「ジャイロォォォー―――ッ」
『いったい!?』『どうすれば!?』『どうやれば!?』
『全ては使い切った……!!あの『泉』で得たカネは全て無くした』
『でもこの手に入れた2部位の『遺体まで無くせ』……というのか?ぼくの唯一の生きる希望、これを手に入れるために命まで賭けたんだ!その遺体までゼロにしろと!?』
ジャイロの身体が植物の根に変換され、解体されてゆく。
『イ、嫌だッ!何のためにこのレースに参加してこんな所まで来たというんだ!?無くすなんてどうすればいいかわからないし…絶対にイヤだッ!』
『今!』『ぼくの肉体は何ともない……木の根化して連れて行かれるのはジャイロ!……ジャイロ…だけ…だ!』
身体が木の根化していくジャイロから、目をそらすジョニィ。
『すまないジャイロ……すまない…』
完全に壁に埋没してしまうジャイロ。
「うおおおおぁあああぁああああああっ」
シュガー・マウンテン。千年の巨木(ツリー・オヴ・エイジス)の袂。
「だめだったわ…。あの『2人』も……」
「あの『2人』なら…きっとこの『泉』の掟を全て終りにしてくれると思ったのに……。やっとみんなでこの森を出て行けると思ったのに…」
「本当に残念…」
シュガーが樹を見上げると…木の実の中にジャイロの姿が現れる。
「でも……この木にひとり入ったらひとり出て行ける。これであたしの『泉の番人』としての順番は終わり…」
「今度はいつまでなのかしら、次の番人の順番はあたしのパパとママ」
その時、どこからか声が!
「そうでもないようよ…あたしの娘シュガー」
「パパ!ママ!」
「あの人の『木の実』が小さくなって行くわ……。地面を伝って…この大木から戻って行く」
「きっと終わったのよ。今全部使い切ったんだわ…ついに出て行ける」
いったい何が…!?確かにジャイロの木の実が小さくなっていく。
雪が積もった地面に両手と膝をつき、滂沱の涙を流すジョニィ。
その背後に木の根が絡み、ジャイロが顕現化する。
「はっ」
元に戻ったジャイロの目に飛び込んできた光景は…。
地面に跪くジョニィと……,銃を持つ男ッ!!しかもその手には『遺体の右腕』と『遺体の両耳』が握られている!
「ここでとどめを刺そうってのか?オレが馬に乗ろうとした瞬間…背後から最後の一撃を…」
男はヴァレンタインズ・イレヴン(以後、V11と表記)の一人であった。息は荒い…。あの鉛ダマの雨の中に居たのだ、ただではすんでいない。
「行けよ…大統領のところに…。その『遺体2つ』を持って…」
「そして二度と今後何処だろうと、おまえがぼくの前に現れたら……その時点でとどめを刺してやる……。これで『取引き』は終わった」
V11の男は斑の馬にのり、遺体をカバンにしまい去っていく。
「…うう」「うう」「うぐっ」
涙が止まらないジョニィ。
「くれてやったのか?………生き残った『敵』のひとりに…『遺体』を?」
「いや…『使い切る』って言うんだからな……『交換』したよ。あいつが持ってた…この飲みかけのワインボルトと……」
ワインは『キリストの血』である。キリストの『遺体』を『血』と交換するとは、何の偶然か。
その時、ジャイロはある記憶を呼び覚ます。
「もはや我々の医術ではこれが限界だ、ジャイロ。輸血する血液も今ここにはひとり分しかない。2人が助かるのは無理だ。選ばなくてはいけない」
父親と手術中のジャイロ。母子がそれぞれのベットで横たわり治療を受けている。母親の方は開腹までしている。
「事故で負傷した母の組織を息子の体へか…?息子の失われた組織を母へか…?」
「どちらかに移植しなくては命は無い。さもなくば2人とも死ぬ」
「母か?」「子か?」
「ジャイロ、おまえがどちらかを選べ…」
「え………父上……」
呆気にとられるジャイロ。
「早く選べッ!わたしが手を下す」
「父上!きっとまだ2人とも救えるはずですッ!!何か方法があるはずだ。挑みましょうッ!!」
