Demon Busters!



   第一章 空からきた少女  −1− 





















落ちる
落ちてゆく――

天より、地に向けて
高き場所より、低き場所へと
少しずつ速さを増しながら
この身は天空より大地に向かって落ちていく

身体が上から下へと向かうほどに
風が下から上へと吹きぬけていく
その風に煽られるように、この身の内にあるものが抜け落ちていく
流れていく、上へと
元いた場所に何もかも残していくように
この身の全てが抜けて流れていく
全てを置き去りにして、この身は落ちていく

もはや、この身が何であったのかも思い出せない
元いた場所がどこだったのかもわからない
どこへ向かっているのかも定かではない
この身は空虚だ
まっさらな状態で、落ちていく

このまま、本当に何もかも消え去ってしまうかもしれない
この身が向かう先に、“わたし”はいるだろうか
いなかったらどうしようと思う
いたらいいなと思う
もしもいたらどうしよう
ああ、今はそんなことも考えられない
今考えていることすらも抜けていきながら、落ちていく

なら今は、ただ吹き付ける風だけを感じていよう
ただ願わくば、行き着く先に“わたし”がいますように
そう思いながら、“わたし”はどこまでも落ちていった――



















 魔法科学と機械科学の両立によって絶大な軍事力を誇り、世界に君臨するルベリア帝国。
 その中心たる首都アークタウンは、まさにその象徴とも言うべき巨大都市だった。
 天を衝くように聳え立つ塔を中心に、地上およそ二百メートル余りの空中に、幾本もの支柱に支えられて存在する巨大な円盤が、都市の中心だった。
 空に最も近き街とも呼ばれる人工物は、まさに地上に生きる人類が造り上げた文明の極みとも言うべき威容と共に君臨していた。
 しかし、天上に住まうかの如き栄華に満ちた円盤の上、ハイアータウンの下には、その光に対を成す影たる街が存在していた。
 ロウワータウン。
 空に浮かぶ都市に光を遮られ、穴倉のような暗闇の中で暮らすことを強いられた者達の街。
 上の都市に住むことができるのは、多大な権力を持つ者か、巨万の富を持つ者か。彼らの栄光の影で、下に住む者達は光もなく、日々を生きるのに精一杯の生活を送らされていた。
 下に住む者達がこの格差を生み出した皇族に対して強い反抗心を抱くのは、自明の理であった。
 ゆえに、ロウワータウンには、帝国の体制を不満を訴える者達の集団が複数存在している。彼らは時には、武力をもってその主張を上へ伝えようとする。
 今も、その最中だった――。



 銃撃の音が断続的に響き渡る。
 ここはハイアータウンの一角にある帝国の軍事施設だった。
 現在は施設の守備部隊と、ロウワータウンに拠点を構えるレジスタンス勢力“鷹の爪”との戦闘が行われている。
 “鷹の爪”の目的は、帝国軍の施設を襲撃することによって自分達の存在を強くアピールすると共に、武器弾薬を強奪して今度の活動に利用しようというものだった。彼らのようなレジスタンス勢力が主に使っているのは、 下の街で違法に密造されている武器だが、それらは信頼性の面で軍が正規に使用している物から大きく劣る。より大きな戦果を挙げるためには、より強力で信頼性の高い武器が必要だった。
 ただ、と“鷹の爪”の突撃部隊に参加している傭兵、祐漸は思う。
 一般的な武装をいくら揃えたところで、レジスタンス勢力が帝国軍と渡り合うのは困難と言えた。何故ならそれらは、所詮“強化”を受けていない一般兵用の武装でしかないからだ。そんなものがいくらあったところで、結局相手をできるのは一般兵、即ち雑兵のみだ。
 帝国軍を世界最強の軍団へと押し上げたのは、軍の中核を成す強化兵の存在だった。
 軍が行う“強化”には二種類ある。
 一つは、魔法によって身体能力を大幅に上げる方法。これを施された兵士は魔法戦士と呼ばれ、主に剣や槍など扱う。前時代的な武装だが、これも魔法によって加工された武具を扱う彼らは、 特に高位の者ともなれば生身で銃を持った兵士百人を相手にする。
 もう一つは、機械と一体となって身体を改造する方法。機械化兵と呼ばれる彼らは、本来なら人間サイズでは使用不可能な規模の銃火器を扱い、また痛みを感じない機械の身体によって魔法戦士ですら困難を極める過酷な状況下での戦闘もこなす。
 いずれの強化兵にも共通することは、一般兵などとは比べ物にならない、圧倒的な戦闘力を持つということだった。
 無論、軍全体で見れば強化兵は少数だった。“強化”は必ずしも成功するわけではなく、また危険も含むため、素質のある者、希望する者がそう多くはないのだ。
 けれど、並の強化兵が十人もいれば、レジスタンス勢力の一つや二つ、容易く潰されるだろう。それがされず、いくつもレジスタンス勢力が未だに健在なのは、単に帝国が彼らの存在をまだ大して重要視していないからだった。

