さまよう心


 全てが終わった日。勝利を手にした日。
その日の夜に解放軍のリーダー・ヤヒロさんはいなくなってしまった。
お祝いそっちのけでみんなで探したのに。


なんで・・・・・なんで何も言わずにいなくなってしまったの・・?


 僕にとって、今頼れる人はヤヒロさんしかいなくって。そりゃあ、この先
ずっと一緒にいれるとは思ってなかったけれど。
 ・・・・何も言わずに去っていくなんてひどいじゃないかよ・・・・。

 城内は賑わっているのに、僕はその雰囲気に入り込む気にはならず
外の空気を吸うために城外へ出た。
 草むらに座り込みじっと空を眺めると、今夜は満月で怖いくらいの輝きを
放っていた。ブラックがいた頃はあの空をかけまわっていたのに。自分の
したことが招いた結果だとしても、ブラックを失った事実は僕の人生の中で
一生トラウマになること間違い無しだな・・・・。

 思わず悲しくなって目尻に涙がたまってくる。(最近泣いてばっかりなのに、
涙ってのも枯れないもんなんだなあ・・・・)その上ヤヒロまでも
いきなりいなくなっちゃってさ・・・。僕だけが仲良くしてると思ってだけで、
あっちはむしろ迷惑だったって訳?なんだよぉ・・・・。

 ぽろぽろと落ちてくる涙が止まらなくって、もう流れるままに泣きつづけた。
なんだかわからないこの気持ち。ヤヒロに対するこの気持ちは一体なんだろう。
もやもやして、胸が苦しくって、すっごい変な感じだ・・・。





 その時。背後から声をかけられた。
「・・・・何泣いてるのさ。」
「!!!!・・・ルック・・・」

 いつも僕をいじめてた(他の人からみれば仲良く見えたらしいがとんでもねえ)
ルックがいつのまにか後ろに立っているではないか!!全然気付かなかった!!
こんな泣き顔みられてすっごく恥かしいけれど、涙は全然止まらない。日頃なら
すぐケンカになる所だけれど・・・。もういいや、我慢なんかしたくない。

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、ヒッ・・ク,ル・・ック〜〜〜〜〜〜」
「すっごい顔しちゃってさ、・・・全く。」

 ルックは隣に腰をおろした。今の僕には何かすがるものがとにかく欲しくって
ルックによっかかる。不思議なことにルックがそれを拒まなかった。

「何・・・?全部いってごらんよ、今思ってる事。」
「ヒッ・・・ッ・・うう・・あのねえ・・・・・・・ッ」
ルックに肩を抱かれて僕はルックに身を任せた。すがりついて泣き叫ぶ。

「・・・なんでヤヒロさん、なんにもいわないで出てっちゃったのかなあ・・・。
なんでっ・・・っっ・・・」
 涙は相変わらず止まらなくて、もはや嗚咽のせいで声になってないかもしれない。
それでもルックには伝わったようで。

「・・・やはりアイツのことか・・・」
「だって・・・あんなに一緒にいたのに・・・っうぇ〜〜〜〜〜〜〜〜・・ん」
後はもう泣く事しか出来なくて。震える僕の肩を抱きしめて、ルックはずっと黙っていた。

 そして、ふと言葉をつなげる。
「・・・・・・・・・・・フッチは、ヤヒロの事を考えるとつらいんだね?」
「・・・・・?」
「・・・・・・忘れさせてあげようか。」
「・・・え?」

 僕は言葉の意味が分からなくて、泣きながらも首をかしげる。
「今の君の心はとてももろい。タダでさえ傷ついている心をヤヒロがトドメをさしてしまった。
・・・・だから、今だけは楽にしてあげる。」

ヤヒロの事を忘れる?忘れたら楽になれる?このヘンな気持ちも取り除かれる?
・・・・・・・・・・・だったらそうしてほしい!全部忘れてしまいたい!!



 ・・・・・・・ホントに弱ってた、僕の心がだした結論は・・・。
「うん・・・・・お願い・・・・・・・・・」

 ルックは一瞬驚いたような顔をしたが、僕のオデコにゆっくりと手のひらを
あてがうと、優しい光が溢れ出して、・・・・・僕はそのまま意識を失った。




 次に目覚めた時は、もうヤヒロのことを忘れてるのかな・・・・・。
別にいいもん・・・どうせあっちだって忘れてるんだから・・・・・・。






 ルックが気を失ったフッチを抱えあげて、その場を去ろうとした時。
気配を感じて後ろに振向く。

「・・・・・レックナート様。」
「ルック、迎えにきました・・・。」
「・・・・・・・・わざわざありがとうございます・・・。」

 内心やばいところみられた、とルックは舌打ちをする。レックナートは
全てがわかっているようで。
「禁呪とわかっててその呪文を使ったからには、よほどの思いがあってのことなの
でしょう。・・・・・・・・・でも、わかっていますね?」
「・・・・はい。」

 最終的には人の心には呪文など通用しないのだ。
フッチが一時的に忘れたとしても、いずれ・・・・また思い出してしまうだろう。
それにフッチが一度でもヤヒロに惹かれてしまったということは、再会でもすれば
また心惹かれてしまうに違いない・・。

 そんなことはわかってる。でも目の前で泣きじゃくるフッチをみて、せめて一時的でも
救ってあげたかった。

「もう・・・・帰りますから。」
「ええ・・・・」

 それだけ言い残してルックはフッチを抱えあげたまま城内に戻った。部屋まで
連れて行きベットに寝かせ、寝顔をみやる。涙のあとが頬に幾すじも残っており、
ルックの手で拭ってやる。

(さて・・・・もう行かなきゃな・・・・)

 時間が迫ってきてるルックは、最後にフッチの耳元に唇を近づけると。

「・・・安心しな・・・・キミは起きてもヤヒロのことは忘れてない・・・・。」



 僕が奪ったのは、ヤヒロへの・・・・・・・・恋心だけだから。

キミがもっと強くなったら、返してあげる。それまでは・・・・・・。



 それだけを言い残して。ルックも一瞬にして、姿を消した・・・。