作
大きいおばさん
小さいおばさん
オッス!おいら野良猫。「片目のギャング」てんだ。え、暗黒街のマフィアかって?ちがう、ちがう、ヘン、そんな大物じゃねぇ。まぁ、お昼のサンマの干物をちょいと失敬する程度のこそ泥てぇとこよ。だけどさぁ、今は三度のおまんまには不自由してねぇ。ほら、たばこ屋の横の、そうそう、イチゴ鼻のじいさんとこ。おいら、ずっと野良してるだろう。そりゃ語りつくせねぇ苦労もたんとしたさ。なんてたってガキがいけねぇ。しっぽを持ってぶら下げるわ、棒で追っかけ回すわ、もうひでえのなんのたらありゃしねぇ。オバタリアンもよくねぇ。箒でぶたれたり、水ぶっかけられたり。人間不信もいいとこさ。ほら、今年の二月。そう大雪の日。あんまり寒いしひもじいので、ちょっくらイチゴ鼻とこのぞいたわけよ。そう、そしたらばあさんに見つかったと思いねぇ。あっあぶねえと身構えた途端、このばあちゃん何と言ったとおもう?
「あら、ノラチャン。いらっしゃい。見かけない顔ね。」
だとよ。ヘン、その上煮干しまで出してくれたのよ。もうほんと、信じられなかったぜ。それ以来ずっと世話になってるわけよ。あそこには、三毛の親子がいるだろうって?いるのなんのって、とにかく親子揃って意地が悪い。特に娘の方がいけねぇ。ブスのくせしてやけにすましてやがる。おいらの姿を見かけると、もうギャアギャア、フーフーおちおち飯も食ってられねぇ。それにあいつら、贅沢だなんのって、ほらキャットフードとかいう缶詰の、そういい臭いのするやつ、あれを残しやがんの。ヘン、お陰でおいらそれをいただくわけよ。煮干しはどうも歯に刺さっていけねぇ。ここんとこ、おいらが行くと、おいらの為に新しい缶を開けてくれるのよ。ほんと、いいじいちゃんとばあちゃんだぜ。あそこにゃ、ちょくちょく孫娘が現れるのさ。おいらの顔を見て
『あら、この野良、上目遣いをしてギャングみたい。おまけに片目だわ。』
それからよ。“片目のギャング”って名。おいらそれ迄片目だなんてぜんぜん知らなかったのよ。おいら自分でもすばしっこくって運神のいい方だと思うのに、なんでか塀から飛び降りたりする時いつも着地に失敗するわけ。片目のせいだったんだな。それにしても、立派なお住まいだって?ヘン、あたりまえよ。最高さ。ここは、イチゴ鼻よりもっと前だわさ。半年になるかな。人気がないと戸の隙間から入ってみたら、空家よ。チョベリグーよ。おまけにほら、こんなソファまであってさぁ。言う事なしさ。夜なんぞネズミやゴキブリがぞろぞろ出やがんの。食うのかって?ヘン、今はそんなまずい物食わねぇ。こいつら追っかけ回すのが面白くってよ。退屈しねぇ。さあて、もう一眠りすっか。ヤァ!今のは何だ!雷様か!地震か!天が落ちたか!アッ、いてっ!天井からボロボロ落ちてきやがる。何だ!何だ!助けてくれ!