「さて・・・・・・」

 銃撃の音を聞き分けて、大まかな敵の配置を確認した祐漸はゆっくりと動き出す。
 今日の“鷹の爪”の強襲作戦は三段階に分かれており、まずは最初に突入したチームが陽動を仕掛け、それに引き寄せられてきた守備部隊の本隊を祐漸が一掃する。その隙に隠密行動で施設内に潜入したチームが主要部に爆弾を仕掛け、武器庫から持ち出せるだけの武器弾薬を強奪して脱出。最後に仕掛けた爆弾を爆発させて 混乱を煽り、その隙に乗じて撤収。
 “鷹の爪”は帝国に反抗するレジスタンスの中でも一、二を争う精鋭揃いであり、この規模の施設相手の作戦ならば成功させるだろう。このレベルの施設ならば、強化兵は常時配備されてはいない。
 守備部隊の本隊をまとめて相手する祐漸の荷が重いように感じられるが、それはまったく問題視していなかった。
 彼にとって一般兵の部隊など、烏合の衆に等しい。
 ただこんな作戦一つ成功させたところでどれほどの意味があるものかと思うとモチベーションが上がらないのだが、そこは仕方がない。

「あの男にも頼まれていることだし、仕事はきっちりやらんとな」

 祐漸は傭兵である。
 雇い主は表向きは“鷹の爪”だが、それ以外にも祐漸に仕事を依頼している者もいた。その依頼というのはレジスタンスの支援なので、どの道やることは一つだった。
 何にしても傭兵として、引き受けた仕事は全力でこなすのが彼のポリシーだった。
 その結果大勢にどんな影響があろうがなかろうが関係ない。

「戦闘開始だ!」

 ダッと息を潜めていた場所から、祐漸は銃弾が嵐が飛び交う中へと飛び出す。
 それを合図に、“鷹の爪”側からが銃撃が一旦止む。逆に予期せぬ相手の乱入に、守備兵側には動揺が走り、動きが一瞬にして散漫なものに変わる。どれほど数がいようと、狙いの定まらない銃撃など恐れるに足らない。
 所詮は末端、兵の練度もたかが知れている。
 祐漸は余裕の体で距離を詰め、手にした剣を振りかぶる。
 刃渡りおよそ百五十センチ。柄も含めると自分の身長ほどもあり、刃も厚く、重量もそれに見合うだけある長大な剣を薙ぎ払うと、一振りで三人の兵士を、手にした銃も、身に纏った防護服も諸共に両断した。
 超重量の大剣を、祐漸は片手で軽々と操る。
 加えて移動速度が尋常でなく、守備兵達の多くの祐漸の姿を認識することもないまま切り伏せられていく。剣が届く範囲まで接近を許した時点で、彼らの命運は既に決まっていた。
 散発的な銃撃と、守備兵達のくぐもった悲鳴だけが響く。
 剣を振るっている間、祐漸は一言も発しない。
 気合を入れるほどの相手でもなし、これから死に逝く彼らにかける言葉もない。ただ心中でのみ、己に出会った不運を呪えと伝えていた。
 二分足らずでその場にいた二十人余りを倒した祐漸は、こちらへ向かってくる別の部隊の気配を察知し、後方で控えている陽動チームに合図を送ってから新手の方へ向かう。
 今度の敵は五十人ほどいるようだが、不運な集団であることに変わりはなかった。

「あっけなさ過ぎるな」

 十分後には、新たにやってきた敵部隊も全滅していた。
 守備兵の八割以上は祐漸の剣によって切り伏せられている。それだけのことを為しながら、祐漸は汗一つ掻いていない。
 集まってきた味方の中にも、化け物でも見るような視線を祐漸に向けてくる者達が何人かいた。はじめて祐漸の戦いを見た者が大抵見せる類の視線だった。
 無理もない。
 彼らからすれば、祐漸の強さは常軌を逸していた。