「…かもしれない。挑めば奇跡が起こるかもしれない。だが我々にその危険を冒す権利はない。時間がないぞジャイロ、早く選べ!」
「この女の夫に選ばせるべきです…!!この手術室の外の廊下で待ってるこの子の父親にッ!」
「『母親を救えばまた次の子供は産めると考えるのか?』それとも『跡取りだからひとり息子の方が大切と考えるか?』。一族や父親の価値観で…」
「だがいいか…テニスの競技中…ネット、ギリギリにひっかかってはじかれたボールは…」
「その後、ネットのどちら側に落下するのか…?誰にもわからない。そこから先は『神』の領域だ」
「どちら側に落下するのか?…それは『無限』の領域。父親の今現在の価値観で選ばせるのか?彼に知らせるな…彼は何も知らない方がいい」
「だからおまえが選べ、ジャイロ。これがツェペリ一族の…」
「『役割』であり『宿命』だ……」
「シュガー」
舞台は再び千年の巨木。
「今行くわ」
「ついに全てを無くしたのね……あの2人…。持ってた物『全て』を……」
「でも」
「『全て』を敢えて差し出した者が最後には真の『全て』を得る」
「それがわたしがこの『泉』の番人をして理解したただひとつの事」
「それは確かな事……」「あの2人はその『資格』を得た…」
雪が空から降ってくる。
同じ空の下のJ&J…。
「雪が……強くなって来たな…」「飲むかいジャイロ、このワインも無くさないとな…」
「ああ…少しは暖まるかもな」
「うん……陽もギリギリ暮れたしな……」
コップを取り出すジャイロ。
「なあ…馬を呼ぶ前に乾杯しねーか?」
「……………何に?全てを失ってしまった」
「『ネットにひっかかってはじかれたボールに』乾杯は?」
「?…何の事?」
「ダメか?じゃあ次の『遺体』に……」
「次の『遺体』か…それならいい。次の『遺体』とゴールに…」
応じるジャイロ。
「次の『遺体』とゴールに…」
雪はやむ気配も無く降り続く…。
何やら鉄骨の塊がある。鉄橋?開閉式なのかな?なかなか興味をそそられるシルエットである。
その前を、馬をいたわりユックリと駆けているDioがいる。
「『鉄橋』の上なんかで待たなきゃあよかった……ケツが凍えそうな世界って感じだ……」
「レースの調子はどんな世界だ?……ミスター・ディエゴ・ブランドー」
Dioに話しかける謎の人物。
「愛馬の体調もマズマズに仕上がって来たって感じだよ。あんたどこかで会ったっけ?SBRレースの選手じゃあなさそうだが…」
「オレの事はどうでもいい世界さ。昨日、我々は『両耳部』と『右腕部』を手に入れたよ…」
しばし間を置くDio。
「つまりジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリを殺った……って事か?」
「いや…」「それについては逃げられた世界のようだ……。そしてまたしばらく2人はほっておっく事になったよ。次のゴールで『次の遺体』をあいつらが見つけてくれるかもしれない世界だからな」
〜の世界―というのが口癖のようだ。確か俳優の高橋英樹もこの口癖でしたね。
「ところで…君に会いに来たのは例の『約束』を守ってもらうためだ」
「我々の内部にいる……『裏切り者』の情報をしゃべってもらおう…『4th.ステージ カンザス・シティ』での嵐の夜の、ゴール直前…草原でツェペリとジョースターに会ってた者の正体の事だ…」
「我々にとっては最も重要なレベルの世界だ。馬の足跡でわかるんだろ?」
「……ああ……そうだった」「…約束だったな…サンドマンの失敗は残念だったがな…」
「もはや隠してもしょうがない…体重が51kg以下の『女』、容疑者は…『女』だ。これで捕まえたも同然だな……」
不審がる大統領の使者。
「なぜ『女』だとわかる…?一晩に片道50kmも馬で進める腕前の女などわたしは知らない」
「じゃあ小柄な男や老人も容疑者に入れれば…それは君らの自由だ。言うまでもないが荷や衣服を入れて51kgだからな。とにかく…足跡状況からわかるんだ……誰かまでは知らんが…『女』がジョニィの馬に2人で乗ったその事実だよ」
