器弾薬がダメだったッスよね。それでちょっと苦しくなって・・・って言ってもまだ当分はもつんスけど、ここらで補給しないといけないってことで」
「なるほど、俺もそれに同行しろということか」
「あまり大人数で立て続けに動くと目立つからな。武器商との交渉は俺がやる。おまえは俺の護衛ということで頼む」
「了解した」
おそらくだが、昨夜の作戦に失敗したことで、リーダーを務めていたアンディと、作戦の要になっていた祐漸に対する批判が出たのだろう。それで非合法の武器商の下へ行っての武器弾薬の補給をやらせることでその分を挽回させる、という辺りで話を落としたといったところか。
ロウワータウンには、無法者が多数集まっている区画があり、非合法な商品が多く取引されている。レジスタンス達が使用している武器も、そうした場所で密造・密売されているものだった。
帝国の支配が及ばぬ無法地帯、所謂暗黒街へ普通の人間は近付くことを厭う。レジスタンスのメンバーとてそれは同様だった。
そこで上手く理由をつけて、他の誰かに行かせようとしているのだ。
「ま、祐漸さんの雷名はああいった場所での方が上より知られてるッスよ。ふっかけられそうになったら、その名前出して凄んでやってくだせぇ!」
「期待に沿えるよう善処しよう」
「出発は明日の朝だ。今夜は休んでくれ」
「はいよ」
用が済むと、祐漸は踵を返してさっさと地下を後にする。
どんな視線や声を周りから向けられようと馬耳東風な祐漸だが、居心地の悪い空間にわざわざ好んでいることもない。
薄暗い階段を上り、廊下を抜けてそのまま上の部屋へ行こうと思ったところでかなたのことを思い出し、一応様子を見ておこうと店の方へ一旦戻ることにした。
店へ通じる扉に近付くと、やけに騒がしい。
夕方を過ぎ、これから夜にかけて客が増えていくため常にこの時間帯は賑やかには違いないのだが、今日はそれが一際だった。
何となく嫌な予感を抱きつつ扉を開けて店に入ると、少なくとも予想の半分が当たっていたことがすぐにわかった。
騒ぎの中心にいたのは、かたなだった。
「大ジョッキ四つおもちしましたー!」
「おうっ、ありがとよ!」
「嬢ちゃん、こっちもあと二つ追加頼むぜ!」
「わかりました〜!」
「おーい、注文頼むよー」
「は〜い、今いきま〜す!」
残像が残りそうな勢いで店内を縦横無尽に駆け回るかなたはいつの間にかエプロン姿になっており、あっちへお酒を運びこっちで注文を取りそっちへ料理を持っていく。めまぐるしい給仕活動は客達に大評判で、店内は一層華やかな喧騒に包まれていた。
正直、ものすごい意外だった。
そこにいるだけで華のある少女であることは承知していた。
だが、どこかぽやっとした雰囲気があり、例の思考の間もあってどちらかというととろいイメージがあっただけに、今のテキパキした様子は不思議な光景だった。
「あ、お兄ちゃん!」
店の端で何かの作業をしていたリディアが祐漸の姿を見付けてトコトコと寄ってくる。
「すっごいね〜、あのお姉ちゃん」
「俺が下に行ってるほんの十五分程度の間に何があった?」
リディアが隅で行っていたのは、何かの片付けだった。しかもかなりの量があった。加えてよくよく店内を見れば、テーブルと椅子が僅かだが減っており、壁や床に傷があるのが見て取れる。
「あのね、お姉ちゃん最初は全然何も知らなくて、お掃除とか手伝ってもらったんだけどすごい勢いでテーブルとか椅子とか壊しちゃって」
「ほう・・・・・・」
「お皿洗いしても信じられないくらい割るし」
「誰がその分弁償するんだろうな」
「あ、マスターがお兄ちゃんのほうしゅうから引いておくって」
こめかみを軽く叩く。
仕事を手伝わせてもいい、などと言ったのが失敗だった。大人しくさせておけばよかったのだ。
