作
大きいおばさん
小さいおばさん
「ただいま!」
元気よく健一君が、幼稚園から帰ってきました。
「ねぇ、『イチロウザエモン』出した? お母さん、どこ!」
健一君は、ソファの上に幼稚園の黄色い帽子と鞄を放り出し、大声を出しました。
「二階よ。今出してるところよ。ケンちゃん手伝って!」
大急ぎで健一君は、二階へ駆け上がりました。お母さんは、踏み台に乗って押し入れの天袋から、大きな箱を出しているところでした。
「あ、イチロウの箱だ。」
「さあ、受け取って。」
『イチロウザエモン』とは、五月人形のことです。オリックスのイチロウ選手に似てるからです。イチロウ選手がバッターボックスに立ってきりりと投手を睨む目が、そっくりなのです。そうです。もうすぐ「子供の日」なのです。緑の毛氈を敷き金屏風の前にイチロウザエモンを座らせ、幟を立て・・・・・。健一君も一生懸命手伝いました。
「ピーンポーン」お父さんが、帰ってきました。
健一君は、玄関に飛び出て、
「お帰りなさい。見て。見て。」
背広の袖を引っ張って、お父さんをイチロウザエモンの前に連れて行きました。
「ほう。りっぱに飾れたね。」
「僕もお手伝いしたよ。」健一君は得意です。
夕ご飯の時、デザートの苺をポンポン口に放り込みながら、お父さんが言いました。
「今度の連休おばあちゃんのところに行こう。」
「やったあ。何で行くの? 車?」
「そうだな。車は渋滞するから、新幹線だな。」
「ばんざぁい。」
今日はおばあちゃんの家に行く日です。お母さんは、新幹線で食べるおにぎりを汗をかいて作ってます。健一君は、ミッキーマウスのついたリュックにおもちゃとおばあちゃんのおみやげにする幼稚園で作った小さな鯉のぼりを、いそいそと入れてます。
「さあ。出かけるぞ。忘れ物は無いな。」
お父さんが、ドアーの鍵を掛けようとした時、
「ちょっと待って。」
健一君が慌てて家の中に戻りました。
「ケン。早くしろよ。電車に遅れるぞ。」
健一君はイチロウザエモンの前にちょこんと座り、
「みんな行っちゃうけど、イチロウ、留守番頼むよ。僕の宝物もちゃんと見ててよ。じゃあ。出かけるね。」
「ぼーん、ぼーん、ぼーん・・・・」
静まりかえった家の中に時計の音が響きます。最後の「ぼーん」が打ち終わったとき、緑の毛氈の上に腰をかけていたイチロウザエモンの右の眉毛がぴくんと動きました。そして、
「ふーっ」
と深呼吸をして立ち上がりました。ぎゅーっと伸びをしてから、
「あーぁ、一年ぶりだぞ。押入は窮屈で退屈だ。せっかく出してもらったのに、ケンちゃんは連休にはいつもお婆ちゃん所へ行ってしまうんだもの。またお留守番だ。しょうがないなぁ。」
そう言って、イチロウザエモンはまず首の下の赤いひもをほどいて重い甲を脱ぎました。それから鎧も脱いできちんとたたむと毛氈の上に置きました。 そして健一君の洋服のはいったタンスの引き出しを開けて、アンパンマンのTシャツとスエットのズボンを出して着替えました。その時玄関のチャイムが鳴りました。
「あれ、誰だろう」
イチロウザエモンはTシャツの裾を伸ばしながらこっそりドアの鍵穴から覗きました。近くのマンションに住む裕太君でした。
「けんいちくん、あそぼ。」
とても小さな声でした。イチロウザエモンは裕太君を知りませんでした。だって、裕太君は半月前にそのマンションに引っ越してきたばかりだったのです。
「困ったなぁ、どうしよう。」
鍵穴からみた裕太君はおとなしそうで、ちょっと気の弱そうな子に見えました。 おびえたような目をしてじっとドアを見つめています。少し後ずさりを始めました。だんだん泣きそうな顔になって、今にも走って帰ってしまいそうです。イチロウザエモンはドアを開けました。
「だあれ?」