「これで貸借はなしだ」
黙って去る大統領の使者。
『せいぜいしっかり捕まえなよのセカイって感じだぜ。このDioには関係のないセカイだしな…カスどもが…』
「いや……ありえない…」「それはありえない……」
「『裏切り者』が『女』だと?」
ヴァレンタイン大統領。
「あのカンザス・シティの政府建物内に入る事が可能な職員に『女』はひとりもいなかった…」
「わたしもDioにそう告げました。ですが裏切り者は『スタンド使い』の世界なのでは…!?」
「その可能性もない」「そいつが建物から逃亡する時『マウンテン・ティム』の力をわざわざ借りている点からいってな。死んだM・Tの人間関係も調べたが該当する者もまったくいなかった」
「わかりました。とりあえず容疑者を仮想してみました。あの当日、カンザス・シティにいた我が合衆国政府関係者はレーススタッフの末端や家族まで数えると全部で1364名―内、体重が51kg以下の者は未成年を含め282名まで絞り込めます。女147名、男135名です……これがそのデータです」
「……う〜〜む」
厚いファイルを渋い顔でパラパラめくる大統領。
「ありえないとは思ったが…あのDioが『女』というのならそれを信じるべきかもしれない…」
「よし、決断しよう…。まず『女』である事を前提にして追いつめろ…まだ内部にいる…」「この中の体重51kg以下の女から調べ上げるんだ……それとこいつはどこかで『読唇術』を身につけている女だ」
「このファイルの『147名の女』ひとりひとり全員を拷問にかけるわけにもいかない……裏切り者は『正体』と『動機』をつきとめてから始末したい…」
「これをどう追い込むつもりだ?マイク・O?」
当然の事に、ルーシーもこのファイルの中にいる。
「これを使います」
マイク・Oと呼ばれた男はカバンから電話を取り出す。
「『電話機』――カンザス・シティでの『侵入者』は最後にこの『電話機』を使ってマウンテン・ティムに建物から助けを呼び逃亡しました。それをここへ持って参りました」
そして釘が整然としまわれている布を開ける。そして釘の頭に口を当てて…
「プウウウウウウウー――ッ」
すると釘がガラス工芸のように…いや風船か…とにかく膨らみだす。
そしてその釘風船を犬の形に造る。そして…釘風船犬(←変な熟語!)が電話機の話口に無理やり突っ込むッ!!
その結果、話口を破壊して釘風船犬も元の釘に戻る。
「この電話機を最後にかけていた人物の『臭い』をこの『釘』は確実に記憶しました。この女たちの容疑者の中で『臭い』が一致した者を」
「我がバブル犬――『チューブラー・ベルズ』が追跡する世界です。そしてこの犬がその裏切り者の体内にもぐり込めば……」
再び2本の釘から2体の犬を造り出す。
犬はデスクの引き出しに自ら入り込む。
「大統領…追いつめた時の『処刑の許可』を……」
引きだしの中で荒い息を発するバブル犬は、まさしく檻の中の猛獣である。
「よし…許可しよう。処刑する事が…裏切りの『正体』を知る事ならな…」
もし正体を知られたら…命を落とす可能性が高くなった。大丈夫か?ルーシー…。
「スティール様…」「わたくし…」
双子だかどうだかは知らないが、そっくりのSBRスタッフ。
「政府の人間にくり返し執拗に訊問をされているんですが、いったい…何があったのでしょうか?」
「あのカンザス・シティ ゴールでの前日の夜。『おまえはあの夜、町を出たか?』とか『お前の妻と娘たちはあの時どこにいたか?』とか『体重は51kg以下だな?』とか『読唇術が出来る者を知ってるか?』とか」
2人で交互にしゃべっているとは思う。
「2週間も前のわけのわからない事を今頃すごくしつこいんですぅ〜〜〜!!わたし、何か法に触れるような事をしたのでしょうか!?」
「そうなのか?」スティール。