しかし、それだけだと今の状況の説明がつかない。
「で、続きは?」
「うん、そこからのすっごいの! こうやるんだよ、っていうのをちょっと教えてあげたらすぐに飲み込んじゃって、お掃除もお皿洗いもあたしよりずっと早くてずっと綺麗にしちゃうし、お酒やお料理運ぶのもあんな風に」
店内を跳びまわっているかなたを指差して。
「すっごく早いし。マスターも気に入っちゃって、あたしおはらいばこだよ」
やれやれ、などと大人ぶった感じにリディアが肩を竦める。
「なるほどな」
ものを知らないがゆえに、学習能力が非常に高いのだろう。
たぶんまた、新しいものに直面した時には思考が止まったりするのだろうが、逆に一度頭に入れたものに対する適応が早い。根本的には頭の回転が速いようだった。
そんな自分の特性をフルに活用して、ものの十分程度ですっかりかなたは店の人気者になっていた。
別に祐漸は彼女の保護者でもないし、そこは好きなようにやらせておくつもりだった。
とりあえず、まずはマスターと掛け合って彼女が壊した物の弁償は彼女自身が働いて返すということにしてもらうとしよう。
カウンターへ向かうと、そこにマスターとは別のもう一人の人物を見付けて、ついでに一つ頼みごとをすることにした。
「レイチェル」
「あら、祐漸さん、おかえりなさい」
洗い物をしていた女性は、リディアの母親で、またアンディの妻であった。十歳の娘がいるとは思えないほど若く、武骨さばかりが目立つ男の妻にしておくには惜しいくらいの美人である。
若い頃は腕の立つ魔導師だったらしく、実際に魔法を使うところは見たことはないが、性格面のみならず能力面においても一般人ながら祐漸からしても一目置ける人物でもあった。
温厚で気立ても良く、娘のリディアともどもこの店の評判に一役買っている存在だった。
もっとも、今はその役どころをかなたに持っていかれている形だが。
「祐漸さんたら、あんなにかわいい彼女さんがいるならもっと早く教えてくれたらよかったのに」
「あんたまでそんな話を間に受けてんなよ。それより頼みがあるんだが」
「はい?」
「今夜あれをそっちの部屋に泊めてやってくれんか?」
レイチェルとリディアも祐漸同様、この店の二階に部屋を借りている。アンディは作戦行動前は自室には戻らず、地下で一夜を明かすことが常なため、今夜彼女達は二人きりのはずだった。祐漸も含め、他の部屋にいるのは男ばかりのため、そこに若い女一人を泊めるわけにもいかない。
「あら、いいんですか?」
「何がだ?」
「ふふっ、いいえ、わかりました」
含みのある笑みを浮かべながらレイチェルは承諾した。
やはり祐漸とかなたの仲を誤解している節があるが、これ以上あえて否定する気もなかった。そう思いたいなら思わせておけばいい。どうせ本当のことを言ってもややこしいことになるだけだった。
店内を振り返ると、当の本人は能天気に愛想を振り撒きながら駆け回っていた。
動きはテキパキしていても、その様子は十歳のリディアと大差ない。色気のある話題に乗せるには、やはり幼すぎるだろう。
後のことはレイチェルに任せて、祐漸は翌日に備えて休むべく、自室へと戻っていった。
翌朝。
日が出ない内に、と言ってもここロウワータウンではほとんど太陽の光が差し込まないため、あまり意味のないことだった。ここでは夜陰に紛れて動くより、少人数での行動ならば人込みに紛れた方が確実だった。
ゆえに、出発はそれほど早い時間ではない。
時刻は朝の五時。店の方では朝の仕込みをしている頃だろう。
出発前に軽く腹ごしらえをさせてもらおうと、祐漸は厨房へ向かった。
「・・・・・・?」