「祐漸、敵は?」

 それでも長く付き合って祐漸の人となりを知ると、こうして気さくに声をかけてくる者も出てくる。
 声をかけてきたのは、陽動チームのリーダーをしているアンディという男だ。“鷹の爪”の主要メンバーの一人だった。
 歳は三十前後。元は流れ者で、聞いた話によるとルベリアに滅ぼされたある国の兵士だったらしく、腕が立った。レジスタンス内での信頼も高く、特に若いメンバーを中心に慕われているリーダー 格の一人である。戦闘中は寡黙で必要以上のことは喋らないが、普段はわりとフランクで、酒を飲む時は特に明るくなる。
 ちなみに妻子持ちで、美人妻と十歳になる可愛らしい娘がおり、どちらも評判だった。
 余所者の傭兵であり、化け物じみた存在である祐漸とも普通に接する数少ないレジスタンスの男である。

「近くにはいないな。まだ半分くらいは残ってるはずだが」

 そんな相手だからというだけではないが、自然な態度で接せられる彼のことを祐漸も気に入っていた。
 また豊富な戦闘経験も買っており、作戦行動を共にする相手としても申し分なかった。お陰で乗り気でない戦いに少しは身が入るというものだった。
 少し離れた辺りから新たな銃撃の音が聞こえた。

「潜入犯が守備兵と接触したか」
「音の様子からして、敵の数はそう多くないな」
「時間通りに行動していれば、もう爆弾は仕掛け終わって後退してる頃合だな。よし、俺達は武器庫へ向かうぞ」

 チームのメンバーを先導して移動しようとするアンディを、不意に祐漸が引き止めた。
 祐漸は音のする方に険しい視線を向ける。

「何だ?」
「妙だ。守備兵側の銃撃音が止んだ」

 周りにいるメンバーが怪訝な表情をする。
 彼らには銃撃音など全て同じに聞こえるのかもしれないが、祐漸にはレジスタンスが使う密造銃と、軍で採用されている銃火器の音を聞き分けるくらいは容易なことだった。
 銃撃は今も続いている。
 ただし、音はレジスタンス側のものしか聞こえてこない。
 考えられる可能性は一つ。それもかなり悪い状況に違いなかった。

「アンディ、武器庫は諦めろ。向こうの連中に、もう爆弾を仕掛け終えたなら爆発させて引き揚げるように伝えて、おまえらも撤収しろ」
「ここまで来て武器を諦めろと?」
「全滅するぞ」

 冷淡な声で祐漸は告げる。
 他のメンバーはあからさまに不満な顔を見せていたが、アンディは祐漸の伝えんとするところを理解したのだろう。一秒ほど考えてから祐漸の言い分に従った。
 敵に傍受される危険性から作戦中は切っていた無線を使ってあちら側のチームに呼び掛ける。
 短いやり取りで、あちらで起こっている出来事が予想通りのものと知り、アンディは総員に撤退を告げた。

「どういうことですかっ、アンディさん!?」
「武器庫がもう目の前じゃないですか!」

 未だ事態を理解していないメンバー達に、アンディは重苦しい声で事態を伝えた。

「魔法戦士が現れた」

 動揺が走る。
 彼らもようやく事態が呑み込めたようだ。
 一般兵だけならばレジスタンス勢でも渡り合える。が、強化兵の相手をするには人数が足りない。
 今日の作戦に参加した“鷹の爪”のメンバーは二十人。相手の魔法戦士のレベルにもよるが、もし高位の相手だったならば、あっという間に全滅させられる人数だった。

「速やかに撤退だ。祐漸、すまんが・・・・・・」
「わかっている。早く行け」

 アンディは首肯すると、メンバーを引き連れて足早にその場を離れた。
 それを見送ることもなく、祐漸は駆け出していた。
 撤退する味方を支援するため、魔法戦士に対処しなくてはならない。
 一般兵百人にも匹敵すると言われる戦力を持つ強化兵を相手に、レジスタンスのメンバーでは到底太刀打ちはできない。
 唯一それが可能なのは、祐漸だけだった。
 銃撃の音を頼りに走りながら位置を特定し、全速力でその場に向かう。
 味方の銃撃音にはいまだに淀みがなく、彼らが無事であることを示していた。
 意外とランクの低い魔法戦士でてこずっているのか、それともひと思いには殺さないタイプの敵か、或いは既に味方がやられていて別の相手を誘き寄せる罠か。
 いくつかの可能性が脳裏を過ぎるが、どれであれすることは同じだった。
 駆ける勢いそのままに、戦闘が行われている建物の壁を打ち貫く。
 轟音と共に内部へ突入すると、銃撃の音が止んだ。
 右を見れば、驚いた表情のレジスタンスメンバー達。
 左を見れば、さながら騎士のような鎧を纏い、剣を手にした若い男が一人。
 どうやら間に合ったようだった。

