「ウェカピポが!!」「来るぞ…!」
「爪が再生(もど)ったッ!!ジャイロ、撃てるぞ!ぼくは何をッ!?何をすればいいッ!?」
両手に負傷しているが鉄球は2つあり、左半身失調も回復している。
「絶対に必要なのは『黄金の回転』だ」
「自然が創り出すコピーではない『黄金長方形』ッ!!それが必要だッ!何としてもそのパワーが必要だッ!!その回転がなくてはオレたちは確実にヤツの『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』に打ち負けるッ!」
そして歩みを進めてきたウェカピポが…
ジョニィが叫ぶ。「ヤツが投球の態勢(モーション)をとってるぞー――ッ」
「ジョニィ援護だけしろ…オレは『狼』のところへ行く」駆け出すジャイロ。
『今…この場所に…『自然』が創る長方形があるとするならそれはあの『狼』の体だけだ。しかもそこには『両脚部』つまり…『聖なる遺体』があれば…その遺体もきっと…『黄金長方形』のスケールになってるはずだ…』「行ければ勝てる」
「投げたぞォォォッー――」
ウェカピポが鉄球を投擲する。
「二発同時じゃない」「一発だッ!」
それに対抗してジャイロも鉄球を投擲する。
しかし、意外にも互いの鉄球は激突することなくすり抜けていく。
『ジャイロ、やつの鉄球に命中させないで…ヤツの投球を防御しないですれ違わせたッ!!』
「はずして直接『ウェカピポ』を狙ったッ!!」「こ……この『鉄球』ぼくがひとりで止めるのか!!」
ジョニィにたくすジャイロ。戦力的戦況的にはウェカピポが有利だが、こちらは2人!友情パワーがある!!
ドバ ドバ ドバ ドバ ドバ
まず5発の弾爪がウェカピポの鉄球に命中する。
「ジョニィ、何としてもはじき止めろォー――!!」「やつの一球だけはッ!絶対にッ!!落としてくれッ!!」
続いて衛星の襲撃が始まる。
「うおおおおおぉあああああああああ」
ガギャ ガギャ ガギャ ガギャ
鉄球/衛星に残り5発の弾爪を撃ちつけるジョニィ。「やっ…やった、お…落とせる」
『何とか!で…でも!爪弾は全部で10発!!この一球は…!防げる!かろうじてこの一球だけは…!!』
『だが次はどうする?『爪弾』はもう…』『ない…!!』
しかし衛星が2発残っていた。それぞれがジャイロとジョニィを襲う。
ジョニィはガードを固めるが左肩に命中する。しかしジャイロに向かった物は足元の氷を砕くにとどまる。
「うああああ…ヤツのを叩き落したぞ!!」「行けッ!ジャイロ、行けッ」
対してウェカピポの方は…
ギュルギュルギュルギュル…
右の喉元にジャイロの鉄球が命中している…しかしウェカピポの左手の彼の鉄球も猛烈に回転している。
ジョニィ驚愕。「ま…まさか…あいつの左手のひらにある…あの『回転』はまさか!」
「『ツェペリ一族の鉄球の回転』…護衛官のウェカピポも回転でッ!」「体の体表を高質化させて防御できるのか…」
ノーダメージとまではいかないが、明らかにジャイロの攻撃を乗りきったウェカピポ。
「『敬意』を払うべきは…自然から学ぼうとするこの『回転の力(パワー)』。ゆえに、最も用心すべきはその態度だ。何としても『長方形』を見つけようとするその姿勢!!」
駆けるジャイロ!目的は倒れている狼。その横には狼から飛び出したのか『遺体』の両脚部が横たわっている。非常に気持ち悪い光景である。
「ジャイロォォ、二投目が来るぞォー――!!」
ドゴォー―――ッ
里中智ばりのアンダースローで鉄球を投げるウェカピポ。
ジャイロも今度は鉄球をぶつけ合って防ぐ!しかし、今度は衛星が一斉に狼の方へ飛んでいくッ!!