―――さあ、大変です。「片目のギャング」のお宿、古ビルの解体作業が始まったのです。今にもポツポツ来そうな、曇よりとした梅雨空の朝の事でした。
片目のギャングは古ビルから飛び出すと、町の中を当てもなくさまよい始めました。
「ここんとこあっちこっちで家のとりこわしばかりだ。一体どうなってるんだ、町中埃だらけじゃないか。パワーショベルってやつかい、あのでっかいカマキリみたいなの、わんわんうるさくって昼寝も出来やしない。今夜は雨が降りそうだし、とにかく今日の所はあの年寄り夫婦の所にやっかいになるかな。腹も減ってきたしな。あれ、ばあさんはどこだ?」
イチゴ鼻のじいさん、いえ、仕立屋のシンゾウさんと奥さんのキクさんは五十年以上前からこの町で小さな店をだしていました。通りに面したウインドウには衿の所がまだ完成していない紳士服を着たマネキンが飾ってあります。よく磨かれた入口のガラス戸には『秋山テーラー』と金文字で書かれています。「片目のギャング」は半分開いたガラス戸から店の中をうかがいました。いつも奥の作業台で仕事をしているイチゴ鼻のじいさんの姿もありません。
「おかしいな、戸を開けたまんまで、不用心じゃないか。三毛の親子は、っと。いないらしいな。ちょっとゴメンよ。」
片目は土間からヒョイと飛び上がって、作業台のある板張りの床に上がり、シンゾウさんの座布団の上に丸くなって居眠りのつづきをはじめました。
「ばあさん、うちもそろそろかなあ。」
「いやですよ、私は。この店、まだまだ大丈夫です。ビルにしてしまうなんて私は反対。」
仕立屋のシンゾウさんと奥さんのキクさんが話しながら店に戻ってきました。なにやら言い合いを始めているようです。
「と言ってもなあ、ばあさん。うちだけ反対するって訳にはいかないだろ。この一角のみんなが賛成しちまったんだから。クリーニング屋のリョウさんも、酒屋のイスケさんもハンコ押したっていっているんだし。」
「リョウさんもイスケさんももう息子さんがやってるんだもの。若い人がいればビルにするのも良いでしょうよ。でもうちはね、あんたと私で終わりなのよ。今からビルなんて、誰が残りの借金払うんですか。」
シンゾウさんがサンダルを脱いでフロアに上がりました。
「おや、片目じゃないか。おいおいそこはわしの席だぞ。」
座布団の上で丸くなっている片目を見てシンゾウさんが笑いながらいいました。
「あら、片目のノラちゃん。いらっしゃい。あ、そうだわ。あそこのビル、壊しているから、いるところがなくなったんでしょ。かわいそうに。待っといで、ツナ缶開けてあげるわ。」
キクさんが片目の背中を撫でて奥に入っていきました。
「あら、何よ!この、片目。いけずうずうしい。母さんの席に座って!」
片目のギャングは、満腹になってシンゾウさんの座布団に長くなっていると、けたたましい叫び声に飛び起きました。三毛の親子が帰って来たのです。そこは、どうやら母猫の居場所だったらしいのです。
「せっかくいい気持ちで寝てるのに、そっちこそ何だ!ヘン、おいらイチゴ鼻とキクばあさんに、ちゃーんと認められたんだぞ。文句あっか!」
「うそ、うそ。母さんどうしよう。私、こんな下品なやつと、いっしょに暮らすのまっぴらよ!」
「まあまあ、タマ。落ち着きなさい。今日の寄り合いの話が本当なら、私らも夏が終ったら、同じノラの身よ。それより対策練らなくっちゃ。とにかく、ギャング。そこだけはどいとくれ。私の席だから。」
「あー、もう、いやいや!ちょっと、キクばあちゃんの布団は私のだからね。近づかないでちょうだい。」
「あっ。そうだ。明日の寄り合いには、お前も出とくれ。」
のそのそと退散しようとする片目の背に、母猫のブチが声をかけました。
「何だ。何だ。せっかく新しいねぐらに、うまく入れたと思ったのに、何だ。又、ノラするだと。まあ、今夜はひとまず寝るとすっか。明日になりゃあ詳しいことわからぁ。」
片目はようやく見つけた階段下の古いケットに身を沈めました。