「行け」

 レジスタンス側に引き揚げるよう促すと、少し戸惑った後にリーダー格の男の指揮でその場を離れていった。
 祐漸が魔法戦士と思しき男と対峙すると、少し送れて通路の後方に守備兵部隊が現れた。
 どうやらこの魔法戦士がレジスタンス達を足止めして、その隙に背後に回り込んだ守備兵部隊が彼らを制圧する作戦だったようだ。
 守備兵達はしばらく迷っていたが、この場を魔法戦士に任せることにしたようで、逃げた“鷹の爪”のメンバーを追っていった。
 誰もいなくなって静かになった通路で、祐漸と魔法戦士が向き合う。

「一騎当千の魔法戦士が、たかだか十人程度の相手を倒すのに随分せこい手を使うもんだな」

 銃撃の中、通路の中央に仁王立ちしていたくらいである。この男にその気があれば、“鷹の爪”のメンバーはあっという間に全滅させられていただろう。実際に対峙して、それだけの実力者であることはすぐにわかった。

「これだけの被害を出して、何の手柄もないままだったらここの人達が罰せられることになるからね。彼らに華を持たせようとしたんですよ」
「なるほど、お優しい騎士様だな」

 手柄を譲る気だったわけだ。それで結局逃がしていては世話がない。
 或いはこの男は、“鷹の爪”のメンバー達が逃げ切れないと思っているのかもしれないが、アンディの指揮下にある彼らの安否については心配する必要はないだろう。戦いの中で生き残る技術に関して、あの男は非常に優れている。
 障害となるのはただ一つ。眼前の魔法戦士だけだった。

「それに、僕の標的は本来あなたですからね」
「何?」
「凄腕の傭兵がレジスタンスの中にいるという噂ですよ。取るに足らないとしている人がほとんどですが、中には懸念している人もいる。だから、僕が確かめに来た」
「それはそれは。天下の魔法戦士殿に目をつけていただいて光栄の至り、と言いたいところだが・・・・・・」

 祐漸は大剣を持ち上げると、切っ先を魔法戦士の方へ向ける。

「気に入らんな。それは上からものを見ている奴の言い草だ」

 眼前の魔法戦士が大した実力者であることは肌で感じ取れる。
 しかしそんな相手だからとて、格下扱いをされるのは心外だった。

「見たところ、あなたは強化兵ではない。けれど一般兵十数人では敵わない、となると、突然変異・・・ミュータントでしょう」

 ミュータント。
 魔法科学が発達し始めた頃から、何かの拍子で普通の人間の中に、突然変異したような存在が生まれる事例がいくつも確認されていた。生まれつき高い身体能力や、何らかの特殊能力を有する彼らは、一時期世間を騒がせた。
 強化兵は元々、これらミュータントの存在にヒントを得て生み出された技術だった。
 それから時を経て、ルベリアが誇る強化技術によって生まれた強化兵は、自然発生するミュータントを遥かに凌ぐ能力を有するようになり、今となってはミュータントの存在はさほど重要視されていなかった。
 魔法戦士にとってはミュータントも、一般兵よりは多少強いがただそれだけ、という程度のものなのだ。
 強化兵に対抗できるのは強化兵のみ。彼が祐漸を格下と見るのも無理からぬ話ではあった。

「さぁな。知り合いに言わせれば、俺にはミュータントらしい特徴が見当たらないんだと。俺としても、俺が何者かなんてことに興味はない」
「なら少々腕っ節が強いただの人間ですか。尚更話になりませんね。大人しく投降するなら、命の保証はしますよ」
「上からものを見るなと言ったはずだぞ、小僧」

