‘07 07月号
  #27  鉄球VS鉄球  


「氷点下(マイナス)35度だ……」
 寒暖計も凍りついている寒さの中、氷の張っている河の傍らに二人組みがいる。
「マイナス35か…『薄い』な…」
「じゃあ…馬では渡らないな…ヤツら。あの『氷の海峡』を…」

 一人はソリに乗っているシルクハットを被っている。頬のこけている痩せた男。
そしてもう一人は頑強な身体の男。ヒゲを豊かにたくわえているが、よく整えられている。

――――――
その男の妹……
彼女は17歳になるまで『海』というものを話に聞くだけで
生まれてからずっと一度も見た事がなかったが、初めて故郷を出て『海』を見る事になった時…
――――それは彼女の嫁入りの時だった

 ある少女の半生…。

彼女の結婚相手は裕福な財務官僚の息子で、将来の地位と財産が保証されている青年……
つまり……この結婚話を妹に紹介したのが彼女の7つ年上の兄……
その男―――ウェカピポであった

 その男…凍った海峡にいた頑強な男である。

ウェカピポはこの国の最重要警備、王族護衛官―――
妹の結婚相手とは仕事を通じての友人であった

しかし妹のこの結婚は半年もすると『失敗』であった事が表に現れて来た……
いやすでに……
結婚した最初からだったのかもしれない…


ある晩――ウェカピポが妹の家を訪ねると…

「う…」「しくしく」
 庭の隅で泣く女性。それを認めるウェカピポ。
「どうした?そんな暗い所で何を泣いている?亭主は留守か?」
 妹の顔を覗きこむウェカピポ。
「あ」「あああっあ…おまえ」
 無残にも顔の左が腫上がっている妹君!
「くそッ、あの野郎ッ!!どこだッ!」
「どうか!どうかッ!お兄様ご平静をッ!」「これは単なる夫婦の問題ッ!」
「ささいな事が原因です。わたしが悪いのです……わたしがごう慢な態度をとったから」
「あの人にカワイがっていただかんくてはいけないのに…女として愛されなくてはいけないのに」
「いつからだ?何度目なんだ。こんな事が何度起こっている!!」
「お願いです……原因はわたしにあるのです。あの人を怒らせたのはわたし…。どうか!あの人は悪くないのです」
 その時、妹君の左手がテーブルの上の花瓶に触り床に落とす。しかし、瞬時にはそのことに気付かない。
「な…何だ?まさか…おまえ?そ…そんな…その『目』、何で花瓶を倒した…?その『左目』…まさか」
「おまえッ!!まさか!見えてないのか!!」
「いえ!違いますッ!違います、お兄様…。こんなのすぐにッ!…今だけですッ!!すぐに…治ります!」
「ああッ!何てことだ…
うああああああああ

妹に子供が未だ出来ていなかったのがまだしもの救い…
ウェカピポは即座に裏から手を回し
『教会』と『法王』から『婚姻無効』の許可をとりつける決断をした
全ては自分の責任…
『裕福な家との結婚』が『妹の幸せ』と勝手に思いこんだ…『罰』…
結婚話を強引に妹に勧めたのも自分
彼は自分自身を責め…自らの職を失う覚悟も含めた決断だった
だが それが逆に妹の夫の逆鱗に触れた!

 爬虫類のような眼をした、いかにも酷薄そうな男がひざまづくウェカピポを鞘で打ち据える。
「どうか!すまないッ!どうか!妹と離婚してくれッ!2人が上手くいってないならそれしかないだろうッ!?」
「全てはこのウェカピポの責任!!どんな償いでもするっ!」
 土下座をするウェカピポ。鞘から剣を抜き、ウェカピポに突き付ける男。
「そんな事で済むと思っているのか!これからオレはどうなる?おまえはオレに恥をかかせてくれた…」
「『法王』が許可しただと?オレの親父や仕事仲間にオレはなんて言われると思うんだ?」
「いいか…おい。おまえの妹はなあ…ウェカピポ、殴りながらヤリまくるのがいい女だったんだよ」
「じゃなきゃあちっとも気持ち良くねーし……つまんねぇ女だった…」
 妹への屈辱に歯を食いしばり拳を握りしめるウェカピポ。
「責任をとるだと?いいだろうウェカピポ。おまえに命をさし出してもらう」
「『決闘』だ」
「時は明朝夜明けッ!場所は城壁の北西!!遅れずに来いッ!」