「よう、ちょっと、ちょっと。タマちゃん。あっちの真ん中にど座った、薄汚ねぇジジイ。あいつは何だ。えらそうに。」
「何よ。なれなれしい。タマちゃん、は止めてよ。あれは、ハイエナ。酒屋の隠居。この町内の主よ。その横が息子のクロティ。こっちが花屋のミーミ。やあね。そんなやに下がった目付きして。私の方が美形よ。」
「ちょっと、シーッ。みなさん、今度家に来たギャング。よろしくね。」
ここは、酒屋の物置です。お酒やお醤油の香がほのかに漂う中、みんな思い思いの木箱に乗り、この界隈の猫の寄り合いが始まりました。ブチが片目を紹介しました。
「さて、皆の衆。昨日も話した通り、ビルになりゃわしらみんなノラだ。さてと、どうしたもんかね。」
まず、ハイエナが口火を切ります。
「僕は、二つ方法があると思うんだ。ビルを止めさせるか。新しい家を捜すかだ。」
クロティが得意げに言いました。
「そんな事、あったりまえでしょ。それをどうするかでしょう。」
ミーミが甲高い声で問い返します。みんなちょっと、イライラしてます。
「仕立屋のシンゾウさんもキクさんもビルにはしたくないのよ。なんとかビルにするのをやめさせられないもんかしらね。」
母猫のブチがため息混じりに言いました。
「そいつは難しいね。だってほとんどの住人がビル建設を承諾したって言うから。もう時間の問題さね。」
クロティがしたり顔で続けます。ヒョイとビールケースの一番上にのって、
「ビルだって、悪くはないさ。俺は平気だね。冬だって結構暖かいし、何より犬が入ってこないのがいい。」
ミーミがジグザグに飛んでビールケースを伝って、最後に大きく飛び上がってぴたりとクロディの横に身体を寄せました。
「馬鹿ね、クロティは。猫だって飼うのは禁止されちゃうのよ。あたしの飼い主はきっとあたしを親戚の人に預けちゃうわ。そうなったら私たちはもう会えないかも知れないでしょ。」
クロティをにらみつけて、ミーミの背中の毛がサーッと立ちました。クロティがあわてて首を引っ込めました。
なかなか良い考えが浮かびません。みんなはそれぞれにため息をつきました。するとそれまで黙って聞いていた片目がおもむろに口を開きました。
「古い手だが、やってみる価値はある。どうだい、みんな。」
一座がざわめきました。ハイエナがみんなを鎮めて片目に訊ねました。
「一体どんな手かね。」
片目はみんなの前に出て、言いました。
「化け猫になるのさ。ビルの建設に賛成している人間の所に化け猫になって出て脅かしてやるんだ。夜一人で寝ている時をねらってね。このあたりは結構建て込んできて近代的になっちゃいるけど、昔は化け猫の怪談で有名な所だったんだ。ねえ、ハイエナ。そうだろ?」
ハイエナがちょっとびっくりした様子を見せましたが、
「確かにそうだ。このあたりは昔お掘があって、堀のそばの武家屋敷は猫にまつわる恐ろしい話が伝わっている。シンゾウさんやキクさんだってもちろん知っている話だ。」
「それだ。その話を再現してやるのさ。そしてその噂が近所に広がったら、みんな自分の家を壊してビルにするのをあきらめるかも知れない。このあたりまだまだ古い人間がいるからね。」
みんな片目の話に聞き入りました。その怪談のことはみんな聞いて知っていました。人間を震え上がらせた化け猫は、ここにいる猫達にとって誇らしい英雄でしたから。
「しかしだ。片目さん。知っての通り猫は一生に一度しか化けられねぇ。君はもともとここのもんじゃねぇ。それでもいいのかい?」
「そうさなあ。乗りかかった船だ。それにイチゴ鼻には恩もあらあな。」
「よし。それで決まりだ。そいじゃあ、片目君。おまえさんは世間もよおく知ってる。ひとつ不動産屋をお願い出来るかね。ブチさんとタマ、片目君の手助けを頼む。わしは、町会長のここの大旦那イスケさんだ。クロティお前は、クリーニング屋。あそこはおっかねぇドーベルマンのシニーがいるから気をつけな。ミーミも手伝ってやっとくれ。さあ、出陣式だ。お参りに行こう」
