X 欲を貪る



                 欲に頂き無して
           欲心は其極る事を知らず
                 (米沢本沙石集)



前口上

世の中お金が一番と
誰もが思っているくせに
まじめにそれ言うと
品性疑わしい奴と煙たがられる。
お金より大事なもの何と尋ねて
「人の心」とか「人との和」を言う人に限って
ちゃっかり大金稼いでいる。
いずれにしても資本主義の世の中
自分がお金を稼ぐことで
社会や人のためになると思える人と
社会や人のために働くことで
金を稼ぐことになると思う人との
建前上の葛藤が繰り返されている。
「今」はそれで持ちこたえられているのである。

@

欲持ち金稼ぐことが
人の道に外れたことではないと
公認された世の中になって
いわゆる欲なく頭が切れた賢い人たちまで
欲満たすために才覚使い出した。
おかげで賢い人たちは
地位や名誉を得て権力者となったが
厄介なのは
彼らがいつも世の中、人のためと言いつつ
我欲満たす才覚まで身につけてしまったことだ。
賢い人が巧言令色の輩に成り下がり
清廉潔白の仮面の下で
貪欲のかけらもないふりして
金儲けすることほど見苦しいものはない。

A

株買うことで
企業の経営権を握るという
資本主義社会の当たり前のことが
日本でも殊更に取りざたされるようになった。
攻める側には攻める側の理屈あり
守る側には守る側の理屈あって
欲惚けしてないと言いたいのだろうが
元々商売して生きていくという才覚の
とんとない人間には
そんな理屈はどうでもよいこと。
企業をマネーゲームの対象にすると
これまで日本企業を支えてきた
従業員も家族とする古き良き習慣までも
切り捨てる経営者ますます増えていくだろう。

B

資本主義社会に住んではいても
何がどうなって
「ホリエモン事件」が起こったのか
部外者にはうかがい知れぬこと。
今回のこの問題
株なるものを一度も買ったことがない人だけは
ワイドショウを楽しんだが
裏でどうなっていたかはさっぱりわからない。
結局ホリエモンは負け
被告になり落ち着いたが
株買った人は損したと訴えた。
第三者は検察やマスコミの言うことを鵜呑みにした。
そんな状態の続く中で
資本主義社会とは何かを改めて考えさせられる。

C

株価が暴落し
今やバブル崩壊期以上の危機的状況とも。
みんながあまりに奨めるので
私もつい株買ったしまったが
半値以下の下落に茫然自失。
株とはそんなものとあきらめたのは
退職金の1割しか使わなかったからなのか。
それにしても相変わらず
自分に責任がないかのように言うのは
人間の、日本人のお偉方の、そして日本の下々の本質。
損得承知の資本主義の世の中でも
安全な日本の中の出来事だから
命の危険さえなければ
よしとしなければならないか。

D

かつて10年間預ければ
2倍近い資産になるという時代の人間にとれば
0%に近い金利しか生まない今を見れば
「こんなの、あり?」
この間に失われた金利はどこに行ったのか。
時代の所為とあきらめていいことなのか
無能な政治家の所為と咎めるべきなのか。
自己中と成り下がった役人に怒るべきなのか。
もはや現役でもない人間からすれば
とにかく日本という国は
何をされてもじっと我慢の庶民と
その庶民の納める税金を食い物にして
私欲満たす
そんなエリートに満ちあふれている。

E

かつていざなぎ景気を越える景気といわれた時
銀行を初め大企業の好調示す姿が
マスコミ通じて発表されていた。
しかし庶民の給料は前より減っていた。
なんか魔法にかかったみたいだった。
給料下がっていても
企業が儲かっておれば景気がよく
それが後々庶民に及んでいくのだと
経済や政治やマスコミで
いい目をしている人は
言っていたように記憶するが
それに理屈つけられ納得させられて
現状に慣れ親んでいったのも
日本の庶民のいつものパターンだった。

F

一部の企業の儲けぶりが喧伝され
いざなぎ以上の好景気と言われている。
だのに庶民にちっとも反映されていない実情を
一体全体どう見るか。
企業だけの好景気と言われるのも
経済成長著しい東南アジア諸国相手の
商売で儲けたからでしかない。
戦前には満州、朝鮮、台湾の各地域で儲け
戦後しばらくは先進国相手の商売で儲け
今は発展途上国の経済成長のおかげで儲けている。
だのに庶民にはそのおこぼれわずかでしかない。
そしてそのつけだけは後で大いに払わせられる。
それは無為無策の政治家と称する人たちのせいなのか。
それとも庶民の不徳のいたすところなのか。