一歩厨房の中で足を踏み入れた途端に、何かとてもよくない感覚が背筋に走った。こうした直感的な“何か”を祐漸は重要視していた。それによって訪れる危機を未然に回避したり、仮に起こってしまったとしても冷静に対処する心構えを作ったりすることができるからだ。実際これまで何度も自らの直感に助けられてきた祐漸だった。
さて、いったいこの平和の象徴のような店の厨房でどんな危機的状況が待ち受けているというのか。
まず感覚を刺激してくるのが匂いだ。
朝の仕込をしている時間帯なら厨房から何らかの匂いがするのは当然なのだが、これは何かがおかしい。
異臭というわけではない。むしろ香ばしい感じがする。が、それでいて今までに一度もかいだことがないような、決定的に何かが間違っているというか、決してその正体を知ってはならないような、そんな危険な匂いだった。ひょっとすると、戦場に漂う硝煙の匂いの方がいくらかマシなのではないかと思えるくらいの――。
「お、お兄ちゃん・・・・・・」
ふらふらとした足取りでやってきたのはリディアだ。
いつもは朝から元気一杯に店の手伝いをしている少女は、今は真っ青な顔で半べそをかいていた。
「・・・・・・何があった?」
昨日も同じような質問をした覚えがあった。その時は妙な話ではあったが決して憂鬱になるような内容ではなかったが、今度はどうやらそうはいかないようだ。
「えぐっ、えぐっ・・・あ、あのね・・・おねえちゃん、教えたら何でもできるから、きっと、って思って、お・・・お、おりょ・・・・・・ひぐっ」
「料理でもさせてみたのか?」
こくこくっ、と激しく首を縦に振るリディア。青い顔に何かを恐れるような表情を浮かべてガタガタと震え出す。
「う、ぅぅ、ひぐえぐっ、ごめんなさいごめんなさい、あたしがわるかったですごめんなさい、えぐえぐっ」
それ以上は聞いてやるまいと思って、祐漸はリディアの頭を撫でてやりながら奥の様子を窺った。
不思議な匂いを放つ物体――それを料理と呼ぶのはきっと料理に対する冒涜だろう――を前にしきりに首を捻っているかなたと、その隣で何とも言えない微妙な笑みを凍りつかせているレイチェルがいた。
レイチェルは祐漸に気付くと、そちらへ歩み寄ってきた。
「人間、誰にでも苦手なものはあるものですよ」
「そうだろうな」
たいていのことは許容する懐の広い女性が当たり障りのない一般論でコメントを避けた。かなたの作ったものにはそれほどの破壊力があったということだ。
いまだに半べそでしゃくりあげているリディアをあやしながらレイチェルが厨房を後にすると、祐漸はかなたの背後に立った。調理台の上に置いてある物体のことは極力見ないようにする。
「何を作ったんだ、おまえは」
「うーん、普通に作ったつもりだったんだけど・・・・・・なんでこうなっちゃったんだろうね?」
「知るか。とりあえずその未知の物体は片付けろ。そしておまえは二度と厨房に立つな」
「でも、次はきっと大丈夫だよ」
「大丈夫になるまでに死人が出る。やるなら誰もいない場所でやって本当に大丈夫になってから出直してこい」
謎多き少女、かなたについて一つ判明した。
料理の腕は壊滅的。
誰かの命に関わりかねない問題なのでこのことだけはきっちりと胸に留めておこうと決めた。
六時、店の表口に祐漸、かなた、アンディの三人と、見送りのレイチェルとリディアがいた。
厨房でのショッキングな件は記憶の底に封印することにしたのか、リディアは普段どおりの様子でかなたと楽しげに話していた。
昨日の時点でも充分仲が良さそうだったが、一晩経ってさらに打ち解けた様子だった。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、あなた。祐漸さんも」
「ああ」
常日頃と変わらない朝の挨拶を交わす。
