‘04 37+38号  #20 ツェペリ一族


 右大腿部からそのまま右顔面を経由して真っ二つにされたベンジャミン親父。
「これはッ!!?」「ぼくの手がッ!?………!?」
「いったいジャイロ!?どうなってんだ!?これはなんなんだ!?ぼくの指の爪がッ!もう止まってるが…」
 磁石化したため互いに引き付けあいあやうく肉体が破裂しかけたジャイロ、ティム、ジョニィの3人。この危機を救ったのはジョニィであったが、何がどうなってどうやったのかはジョニィ自身もわかっていない。
「どういうことなのか見当もつかないぜ……そんなの鉄球の回転の技術じゃあねえ!!」
 ジャイロにも謎の現象らしいが、ティムだけは何かを勘付いたらしい。
「まさか……ジョニィ・ジョースター…それは」

よくもきさまッ!父さんのことををををををををを――――――ッ
 激情にかられたL.Aがジョニィの背後から組み付く。そして4本の指を延長させたかのような砂鉄つくったナイフをジョニィの首筋に突き立てる。
「血管ブちぎれてくたばりやがれェエエエエ――――」

 瞬間ッ!再びジョニィの左手の爪が回転し、それどころかジョニィ自身がL.Aを中心として回転し宙に舞い上がるッ!
L.Aの左手の指と左足の爪先を斬り落としたジョニィ…。
「バ…バカなッ!ぼ…ぼくが!ぼくの体がッ!歩けない…足が…!!」
「と…飛び上がった……!!そんな、まさか」
 ドサァアア…と砂の上に落ちるジョニィ。
「やったッ!まとわりついてた砂鉄が落ちたぜ。ヤツらの鉄の能力ッ!磁界が消えたッ!!」
 立ち上がるジャイロとティム。
「ジャイロもう一度聞く」「なにが起こってるんだッ………!?ぼくの指はッ!?」
「誓っていう!オレにもさっぱりだぜ。オレの知らない『回転の力』だ!オレの方がどうなってるか聞きてえッ!」
「ジョニィ・ジョースター…それが技術(テクニック)以上のものだとあんたがいうなら…間違いない…『スタンド』だ!」
「あんたは影響を受けたんだよ……『悪魔の手のひら』のな……」
「おそらくこの砂漠はそのエリア内だ。オレたちは知らず知らずにそこにいた!」

「走って行った馬を呼び戻せッ!ここが『悪魔の手のひら』なら早いとこ走ってここを出なくてはいけない!」
「なぜ悪魔の手のひらがここにあるのか!?……偶然かもしれないし、『土地』の方がオレたちをひっぱったのかもしれん」
「恐らく後者だろう……」
「早く馬に乗れッ!地面が動いて地形が変わるぞッ!」
「すぐに脱出しないと迷いはじめるッ!水場なんてどこかわからなくなるんだ!!」
 
なぜか悪魔の手のひらに居たジャイロたち。土地が3人をひっぱたのか、それとも3人のほうに土地が寄って行ったのか…恐らく後者なのでは?

待ちやがれェェきさまらぁあああああああ
 手足を斬られ身動きができなくなったL.Aが父親の亡骸を抱き、涙を流して叫ぶ。
復讐してやるぅぅううう〜〜〜〜ッ、おまえら絶対に許さねぇぇぇぇ

「ほっておけ……」
「ブンブーン一家はもう終わりだ…あの傷じゃあこの砂漠から出られない」「明日の昼には水さえ残ってるかどうかだな…救援隊にも見つからない」
 馬に乗り込み出発の仕度をしたティムが言う。

