‘08 07月号
 #38 真の力(パワー) A 

「ううう」「ハァーハァーハァー
 ルーシーが息を荒く乱している。
「あぁ…あたしのせい」「あたしの…全部…」
『何が起こったのか…!?まるでわからない』
『『椅子』の下へ消えて…『椅子』は背中の下へ消えた。ノドの傷も消えた』
『こいつは悪魔…悪魔が味方している…きっと誰だろうとこの大統領の事はどうにもできない』
『全て…あたしのせい。あたしがカンザス・シティでよけいな事をしなければ…ど、どうか!スティーブンだけは…』
『神様、どうかあの人の命だけは……!!』
『助けてください…あたしの持っているもの……そのためなら何でも捧げます』
 おもむろに両足のブーツを脱ぎ始めるルーシー。
そしてついに上半身を起こす大統領。一瞬ながら彼のスタンドが顕現して姿が見えた。
喉を気にするがすでに傷はふさがっている。
 ゆっくりと立ち上がり、わずかに開いている廊下のドアに気づく。
ドアを開けてみるとルーシーの履いていたブーツが廊下に散乱している。大統領は廊下へと出ていく。
 すると、ナイフを利用してテーブルの裏に張り付いていたルーシーがその隙をついて例の部屋へのドアを開ける。
『遺体右眼球』が向かっていたあの部屋へ…。

 廊下に出てルーシーのブーツを手に取る大統領。するとルーシーの行動がわかる大統領。サイコメトリー?
「『スティールのとこの幼妻』か!……わたしの妻になりすましていた」
「だがさっきよりさらに気に入ったぞ」「ますますな…ここでにがすわけはない」
 あれだけのことをされながらまだ股間は絶好調の大統領。

「ハアッ!ハアッ!」「脱出しなくては」
『脱出しなくてはッ!!脱出しなくては!!何とかしてこの建物から脱出してスティーブンのところへ行かなくてはッ!』
「窓!?」
 しかしすべての窓は堅固に封鎖されていた。
『さっきあたしの服のポケットからころがり落ちた『右眼球』…!?確かにこの部屋のドアの下からここへ入って行った…それはどこへ!?』
『どこへ行ったのか?』『他に『遺体』がどこかにあるからそれに引き寄せられてころがって行ったはずなのに…』
『あたしには『逃げる道』がどこか教えてくれるように思えてならない!』
 しかし足音と共に大統領の影が扉の下から差し込む。因みにルーシーが潜んでいる部屋に灯りはついていない。
『もどって来た!やっぱりだめだ!!見つかった!!』
「『ルーシー・スティール』……どういう動機でわたしのところへ来て、わたしの妻がどうなって…そんな事はあとで聞くとして……(ま…どうでもいいがな)」
「さっきのは『H・P(ホット・パンツ)』のスタンドか?…おまえにはスタンド能力はないはず」
「そう…ない!」
「『肉スプレー』だな?納得した…H・Pの指示でわたしのところへ侵入したのだな」
「いいかわたしが言いたい事はドアを開けろとは言わない。これからわたしはこのドアをブチ破って中へ入るがわたしの前で決して『自殺』しようとするなよ」
「もしおまえが死んだら一番最初におまえの夫を殺す…次におまえの父親もだ。必ず始末するぞ」
「兄弟がいるならそれも全員だ。この世から消える」
「いいな…中へ入るぞルーシー」「おまえが何もしなければわたしも何もしない…みんなが幸せになれるのだ」
 とても「ナプキンを取れる者とは万人から『尊敬』されていなくてはならない」と言った者とは思えない言葉である。

「ハッ!!」「『暖炉』。ここは暖炉だ。暖炉の奥から光が…煙突口…」
 暗い部屋に一条の光がこぼれている。
「ううっ!!」「でも行けるわけがない…こんな狭いところを『上』なんて」
 ルーシーが暖炉に手を差し出した途端に、光がほとばしったッ!!
暖炉の床に『遺体の頭部』の姿が浮き上がる。ルーシーが上に目をやると、煙突口に『遺体』が縛られてぶらさがっていた!
光の正体は『遺体』に合流した右眼球が発していたものであり、その光こそ『頭部』のヴィジョンを映している。
さらに、頭部のヴィジョンから手が浮かび上がりルーシーの腕をとる。全身の姿は確認できないが、その背中には膝辺りまである翼が存在する。
ひィイイイイイイイイイイイイイイイイ…
 光へと吸い込まれるルーシー。

