祷屋制度について


(御座学教室より)このページでは、御座で廃れていった風習の一つである「祷屋制度」について、考えています。といっても、御座神社所蔵の「神酒特配に関する特殊神事」の文献を紹介するだけです。この文献は旧仮名遣いで書かれています。書かれた日付はありませんが、文面からは明治期ではないかと推察されます。尚、UPするに当たっては、現代語訳してあります。

 当村には宝永(注:1704-1711)年間より祷屋と称するものがあって、大祷と小祷の別がある。大祷は村創立当時の氏子で、本家株と称し、三十一戸より成り立っている。小祷はその後に増加した新家であって、隠居株と称する。本家株三十一戸を除き、他は全部小祷である。毎年、大祷一人、小祷一人を以て当番と定め、神社大小の祭祀に奉仕している。大祷人は、毎朝、未明に海水で無垢を取り、帰途に神社参拝するのである。
 毎月一日及び十五日その他祝祭日には、大小祷人は時役人等を打ち連れて参拝する。その際、神饌物を大祷宅において調理し、ユリと称する箱○に入れる。それを小祷人の妻が頭上に戴いて同行するのである。。第二鳥居付近において、先ず大祷人が大声にてオーイヨイヨーと言う。続いて小祷人以下参列者一同がこれに答えてオーと三回繰り返す。下参の時も又同じようにする。
 小祷人は主として境内外の清掃及び常夜灯に従事する。大祷人は毎朝無垢を取り行う時には、携行の手桶に海水を入れ、帰り、自宅へ備えて置く。村内に出産人がある時には、その都度、産家より家族又は親族の一人が茶碗及び金一銭(昔は一厘又は文久銭一個)を持参し、その海水を少量受けて帰り、産家内外を浄め、又洗い物(産婦出産時に使用の腰巻きその他)に行く。その人員は二人で、一人は嫁方の、もう一人は婿方の重縁の婦人である。村はずれに一定の洗い場があり、(七日の内、三日行い、第四日を中洗いと言う。三回共二人宛交代)道中を海水にて浄めながら、行進するのである。道路は村内を避け、一定の野道を往復する。
 又、祷人は火を尊び、他家では一切食事を行わない。煙草のようなものも携行のマッチを用いる。
 又、村内に死亡者ある時は、必ず、死家より、葬式当日、朝食を終了してから、小祷人は直ちに第一鳥居へ幕を張り、葬儀終了後、これを撤収する。小祷人宅は早速人替えを行う。朝食前に通知に接すれば、火替えを行う為、更に飯を焚きなおす為、食事後に知らせる。
 尚、古来村内に死人ある時は(村全体)交際親族の厚薄により、その都度、香奠を出すことになっているが、当番祷人は、その一ヶ年中は、それを遠慮し、祷渡し(申し送り)終了後に一ヶ年中の香奠を支出する習慣がある。
 毎年旧十一月二十八日には、新祷大小共家庭において御棚釣りの行事がある。当日、忌竹にて棚を組み合わせ、その神棚の付近へ釣り、一年中、朝夕、御饌御酒を御供えする。御棚には大麻及び神符を奉斉する。察するに自宅より産土神を祭祀するであろう。当夜は重縁及び知己を招き、赤飯にてお祝いを行う。 祷屋祭は毎年十二月一日取り行い、村内各戸一名ずつを大祷人宅へ招待する。祷人宅は家屋の広狭の別なく、座敷口へ桟敷を設備する。その年の忌中の氏子に対しては小祷人宅へ招待する。これを忌人座敷と言う。
 又、祷屋の魚取りと称し、約一週間前より親族知己多数参集の上、昼夜の別なく所要の魚獲を行う。その間祷屋より焚き炊き出しを行う。その他一般漁業者にあっても海鱒その他雑魚を進んで献納する慣例がある。
 祷屋渡しの式には鱒二尾を要することになっている。(一尾は大祷宅、二尾は忌人座敷用として)御酒は濁り酒を醸造してきたが、明治三十年頃、酒造法規制定の為廃止とする。祷屋祭前後約十日間は、当番大小祷人及び親族、又従弟の末に至る迄、手伝い人として奉仕する。知己も又同じようにする。
 当月は盛大なる振る舞いがある。引き出物として鰹節又はコノシロ、サンマ等二尾ずつ膳先へ供する。祷屋祭における米の使用料は八俵以上十二俵以下を必要としている。これの諸経費は祷屋基金の利子を充当し、不足額数百円は当番大小祷人が折半して負担してきたのであるが、近年は諸物価の騰貴のため、往古の制を失い、当番日、大祷人全部と新旧小祷人打ち集い、神社において祭典を行い、終了後、当番大祷宅において直ぐ会食を戴き、次年度祷人へ引き渡しの式に行う本経費は基金利子(注4)及び大祷人全部の醵金と米を持ち寄り、不足額数百円は当番大小祷人で折半して支弁している。又、当日は氏子全部へ御供え餅一重ずつを配る。
 明治四十年頃までは祷屋渡しの式には時役人及び大祷屋人全員と招待中の氏子参列の上、盛大に取り行い、最後に四海皮を合唱して式を終了する。祷屋の備品については、宝永年間より今に至る各年次の当番大小祷人名簿、膳、刳盆、(金の)真名箸、包丁など現存するものを申し送りする。
 当番服務中に、血縁に死者ある場合は即時当番を辞退し、更に次の大祷人に引き続きする。新大祷人となった人も、全村の小祷人中より意中の者を推薦する。多くは親族知己を選ぶことを通例としている。 

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