ジャイロ・ツェペリィィ〜〜
「どうせおまえはゴールまで行けっこねえんだからよォォォッオオオーーッ」
「おまえの命を狙ってんのはぼくたちだけだと思ってんのかァア!?」「違うだろォ〜〜がよォオオオ」
「あんたの『国』のやつに聞いてみなッ!」
 ジャイロは反応しない。だが空気が張りつめたことにジョニィも気づく。
「おまえの命を狙った理由は…おまえの順位が1位だからだけじゃあねえ!」
「おまえが死んだら『20万ドル』やるってあるヤツにいわれたからだッ!」
「おまえの首には懸賞金がついてんだからなッ!!」

「なにしてるッ!急げ2人とも!来た時の足跡が消え始めている!!地面が動いているんだッ!」
 ティムに促され、悪態をつくL.Aを残し去るジャイロとジョニィ。L.Aの慟哭が砂漠に響く…その叫びからアンドレもすでに死んでいるようだ。

 砂漠の岩山を背景とし、石の陸橋の下をくぐりコースに復帰しようと駆ける3人。
「ジャイロ…!『「国」の人間に命を狙われている』っていったいなんのことだ!?」
「あのL.A・ブンブーンの言ってたことはいったいなんなんだ!!?」
 ジョニィがジャイロに質問をする。
「おまえには関係ないと言ったろう!」
 硬い態度を固持するジャイロ。
「いや質問には答えてもらうぞッ!ぼくには聞く権利があるッ!今、命を失くしかけたんだからな……」
「しかも思い返すとあのミセス・ロビンスンッ!彼もきっと実のところあんたの賞金を狙って追って来たヤツだったんだッ!」
 ティムも気になるのか横目で2人の会話を窺(うかが)っている。
「あんた、なんのためにこのレースに参加している!?」
「ツェペリ法務官てなんなんだッ!?」
「あんたの持ってる新聞記事と関係あるんだろう…………話してもらうぞッ!


『男には地図が必要だ。荒野を渡りきる心の中の『地図』がな』


これが父親の口ぐせだった。
ジャイロ・ツェペリの父親が月に1度か2度『国王の使い』に呼び出される朝
きまって母親は無駄な口をきかずほんの少しばかりの魚料理をこしらえた。
そして、ひと切れのパンとグラス一杯のワインとともに食事をし、
父は国王のもとに出かけて行った。
その時、必ず『王の使い』の者はジャイロに向かって
「ジャイロ…今いくつになった?」
…とだけ聞いた。
父親の仕事は医者だった。
自宅の診療所では貧しい者も金持ちも分けへだてなく診察していた。

 とある『国』での物語。ジャイロの過去の物語である。
厳格な父、美しい母、かわいい弟妹。ジャイロには家族があった。
 9歳のある日、ジャイロは書斎にいる父親に呼び出される。
「ジャイロ、ここに来なさい。もっと近くへ…」
 父親がさしだした右手には、手のひらに入るサイズの鉄球がチンマリと座していた。
「おまえ、この握った手の中の『鉄球』をどう取り上げる?」
 将軍様が出す難問に考えこむ一休さんのようにしばらく思いつめるジャイロ……すると、

ガンッ   ドサドサドサ

 本棚の本を落とし、さらに父親の右腕に噛み付く暴れ一休ことジャイロ。
「うおおっ!そうじゃあないだろ!ジャイロ」
「イカサマじゃあないッ!汚い手を使ってどうするッ!」
「回転の話をしているのだッ!回転で握った拳の中からどう取り出すって話だ」

「そんなの無理です…父上」
 まだ息の荒いジャイロが答える。
「いいかジャイロ…おまえ、馬に乗って遊んでばかりいるが、鉄球の回転は必ず覚えなくてはならない」
「13歳になるまで全てできるようにならなくてはならん。わたしもわたしの父から教わったし、おじいさんもそのまたお父さんから教わった」
 質問する幼時のジャイロ。
「なぜですか?鉄球と…ぼくのおじいさんやぼくのひいおじいさんとどういう関係があるのですか?」
「ツェペリ家の男はみんなそうして来たからだ…お前なら必ず出来る……もう行っていいぞ」
 ジャイロが部屋から出て行く刹那、父上がボソリと呟く。
「手の中からとりあげるより中へ入れる方が簡単だ」
 ふと気づくジャイロ…自分の左手の中に回転している鉄球があるッ!
「…うそっいつの間に」