ドグアア   バキバキ
 大統領がドアを破壊し入ってくる。しかし今となっては、何をのんきにノコノコ来ているんだという感じです。
暖炉の様子を窺うが、ルーシーは部屋の反対側にうずくまって震えている。
「見たのか?暖炉の中のあの方を…煙突の下に隠してある。あの方の『遺体』を…」
「君がそれを知っててわたしのところに奪いに潜入していたのだな」
「残りはどこかにある。とにかく…あとは頭部を見つけるだけだ」
「約束どおり…君が何の動機でこうなったのであろうと何もしなければわたしも何もしない…」
「さっきのテーブルの上での『続き』は別だが…君の事をカワイイと思った理由も納得できた」
「そしてさっきよりも…ますます君に夢中になっている…気に入った…」
「そうだ……そうだった!その下着の残りを脱がして裸にする前に」「まず『右眼球』部を渡してもらおうか」
「君が持ってるはずだ?…どこにある?渡せ!ジャイロが持ってた『目玉』はどこに隠してある?」
 一人でベラベラベラベラと気分よく喋っていた大統領に冷や水をかぶせる発言をついにルーシーがする。
「あの『煙突の中』に……誰かいるの?あたしは言われた、煙突の中で言われた」
「何の話だ?」
「光に包まれて『言われた』…」「『光』がしゃべった」
「あたしに『産んでもらう』と言われた」
「あなたにじゃあない…大統領…これは必然だと言われた」
「ルーシー・スティール!わたしは『眼球』の話をしているのだ。どこに隠してある!?すぐにわたしに『眼球』を渡せッ!」
煙突の中であたしは光の中に包まれたッ!
どこだ!?よこせッ!!
 激昂してルーシーの残り少ない衣服を破り捨てる大統領。
そして…裸になったルーシーの身体の異変に気づく。
「何だと?……まさか…ルーシー・スティール、おまえ…それは…その皮膚の下に浮き出ている形は…」
「最後に残された『遺体部位』……それは『頭部』!存在する場所はつまり!」
 衝撃ッ!ルーシーの腹部が膨らみ、顔のようなものが皮膚に浮かんでいる。
「『懐胎』したという事かッ!たった今!!」「う…産まれて完結


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 風雲急を告げ、舞台は転換ッ!する。

 撃たれたスティール氏を載せて疾走する4頭立て馬車の上で対峙するウェカピポとマジェント・マジェント。
対峙をするといってもマ・マは自身のスタンド「20th.センチュリー・ボーイ(以後、20CBと表記)」により完全防御をしている。
ここで20CBの能力を説明すると、身に纏うタイプのスタンドであり装着することによりあらゆるダメージを受け流すことができる。ただし、解除は自在だが発動している間は動くことが不可能となっている。
「この『マジェント』を始末するには……」ウェカピポが鉄球を持ち構える。否、変な格好で構える。
「『こいつ自身がスタンドを解除して動き出した』瞬間のみ……!!」「それは問題なくこれからやる」
「問題は『ルーシー・スティール』だ。現在、大統領のいる独立宣言庁舎で『夫人(ファースト・レディ)』に化けている…それが事実なら…」
「逆に言うならルーシーの正体がばれずに大統領のそばにいれれば」
 スティール氏はマ・マの銃弾により、命に別状はないものの馬車の中で気を失っている。
「ジャイロたちが求めている『遺体』の回収の可能性も大きくなる。しかし!とはいえ!オレの目的はルーシーの護衛だ」
「…一刻も早く彼女を救い出しに向かわなくては……!!彼女の『正体』はすでにバレ始めている!少なくともこの『マジェント』には知られてしまったんだからな」
「ミスター・スティールッ!」「聞こえるかッ!!!?これから相当荒っぽい事が起こるが覚悟してくれッ!」
「しかし必ず助けるッ!!」
 その時ッ!マ・マの衣服から猫ほどの大きさの生物が飛び出し駆け去って行った。
『今のは…何だ?マジェントの衣服の腰あたりから何かが飛び出した…」
『……『トカゲ』?マジェントがなぜ体に『生き物』を……!?こいつは『生き物』なんかカワイがるようなキャラではない…どこかでくっつけて来たのか?』
『そしてなぜ…今、この状況で『体』から離れて行ったのだ?』
 疑惑の眼差しをマ・マに向けているウェカピポがあることに気づく。煙が立ち上がっている。
ガバアァッ とマ・マの胸をはだけるとダイナマイトがビッチリと身体に巻いてあり、すでに導火線は残り少ない。
「やるじゃあないか…マジェント。少なめの脳ミソで良く考えたな」
「…『ダイナマイト』。さっきすでに『点火』してからスタンド化したのか…」
 もはや待ったなし!!
ミスター・スティール、衝撃がいくぞッ!こらえろォォー―――!!
 鉄球をスティール氏に撃ち込む!
そしてもう1つの鉄球は馬に向かって衛星を発動する。
『硬質化』そして『左半身失調』」「馬たちは『左側』を認識しない」
 左側失調を起こした馬は右に急カーブを切る。馬車が横転し、砕け散り、スティール氏も飛び出し、ダイナマイトが爆裂する。