レジスタンスに属しているからといって、何も四六時中その活動に従事しているわけではない。何よりまず生活をしなくてはならないのだから、普段は皆それぞれに仕事をしている者がほとんどだ。アンディも日雇いの肉体労働をいつもはしている。今朝の出発も、端から見ればその仕事に行くのと変わらないように見えるだろう。
ちなみに、祐漸は普段何もしていない。
雇い主の一人からたっぷりと活動資金をもらっているため、生活に困るようなことにはならないのだ。たいていは体を休めているか、軽く鍛錬をするかして、いざ戦場へ出向く際に最高の動きができるようなコンディション調整をしていた。
あとは表向き傭兵の仕事を探しているように見せかけるため、街に繰り出したりもしている。
いつもと変わらないように見せて行動しているため、やましいことがあると疑われる心配はほとんどないはずだった。
「ねね、お兄ちゃん」
「ん?」
出発直前に、リディアが寄って来て小声で話しかけてきた。
「お姉ちゃんのこと見て、何か気付かない?」
「何か?」
チラッと視線を向けてかなたの様子を窺う。
先ほど料理で失敗した件はもうどうでもよくなったのか、上機嫌な笑みを浮かべて出かけるのを楽しんでいる風情だった。
昨日会ったばかりで、まだこの不思議少女の全てを理解したとは到底言い難いが、だいたいずっとこんな感じなので別段変わった風には見えない。
「別に普通じゃないのか? いや、根本的に普通じゃないということは置いておくとして、だが」
「そうじゃないでしょっ、もっとよく見て」
「何を見ろって・・・・・・ああ、あれか」
確かに変わっている部分はあった。
髪型だ。
左右の髪の一部を小さな髪留めで結っていた。完全なツインテールではなく、背中を覆う長い髪はそのままにしてあるためそれほど大きな変化ではないが、ちょっとしたアクセントになって見栄えが良い。
正直言って、かなり似合っている。
「ね、かわいいでしょ」
「そうだな。で、それがどうした?」
「どうした、って?」
「あいつが髪型を変えたからってそれが俺と何の関係がある?」
「んもーっ、お兄ちゃんのニブチン!」
「は?」
何故そんな風に言われなくてはならないのかと思い悩みつつ、小躍りしそうなほど楽しげなかなたと、頬を膨らませているリディアとを交互に見やる。
そこではたと思い当たった。
どうやら昨日の“カノジョ”云々の話をまだ誤解しているようだ。
“カノジョ”の方が髪型を変えることで自分をアピールしているのだからそれに対して“カレシ”としてはどうなのか、というようなことを言いたいのだろう。
どうと言われても、どうでもいいとしか答えようがない。この少女とは本当にそういう関係ではないのだから。
似合ってる、とか、かわいい、程度のことを社交辞令として言ってもいいとは思うが、そんな風に気を使うような相手でもないだろう。
とはいえ、リディアの方の機嫌は取っておいた方が良さそうだった。
「まぁ、後で似合ってるくらいのことを言っておくさ」
「うん、よろしい」
素直さとは単純さでもある。
あっさり機嫌を直したリディアは満足げに頷いていた。髪を結うのはレイチェルも手伝ったのだろう、横で聞いていて同じように笑顔で頷いている。
そんな母子に見送られて、三人は店を後にした。
「良かったな」
「ふぇ? 何が?」
「その髪だ。あの二人にやってもらったんだろう」
「あ、うん♪ かわいいでしょっ」
「そうだな、似合ってるんじゃないか」
「えへへ〜」
元々上機嫌だった表情がさらに緩む。
なるほど、一応褒められれば嬉しいという感覚はあるようだ。というより最初があれだったためにわかりにくかったが、そういった先入観抜きで見ればかなたは、ちょっと変わったところはあるがごく普通の少女に見えた。相応のことで喜んだり、楽しんだり、そしてたぶん怒ったり悲しんだりもするのだろう。