「・・・ゆうた」
裕太君はそう言ったけれど、出てきたのは健一君ではなかったので、ますます後ずさりしていきます。今度は本当に走って帰りそうでした。
「待って。ぼく健一君の親戚の子なの。今みんな留守なんだ。一緒に遊ぼう。」
イチロウザエモンは裕太君を家の中に入れました。裕太君はそれでもまだ泣きそうな顔をしています。
「なんだか元気がないね。どうしたの?」
「・・・ぼく、泣き虫だから・・。今日も朝からずっと泣いていたので、お母さんから叱られたの。・・・それでまた泣いていたらけんいち君の所にいってらっしゃいって・・・。」
裕太君お顔は半分泣き顔になってきました。涙も出てきました。イチロウザエモンはオリックスのイチロウ選手のいつものきりりと投手をにらむ目になって言いました。
「男の子が泣いちゃだめだ。」
「僕、あれがしてみたかったんだ。いつも健一君が面白そうにやってるんだ。」
イチロウザエモンは裕太君とファミコンを始めました。最初はサッカー。さすが裕太君は現代っ子、楽勝です。次はストリートファイター。格闘戯です。強そう見えてもイチロウザエモンは裕太君の敵では有りません。あっさり負かしてしまいます。裕太君は何だか自分が本当に強くなった様な気がしてきました。次のソフトもその次もイチロウザエモンの負けです。とうとう、
「ああ、もう止めた、止めた。裕太君、別の事をやろう。」
「うん。」
裕太君はにこにこ笑いながらうなずきます。そして、ふと五月人形のお飾りを見ました。金屏風の前に鎧と甲が置いてあるのを見てギョとして目をむきました。恐る恐る振り向いてイチロウザエモンの顔をじっと見ました。
「あのう・・・。もしかして・・・。」
イチロウザエモンは大きくうなづいて、
「そう。あれは拙者の鎧と甲だ。健一君がオリックスのイチロウどのに似ているから拙者の名をイチロウザエモンと付けてくれたのでござる。」
イチロウザエモンは言葉つきまで変わり腕を組んで答えます。でも、もう裕太君は散々ファミコンでイチロウザエモンを負かした後なので、今までの泣き虫裕太では有りません。
「ねぇ、イチロウ、今度はパソコンやってみない?」
健一君のお父さんの大事なパソコンです。スイッチを入れました。黒い画面に次々字が現れます。二人は息を飲んで画面に釘づけです。
「Windows95にようこそ。」
二人はパチパチ手を叩きます。そして、
「ジャジャーン」
びくりする様な大きな音がして、奇麗な色とりどりの画面に変わりました。二人は恐る恐る自分の名前を打ってみました。何も画面は変わりません。今度は数字を押しました。同じです。いろんなキイをめちゃめちゃ触りました。それでも画面はビクとも動きません。
「あっ、そうだ。お母さん、銀行でお金出す時こうするよ。」
裕太君は画面を指で押してみました。何の変化も有りません。
「つまらんでござる。」
イチロウザエモンがスイッチを消そうとした時、
「ちょっと待って。急に止めたら健一君のお父さんのデーターが消えてしまう事があるよ。」
何とおもちゃ箱から出て来たウルトラマンです。
「これはマウスを使うのだよ。」
さすが未来の宇宙戦士です。マウスをくるくる動かし画面が二三度変わって、
「コンピュウターをきる準備ができました。」
と画面に出てスイッチを切ってくれました。二人はほっとして、
「ウルトラマン、ありがとう。何だかお腹すいたね。」
「いいものがある。」
イチロウザエモンは金屏風の前から柏餅を持って来ました。
「これ、作り物だぁ。」
裕太君がっかりです。
「見ててごらん。」
ウルトラマンは作り物の柏餅にスペシューム光線を浴びせました。
「やったぁ。」
本物に変わったのです。三人は仲良く柏餅を食べました。
