『撃たれた……背後から!?』
右前腕部を2発撃たれたジャイロ。
『うしろだッ!』
ジョニィが振り向くと、アルファの死体の背中から出てくるベータとガンマの姿を目撃する。
ベータの弾丸がジョニィの肩に当たるが、すぐに反撃してアルファにタスクを2発撃ちこむ。
しかし、ベータとガンマはちょっとバランスを崩したくらいで、何の支障もなくまた銃を構える。
ドグシャアァッ
ジャイロが左手で放った鉄球がベータの顔面を砕く。
続いて出てきたガンマも銃を構えるが、鉄球の肉体操作によりベータの弾丸がガンマの顔面を撃ち抜く。
「な…何だ…!?こいつらは。どうなっている……!?ひとりの『背中』から2人が出て来た……」
「少なくともそう見えた!」驚愕のジョニィ。「命中した『爪弾』の弾創が死体の胸を貫通しているのに影響なく、そいつの裏側から出て僕を狙った!」
その時、ガンマの死体からデルタが顔を覗かせる。
「また出て来るぞォー―――ッ」
背中に潜りこむガンマ。ガンマの死体に2発撃ち込むタスク。1発でいいだろッ!無駄ダマを使うなッ!!
「違うジョニィッ!!右奥の死体だ!!出て来るのは『右』…!!」「い…いや!!うっ!?」
3体の死体から続々とヴァレンタインズ・イレヴン(以後、V11と表記)が出てくる。
「全部から一斉に出て来るぞォー――ッ」
ジョニィの襟首をムンズと掴み柱の後ろに引っ張り込むジャイロ。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン
8つの銃口が同時に火を吹くッ!殺意の凶弾がJ&Jを襲う。
デルタがJ&Jが隠れている柱の裏に到達する。それを察知したジョニィがタスクを柱に撃ち込む。
弾痕が自動追尾し、柱の裏のデルタの頭を破壊する。
「『模様』だッ!ジャイロ!背中の『模様』から男どもが浮き出るように出て来たッ!そういう『スタンド』だ!しかもここへ追って来たのが11人ならつまりあと残り7人があの死体にそれぞれに入ってるって事かッ!」
「ああ、それどころかよォォォ…お互いの『背中』から『背中』へ…『死体』から『死体』へ空間を無視して仲間の間を移動しあえるみてーだ。今、倒れたヤローからも出て来る……」
ジャイロの心配どおり、たった今倒れたデルタの背中からV11の1人が顔をのぞかせる。
「無駄に撃つなよッ、ジョニィ!今、何発撃った?あとオメーの指には『爪弾』が何発残ってる?
「はっ!!『1』」『あと一発!そうだった…ルーレットの時…すでに一発撃ってた…』
はっ…じゃないよジョニィ。残りの弾数を把握しておくのは基本だぞ。
「残り7人の『敵』どもはオレらがあと何発撃てるか知らねーとは思うが、オレの鉄球も一投でせいぜい倒せて2人。そして、くそっ、ヤバイぜ。オレの撃たれた右腕……動脈を切られた。このままだとオレはあと1〜2分で失血死する。あっという間だぜ」
ジャイロの右腕から河の様に血が流れている。
『…ここから逃げられるのか…?この賭博場から外へ……つーよりあいつから…』散財するためとはいえ、地下の賭場に入ったのはマズかったか。「縫わねーとヤバイ。ジョニィ『糸』持ってるか?」
「『糸』だよッ!どんなんでもいいッ!手術する!切れた動脈をとりあえず縫っとかねーとヤバイッ!」
応急処置をやらないとヤバイッ!
「こ…ここにはないよジャイロ。『ハーブティー』もない。あれがあれば急速に『爪』も伸ばせるが『ハーブのミント』も『糸』もカバンの中だ。荷物はあの『敵』どもの向こう側だ!」
ジャイロがテーブルの陰に隠れていた他の客に話しかける。背景ではなかったのね。
「おい、そこのあんたら。テーブルの下のあんたらだよ……どっかから『糸』持って来てくれねーか!」「『糸』だよ『糸』!あんたらにその辺から『糸』を持って来て欲しい……!!頼む!」
「いいか、ズッコケ野郎のにいちゃん。迷惑なんだよォ。早いとこオメーここから出て行くか撃たれておっ死んでくれよォォ〜〜〜。オレら博打も途中だしよォ。これから女とも待ち合わせしてる。関係のねえトバッちりだぜ」
シャアアア
「その腕時計でどうだ?3〜400万円はするぞ。『糸』一本持ってくるだけで400万円だッ!早くしてくれッ!」
床を滑らして時計を渡したッ!木の実化は大丈夫なのか?
「ジャ…ジャイロッ!そんなヒマはもうないッ」「こいつはッ!!まずいぞッ!!」
ズル ズルリ スルリ
V11の死体が徐々に動いている。
「死体が近づいてくるぞッ!模様の中のヤツらが動かして引きずっているんだッ!回り込んでくるぞッ!」
ジョニィがあることに気付く。
「ジャイロ!死んだヤツらの『銃』が床に落ちたままだ。あの銃の中には弾丸が何発か残っている…ぼくのこの爪弾一発と君の『鉄球』で残り7人を倒すには…」「床の銃を手に入れれば…ここを切り抜けるチャンスはまだある…ッ!」
しかしジョニィが語っている間にジャイロは背景の男と何やら話している。
「銃なんて拾わせてくれるわけがないだろ…やめろ…。今は『糸』がいる。ワザと落ちた銃でさそってるんだ…あれに近づこうとしたら死ぬ……確実に…」
「この状況それしかないだろッ!餌だとわかっても……チャンスはそれだけだ。くそっ!!来るぞッ!柱を囲まれた」目の前に転がる銃は甘い罠。それでも虎穴に手を突っ込むのか?ジョニィ。「来るぞッ!!来るッ!!」
「一勢に出て来るぞォォォー――ッ」
誤字するほどの焦り様ッ!(一勢× 一斉○)
エプシロン、ゼータ、イータ、シータ、イオタ、カッパ、ラムダッ!!次々と跳び出して来るッ!!!