「ジャイロ、今いくつになった」
「13歳です」
 そして問題の「13歳」になったジャイロ。前髪をリーゼントのように立てている…仗助と気が合いそうだ。

ジャイロ・ツェペリが13歳になった時………
ジャイロは父に「今日はわたしといっしょについて来るように」
…といわれ、母は黙ったままなぜかジャイロにキスをし…、
母の作ったほんの少しの魚料理とひと切れのパン、そしてグラス一盃の
ワインで食事をとった。
ジャイロと父親の乗る馬車は、国王の城の北西に位置する
とても塀の高い建物の中に入っていった。
そして中に着くと父はジャイロにやさしくこういった。

「男には地図が必要だ……荒野を渡り切る心の中の地図がな」
「いいか、おまえはツェペリ家の長男だ…家族は守らなくてはならん」
「人の幸福とは家族の中にこそあるのだ。家族を守ることが国を守ることにつながり、家族がバラバラになるという事は先祖を…そして未来の子孫を軽蔑することにつながるのだ」
「それを忘れるな」
「今日からおまえにわたしの仕事の助手についてもらおう」
「この仕事は380年前、当時の国王によって授かったものだ…我がツェペリ一族代々に課せられた任務……王の代が変わっても続いて来た。厳粛な気持ちで臨むのだぞ」
 上着を脱ぐ父上。胸に大きく紋章が描いてあるローブが現れる。
 クエスチョンがいっぱいの13歳ジャイロ。
「仕事?助手?」「この建物にはいったい何があるのですか?」

 その時、建物の奥が騒がしくなる。
いやだぁあああああ呪われろオォオうおおオォオオオ
「法務官!中庭へ参られい!お願いします」「手がつけられません、あばれもがいております!」
 何者かの怨念の言葉が建物に響いている、それにしても命令型なのか敬語なのか混乱しているセリフである。
「ジャイロ!おまえはここで待て!あとで指示する」

 そう言うと目だけが覗いている顔をスッポリ覆うマスクをかぶる父上。
そして腰のホルダーから鉄球を取り出し、同じ格好をしている者から剣を受けとり鉄格子の奥へ向かう。
鉄格子の奥に展開される光景に呆然とするジャイロ。
 後ろ手に縛られてガッチリと拘束されて跪かされている。頭の下には樽がある……。
「動くな、心を静かに保て!」
 暴れる男の背中に鉄球を置く……そして…

ス パ ア アァァァ ン     ゴロン

 剣を振り下ろした父上。血まみれの剣。何かが転がる音。
鉄球を回収しジャイロに血まみれの剣を差し出す父上。
「おまえが剣を洗い清めるのだ。お前の仕事は…ここから始まる」
これがツェペリ一族380年の任務

法治国家に『死刑制度』のある限り必ずそれを執行する者が存在する。
20世紀以前のヨーロッパでは死刑執行の職は厳格に国家の任命を受け要職とされ
そして世襲制をとっていた。つまり――
死刑の執行を命じられた者はその高い地位と収入を
保証されるが、親から子へ…子から孫へ……!!
その責任と技術を受け継いで行く職業とされたのである
人間はたった一点の傷で死に至る……
だが多くの場合、生命力はとても強靭なものであり
人を確実に死に至らしめる行為にはそれなりの技術が必要である
罪人とはいえ苦しみがなく人としての尊厳を与え
一瞬のまばたきの間に人間を処刑するのは達人の域に至っていなくてはならない
人間の急所はどこなのか?
骨などに邪魔されずどこを切ればよいのか?
死刑執行人は人間の肉体を知りつくしていなくてはならない
決して2度目の打撃は許されない
ミスることのないために
彼らは医術を学び、戦闘術を体得した
肉体を平静の状態のあるように
ツェペリ一族は鉄球の回転を生み出した
鉄球の回転は苦痛ではなく『穏やかさ』のためにあるのである
そして一族は代々に渡って発展させて来たのだ
『死刑の執行』
これがツェペリ一族の宿命だった……
そう!……
ジャイロ・ツェペリが25歳になった時
彼は父の地位を受け継がねばならなかったのである
『跡継ぎ』として!
何も問題はなかった…あのままであったなら……
貴族の館でクツをみがくだけの職についた少年――
『マルコ』に死刑の判決が確定するまでは………