「まっ!まさかですぅう〜〜〜!!心あたりがまったくないのにですぅ」
「わたしは何も聞いてないが……カンザス・シティのゴールって、あの嵐の夜の事か?」
「そうです!あんな嵐の闇に町を出る者なんていないっつーの!」
「うむ……国のやってる事はわからない事が多い…大した事はないと思う…安心しろ。だが一応調べてみるよ…ありがとう」
2人に返答をした後、チラリとルーシーを見るスティール。気付いている…ところまでは行っていないが、不審というか、気になるものを感じている。
「ルーシー、これからレース事務所へ寄って行く…この図書館からひとりでホテルへ帰れるか?」
「ええ…お早いお帰りを…」
挨拶のキスをして別れる2人。
しかし、別れた途端に脂汗がどっと流れだす。そして身体の震えも…。
『うそ…まさか!…まさかッ!そんな……『調べられている』…!!』『やつらはあたしの事を…』
「『体重51kg以下』…『妻と娘』…『読唇術』……!?どうやってそんな事まで知られたの?」
「見つかる……!!今すぐにもやつらはあたしのところに……見つかってしまうわッ!!」
涙が次から次へと両目からあふれる。その時、ルーシーの頭には、嵐の夜のジャイロの記憶が蘇る。
ガダンッ ギクリッ
物音に怯えるルーシー。
手には『遺体の右目』がある。
『もう時間は無くなっているのかもしれない!ヤツらがやって来るッ!』
行動を起こすルーシー。まず棚を物色し1枚の図書カードを見つけ出す。書いてある本の題名は「ジキル博士とハイド氏」「密やかな午後」「フィラデルフィア・ビューズ」「四つの署名」である。
「すみません。この図書貸出しカードに記されている本を何冊か探してるんですけど、今 所蔵あります?」
その中で聴きなれない「密やかな午後」という本をめくってみるルーシー。本の挿絵には2人の女性がエロティックな雰囲気でからみあっている。
赤面してページをめくるルーシー。
「あー――ら、ミセス・スティール……たしかお名前はルーシー。そうでしたわよね?」
図書館の外のベンチに移動し「四つの署名」を読むルーシー。そこに(私が)見知らぬ女性が通りかかる。2人の黒服…護衛?を連れている。つまりVIPかな?
「スティール・ボール・ラン・レースのプロモーター、スティール氏のとってもお若い奥様。いつぞやパーティーでお会いしましたわよねぇ」
ルーシーも会釈する。
「あ…ごきげんよう」
「良くってよ、良くってよ。お座りになったままで…ごきげんよう…。でもここで何をなさってるの?」
「単なる散歩の途中です。少し休憩を…」
女性がルーシーの本の題名に気付く。
「きゃー――ッ!それ『四つの署名』」「出版されたばかりの探偵シャーロック・ホームズの新作よねッ!…奇遇ねえェッ!わたくしもその本、大好きッ!」
「旅行中でしょ!?図書館で取りよせて読んだばかりッ!」
なにやら冷めた感じのルーシー。しかしそれも一瞬で隠す。
「お願い!結末はおっしゃらないで…!そのとおりだと思います。まだ途中ですがとても傑作の予感が…」
「あ…すみません…気分が……」
ふらついて女性に倒れこんでしまうルーシー。その時、女性の乳房に(長渕剛風に言うとニュウボウに!)触れるルーシー。
SP(護衛)が色めき立つ。
「し……失礼しました……。急に立ち上がったので目まいが…あたし、何て事を…もう帰ります」
「あ…また目まいが……」
再び女性に倒れこむルーシー。今度は首を軽く舐める。
「大丈夫ですかッ!わたくしどもにおまかせを…大統領夫人(ファースト・レディ)!」
「いいの…良くってよ……」「良くってよ、ルーシー。大丈夫?」
「きっと長旅の疲れが出てるのね…楽にしていいのよ。気持ちを楽にして…」
『間違いない……これでまちがいないは『スカーレット・バレンタイン大統領夫人』。『この人』は……』
『女の子が好き』
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