G

申し訳ありませんと
例によって数人が並んで頭を下げる企業責任者は
その実ちっとも謝っていない。
ゆとり教育を推進し
日本の教育レベルを低下させた文科省のお役人は
小理屈並べて謝り認めようとはしない。
口では天下国家を論じる議員さん達は
自分たちが最も既得権の恩恵を受けていることに
ちっとも恥や罪の意識を感じようとはしない。
それを事実として報道するメディアも
のぞき趣味の域を出ない。
結局それは日本の常識なんだからと
つい許してしまう癖ある国民の姿勢に
すべての原因があるような気がする。

H

企業は大いに儲かっていたという数年前
庶民の生活それでよくなったとは感じられなかった。
遙か昔の労働組合員の感覚からは
儲かった分を労働者にも回せと厳しく迫るところ。
が、今の労働組合はそれほど文句を言わなかった。
そして起こったのがアメリカが原因の世界経済不況。
企業は生き残るためとして非正規雇用者の首切った。
非正規雇用者の存在は企業が儲かった要因の一つ。
非正規雇用者は諸権利を持たない労働者。
その上正規雇用者からも差別されていた。
百年に一度という不景気に
非正規雇用者は大量首切られた。
この時も今の労働組合はわが身の保身に走った。
日本の企業のよき古き伝統はこれでなくなった。

I

多数に隠れて利を得たがるのは日本人の性。
「便乗」という言葉にそれが一番示された。
その言葉は次第に多様化され悪質化した。
「便乗値上げ」は商売人のやりたがる悪しき行為。
「便乗リストラ」は働く人の首切りに都合よく使われ
日本的的経営の良さをも否定する背徳行為となった。
たっぶり内部留保した一流企業までもがやりだしたからだ。
少なくとも彼らが日本を経済大国にしてきたのは事実だ。
同時に働く人を家族のように思い
経営的に困ればまず働く人を守ろうとしたのも事実だ。
「便乗リストラ」したなら
彼らのいう「社会的貢献」の美辞麗句は
所詮メッキの剥げた物言いでしかない。
グローバリズムの悪しき洗礼を受けた報いである。

J

今や第四の権力と言われるマスコミ。
権力持って増長したか
やることなすこと何か杜撰でいい加減。
松本サリン事件で反省したのかと思ったが
権力側の言うこと鵜呑みにし精査もせずに
正義者振っては情報垂れ流す癖は直っていない。
間違っても誤らないない今の公僕まがいに
誤りに対する訂正記事は
ほんの2,3行ですませるし
テレビの画面でも事を仰々しく伝えながら
直ぐ後で「お詫びして訂正します」とこともなげに言う
その回数も多くなってきている。
戦後教育受けた今の現役のごく普通の所作と思うが
リタイヤ組には何かしっくり来ない思いである。

K

昔お年寄りの医療費が無料であった時期があった。
現役の勤め人も無料だった。
だから日本では安心して年がとれると思っていた。
いつしか一割とられ三割とられるようになった。
無料だと病院は年寄りのたまり場になり
肝心の病人が迷惑被るようになるとか
健保も赤字になるとか言うのが
今の厚労省の言い分だった。
その間国民が積み立てた金を無駄使いするは
年金管理では犯罪的なまでにずさんだったりで
安心して年がとれなくなった。
経済大国を自慢する割には
福祉三流国であるを恥じないのは
欲惚け自己中はびこる日本に住んでいるからだろう。

L

お盆の季節がすんで考えてみた。
母親が亡くなっての初盆と言うことで
村人の行う盂蘭盆会の催しに喪主として参加した。
まだ都会人の心残し事情わからぬまま右往左往したが
おかげで村人の心も少しはわかってきた。
この盂蘭盆会の催しには色々考えさせられた。
村の非合理とも言える伝統文化を守ることと
すべてを損得勘定で考えていくことを
合理的と考えることとの奇妙な葛藤のある中で
仏事は葬式仏教の弊害いちじるしくなり
祭事はイベント化し仏教の心から離れていく。
定年迎え欲の世界から解放されて
過疎化著しい故郷で第二の人生始めても
別な欲貪らわねば生きていけないわが日本であった。

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