「僕、もう帰らなくちゃあ。ねぇ、健一君明日幼稚園お休みでしょう。代わりに来ない?誘いに来るから。八時半だよ。きっとだよ。」
次の日の朝、イチロウザエモンは鎧をつけ幼稚園鞄を下げて、頭には甲を脱いで黄色い幼稚園の帽子をかぶりました。ウルトラマンは幼稚園のスモックを着て上靴入れを持ちました。二人は緊張して待ってます。
「ピーンポーン。」裕太君です。
イチロウザエモンと裕太君そしてウルトラマンが並んで仲良くお迎えのバスの乗り場に行くと、同じあやめ組のかおりちゃんがいました。
「あ、裕太君。おはよう。その子だあれ?」
肩までの髪を両耳のところで縛って、デージーの花の髪留めをつけたかおりちゃんは三人を見つけるとすぐさま駆け寄ってきました。
「おはよう。かおりちゃん。ぼくのお友達だよ。」
かおりちゃんはビックリしました。裕太君がすぐ返事をして返すとは思わなかったのです。いつも弱虫で泣き虫の裕太君が、今朝は元気いっぱいだったからです。かおりちゃんはイチロウザエモンとウルトラマンをちらっと見ましたが、何も言わずにバスに乗り込みました。バスが幼稚園に着きました。あやめ組のお教室はいつものようににぎやかです。イチロウザエモンとウルトラマンの回りにみんなが集まってきました。かおりちゃんが一番前に出てイチロウザエモンに訊ねました。
「あんた、誰?」
「イチロウザエモンでござる。拙者は・・・」
「変な子!なによ、そんなもん着て。ダッサーイ!」
かおりちゃんは遠慮がありません。イチロウザエモンは何か言いかけましたが、かおりちゃんはそれにかまわず、次にウルトラマンの方を向いて訊ねます。
「あんた、誰?」
「ウルトラマン。シュワッチ!」
「ばっかじゃない?」
かおりちゃんはそう言うとウルトラマンの銀色の頭をげんこつでぽかっと殴りました。ウルトラマンは勿論痛くはありませんでしたが、こんな事をされたのは初めてなので、ビックリして口が利けませんでした。
裕太君はお友達になったばかりのイチロウザエモンとウルトラマンが、かおりちゃんにやりこめられているのでじっとしていられません。
「だめだよ。ぼくのお友達なんだから。」
と、かおりちゃんに向かって言いました。いつも泣き虫の裕太君らしくありません。こんなことは初めてです。誰よりもかおりちゃんにいじめられていたのですから。かおりちゃんは縛った髪を指でくるくる回しながら、ギッとにらむとぷいっと向こうのお友達の方に行ってしまいました。
先生が来て歌を歌ってそれから工作の時間になりました。折り紙で甲を作ります。裕太君は上手にたたんで甲の形にしました。イチロウザエモンも何とかうまくできました。でもウルトラマンは折り紙が苦手のようです。何度も直しているうちにクシャクシャになってしまいました。かおりちゃんがそれを取り上げて
「この子、こんなのしか出来ないんだよ。ほら。ブキヨーじゃん。」
と言ってその折り紙を丸めてポイッと捨ててしまいました。ウルトラマンはビックリしてやっぱり口が利けませんでした。
次は楽しいおやつの時間です。プリンが赤いチェリーを乗せてみんなの前に配られました。誰もが大好きなおやつです。さっそくイチロウザエモンがスプーンで食べようとするとかおりちゃんがやってきて言いました。
「それ、健一君のでしょ。あ、健一君のなのに。ねぇ、健一君のだよね、このプリン。」
と言って、取り上げてしまいました。イチロウザエモンは、例の大きな目できりりとにらんでみましたが、全然効き目はありませんでした。隣にいた裕太君とウルトラマンがイチロウザエモンにプリンを分けてくれました。三人は黙って二つのプリンを分け合って食べました。