 そして決闘に向けて身支度を整えるウェカピポ。
「大丈夫だ…すぐ帰ってくる。心配は何もいらない。少なくともおまえはまだ若い…いずれ誰かと再婚して…きっと幸せになれる」
 泣く妹君を残し、いざ決闘へ赴く。
「周りの者は付き添い人だ。この決闘が人殺しや卑怯者の行為ではなく正当なものである事を見とどける」
「さっそく始めるか。もたもたする事もない……一瞬でカタをつけよう」
「ああ…武器は『剣』なのか?」
 その言葉に剣を捨てる男。
「当然!『鉄球』だッ!」「祖先から受け継ぐ『鉄球』ッ!それが流儀ィィッ!!」
 ウェカポピも剣を捨て、互いに腰のホルダーから鉄球を抜くッ!
金平糖のような鉄球が両者の間でぶつかり合う!そして『粒』の一つが飛び出す。
ウェカポピに向かった粒は額をかすった程度だが、男に向かった粒は顔面に命中する。右目周辺を破壊された男は即死であろう。

「確かに…見事!『決闘』は見とどけた…しかしウェカピポ……」「そなたは最初から終わっていた…どっちみち終わっていた」
ドグオオオッ
「グハッ!がっ!何!?これは!」
 ウェカピポの心臓に鉄球が打ち込まれる。
「な…何をッ!『果し合い』は正式なものだ…!!法王様から妹の離婚の許可を得ているんだ」
「何の問題があるんだ!わたしは犯罪者ではないッ!」
「残念だがそれでは収まらないんだ。彼の父親は国家にとって重要人物すぎる。身分が違う。『君は消される』…それが世の中というものだ…」
「だがわたしが君を死んだ事にしてやる」
 見届け人のリーダーらしき男がフードを取る。それはジャイロの父親だった!
「……国外に出ろ」「二度とこの『ネアポリス王国』に戻る事は許されない……いいな…」
国外追放だと?何だとそんな汚名ッ!」
「妹が国から見離されたらどうなる!今、妹はひとりでは生きていけないッ!視力がほとんどないんだッ!」
「国王と話させてくれッ!どうか法王様にとりついでくれッ!」
 しかしウェカポピの言葉は無情にも却下される。「無理だ……ウェカピポ」
呪われろ!この犬どもがァー―――ッ

 場面は替わり、大統領の御前。
「第6ステージの『遺体』回収が最優先だ。そしてジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリの『抹殺指令』。成しとげれば我が国の『市民権』と『永住権』……重要職の『地位』を約束しよう」「望むなら……君の一族全員のだ」
「感謝いたします。ですが家族は…」「おりません」
「妹がおりましたが…昨年、病死しました。ひとり分で結構」



ウェカピポ
マジェント・マジェント

 2人の名前が明かされる。シルクハットの黒ずくめの尖がり顔は『マジェント・マジェント』である。
「エホッゴホッエホッ」「ゴホッエホォッ!ウォホッゲホッ!」
 咳をするマジェント・マジェント(以後、「マ・マ」と表記)。指先に唾液が凍ったので、臭いを嗅いで舐めてみる。
「あ……見てたあ〜?」
「…なあ…ゲホッ、今ギャグ考えた…批評してくれる?この『氷』を使った新作ギャグだ」
「まずいっしょに泣いてもらっていいかな…?泣く演技だぜ。泣くマネを悲しくな…いっしょにいいかい?」
「うううううう悲しい〜〜、ううっうう辛いよォ〜〜〜」「エエ〜〜〜ン悲しいよォォ〜〜〜」
「『ヒマラヤ雪男の涙』……」
ガンガンガン
 目を覆っていた手から氷の固まりがドコドコ落ちる。
 そんなマ・マを右から左へ受け流して、スペリオール海峡辺りの地図を見る。