そう思うと本当に彼女はかわいい。男ならばそうそう放ってはおかないかもしれない。祐漸とて憎からず思ってはいる。
「でもかわいいって言えばリディアちゃんこそかわいいよね〜」
本人にはあまりそうした自覚はなさそうと、というか皆無のようだが。
「わたし、自分の・・・・・・ぇーと・・・趣味? 嗜好? うん、それだ。とかもよくわからないけど、一つだけ胸を張って言えることがあるよ」
「何だ?」
「わたしはかわいい子が好きです」
「そうかい」
そこで、黙って前を歩いていたアンディが肩越しに振り返ってかなたの方を見る。そういえばこの二人の顔合わせは今朝がはじめてでまだちゃんとした紹介もしていなかったな、などと祐漸は思ったが、妻か娘のどちらかから聞いたのか、既にかなたの名前は知っていたようだった。
「かなたさん、だったかな。うちの娘はかわいいかな?」
「うんっ、とっても♪」
「そうか」
微かにだが、アンディの表情がフッと緩むのを祐漸は見逃さなかった。
戦場に立てば敵から恐れられ、味方から頼みにされる百戦錬磨の戦士も、かわいい一人娘の話になるとただの父親になる。
「良ければ、これからも娘と仲良くしてやってくれ」
「もちろんです!」
かなたの素性については当然アンディにも話していない。それでもこうしてまったく疑うところがないのは、アンディの祐漸に対する信頼の証だった。
戦いの中で生きてきた男は、そう簡単に他人のことを信用しない。
ましてや様々な種類の人間が集まっているレジスタンスの中で信頼関係を築くのは容易ではなかった。新しく入った仲間に易々と重要拠点の場所を教えはしないし、アンディもその点は徹底していた。
それでも、祐漸の連れだからというだけで、アンディはもうかなたのことをある程度信用していた。
そんなに長い時間を共に過ごしたわけではないが、祐漸とアンディの間に築かれた信頼関係がそれだけ強いということだ。
(しかしまぁ、こいつが本当にそんな簡単に信じていいタマなのかどうか)
はっきり言ってかなたは得体が知れない。
かなたのことを知れば知るほど普通の少女にしか見えないが、だからこそあんな普通ではない登場の仕方をした事実を忘れるわけにはいかない。
皮肉にも、祐漸の連れだからという理由でアンディがかなたを信用している一方で、祐漸自身は本心からかなたを信用してはいないのだ。
今日の武器商との交渉に一緒に連れて行くのも、自分の目の届く範囲に置いておきたいからだ。
「ふんふふんふふ〜ん♪」
「・・・・・・・・・」
能天気なかなたの様子を見ていると、信用できるのできないのと真剣に悩んでいるのが馬鹿らしくなるのも事実だったが。
ついでに言えば、例のモンスターの一件もある。
あの時、大型ワームは明らかにかなたを標的としていた。
街のど真ん中にモンスターが現れるという異常に加えて、あのレベルのモンスターに咄嗟に対処できるのはロウワータウンでは祐漸くらいだろうと思われるため、万が一の事態に備えてかなたの身柄は手許に置いておきたかった。
アークタウンでモンスターが暴れまわるような事態になっては困るのだ。
それでは、傭兵祐漸の本来の雇い主の思惑から外れる事態になりかねない。だから祐漸には余計な騒ぎが起こらないよう配慮する役割があった。
今から向かうロウワータウンの暗黒街なら、多少の騒ぎがあってもそこの連中が揉み消してくれる。そういう打算も、足手まといになりそうな感のあるかなたも連れて行くことに決めた理由の一つだった。
できれば、本来の目的である武器商との交渉が滞りなく進むよう、余計な騒ぎは起きないでほしいのだが――。
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あとがき
ほのぼのとした平和な一時の回。