ドグオオオォォォン

 身体を丸めて防御の姿勢をしているが、馬車の木片がウェカピポを傷つける。
スティール氏は地面に叩きつけられるも硬質化が効果を発揮して見た目は無傷である。
しかしスティール氏とは逆に、ウェカピポとマ・マは河に落ちてしまう。

 そこでスタンドを解除するマ・マ。そして拳銃を取り出す。
「ウェカピポさんよォォー――。出会った時から上から目線で人の事小バカにしやがって…」
「あんたの事、好きだったこともあんのによォ」「ナメてんじゃあねーぞッ!」
 半ば失神しているウェカピポに発砲する。
「オレは『恨みを晴らす』と決めたら『必ず晴らす』」
「まず片っぽの目をえぐってからだ。オレがされたのと同じ様によォォー――今のは2センチ左へそれたがな!」
 銃弾がかすった痛みで覚醒するウェカピポ。
「オレの様な人間をクズ扱いしやがってッ!失うものがねえ人間が一番恐ろしいって事を思い知るがいいぜ!オリコーさんよォォオオオ」
 しかし!今にも引き金をひこうとしていたマ・マに紐のようなものが巻きつく。 
「何だ?」「車軸のワイヤーを…あれはウェカピポの!馬の方に投げた…『鉄球』!」
 馬車の破材にウェカピポの鉄球術により巻き込まれてしまう。
「まずい!!呼吸がッ!」「『20th.Century Boyッ!』」
 咄嗟にスタンドを纏うマ・マ。そのまま河底へ沈んでいく。
「『自爆』のアイデアまでは真に恐怖を感じたよ、マジェント…」
「だが相変わらず何度も同じ事を言わせるやつだ。氷の海峡での時も言ったはずだぞ…謙虚にふるまって『さっさととどめを刺せ』と…」
 憐れみの視線を河底へ向けるウェカピポ。
「たとえ呼吸ができない水中でも、一度防御の態勢をとったおまえを倒せる者はこの世には存在しないというのにな…」
 その時、ウェカピポの頭に霹靂の如く悪いイメージが走る。
「待てよ……さっきのアレは…マジェントの衣服から逃げたトカゲ…」
「トカゲじゃあない!!」
「……小さいが…『恐竜』なのでは…!!」「まさかッ!あれはッ!」
「ルーシーの事を聞かれた!!」

 翻って…河底のマジェント・マジェント。
『くそ…必ず!だ!必ずまた舞い戻ってこの恨み晴らしてやるからなウェカピポよォ〜〜〜』
『でもそうだな…どうしようか……?』
『すぐにでもこのカラみついたワイヤーを体からはずしたいが、この水深で『20th.Century Boy』を解除したらきっと息が続かなくて溺れるだろうし、能力を解除しねーとワイヤーははずせねーし』
『う…う〜〜〜む、くそ…どうする?』『そうだきっと『彼』が来てくれる』
『氷の海峡の時はたまたま『彼』が通りかかってオレを助けてくれた…きっと『オレ』と『彼』は運命の糸で結ばれているから出会ったんだ』
『ルーシー・スティールの『正体』が『大統領夫人』だってつきとめて知ってるのもこのオレだけだ。ウェカピポも知っちゃあいない!』
『『Dio』はきっとオレの事を好きになってくれる。『スティールを調べろ』と言ったのも『Dio』だ!だから今頃オレの事を心配してるはずだ』
『早く『Dio』が助けに来てくれないかな…』
『もうすぐ来てくれる…会いたいな…もうちょっと待ってみよう』