お帰りの時間が来ました。お迎えのバスが来てみんなはお家に帰ります。お家の近くになって裕太君、イチロウザエモン、ウルトラマンそしてかおりちゃんがバスから降りました。降り際にかおりちゃんはイチロウザエモンの背中を鎧の上からげんこつでゴンとぶって、つづいてウルトラマンの銀色の頭をまたぽかっと殴りました。そして、
「さよならーっ。イチローザエモンとウルトラマーン。また明日遊ぼうねーっ。」
かおりちゃんがにこにこ元気いっぱい言いました。つられてイチロウザエモン、ウルトラマンも大きな声で答えます。
「さよならーっ。かおりちゃーん。」
「さよならーっ。」
かおりちゃんは力一杯手を振ってくるりと回ると、全速力で駆けていきました。
裕太君、イチロウザエモンそれにウルトラマンは顔を見合わせてニッとしました。
「今日は面目丸つぶれでござる。」
「ほんと、まったく。好いとこ無し。」
「どうも、おなごは苦手でござる。」
おしゃまなかおりちゃんに、さんざんてこずったイチロウザエモンとウルトラマンは、家に帰ってほっとため息をつき、ソファーに座り込みました。その時
「イチロウザエモン! ウルトラマン! いる? あ・そ・ぼ。」
かおりちゃんの声です。二人はびっくりして慌ててカーテンを開けました。かおりちゃんと裕太君がもう庭先に立っているのです。
「おっじゃましまーす。」
「何して遊ぼうか? 何もないじゃん。」
かおりちゃんはどこでもボスです。
「あのう、ファミコンはいかがでござろうかな。」
「そんなのつまんない。」
かおりちゃん、実はファミコンには弱いのです。
「健一君いつも何して遊んでるのかな?どんなおもちゃ持ってるのかな?」
かおりちゃんは健一君のおもちゃ箱を捜そうとしました。
「人の物を勝手にさわってはだめでござる。」
イチロウザエモンは太い声で厳しく言いました。そこには健一君の大事な宝物も入っていたからです。なんといってもイチロウザエモンは若武者です。さすがのかおりちゃんもびくっと手を引っ込めて、
「健一君、おばあちゃんちで何してるかな。甘えてるかな。」
「おお、そうだ。みんなで健一君の所に行きましょう。」
ウルトラマンが思い付きました。
「え! 今から!どうやって行くの?」
裕太君びっくりです。
「さぁ、私にお乗りなさい。」
かおりちゃんと裕太君は驚いて声もでません。まずイチロウザエモン、そしてかおりちゃんがしっかり背中にしがみ付きます。その後ろに裕太君です。
「準備できた? 出発しまーす。」
かおりちゃんと裕太君、恐くって目をつむりぐっと手に力を入れます。こんな時イチロウザエモンのがっしりした体付きはとても頼もしいものでした。シュワー。あっという間にウルトラマンは三人を乗せて大空高く飛び立ちました。
「そろそろ下を見てごらん。」
こわごわ目をそっと開けると、丁度富士山の上でした。あまりの素晴らしい眺めに怖さを忘れて、
「わっ!すごい。」
まだ雪で真っ白な富士山は空の上から見てもやっぱり大きく、回りの湖が水溜まりの様でした。
「あれが、南アルプス。二番目と三番目に高い山があるよ。」
高い山々がそこにもまだ頂にたっぷり雪を残し連なっていました。麓の里には鯉のぼりが泳いでいるのがみえます。山の間を縫う様に電車が走っています。大きな湖がみえてきました。
「あそこのほとりの村が健一君のおばあちゃんの家だよ。」
もう、着いたのです。
健一君はおばあちゃんの家の縁側に一人ぽつんと座ってました。おばあちゃんは優しくって大好きだけど、友達もいないし、遊ぶ物も無いので退屈してたのです。五月晴れの透き通るような青い空に浮かんだシュークリームみたいな雲を、ぼんやり眺めてました。すると、そこから鳥が飛び出てきました。健一君に向かって段々大きくなってきます。鳥ではありませんでした。
