参之巻 見知らぬ国に学ぶ人





                             三つとせー
                             見知らぬ国とて国は国
                             国は国
                             同じ国なら気にかかる
                             気にかかる




 口上

人類皆兄弟とおめいても
兄弟は他人のはじまりとやり返される。
一人は万民のためにとわめいても
万民は一人のためにと切りかえされる。
どうも人間という生き物は
どんなに近しい仲でも
他人なのだと言え
どんなに見知らぬ人でも
同胞なのだと言えるらしい。
それでいてこれ又いつも人間は
己には敏感で
他人には鈍感なのかと言うと
そうでもないところが面白い。
だからこそ見知らぬ国まで気になるのだろう。



 フロンティア精神は昂揚した

フロンティア精神ばねにして
内部固めたアメリカが
20世紀に鎌首あげた。
持てる資源を武器にして
第一次大戦で優位に立って
大恐慌を乗り切って
第二次世界大戦に勝利した。
それから後のアメリカは
「自由」を守るはわれだけと
妖怪退治を買って出て
冷戦舞台をリードした。
ところが妖怪ひとりでずっこけて
ともあれ「自由」と「正義」のメンツを立てて
星条旗世界各地に翻えした。



 パクス・アメリカーナは席巻する

パクス・ロマーナともてはやされた
ローマ帝国の残影は
二千年の年月を経た18・9世紀に
パクス・ブリタニカを冠する
大英帝国に生きた。
20世紀になって
そのご威光がかげりだすや
継承者は我とばかりに
鬼子たちの築いたアメリカ合衆国が
自由と正義の名のもとに
ありとあらゆる見知らぬ国に
己の自由と正義を押しつけた。
かくてパクス・アメリカーナの名のもとに
20世紀は「戦争」の世紀になっていた。



 アメリカの傘は開く

数世紀前のスペインのように
2、3世紀前のイギリスのように
20世紀ではアメリカが羽ばたいた。
産業時代の行き着く先は我とばかりに
自由の旗振りに固執し
その都度敵対する勢力を
ドイツを、日本を、そしてソビエトを
結局は己の手の内におさめてしまった。
国際連盟を提唱しておいて加入しなかったり
国際連合を私物化したり
核不拡散条約を提唱しながら批准しなかったり
どう考えてもおかしな振る舞いをしていても
世界の主導権を失わないのは
パクス・アメリカーナの傘が開いているからだった。



 アメリカは銃国家として生きる

19世紀の前半、西へと向かったアメリカ人の姿は
20世紀の後半、スクリーンを席巻した。
ピストル腰にぶら下げたヒーローの
正義の抜き撃ちは
たとえ人を殺しても許された。
その伝統は20世紀の終わった今も
銃国家として生きていた。
そのアメリカの姿に魅せられたエトランジェが
ピストル家に常備するアメリカ人の
正義の狙い撃ちによって
若い命を失っても
それが正義のための狙い撃ちだということを
陪審員が認めた時
期せずして拍手が起こるアメリカだった。



 アメリカが気にかかる

アメリカとはどんな国?
ヨーロッパの落ちこぼれによって築かれた国。
そのヨーロッパの影を引きずって
先住民を殺し
アフリカの民を牛なみに扱った国。
資本主義経済に固執し
共産主義国家に反対した国。
パクス・アメリカーナを標榜し
世界の憲兵として派兵した国。
アメリカンドリームを掲げ
経済大国として世界に君臨した国。
自由という名のイデオロギーに縛られたこの国が
20世紀のソビエト連邦のように
21世紀に解体される光景が見られるのだろうか。



 一つの国造り実験はなされた

ソビエト社会主義共和国連邦。
よきにつけ悪しきにつけ
20世紀はこの国を抜きにしても語りえない。
夢を託したと言うもよし。
悪夢を見たと言うもよし。
歴史に参画したと言うもよし。
歴史に巻き込まれたと言うもよし。
20世紀の初め頃に生まれ
歴史の確かな手応えを人に感じさせて
20世紀の終わり頃につゆと消えた。
その間にあって
何千万という人間が生きる糧を得
何千万という人間が生きる糧を失った。
人類まれにみる国造りの実験をしたのだった。



 ソビエトが転んだ

ソビエトとアメリカの人ならば
20世紀はソビエトとアメリカがリードしたと言う。
ソビエトとアメリカ以外の人ならば
20世紀はソビエトとアメリカに振り回されたと言う。
世界に点在する人と民族と文化とを
共産主義というイデオロギーによって
自由主義というイデオロギーによって
赤に塗りつぶしたり
白に染み抜きしたりして
共に固有の世界制覇を試みた。
そのソビエトが転んで亡霊に戻り
そのアメリカが生き残ってしまったので
自由主義という名のイデオロギーに縛られながら
21世紀は仕切られることにあいなった。



 中国は変貌する

清朝国家がよどんでからは
欲望たぎる外国の草刈り場となった中国。
20世紀になって国の仕組みを変えては見ても
やはり飽くなき外国の草刈り場であった。
ついには極東の憲兵を自称する日本にまで
傀儡政権を抱え込まされるにいたって
民の怒りは一つになって
日本と戦い勝利して
揺るぎなき中華人民共和国が誕生した。
広大な面積と幾つもの民族がマオイズムに統合され
内や外やの試練でほころびを見せつつも
20世紀が終わった時には
市場経済的社会主義国家という鎧をまとった
世界から畏れられる国へと変貌した。



 民は流浪する

水は低きに流れる如く
人は高きに流れるものか。
人が古里離れるのも
よりよく生きるの思いのため。
人が都市に集まるのも
よりよく生きるの思いのため。
人が故国を離れるのも
よりよく生きるの思いのため。
飢えや貧しさや暴力が人の社会の癌故に
言うもつらい歴史を胸に秘め
自由と幸せを求めて
人はあらゆる世界にでも生きようともがいた。
見知らぬ世界の狭間を流浪する民が
やっぱり20世紀にも多くいた。



 人は楽して暮らす

自分の国の中でさえ
時間かけ足を運ばなければならなかったのが
容易に行き来できるようになり
容易に見聞きできるようになり
容易に暮らせるようになった。
その上世界を股にかけてまで
容易に行き来できるようになり
容易に見聞きできるようになり
容易に暮らせるようになった。
さらにさらにその上に
居ながらにして容易に行き来できるようになり
居ながらにして容易に見聞きできるようになり
居ながらにして容易に暮らせるようになった。
それでも未来を語る人の絶えなかったのも20世紀だった。



 英語は世界を制覇する

ブリテン島以外にも
ユニオンジャックの旗がひるがえり
英語圏は広まっていた。
合衆国以外にも
星条旗が掲げられるようになってから
ポストコロニアリズムはグローバリズムへと引き継がれ
英語圏はさらに広まった。
便利さだけの共通語を志したエスペラント語は
蹴散らされ
英語は世界語と化し
英語をセットのバイリンガルは二十世紀の常識となった。
アメリカ合衆国の庇護の下
十年間も英語教育施された日本人は
通じもしない和製英語を作るのが精一杯だった。



 日米関係を見る

黒船来てから百五十年
よきにつけ悪しきにつけて
日米間は腐れ縁だった。
和親条約、修好条約、通商航海条約を経て
ワシントンに桜が咲いたのが百年前。
排日移民法と満州事変が契機となって
日米は戦争もしたが
決着がついたのが五十年前。
後は安全保障条約のもと
ノーと言えないままに経済大国となった日本と
沖縄を基地に世界制覇したアメリカは
「よき」パートナーとして
戦争遂行のための指針を結んで
21世紀への縁を保った。

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