‘07 09月号
#29  ウェカピポのやり方


シュボッ
 マッチが輝く。その火を女性の顔の前で振るが、彼女の目は全くそれを追わない。
「くそっ!!」
 白衣姿のジャイロが壁を殴りつける。
舞台は再び過去に戻っている。
『なぜあの時…!!蒸気が…スチームの蒸気だ…。手術の時にほんの一瞬、手にかかった』
『微妙な指への影響――目に見えない『偶然』』
『鉄球の回転は完全な形ではなかった―黄金の回転ではなかったんだ…』
『全てはオレの……オレの責任だ……。どの部分もいいわけは出来ない…『回転』が失敗した…』
 激しく後悔と失念をするジャイロ。そんなジャイロにウェカピポの妹(美人)が話しかける。
「若い先生…」「何をお怒りになっておられるのです?わたしに視力がないのは以前からの事です」
「わたしは感謝しています。事故の負傷から救っていただいた……本当に本当に…ありがとうございます」
 その感謝の言葉に再び悔恨で震えるジャイロ。
「違う…そうじゃあない…違うんだ……」
『もし父さんなら手術は成功したはずだ…この人は治るべき人だったんだ…それを邪魔したのは……オレだ』
 そんなジャイロをいつのまにかグレゴリオが見つめている。
『ジャイロ…人の心のありようの限界点に踏み込むな…それがツェペリ一族の使命…。『ネットにはじかれたボールはどちら側に落ちるのか誰にもわからない』』


 そして舞台は再び1989年の氷の世界に戻る。
「まさかッ!『黄金の回転』が失敗ッ!」「ここは氷の世界…『鉄球』が2発!パワー負けしてたたき落とされたッ!?」
 ジョニィ・ソウ・ショッキンッ!!ジャイロが黄金の回転を失敗するのは初めて見たであろう。
「ジョニィー―――ッ!撃ち落とせェェェェー――ッ!!衛星が飛んでくるぞォォォオー――――ッ」
 今度は1人につき1粒ではない!確認できるだけで9粒の衛星が発射されている。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドン

 ジョニィが大連射で衛星を迎撃する。
その時、微動だにしなかったマ・マがスタンドを解除し静かに動く。そしてショットガンを手に取る。
だが警戒していたジャイロとジョニィはその動作に気付く。しかしッ!!

ドグオオオ   ギャン!

『何だ!?あいつ何を撃った!?左側のあいつ…この状況…今、ボクたちではなく…』
『今の鳴き声は……『狼』!?』
 ジョニィの疑問もジャイロの叫びによりかき消される。
「ジョニィ!衛星がまだあと2発残ってるぞー――ッ」
 1粒は迎撃するが残り1粒がジョニィに襲いかかる!

グワシイィッ

 何とジャイロが素手の右手で衛星を叩き落としたのだ。ジョニィの無事はめでたいが、これでジャイロは両手に負傷をおったことになる!
そしてマ・マはショットガンを捨て、腰からリヴォルヴァーを抜く。
「とりあえず『衛星』はかわせたがジャイロ!悪い知らせだ。『爪弾』を10発撃ちつくした。再生するのに少なくとも十数秒…」
 再び爪がなくなるジョニィ。前段階のタスクの無尽蔵に撃てるヴァージョンは使えなくなったらしいジョニィ。
『『ウェカピポ』。ひとつひとつ…敵の利点を封じ込める…』
『ツェペリ一族の鉄球とは違う目的と使用方法。それが王国王族護衛官の警護と戦闘時のやり方』
ジャイロを危機感が襲う。『『黄金長方形』そのスケールをひとつひとつオレからもぎとって行くためにこの生命のない世界――『氷の世界』を攻撃地点として選んだ!』
「うむ…これでいい…いい出来じゃあないか『マジェント・マジェント』。これでまず…『遺体』は『確保』した…。これからジョースターを始末しても『あれ』に逃げられる事もなくな…」
うなずくウェカピポ。「そしてヤツらに衛星の衝撃波は伝わってる…」
「『左側失調』は開始するッ!」