 落ち着き払った表情は大人びて見えるが、この魔法戦士の顔立ちにはまだ少年と呼んでも差し支えない幼さが残っていた。
 おそらく十六、七といったところだろう。二十一になる祐漸からすればまだ大分若い。
 少年戦士の眼には、自らが得た力こそが最上のものと信じて疑わない強い心が映っていた。
 それ自体は好ましさを覚えるものだったが、まだ世の中というものをわかっていない若さには、教育が必要に思えた。

「現実を見た方が身のためですよ?」
「おまえは、井の中の蛙という言葉を覚えた方がいいな」

 相手に向けていた切っ先を振り上げ、剣を肩に担ぐようにして持った祐漸は、左手で挑発するように手招きをしてみせた。

「来い。どっちの格が上なのかを教えてやる」
「どうやら、これ以上の言葉は無意味はようですね」

 魔法戦士の少年も剣を構える。
 どちらもすぐにでも攻撃できる体勢だった。
 距離は少しあるが、どちらも達人であるならば、既に間合いの内と言って良い。

「帝国軍、特殊戦術部所属・第八位、ラーク・スウォード・・・参る」
「ほう、噂に名高い帝国の“ナイツ”か・・・なるほどな。俺は祐漸。よく覚えておいて、帰ったら他の奴に伝えてやることだ」

 互いに名乗ると、一気に空気の緊張感が増した。
 まさに一触即発。激闘の開始を予感させられた。









 アークタウン上空。
 夜空に浮かぶ星々の輝きは、この地においては淡いものとなり果てる。
 ハイアータウン。この地上全ての華やかなるものを集めた天に最も近きこの街が放つ輝きは、陽が沈んだ後にこそその強さを増す。夜の闇を全て照らし尽くさんばかりの眩い灯りが、さながら地上に浮かぶ星空のように、本当の星空の輝きを眩ませる。
 そんな星空すら霞む空から、一条の光が地上に向けて降り注いだ。
 一瞬の流れ星のような光は、ハイアータウンの一角へと垂直に落下した。
 落ちた先には、帝国軍の軍事施設があった。
 突如飛来したこの光の落下が、始まりを告げる狼煙だったのかもしれない。
 これ以降、“何か”が水面下で蠢き始めた。
 その意味を知る者は、この時点では誰一人としていなかった。



















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あとがき
 始まりましたオリジナル版のデモン。一次創作になったとはいえ、基本的な流れは過去に書いたデモンシリーズから続いているものなため、書く際に特別に真新しい感じはない。登場するキャラクター達も、大半は過去に書いた話に一度は登場したことのあるオリジナルキャラクターだったりする。いわばこの話は、平安京オリジナルキャラクターによるオールスターなのだ。だから主役も祐漸である。
 ものを知っていればすぐに気付くと思われるが、この話の世界観は某大作RPGのZを参考にして構築されている。ちょうど書き始めた時期がクライシスコアの発売日に近かったこともあり(といってもクライシスコア自体はやってないのだが)、またあのゲームの序盤のストーリーが特に好きということもあり、物語の出だし部分はある程度真似させてもらうことにした。もちろん、細部に関しては私独自の設定が盛り込まれている。

 連載開始に先立って掲載した登場人物紹介に載っている五人が、旧シリーズの五人組に対応していることは、デモンシリーズをずっと呼んでくれている方々にはおわかりのことと思われる。
 祐漸はおなじみのキャラだが、過去シリーズに出てくる同名の人物とはわりと違う部分も多い。旧シリーズにおける祐一と豹雨、それに真シリーズの祐漸、それぞれの特徴を少しずつ受け継いで新たに生まれた主人公が今作の祐漸なのである。といっても基本コンセプトである、最強を志す男、という点はこれまでと変わらない。組織に属さないアウトローな生き方をする人間という面もあり、『サムライディーパーKYO』の“狂”、『ゲットバッカーズ』の“蛮”、『ブラックキャット』の“トレイン”、『リアルバウトハイスクール』の“南雲慶一郎”、さらには『花の慶次』の“前田慶次”などがモチーフとなっている。
 ラークはポジション的には旧シリーズの祐一の位置にいるが、キャラ的にはまったくの別物と言ってよい。今までのデモンシリーズにはあまりいなかった、本来なら ファンタジーものではどっちかというと主役になりそうなタイプである。イメージとしては、『テイルズ・オブ・ファンタジア』の“クレス”とか、ちょっと違うけど『コードギアス』の“スザク”とかが近い。この話では祐漸の方が主役なので、秩序を守る側の人間として、アウトローな祐漸のライバルという位置付けにある。