「なあ…ウェカピポさんよ、聞いた事あるか?」
 続けてマ・マが喋る。「コンドルみてーに空を飛べる機械がこの間、発明されたそうだ。気球じゃあないぜ……でっけ翼があって『飛行機』っていうんだそうだ」
「こんなクソつまんねー場所…シカゴから2週間もかけてやって来たが、その機械だと寒さも感じねーうちにあっという間にここに到着さ!もうちょっと早く発明してくれてりゃあなあ〜〜〜」
「機械が空を飛ぶだと?」
ウェカピポ。
「ああ!そーさっ。ものスゲースピードでなあッ!」「これからいい時代がやって来るぜッ!」
「じゃあ、おまえやオレなんか誰からも必要とされなくなるって事だな。そんなに便利じゃあ、みんながあっという間にこの場所にやって来れる。仕事はどこかの他のヤツのものだ」
「…………」「あんたさぁ〜〜〜いつもいったい何が楽しいんだ?笑ったりとか嬉しい日とかあんの?暗いんだよ…コムズかしいし!」
 ハハッ、正直だなァ〜マ・マ。
「……しゃべりたい事は終わったか?」
「オレは実直にこの仕事を終わらせて…;金と住む場所をもらってこの国で普通の生活をする。ただのそれだけだ」
「ひとついいか……」
「軽く考えているならジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースターを甘く見るな」
「ツェペリ一族の『鉄球』にはおまえさんの知らない深い歴史と謎がある」
「だがオレはそれを知っている……そしてそれより上を行ってあの二人を始末する」「いいな」
 なかなか貴重なデータを提供してくれるウェカピポ。
「わかってるよ…あんたの『鉄球』はツェペリ一族のより上の技術があるんだろ?安心してるよ」
「そうじゃあない…『ツェペリ一族の鉄球に敬意を払え』
「それが大切だ」「そうすれば我らに敗北はない……勝てる…」
 不気味な予言とともに馬に乗り込むウェカピポ。


コォーン コォーン コォーン コォーン
 表面を覆っていた雪をのけ、凍った河をジャイロが鉄球で叩く。
ところでこのコマは上下逆さまなのだが、どういう演出を狙ったのかチョットわからない。
「薄いなぁ…」どんどん厚着になっているジャイロが呟く。「氷の厚さは43センチってとこか…。だが馬で渡るにはこの場所は今いち…もうちょいなんだよなあ〜〜〜」
 それにジョニィが応える。「じゃあ、やはり『渡し船』か…ここからあと12km。スペリオール湖側の氷の張ってない場所で船をやってる」
「……でも…とは限らねぇんだよなあ…。微妙なんだよなぁ〜〜〜」
「大切なトコはいつもビミョオーだ、行けるかもだよなー――」

 相当に迷っているジャイロ。
「どっちか…早く決めて急ごう。まただよ…あいつが来るぞ。尾けてくる」
 ジョニィが双眼鏡で覗いた先には狼の子どもがいる。
「何だよ!馬を狙ってるのかもしれねえ!」「だから『ヤメロ』って止めたんだ…」
「おまえが今朝アレに餌やったからだ!残飯やったろ!ああいうのはカワイそうっていわねーんだよ」
「いくら痩せて死にそうな子供の狼だからってよォ、馬を狙ってくるぞッ!」
「違うよジャイロ…良く見ろよ」「あれの遥か後方だ…あの子狼の背後の丘の木々の向こう…」
 3つの影が向かって来る。
「ポコロコだ。ポコロコが来ている!」「やっぱりあいつが来てる!先頭が『ポコロコ』!」
「その後ろがバーバ・ヤーガでノリスケ・ヒガシカタも来てるぞ!」
「6th.STAGEはミシガン湖間の海峡を渡ったら残り約5kmでゴール。あんなにスピードを出してる。つまりあいつら、今日中に湖を渡るつもりだ」
 現在の総合順位1位はポコロコ、2位はホット・パンツ、3位はジョニィである。5th.STAGEの結果を参照にして下さい。
「ポコロコだと!?今…Dioのヤツが遅れてて…ホット・パンツの目的がレースでない事が判明したからな…」
「何だかんだでスティール・ボール・ランの実質の優勝候補はあのポコロコになってる。もし、あいつにここでPを100点獲られたら……くそ、ヤバイな…」