 敵が、景色が、そして自分の身体が失われていく。
「ジャイロ、『左側』が消えてくぞォー――」
 ウェカピポの元に鉄球が戻って行く。ジャイロも右手で鉄球をつかみ左手でも掴もうとするが、左側失調のせいにより取り損ねてしまう。
「左側から来るぞォォォォー――ッ」「『右』へ『右』へ見てってヤツを探す時間ももうないッ!!」
 そして抜いた銃を構えて悠々と左側から近づくマ・マ。
「よし」「順番はまずジャイロ・ツェペリからだ!ジョニィ・ジョースター、すでに『爪弾』切れ!無力!死んだも同然」
 そして失われていく左側を前にジャイロは!
「『氷上のキズ跡』の軌跡でヤツの位置を予測するしかねえッ!」「さっき攻撃した時の氷の上についた鉄球や爪弾の衝撃の跡ッ!」
「だがくそっ!その跡さえも眼で見つめるとどんどん左側から消えていく!」
 そして撃鉄を引くマ・マ…
オラァア!!
 鉄球を剛投するジャイロ!

「!!」「何だよ!!こっち来るぞッ!おい……」
 視界から消えていく鉄球に対してジョニィは。
「は…はずした!?いや、それさえもわからないッ!」
 視界の外から血が噴き出す。
「やっ、やったッ!あそこだッ!命中したぞッ!」
「い…いや…だめだ…浅い!かすっただけだ、ダメージが浅い!」「ジョニィ伏せろォッ!」
 伏せた2人の頭の上を銃弾が2発かすめて行く!
「ち……ちくしょおぉッ!痛てッ!」マ・マの左肩から血が噴き出している。「ウェカピポォォーッ肩の肉が抉り取られたッ!」
「何だよォォー――ッ、こいつ左側が見えてねえくせにチクショオォッ!どういう災難だッ!てめえら終わりだッ!」
「いやおまえはラッキーだ。今の投球が黄金の回転なら腕はねじれてちぎれ飛んでいたぞ」
涼しい顔でいうウェカピポ。

ガァーーン   ドバッ!

 マ・マの撃った弾丸がジャイロの腹に命中する。
さらに銃撃してくるマ・マ。
「この辺だ!!もう一個ッ!この辺なんだ!!」右手で地面を探るジョニィ。
「やめろジョニィッ!!左側のもう一個の鉄球は探せないッ!たとえ鉄球に触れても触れたという認識ができない!」
「だが安心しろ…ジョニィ。左側の敵の事ならオレらの勝ちだ。『第3の鉄球』が今、手に入った」
 ジャイロが自分の腹の傷を抉り、弾丸を取り出す。
「くたばりやがれー――ッ」
「おい、マジェント!謙虚にふるまえッ!おまえ用心してるんだろうな!?…………今、ジャイロに撃ち込んだ『弾丸』の事だッ!ツェペリ一族は処刑人だが医者でもある!!」血気はやるマ・マにウェカピポが水を差す。「おそらくワザと撃たせた。今の『弾丸』!『鉄球』がわりに撃ち返されるぞ」
 直後、ジャイロが弾丸をマ・マに投げる。しかし間一髪でマ・マのスタンドによる攻撃受け流しが完成する。

ドッパアアアァ

 顔面に当たった銃弾(擬似鉄球)はマ・マの顔面に命中するが天空へと受け流される。
しかし同時に左側の五感が戻ってくる。
「およっ!それ拾うのかい!?もう一球拾うつもりかい!?左側失調が戻ったようだけどよ」ジョニィの爪もまだ5割くらいの復活度である。「オレはどっちでもいいぜ。拾ってみれば…試すのもそれもいいかもな」
「おまえ…今さっき撃ち殺した『狼』…つまりあの『狼』、『遺体』……って事か!?『狼』の体内に両脚部の『遺体』があるって事なのか?」
 核心にせまる質問。マ・マは口を滑らせてしまうのか?
「おいマジェント!何、会話している?ジャイロは何か考えているッ!」「さっさと仕留めろッ!!」
「ああ…そのとおりだ……」

スパァアン!