あざやかな着地で、ウルトラマンが健一君の前に到着しました。みんな大騒ぎです。お婆ちゃんの家の庭先は幼稚園が引っ越してきたみたいでした。ひとしきりおしゃべりが済んで、かおりちゃんが、お婆ちゃんがいないのに気が付きました。
「健一君、お婆ちゃんは?」
「うん、お父さん達と病院へ行ったの。時々ホッサがあるんだって。お婆ちゃん病気なんだ。少しの間入院するって。」
「ふーん。じゃ、みんなでお見舞いだ。」
かおりちゃんはそう言うとすぐさまウルトラマンの背中に回りました。
「さぁ、乗った、乗った。」
またみんなウルトラマンの背中に乗りました。今度は少し窮屈です。ウルトラマンはみんなが落ちないように、気をつけて飛びました。
病室ではお婆ちゃんがベッドの上でメガネをかけて本を読んでいました。
「お婆ちゃん、こんにちは。」
健一君が言いました。
「あら、ケンちゃん。お父さん達に会わなかったの?いま帰った所よ?」
「ぼく、お友達と来たの。ちょっといていい?」
お婆ちゃんはメガネを置くと、とてもうれしそうにしてベッドの上に座り直しました。そしてイチロウザエモンの顔を見て、
「ええっと、どなたでしたっけ。前に会ったわよね?」
お婆ちゃんはこのごろ時々もの物忘れをすることが多くなったことを気にしていました。お父さんもこの前そう言って心配をしていました。
健一君が答えます。
「ほら、五月人形の、」
お婆ちゃんは遠くを見つめる目になって、
「あ、そうそう。思い出したわ。ケンちゃんが生まれてすぐ、おじいちゃんとデパートへ五月人形を買いにいって、一番最初にお婆ちゃんの目にとまったお人形ね。大きなおめめがとてもりりしくて、ケンちゃんがこのお人形のように強く正しい子になってほしいと思って買ったのよ。」
イチロウザエモンはちょっと恥ずかしそうに色白のお顔を赤くしました。それからお婆ちゃんはウルトラマンの方を見て、
「あなたは、そう、ケンちゃんが生まれた次の年の夏、お寺の境内の盆踊りにいった時夜店で買ったウルトラマンね?ようく覚えているわよ。ケンちゃんはもうお婆ちゃんの背中で眠っていたの。夜店の奥の薄暗い棚にウルトラマンが立っていて、じっとお婆ちゃんを見ていたの。きっと健一君のお友達になりますって顔をしてね。」
ウルトラマンは照れくさそうに銀色の頭をぽりぽりかきました。健一君は裕太君とかおりちゃんをお婆ちゃんに紹介しました。お婆ちゃんは二人の手を取って言いました。
「お友達はケンちゃんの一番大切な宝物。ケンちゃんがその宝物をなくしたり、置き忘れたりしませんように。」
健一君はうなづきます。
「うん。ぼくの一番大切な宝物、大事にするよ。」
「さあ、もう帰らなくちゃ。ケンちゃん、私たちは先に帰っているからね。」
かおりちゃんはまたウルトラマンの背中に一番乗りしました。イチロウザエモン、裕太君、健一君もあとに続きます。みんなを乗せたウルトラマンはお婆ちゃんの家の前で健一君をおろすと、五月晴れの空に消えていきました。
ここは健一君のお部屋です。五月人形が飾ってあります。金屏風、緑の毛氈、幟も有ります。イチロウザエモンが鎧甲に身を固めて大きく目を見開いて座っています。ウルトラマンは部屋の隅のおもちゃ箱にたくさんのおもちゃと一緒にはいっています。片足がおもちゃ箱からはみ出ています。
部屋の中は以前と少しも変わっていません。一つだけ、イチロウザエモンが鎧の下にアンパンマンのTシャツを着ていることは、誰も知りませんでした。
「ただいまーっ。」
健一君の元気いっぱいの声が家の中に響きわたります。
おわり
一九九六年五月十八日完結
作者プロフィル
大きいおばさん 千葉県千葉市在住
小さいおばさん 東京都あきる野市(旧秋川市)在住
二人は高校時代の親友で、このお話はパソコン通信の電子メールをリレーして作りました。