「しかも……」
 ジョニィが雪原に手を触れると…『両脚部』の場所を示す地図が描かれる。
「さっきから気になってるんだが、次の遺体場所もものすごく近いんだッ!!」
「やはり『両脚部位』はゴール付近!湖の岸辺か!ひょっとするとこの氷の下にあるのかもッ!」

「おいおいおいおいおいおい」
「ポコロコのヤツ、方向を変えたぞ!渡るつもりだ…あいつら!馬でこの氷を渡る決断をしたぞッ!」
 ジャイロの思考に焦りが走る。
『『遺体』を集めるのはジョニィの目的だが……オレの目的は…あくまで…レースの優勝…』
『この6th.STAGEは…何としても『1位』を獲らなくては…オレはまだこのレース中…一度も『1位』を獲っていない…ここでまたポコロコに100Pを獲られたら…』

「残るSTAGEは『3つ』!オレの『自力優勝』は氷が溶けるみてーに限りなく薄くなる」
 確かに厳しい道のりになってしまう。
「ジャイロ…どうする?『決断』だ…でも、もし『氷』が割れたら…少なくとも馬の命の保証はない」
「ポコロコのやつ…もしかすると、あいつ見つけたのかもしれねえ」「『原住民のルート』を」
「『原住民』のルート?」ジャイロの言葉に反応するジョニィ。
「ああ…情報だと、湖の氷が薄くても馬やソリで渡れるように原住民が冬になると氷の中に丸太をイカダのように並べて『氷上の道』を作っているらしい…」
「木が埋まっているんだ。氷が割れにくくなるだろ?でも、オレもそれを探していたがこの雪と氷に埋もれてその位置がどこかなかなか見つけられなかった」
「あのポコロコの走るスピード!」
「先に見つけた可能性が高い。だから氷の上を渡るつもりなんだ…」
 探知力の高いジャイロでも雪と氷という環境に阻まれて見つけられないらしい。
「『原住民のルート』…その情報『確か』なのか?海峡幅は最短でも8kmある…。『一部分』でなく間違いなくイカダが『8km』…続いているいうのか?」
「それがデマかもしれねーから探してた」
 どうやらあまり信用のできるスジからではない情報らしい。
「でも『渡る』んだろ?この状況…決断は…『氷』の上を行く…すでに決定してる」「…だな…?」
「ああ…そうなる……。行くけどいいか?」そして走り出す2人。「もう絶対、子供の狼に餌をやるなよッ!」

 3人と並走しかけたジャイロだがあることに気付く。
「おいおいおいおい」「誰だ?あの二人は?」「ポコロコたちの後ろにも誰か来てるぞ…。ポイント何点のヤツだ?」
「いや……知らない顔だ…。レース参加者じゃあないんじゃないか。ひとりはソリに乗ってる…」
「そうか?……?右側のヤツ、知ってるぞ…どこかで見た顔だ…。前に会った事がある」
「ジャイロ…『あの二人』…こっちへ向かってくるぞ…」「あいつら!ポコロコの方じゃあない!こっちだッ!湖を渡ろうとしていないッ!『敵』かッ!」
 二人の狙いに徐々に気付いてくるジョニィ。
「いや!ありえない!『敵』は近くまでは来てるかもしれないがオレたちはまだ『遺体』を見つけていない!襲ってくるなら見つけた『後』のはずだろう!」
 確かにその通りである。依然、ジャイロにはウェカピポには漠然とした記憶がある。
『でも『誰』だったか?どこかで以前…確かに会ったヤツだ……』
「ジャイロ、ポコロコのヤツの方はやはり湖上に入って行くぞッ!イカダを見つけたのかッ!」
 その時ッ!
「おいジョニィ!あいつ何か投げたぞッ!」馬に乗った方…つまりウェカピポの動作に気付くジャイロ。「気をつけろッ!何か来るッ!!」
 そして投擲された物を認識するJ&J!
「これはッ!まさかッ!!あ…あいつは!バ…バカなッ!」
驚愕するジャイロ。
「『鉄球』だッ!!ジャイロォォオオオオオー――!!」 