バリバリ バリバリ バアァァア ブクブクブク…
狼の辺りの氷を砕き『遺体』もろとも零下の河へ沈めるウェカピポ。
「ね、狙われた…先に『狼』を……!!狼が氷の下へ!」
そして「やつの鉄球がまた2個とも戻って行くぞォォオオォォー――ッ」
ジャイロの元にも鉄球が戻ってくるが、第三の攻撃である『左側失調』が始まってしまう。左手の感覚もろとも鉄球も失われてしまう。
『バカな…今、衛星がかすったのか…一個…。『左側が消える』、ジャイロのところへ戻った鉄球は一個だけかッ!』
「『左側失調』…これでわたしは2投」構えるウェカピポ。「一手!わたしの方がこれで『上』へ行けたようだな」
『くっ…どこにもない……バカな!どこにも『黄金長方形』がッ……。王族護衛官…『ウェカピポ』…』
『オ…オレは今まで…『正しい道』を進んでいれば必ず『光』が見えるはずと信じてきた…。勝利の方向を示す『光』が必ずどこかにあると…だからこの地まで進んで来れた…』天に吹く烈風が雲を運ぶ。同じ自然でもそこには黄金長方形は見ることはできない。『そんなバカな!どこにも見えないッ!』
『このウェカピポにオレは追いつめられてしまったのか…すでに…すでに!こんな場所で…こんな極寒の氷の上で…』
『レースもまだニューヨークまで300キロもあるというのに…まだ何もかも途中だというのに…』
『『黄金長方形』がどこにもないッ…ここで』旅が終わってしまうのかッ!オレはまだ何ひとつ決着をつけていないッ!」
ゴオオッ
ウェカピポの両腕から鉄球が放たれる。ツェペリ家の秘伝『黄金長方形』を封じ、切り札である『遺体』も封じる。『左側失調』により鉄球自体も1つ封じ、そしてウェカピポの鉄球は2つ。練りに練った戦略でついにジャイロにチェックメイトを掛けた。
ジャイロ、この社会と人の心のあり様には限界点がある…
『死刑制度』 『延命』 それは矛盾した特異点なのだ
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我々ツェペリ一族は社会のその考えに
立ち入ってはならない
それが我々一族の役割……
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だがツェペリ一族は『奇跡』の存在も信じている
『奇跡』が起こる事を祈ろう
ボールがネットの向こう側に落ちる事を…
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「雪だ…こんな時に雪が降ってる…」
ガアアアン
ウェカピポの鉄球を迎撃すべく、ジャイロの右腕からも鉄球が放たれ激突するッ!!
バカアッ
何と砕けたのはウェカピポの鉄球の方であった。
『……!!?鉄球が!?何?何だと?何が起こった!?』
「割れた?ウェカピポの鉄球がッ!ジャイロのが残っているッ……!!」
ガー――ン
続いてジャイロの鉄球がウェカピポの2球目へと襲いかかる!
「雪だ…雪が降って来た」
ジャイロが2回呟いた現象。ジョニィも気付く。
「は!!雪!?」『あ…あそこだけだ…。あの場所…2人のところだけ…『雪』が降っている!』
「……!!『狼』だ」『『狼』のところの『氷』を衛星弾で吹き飛ばしたので霧状になった水しぶきが空中に舞って…この寒さゆえに瞬間的に『雪』になっている……』
雪が舞う。雪の中に…、そうジャイロは雪の中にあれを見たのだ!!