今週のめい言

「あんたの国のやつに
 聞いてみなッ!」

○なんと祖国から暗殺の的にされているらしいジャイロ!その理由は、ただ反逆者の家で働いていたというだけで死刑にされるマルコを救うために国を逆らったためでしょうか。マルコの傍らに立っていた剣を持っていた人物はマルコに迫る危機ではなく、未来を救おうとする希望の使者だったのです。

「人間を処刑するのは達人の域に到っていなくてはならない」。人の首をはねるのは思ったより難儀な作業である。骨、肉、筋の抵抗は馬鹿にできない、斬首執行人が剣の達人であることは間違いないでしょう。ただし医術に関しては、医術に詳しいから執行人になったのではなく、執行人になってから医術に詳しくなったと思われます。なぜなら、医術の発達には死体の解剖が絶対必要であり、死刑執行人はそこに関してかなり有利な立場であるからです。

○そして執行人に必要なことはもう1つ、心理術というものがあります。首を切りやすくするために囚人をリラックスさせる必要があります。

○こんな話があります。ある囚人の首をはねようとするのですが、首を切られる恐怖のためその囚人は暴れています。それを見た執行人は「こんな状況では処刑は無理だ。今日は辞めよう」と言いました。それを聞いた囚人は胸をなでおろして、身体の緊張を解きました。その瞬間、執行人は囚人の首をスパッ!囚人が安心してリラックスするために処刑人はあのセリフを言ったのです。

○つまりツェペリ家の鉄球は囚人にリラックスを与えるものだということでしょう…つまり神父の言葉に匹敵する物なんでしょう。そして恐ろしいのは、これは鉄球術のほんの一面でしかないところです。

○日本で有名な首斬り処刑人といえば首斬り浅右衛門こと山田浅右衛門です。彼らは徳川幕府において大きな影響力を持っていました。調べていないので私見なのですが、ヨーロッパで首斬り処刑人が高い地位を持っているか疑問です。物語内でも、ジャイロの父上が表向きは医者であり、また処刑の時は身元を隠すようにマスクをかぶることから、処刑は明らかにの仕事です。高い報酬はもらっても高い地位につけるものなのか…?逆に薄汚い殺人者と思われているのでは…?

○ちなみになぜ首斬り役人の山田浅右衛門の力が大きいかと言うと、浅右衛門は幕府から永代的に処刑した死体を譲り受ける権利をもらいました。その死体でなにをしたのか?趣味の死姦です…大嘘です。本当は刀の試し斬りです。平和な時代に、人体を使って刀の試し斬りをしたいのならば浅右衛門に頼むしかなくなるというわけです。

○資料を読むとスゴイですね。おびただしい数の刀のデータを浅右衛門(ちなみに山田浅右衛門という名前は世襲されます)は持っています。刀で身体を斬るだけではなく、腕を斬ったり足を斬ったり肘を斬ったり膝を斬ったり、死体を何体も重ねて斬ったり、落とした頭を突いてみたりとあらゆるデータを収集しています。ご存知のように、武士にとって刀は魂ですからその刀の情報を多く持っている浅右衛門が大きな影響力を持つのは必然でした。

○さて最後に、L.Aはどうなるのでしょうか?能力をレヴェルアップさせて「悪魔の手のひら」を脱出して再登場してほしいものです。ではでは。

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