ガァァー――ン

 自らの鉄球で迎撃するジャイロ。2つの鉄球が宙で回転して押し合っている。
「思い出した……何だとッ!あいつはッ!あの男は……!!確かオレの祖国のッ!」
「ジョニィ伏せろォォォー――ッ!!」「『衛星』が次に襲って来るぞォォ」
 ジョニィの襟首をつかみ、頭を低くさせるジャイロ。瞬間ッ!ウェカピポの鉄球から「衛星」と呼ばれる小さな鉄球が飛び出す!
それをかわすため、馬から落ちるジャイロ&ジョにィ。
「敵だッ!!あいつらッ!」ジョニィ。「まだ『遺体』をボクらは見つけてもいないののにッ!……?『遺体』を探ってもいないのにッ!」
「攻撃して来たッ!!しかもッ!何なんだッ!?あの右側の男ッ!君と同じ……」
「『鉄球』を使ったぞッ!」「!?」「!?」

 そして完全に思い出したジャイロ。
『ウェカピポ』!」「確か…そうだ、あの男…死んだはずだ!!

 さらにジョニィとジャイロの身体に異変がある。それぞれの右半身、左半身が消失している。しかしダメージがあるというわけではない。
「ジャイロォォ…ああっ」「な…何だあぁぁー――ッ!?」
「落ちつけジョニィィィィ…あわてるんじゃあねえぇぇぇ…」


今週のめい言

 「妹がおりましたが…」 

○ジャイロと祖国を同じとする男―ウェカピポ。彼はジャイロ同様に鉄球を扱うことができます。私は鉄球術というのはツェペリ家の専売特許だと思っていましたが、どうやら違うようです。日本の武士は武芸十八般といって剣術の他にも槍、弓、組打(素手格闘)、水泳等等を収めていたようですが、ネアポリス王国の戦士も剣の他に「鉄球術」というものを習っていたのかもしれません。ツェペリ家の秘伝というものは「鉄球術」ではなく「黄金長方形をなぞる回転―黄金の回転」なのかもしれません。鉄球の数々な得意な効果はこの「黄金回転」がもとであるようですし。しかしウェカピポは、その秘伝の正体を知っているようですが…。

○「ウェカピポの鉄球」は、ジャイロの鉄球よりも攻撃に特化しているようです。一回衝突した後に、衛星と呼ばれる小さな鉄球が二段階攻撃を行います。キッチリとジャイロとジョニィを狙って飛び出すのが、自在性が高くて恐ろしい!というより、もしかして鉄球どうしのぶつかり合いを想定しての…つまり対鉄球攻撃術なのかもしれません。手の内を知られていることも加えて、ジャイロにとって最悪クラスの敵になるかもしれません。

○今月号ラストでジャイロとジョニィを襲った現象、ジャイロが落ちついているのが気になります。これも鉄球術の技法なのでしょうか?観察するに、J&Jは直接的なダメージを受けていないようです。スタンド能力でいうところのアトム・ハート・ファーザーやマン・イン・ザ・ミラーに似たような症状―物理的な断絶があるようだが、空間的には繋がっているので主観的には無傷―なため、マ・マのスタンド能力である可能性は高い。しかし、もっと恐ろしい可能性としてはウェカピポがスタンド使いというものがあります。今の所、動作の妨害/拘束程度の効果しか推測できませんが…。

ポコロコの6th.STAGEトップをふせげるか!?残るSTAGEは6、7、8、9th.STAGEと、いよいよ佳境にさしかかっています。ジャイロにはいよいよ厳しくなってきました。相変わらずレースとバトルの二足の草鞋を履いているのは輪をかけて厳しい。ポコロコを追走しなければならない時に、『遺体』探しと戦闘をこなさなければならない。かなりの時間のロスであるが、まだ逆転の光はあります。「ポコロコが凍った河を渡っているのは実は乾坤一擲(イチカバチカ)」であり、「ジャイロが早急に原住民のルートを見つける」という条件です。幸運の絶頂期であるポコロコが河に落ちることはほぼ無いですから、彼の幸運を上回る手をうたなければならない。頑張れ!ジャイロッ!!