この堀川町の一角には小さな祠があります。昔化け猫騒動の折、猫の魂を鎮める為に祭れたのです。ビルが建てばこれも壊されます。猫達は無事を祈って願いがかなうよう揃ってお祈りしました。
梅雨が明け、やっと現れた夏の青空に、打ったボールはきれいにカーブを描いて、向こうの茂みに吸い込まれていきました。
「ちぇ!ナイスショット、と思ったのに。」
不動産屋の金田さんは、ゴルフを楽しんでます。
「この辺だと思ったがなぁ・・・・。」
夕立でも来るのか辺りが急に暗くなってきました。茂みの中をかき分けると、向こうの木の元に小さな祠があり、その前にボールが転がってま
した。祠の屋根はボールが当たったのか半分ほど崩れてました。
「や、あった、あった。しかし、何処かで見たような祠だなあ。」
金田さんがボールを拾おうと近づいた、その時です。
「やいやい、よくもわしらの家を壊してくれたな!」
木の後ろから、口が耳まで裂け、大きく目を見開いた化け猫が躍り出てきました。化け猫は爪を立てた両手を上げ、金田さんに襲いかかりました。
「ぎゃあー。」
金田さんは気が付くと、そこには一緒にゴルフを楽しんでた近藤さんの顔がありました。「どうしたんだい?大丈夫かい。」
「ああ、ちょっと暑さにやられたみたいだ。」
金田さんはこの時になって、あの祠が堀川町と同じだ祠と思い出しました。
雑木林の間を縫って金田さんの車は家路に急ぎます。既に日はとっぷりと暮れ、やっと田んぼのかなたに街の明りが見えてきました。ヘッドライトに照らされる細い田舎のアスファルトの路に、急に二つの人影飛び出ました。金田さんは慌てて急ブレーキを踏みました。それは、若い娘と母親のようでした。
「危ないじゃないか!」
「すいません。お願いです。助けて下さい。」
その母娘の思いつめた様子に、金田さんは車を降りました。
「どうしたのです。」
「私達の家が壊されようとしてます。お願いです。手を貸して下さい。」
二人の透き通った美しさと切なげな眼差しに、憑かれたように金田さんは後に従いました。田んぼを抜け、うっそうとした森にさしかかりました。
「まだですか?」
「もうすぐです。」
そう言いつつ、大きな欅を曲がった途端、正面の杉の根元にあの祠が月明かりに照らし出されました。金田さんは、全身の血が凍り目を見開きました。
「私達の家をこわすなあ・・・・!」
金田さんに振り返って世にも恐ろしい形相の化け猫の母娘が叫びました。
目を覚ますと金田さんは自分のベッドで寝ていました。その時ドアーがすーとあきました。思わずかけ布団を引っかぶりました。奥さんでした。
「気がつきましたか?気分はいかが?どうしたんですか?あんな所で。自動車のボンネットに倒れかかって気を失っているのを、通りがかりの方に助けていただいたんですよ。」
「ああ、ちょっと・・・・・。あの、出かけてくる。」
「え! 何処へ?大丈夫ですか?」
「もう、平気だ。堀川町に行って来る。」
不動産屋の金田さんはこのあたりの一番の地主で、材木屋をたたんで不動産を始めたのですが、町会長のイスケさんとは古くからの知り合いでした。堀川町のほぼ中央に、イスケさんの酒屋のお店はあります。金田さんはお店の前にある自動販売機から缶ビールを買うとさっそく一口飲んでから店の中をのぞき込みました。
「イスケさん、いるかい?」
「おぉ、金田さんか、あんたは飲まないんじゃぁなかったのかい。珍しいね。」
「とても正気じゃいられないよ、出たんだ。」
金田さんが青い顔をしてまた一口ビールを飲みました。とてもにがそうな様子です。
「出たって、なにが。」
「化け猫が出たんだ。」
「えっっ。」
今度はイスケさんが青い顔になりました。
「やっぱり。」
「やっぱりって。それじゃあ、あんたん所も。」
イスケさんも店の表の自動販売機から缶ビールを取ってくると、一気に半分ほど飲みました。イスケさんはお酒はいける方です。