ドゴォォーン
ラスト一発をエプシロンに撃ち込むジョニィ。弾爪は銃を持つ右手首に命中。しかしエプシロンの弾丸もジョニィの左脇腹を傷つける!
後から続くV11が照準をジョニィにあわせる…が、エプシロンが後方に向かって銃を乱射する。そのためV11の動きが止まる。
「『穴』の回転で手首をひねらせたッ!今だッ!拾いに行くぞジャイロ」
しかしジャイロがジョニィの襟首を掴み、柱の陰に引っ張る。
「撃たれると言ったろうが!!伏せてろッ!銃なんぞ無駄だッ!拾えないッ!!」
V11が柱を廻り込んで来る。
グシャア
ジャイロが左手で投げた鉄球がゼータの左脚―弁慶の泣き所を砕く。もの凄く痛そうな表情をするゼータ、敵ながら同情してしまいそうだ。
しかし反撃、ジャイロの右肩に命中する。そして、残りのV11がJ&Jを取り囲む。
『や…やられる…。どっち道追いつめられてしまった…何てことをしてくれたんだッ、ジャイロ。もしかしたら『銃』を拾えたかもしれないのに…。ダメかもしれないが拾えた可能性はあったのにッ!』
今まさに、ジャイロの顔面に向かって致命の一発が放たれようとした時に。
ドガガガガガガッ
V11が横から弾丸の雨を受ける。
「何だてめえらあー――ッ」
と叫んだ最後のV11(だから彼はラムダとなります)の頭も吹っ飛ばされて決着がつく。
驚いたことにV11を射殺したのは、カジノにいた他の客であった。その中には、先ほど冷たい態度をとった男もいる。
「ホイよッ!糸だ」
何と糸まで持って来ているサーヴィスっぷり!
「ジャイロ、これはいったい!?」
「ジョニィ……オレらは使うべきカネを6000万円も持っているんだぜ……!それを思い出せ」
「勝ちたくもねえルーレットで勝っちまったからな。この6000万でこいつらをたった今『ボディガード』に雇った。『殺し屋ども』には『殺し屋』をだぜ。いい取り引きだ…お安い『買い物』だったぜ!」
「おい兄ちゃんよォ〜〜〜この6000万の他に、土地とかビルの権利書もつけるって約束したよな?書類はどこにある?名義もオレのに換えてもらうからなッ!」
「もちろんだぜ、喜んで!」「…ジョニィ、今何時だ?ブレゲの時計も全部やっちまったからな」
「まだ日暮れ前だ、ジャイロッ!日没時間までまだあるッ!」
「カネは全て使い切ったぜッ!ジョニィ」「体がどこも木の根化しねえッ!」
「あの小娘との取り引きもこれで終わったッ!」
さらばシュガー・マウンテン…ってところか。
「オレらの傷は全治7日前後ってとこか?」
カジノの扉を開け外に出るJ&J。銃が火を吹き、弾丸が飛び交ったこの空間を鉄火場とはよく言ったものだ。
「この第6ステージのゴールまでには治るだろうが、大統領どもの攻撃がかなり執拗で激しくなって来たな」
「しかも『ホット・パンツ』が今持ってる遺体の『左腕』と『脊椎』、そして『右眼』!ヤツらはオレらが持ってると思い込んでるだろうからな」
「暗くなる前にこの街を出よう。次の追ってもすぐに来る」「ジャイロ?」
ジョニィが振り返るとジャイロの姿が見えない。しかし周りを見ると…
「ジョ…ジョニィこれは?」「こ…これは……どういう事だ…!?ジョニィ、木の根化してるぞ!!壁に木の根が…」
「どういう事だ!?壁に引きずり込まれるッ!あの小娘ッ!『木の根化』が全然止まってねェッ!!」
引きずり込まれたジャイロから『遺体の右腕』がこぼれ落ちる。
「金額は全て使い切ったッ!手に入れたカネは全て日没より前に」「でもあの『泉』で手に入れたものは……」
「全部じゃあないッ!まだ全部使い切ってはいないッ!!」
ジョニィが自分の顔から『遺体の両耳』を出す。
「ジャイロッ!君が『泉』で手に入れたものだ!君が『泉』にウサギを投げ入れて手に入れたものだッ!」
『ぼくの体は…木の根化していない……ジャイロだけだ…ぼくの体はまだ無事だ…』
「ぼくらは『遺体』をまだ使い終わっていない!!『泉』で手に入れたものを日没までに全て『使い切る』というならこの『遺体』もそれの中に入っているんだッ!」
身体を裂かれるように引きずり込まれるジャイロ。
『『日没』だ……『使い切る』ッ!?……無くせというのか!?この『遺体』をゼロにしろと…!?』
『…い…イヤだ…!!』
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