「信じられない……『雪の結晶』が作られて降って来てるぞ!結晶は『長方形』……!!」
「『黄金長方形』だッ!!」
「ジャイロの目の前に自然が作った黄金長方形が降ってくるッ!!」
バカアアァッ ゴオオオオ
2個目の鉄球を砕き、ジャイロの鉄球がウェカピポの身体を貫通する。鉄球はウェカピポの右胸に穴をあけた。
「雪か…雪の『結晶』…」「ジャイロ・ツェペリどうやって雪を降らせた?」
「いや…まさか……。わたしが衛星で『狼』を撃って『氷』を割ったから……」
事の真相に気付くウェカピポ。
「や…やったッ!!一球勝ってるッ!ジャイロは左手に鉄球を持っているッ!!」
変なことを言うジョニィ。一球どころかウェカピポの鉄球はもうないのだからジャイロの完勝である。
『カジノの外で『11人の男』の生き残りに…ぼくがあの生き残りの男に遺体の『両耳』と『左腕』をさし出した時…』
『あの時―(ぼくはみなかったが)―雪の上に『狼』の絵が現れるのを『11人の男』は『偶然』目撃した』
『だからウェカピポたち2人は先に『狼』を始末した…。遺体が狼の体内にあると知ったから…『偶然』だ。だから、それゆえに…!』
『『狼』を撃ったからそれゆえに!!』
「雪が降ったのは偶然だ…まさに偶然」左手の鉄球を抱え込むジャイロ。やはりダメージは大きい。「オレは全ての行動を断たれていた…勝っていたのはあんたの方だ」
ウェカピポが近くの岩にへたり込む。「全ては『結果』だ」
「ジャイロ・ツェペリ、君は選ばれたんだ…『何かの力』があんたの方を選んだ……この旅をこの先前に進むのはあんたの方だと…」
「雪が降ったのはなるべくしてなった奇跡なんだよ。偶然じゃあない」
「『選ばれた』…『奇跡』だよ、ジャイロ・ツェペリ」
ガキィィイー――ン
隠し持っていた短刀で自らの喉を突こうとしたウェカピポの腕を鉄球で打ち、それを阻止するジャイロ。
「『一手』……オレの方が『上』を行ってるんだぜ…ウェカピポ!」
「殺せッ!とどめを刺せッ!このままオメオメと帰れるものかッ!オレを殺さないでおさまると思うのかッ!」
もし目が見えていたなら彼女の決闘で死んだ元夫の
父親に暗殺されてどこかに捨てられていただろう
そういう権力を持っている… |
彼女はいずれどうせ死ぬと思われているのだ
だから治らない事が幸いしているのだ |
今はそういう事なんだ……
おまえの手術がもし成功していたら……
おそらくもっと悲劇的な事が起こっていただろう…
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「何だと?……今、今なんて言った?ジャイロ」
「確か…あんたの妹だ。いや…間違いない…彼女がそうだ」語るジャイロ。「オレが目の治療に失敗したんだからな…祖国で生きている事は確かだ…。オレの父がどっかの田舎でかくまっているはずだ」
そこへジャイロとジョニィの馬(ヴァルキリーとスロー・ダンサー)が駆けている。その後ろを子狼が追いかけている。
「あ…あれ?狼だ?何で走ってるんだ!?あれはあの『狼』か!?」
「見ろジョニィ、この氷の下…撃たれた狼のところの氷の下だ」
氷の下から木片が姿を見せている。
「丸太だ…」「あの『狼』…傷はカスリ傷だったようだ…。氷の下から『木』が出ているぞ。おい…これは『イカダ』だぜ…ショットガンの弾が命中して砕かれたのは『氷』の下の『丸太』だ」
つまり例のアレが「みつかったぞ!!ジョニィ!!ここからが原住民が丸太を敷いて作った湖を馬で渡るルートだ」
「えッ!!探していたやつかッ!!原住民のルート…信じられない、本当にあった」驚くジョニィ。「しかもつまり!!先へ行ったポコロコはこの海峡でまだこれをみつけてないって事だ!まだ恐る恐る走ってるはずッ!」
一挙に逆転のチャンスに盛り上がるJ&Jッ!
「ジョニィ!傷の手当てをしたら急ぐぞッ!馬を呼び戻せ!」
馬を呼ぶ口笛が響く。
「『奇跡』か…」ウェカピポが呟く。『『奇跡』を信じる……か』
今、ウェカピポの心にはどんな感情が訪れているのだろうか?
「そう…そうだ。あんたが死ぬべきじゃあない理由がもうひとつあったぜウェカピポ…」
「今…ルーシー・スティールがどことは言えないんだが『ぬきさしならない状態』になっているんだ。スティール氏の嫁の事だよ」
「彼女の命がやばい…」
「傷の手当てをしたならあんたにあの娘を守りに行ってもらいたい」
なんと敵であったウェカピポに最重要秘密情報を話すジャイロ。
「あんたが護衛するのは『国王』か『大統領』じゃなきゃあダメか…?『女の子』でもいいだろ……?」
「オレらがやるべきなんだがオレらは今『レース』と『遺体回収』で忙しいんでな」
ウェカピポの目から涙がこぼれる。
そして『遺体の両脚部』はジャイロとジョニィの掌中に。
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