「実は、うちにも出るんだ。ここ一週間ほど。」
そのとき、お店の棚に並んでいる瓶がガタガタなり始めました。瓶の中のお酒がゆさゆさ揺れています。天井の蛍光灯が一瞬消えました。通りの街灯の明かりがお店の中にさっと影を落とします。その上を猫の黒い足跡が点々と店の奥から走り出ました。一瞬のことでした。蛍光灯がぱっとついて、お店の中は前のように明るくなりましたが、猫の足跡はどこにもありませんでした。
「これか。」
金田さんが店のソファによろよろと座り込みました。
「今どき化け猫ってのも信じられないが、あの祠に関しては、死んだ爺さんも大事にしていた。」
「そうだった。俺のお袋も、何か悪い事があると祠のたたりだとお参りに行っていたもんだった。あそこの掃除は町内の大事なお役だったし。」
天井に近い陳列棚から不動産屋の金田さんと酒屋のイスケさんを遙かに見下ろしながら、ハイエナがふっと息を吐きました。そして酒瓶の並ぶ棚づたいにそっと外にでていきました。
あくる日の朝、堀川町の祠の前で金田さん、イスケさん、クリーニング屋のリョウさんが浮かない顔で集まっていました。金田さんは祠の屋根をハケで払い、リョウさんは周りを箒ではいています。イスケさんは持ってきたお酒の一合瓶を祠の前に供えました。
「リョウさんところにも出たんじゃ、こりゃ本物だ。」
「全く肝をつぶしちゃったよ。アイロン台に猫の顔のシミが浮き出てきて、蒸気を当てるたびに牙をむくんだ。気味が悪くって仕事になりゃしない。」
リョウさんのうちでも化け猫作戦は成功したようです。きれいに掃除された祠を見て、
「ビルにしちまうとこの祠も取り払わなくちゃならない。」
「すっかり忘れていたなあ。この祠の化け猫伝説。」
みんな神妙に手を合わせてお参りしました。
「ビル建設の計画は、しかし止めるわけにはいかない。つまりはこの祠だ。この祠さえ大事に守ってやれば化け猫も出ないんじゃないかな。」
金田さんがいいました。
「大手町の平将門の墓の例もあるし。」
イスケさんも相づちを打ちます。
「そんなところだろう。ビルの一部に祠を移す計画を追加しよう。」
金田さんが決心したようにつぶやきました。
堀川町の雑居ビルが完成しました。正面入り口の上には、クリーニングを始め、エステート、フラワーショップ、リカーショップなど片仮名の列記されたしゃれた看板がかかっています。秋山テーラーの名前も見えます。ビルの中からキクさんが出てきました。
「ほれ、ノラちゃん。ツナよ。」
キクさんがお茶碗を持ってビルの脇でしゃがみ込むと、どこからかあの片目が姿を現しました。
えっ。おいらたち猫がどうなったかって?あの化け猫騒動は大成功だったさ。だけどビルは建っちまった。まあ、時代の流れには逆らえないって所かな。でもおいらたち野良猫は健在だ。何にも変わらねえ。人間の住むところが、ビルになろうがカプセルになろうが、人間にとってもおいらたちは必要なんだな。ビルになってもやっぱり猫を飼う人はいるのさ。今だってイチゴ鼻のところでこうやって世話になっているし。不動産屋の金田さんはビルの屋上に祠を移して毎日お参りに来てるぜ。あそこはいいや。昼寝にはもってこいさ。おれたち野良猫の集会所にも使わしてもらっているんだ。人間もあれで結構したたかだ。開発だの発展だのいい言葉並べたって、古いものにも執着はある。新しいものか古いものかきっぱり決められないときに化け猫のせいにして両方の帳尻を合わせていやがる。新しいものにばかり引っ張られていると不安になるんだろうな。まぁ、世の中なんて、おいらみたいに片目を開けて暮らすことさ。両目で見たって、一匹の魚は一匹ってことだ。じゃあな。
おわり
一九九七年八月十八日完結
作者プロフィル
大きいおばさん 千葉県千葉市在住
小さいおばさん 東京都あきる野市(旧秋川市)在住
二人は高校時代の親友で、このお話はパソコン通信の電子メールをリレーして作りました。