○それにしても謎なのが「『遺体』の回収を最優先しろ」という大統領の意向を無視してまで『遺体』回収前のJ&Jを襲ったのは何故か?ということです。ネアポリス王国憎しからの行動なのか、それともまだ裏があるのか…?カツモクせよ!!


いかりのにがさまた青さ  
四月の気層の光の底を
唾し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)

「春と修羅」より抜粋

☆最初に今月号を読んだ時、ウェカピポと宮沢賢治が何となく重なりました。私はそんなに宮沢賢治を精読しているわけではないのですが…。その理由はこの詩であろうと思われます。宮沢賢治はこの時、愛する妹を亡くしており、それが共通点となったのでしょう。

☆ウェカピポが妹に抱く感情とは何でしょうか。端的に言えば「罪悪感」「贖罪感」でしょう。自分が橋渡しとなった婚姻により、ウェカピポの妹は不幸になった。言い訳の仕様も無いドメスティック・ヴァイオレンスである。キリスト教カトリックにおいては基本的には離婚は許されていない。よっぽどの理由がないと離婚は許されないし、離婚するということは両者に大きなイメージの悪さを与えます。ウェカピポの行動は正当だったとはいえ、二重に妹を傷つけたと彼自身は考えたはずです。

☆ウェカピポがジャイロ達を襲うのは、自分を追放したのがジャイロの父親という私怨はないように感じられます。ジャイロを襲っているのも仕事…というより報酬目当てというところでしょうか(逆にそれは怖いともいえますが…)。

わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき
おまへはじぶんにさためられたみちを
ひとりさびしく往かうとするか
信仰を一つにするたつたひとりのみちづれのわたくしが
あかるくつめたい精進のみちからかなしくつかれてゐて
毒草や蛍光菌のくらい野原をただよふとき
おまへはひとりどこへ行かうとするのだ

「無声慟哭」より抜粋

☆賢治には3人の妹がいましたが、その中で≪いもうと≫と呼びかけるのはトシ子です。賢治がトシ子に感じていたのは親しみ以上のものであり「信仰を一つにするたった一人の道連れ」とまで言っています。そのたった一人の道連れがこの世から往ってしまう、賢治の胸中はいかなるものでしょうか?

☆推測するに、賢治の想いは身体の一部、いや魂の一部を欠いたような喪失感ではないでしょうか?賢治が妹に対して罪悪感を持つのだとしたら、それは何故に自分は一緒にトシ子と死ななかったのかというもののような気がします。同時に、旅立ったトシ子を神聖化し、生き残った自分を卑下している向きも感じられます。賢治の妹への罪悪感はウェカピポのそれと似てはいますが、より精神的なものです。

☆修羅というのは「仏教における六道の一つの修羅界」もしくは「生物としての修羅」のことです。怒・慢・愚(イカリ・アナドリ・オロカ)の業により人は修羅となる、賢治は修羅とは諂曲(てんごく―他人にへつらい、おもねること)を行いそのことに怒り歯軋りをする存在だと思っているようです。ただし仏教の説明からいえば、修羅は永遠に修羅と言うわけではなくやがて解放され別のところへと向かいます。その先は畜生界や餓鬼界かもしれませんし、人界や天界かもしれません。そして解脱して成仏する可能性もあります。

☆今は「ひとりの修羅」ではあるが、やがて解放され「別の何か」になる。これは、今は「傭兵」をやっているがやがて「静かなる生活に落ちつく」ことを望むウェカピポの構図に似ています。ウェカピポを見て宮沢賢治を重ねたのは、妹のことよりもその人生の歩き方だったのかもしれません。

☆宮沢賢治については私的に思ったことばかりなので、異論などがあったらメイルを下さい。

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