TOP 椿の話




私は椿が大好きである。

花苑の庭にも十種類くらいはあると思う。特別に「椿」のコレクターと言うことではないので、なんやかやの折に増えてきたものである。園芸の本などを見ると多種多様の椿の写真に目を見張ってしまう。世界中に愛好者がいて交配によってつぎつぎと新種を生み出しているので、2000種とも3000種とも言われているようである。

今回、椿文の初期伊万里を展示するに当たって「椿」についていろいろ調べてみたら、大変興味深いことが多々あったので椿の話をしたいと思います。

「椿」は元々日本古来の花木であって、古代から日本人には馴染み深い樹木であったようである。当時はむろん現在のように多様な種類があったわけではなく、「籔椿」と北陸地方の「雪椿」だけだったようである。
「古事記」には「都波岐」、「日本書紀」では「海石榴」と記されていて、椿油や染料などの有用樹としての記述があるようである。

現在の「椿」という文字は「万葉集」に初めて登場する。
この文字は日本で作られた文字で「つばき」を指すが、元々中国にあった「椿」の文字は「つばき」とは別の植物を指すとのことであります。
当時「椿」という文字は伝来していなくて、春に先がけて開花する「つばき」にまことに日本人らしい感覚でこの偏角を組み合わせて充てたのでありましょう。

更に、万葉集で興味深いことは、同じ在来花木の「桜」や「萩」を詠みこんだ歌の数に比較して、「椿」は非常に少ないということである。このことは前述したように、有用樹としての認識が主であって、花を愛でる花木としての認識が希薄であったことを示しているとのことです。また照りの強い肉厚の常緑樹で厳寒の季節に開花し、樹枝や木質が強靭であることから、「破邪長寿」すなわち魔除け・厄除けとしての宗教的認識が強かったようである。
現に万葉以降しばらくの間、観賞用の花木としては表舞台に立つことはなく、専ら益木として供されていたようである。
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