 レースも佳境。表裏の関係のある『遺体』収集も佳境である。
竜驤虎駆鳳舞麒走(竜は空を昇り虎は地を駆け鳳は天を飛び麒は壌を走る)…綺羅星の如くいた英傑たちも残り少なく決着の時は近い。

デラウェア河の川底の水はいつまで経っても同じ様に流れ…
そのうち『マジェント・マジェント』は
待つ事と  考える事をやめた


今月のめい言

「これは必然だ…」


○兵役時代に拷問を受けたという現米国大統領ファニィ・バレンタイン。その時の背中の傷が偶然にも米国国旗「スターズ&ストライプス」に似ている。まさしくアメリカを背負う者である。

○光の中でルーシーの腕を掴んだのは天使ガブリエルだったのであろうか?受胎告知と共にルーシーの身体に『遺体の頭部』が宿るという…何と言うか…建前としては素晴らしき神の御技、栄えある神の奇跡とでも言いますが、本音としては「おぞましい」です。

○『遺体』のほぼ全てを手に入れて有頂天気味だった大統領改めキャプテン・アメリカもさすがに冷や水をかぶせられた様子です。しかしマヌケである。気分が舞い上がった挙句、見染めた美少女を手ごめにしようとしたら我が主に横取りされてしまうとは…。天を衝いていた愚息もグンニョリです。

「トドメを刺そうとしたら康一の靴下の裏表が間違っていることが気になったので直してあげている間に目覚めた承太郎にボコ殴られた吉良吉影」並みにマヌケです。

○そんなキャプテン・アメリカですが、スタンドの姿がチラリと見えました。好きな必殺技はハリケーン・ミキサーと答えそうな雄々しい角を持つヴィジョンです。能力は今のところは謎ですが、片鱗はチラホラ出てきています。取りあえず<情報収集>能力であり、ブーツを触ったことでルーシーの行動を把握したところからサイコメトリーのようです。前には地図を見てJ&Jの居場所を感知するなど戦闘よりは探索が得意という印象を受けますが、椅子と背中合わせでクルクル回ったり、致命傷級の傷が治癒したりとなかなか範囲の広いキャプテン・アメリカ改めバッファローマンのスタンドです。

○そして今月はマジェント・マジェントの旅立ちで終わる。「死」への長い旅路である。長くてゆるやかでそして拷問的に退屈な旅路である。第二部ラスボスのカーズと相似であるが、人間という矮小な存在であるマ・マはいつか寿命で死ねる分だけ幸せであろう…。延々と死を体験し続けるディアヴォロと比べてどちらが幸せか?自らの命を絶って自由になる選択があるぶんだけマ・マの方が幸せであろう…。

○ところでウェカピポにはスタンドが見えるのでしょうか?具体的に言うとマ・マの20CBは見えているのだろうか?一度スタンド能力が引き出されたせいかジャイロにはスタンドが見えています。例えば、マ・マに向かって「もう少しそのスタンドをかぶっていれば…」というセリフからも明らかです。ウェカピポはマ・マと組んでいた時に20CBの説明を受けていたからマ・マがあの体勢になったらスタンドが発動しているのは知っているだろう。今のところは不明確であるが、見えているとしたらウェカピポにもスタンドの素質があるということではあるが。

○それにしても第5部を凌ぐ複雑な曲面となってきました。第5部は中盤はブチャラティ・チーム、パッショーネ、暗殺チームの三者対峙。終盤はブチャラティ・チーム、ディアヴォロ、C・レクイエムの三者が対峙しました。今回はJ&Jに大統領、そしてDioに加えて目的が読めないJC。さらに『遺体』争奪と重層的にSBR・レースも加わりもはや結果は嵐の中に放り込まれています。それではまた!

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