「おまえさんの防御のスタンド…今少しの時間、解除しないでかぶってりゃあ良かったのにな…。空へ上がった弾丸が落ちてくるまではな」
 天空から落ちてきた弾丸がマ・マの顔面を貫通したのだ。垂直に血を噴き出して絶命するマジェント・マジェント。
ウェカピポが近づいて来る。戦術が破綻した以上、実力行使のガチンコ勝負が確定である。
「ジョニィまた来るぞッ!『爪弾』は指に再生したかッ!すぐに撃てるようにしろッ!!」


今週のめい言

 特になし 

『ネットにはじかれたボールはどちら側に落ちるのか誰にもわからない』。人の運命を左右するような事象にツェペリ家は関わってはならない、なぜならそのようなことに関わることは感情と感傷を生み、仕事の遂行の障害となるからである。しかしジャイロは、父に何度も言われ失敗し悔やんでもこの『掟』に挑戦する。男子は最愛の母親の伴侶である父親を憎む、母親を独り占めにしたいからである。これをエディプス(またはオイディプス)・コンプレックスという。何度となく父親に挑むジャイロだが、この行為は個人の心理に由来するものではない。父親を代表とする先祖が連綿と守ってきた『掟』にジャイロは挑んでいるのである。これを単なる「若者特有の変化への渇望」とするか、暗闇の荒野に差し込む光のような「思想の進化」とするかはジャイロが出す結果次第ではある。

○もし私の仮定が真ならば、この物語の結末はジャイロと父・グレゴリオの対決となるだろう。鉄球対鉄球というこのウェカピポとの闘いも、実は来るべき父親との対決の前哨戦かもしれません。「スティール・ボール・ラン」はジョニィが歩き出すまでの物語だが、同時にジャイロが父親を越える物語かもしれません。

○道具には使い処があります。人間にもそれは当てはまる。そしてスタンド能力だって然りです。「黄金の回転」を纏ったジョニィのタスクは破壊力や追尾能力など確かにパワーアップした面もありますがダウンした点もあります。御存知の通り弾数です。1日10発しか撃てない。ハーブを食べることで数十秒で充填されるようになりましたが、やはり遅い。11人の刺客の時もそうでしたが、「弾丸性能」よりも「無限弾数」を求められる場面はこれからも少なくないはずです。前者と後者のタスクの使い分けが出来ないのは評価を下げざるをえません。

それにしてもAct.1、2、3を使い分けられるエコーズというのは強力だと改めて思います。

○もう1つスタンド能力の分析を。今号で昇天したマジェント・マジェント、彼のスタンドは珍しいスーツ系スタンド、身に纏うタイプです。スタンドを纏って独特なポーズをとることによって自分に加えられるダメージを外部へ逃がす。防御の間はあのポーズでジッとしてなくてはならなく攻撃もできないので、なかなか扱いにくいスタンドかもしれません。ただ、そのようなハンデを背負ったからには―今回は打撃のシチュエーションしかなかったですが―イエロー・テンパランス以上の防御力を持っていると推測されます。

○SBR(第7部)のスタンドはデータが少ないので、なかなか他サイトでも判定に困っているよう感じですが、こういう場合は3〜6部までのスタンドを分析して法則性を立てることにより間接的に判定を下すことはできます。今は多忙なのと、新たにスタンド分析の骨子を熟考しているのでスタンド研究はの発表は滞っていますが、容赦下さい。

○1人で闘うことになったウェカピポ。基本的に集団戦闘である「護衛官式鉄球術」であるが、黄金長方形のスケールを封じることで「ツェペリ家式鉄球術」の万能性を抑えていることはウェカピポに有利であろうか。三段攻撃および複数対象攻撃により人数の差は無いに等しいこともある。この勝負を決する支点は、ジャイロとジョニィがどこに黄金長方形を見つけるかということであろう。撃たれた狼の子どもが鉄板のような気がするが、足元の氷を叩き割って水の中からスケールを取り出すのも対抗として予想します。

○13巻において…マイク・Oとの闘いが終了し、ルーシーが再びスカーレット大統領夫人に化ける。そして何があったというバレンタイン大統領の問いにルーシーは「全ての犯人はホット・パンツ」と答えた後に、大統領のセリフが追加されています。「ありがとう。君がわたしを守ってくれたのか」

○これはなかなか考えさせるもので、私はかつて変装したルーシーは大統領に見破られるのではないか心配だと書きましたが、どうやらそんなことはなさそうです。雑誌では、ルーシーが「HPが犯人」と言った後に大統領はジッと見つめた後に何も言わずに踵を返しました。しかしコミック版だとすぐに「ありがとう」と言っている構成になっております。これは大統領がまったくルーシーを疑っていないと私はとります。だから、不意をつかれて変装を解除されてルーシーが拘束されるということもなくなるでしょう。トロイの木馬となったルーシーの今後の活躍が楽しみです。

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