rain
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(うわあ、予想通り大雨になっちゃったか・・・)



羽深は窓ガラス越しに外の風景を眺めながら、ため息をついた。
どうしても立ち読みしたい本があって長い間本屋で集中していたら、
気づいた時にはどしゃぶりの雨となっていた。

(確かに朝から天気悪かったもんな・・・)

日曜の朝だというのに晴天どころか雨雲が流れ出していた。
それなのに傘も持たず家を出たのは馬鹿だったかもしれない。

(仕方ない、走って帰るか。傘買うのもったいないし。でもどっちみち
びしょ濡れになるのは走っても同じ・・だったらいっそ歩いて帰るか)

開き直った決意をして、本屋から一歩足を踏み出した時。

「・・・・濡れるぞ」

羽深の横に大きい影が出来る。ふと右横を見ると、黒い傘をさした海老原が
立っているではないか。

「・・・・え、・・・・・びは・・ら?」

「・・・・入っていくか?」

思わぬ人物の思わぬ申し出だった。

はっきり言ってこの人物に嫌われているんじゃないか、と思っていたし、
自分的にも全然関心がなかったので。

いや、関心がなかったのはほんの一ヶ月前。

ある試合をきっかけに・・・


今は、名字くらいは・・・・・知っている。・・覚えている。



「どうした?」
「・・いや、入れさせてもらうよ」

せっかくのお誘いだったし、正直濡れるのは嫌だったので遠慮なく入らせて
もらうことにした。多少の緊張を覚えながら。





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「本屋で買い物してたのかい?」
「ああ。ちょっとな・・・」


歩き始めて5分。

羽深は早速後悔することになる。

人をからかったり観察するのが大好きな上に、結構饒舌な羽深としては、
あまりにも無口な海老原の反応に苛立ち始めていた。話を振ったとしても、
返事が一言で終わってしまうのだ。

(やっぱこいつ、オレのこと恨んでるかも・・)

人に恨まれるのは慣れっこだし、自分が毒舌なのだってわかってる。




あの試合の直前。・・・屋上で海老原に言った言葉が頭をよぎる。


『セレクションで落とされた奴の事なんて・・・

覚えてるわけないだろう?』

『掃除だよ

システムにこびりついたカスのね』


別に反省なんかしてない。何を言ったかなんて全部覚えているわけでもない。

・・・・でも海老原の反応はちゃんと覚えている。

今はこんな無表情なのに、

あの時は・・眉をしかめて敵意のある眼差しを自分に向けていた。



しかし、今日のこの展開を申し出たのは海老原の方。

(一体・・どういうつもりなんだよ・・ったく)

ここで黙って終わらす羽深ではなかった。海老原の方に向き直って一言。

「何か話題を振れ」
「・・・・話題?」
「そうだ。オレがつまんないだろう」

いきなり強気になった羽深の率直な発言に、一瞬海老原の眉が動いたが、彼の
反応はあくまでもそれだけだった。


「おまえ反応うすい。無口すぎだよ」


どーせ、オレに対してだけそーなんだろ?と付け足したかったが、なんだかそれを
言ってしまうと負けた気がするので、口から出る前に押しとどめた。

「・・・すまんな、こういう性格なんだ」
「嘘つけ!!・・・東野とはよく・・・しゃべって・・・」

羽深はうっかり「東野」の名前を出してしまい、心の中で舌打ちをする。
その後悔が、「語尾が小声になる」という形で表れた。

こんな、子供の嫉妬のような発言をかましてしまうなんて。



「・・おまえだって、城戸の時とは明らかに口調が違う。」



しかし海老原の返事も似通ったものだった。


「・・・・はああ?」
「だから、そういうもんなんだ」
「そういうもんだって・・・そりゃ、キヨとおまえは違うんだよ」
「オレだって、おまえと東野は違う」

一瞬、羽深がむっとしたような。
海老原はそう思ったが、羽深に限ってそれはないかと考えを改めた。
その直後に、羽深が意地の悪い笑みを浮かべたから。


そう、あの屋上の時のように。


「おまえさ、言いたいことがあるならはっきり言いなよ」
「言いたいこと?」
「ああ」

海老原は少々悩んだあと、あくまでもマイペースに返事をする。
「・・・特にないが」
「・・・ふーん」


羽深はチラリと一瞥すると、いきなり雨の中に飛び出した。


「居心地悪いからもういいや。んじゃね」
「・・・・・・・羽深」

その場を去ろうとした羽深は、海老原の呼びかけに少しだけ体を傾ける。

「・・・・・何?」

「気にしているのは、むしろお前の方なんじゃないか?」

「・・・・・・・・」

羽深は不愉快そうに眉をひそめる。


「お前は今日・・・オレと会った瞬間、オレを名字でちゃんと呼んだ。

・・・・・・・それだけで満足だ」

「・・・・・・・・・!」

やっぱり、海老原は忘れてはいなかった。羽深の言った、侮辱の言葉を。


『セレクションで落とされた奴の事なんて・・・

覚えてるわけないだろう?』


海老原のことなんか、全然知らなかった。覚える気もなかった。
海老原は確かにどんな形であれ、自分のことをずっと覚えていたのに。



羽深は雨に打たれながら海老原の方に向き直り、ふと彼の右肩に目を留める。

傘からはみ出していたのだろう、そこはびっしょりと濡れていた。

羽深が濡れないよう、傘を羽深の方に傾けすぎた結果であった。








再び海老原が傘を傾けてきたので、羽深もそれ以上はもう、何も言わなかった。




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ひ  ど  い 話ですね(;´д`)
とても難産でした。
っていうかこれ絶対羽深違うだろ!
テーマ:「海老原君の不器用な優しさ」
そんなものを他人に与えられたのは初めてな
羽深は、戸惑いを覚えてしまうという・・青春(゚д゚)=3

ちなみにこれはB対F試合後の話です。
羽深の海老原君評価はかなり上がってると
予想しておりますが・・いかが?

それとですね、羽深は一人称使い分けてますよねー
キヨ相手には「僕」、強気な時は「オレ」
え、考えすぎですか?

今後の原作の展開次第では速攻
削除のお話です。







>>モドル