不自然な日常
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物心ついたころからずっと一緒だったので、むしろ離れて暮らすという事の方が
不自然だと、・・いや、そんなことすら考えずにいた。

しかしその不自然が、鷹取一中に編入した時から日常化し始めていた。




「ただいまー」
「おかえり。もうご飯出来てるわよ。今日はあっくんと帰ってきたの?」
「・・・いや。」
「あら、最近は寂しいわね。朝も迎えに来なくなっちゃったし」
「・・・着替えてくる」

オレは母ちゃんの言葉を無視して部屋に戻った。
部屋にまで良い匂いが流れてくる。今日はカレーだなと思いつつ学ランを脱いだ。

食卓で適当に話しながら夕飯をたらふく食ったあとは、宿題なんかやる気も
起きずベットに寝転がる。手を伸ばした先には暁から借りた漫画が投げてあった。

「あー・・返さねえとな・・」

と思ったって、アイツはまだ帰ってきてないかもしれない。実際昨日も前もそうだった。
バスケのチームが別れてからとにかく暁の行動範囲がつかめなくなっている。
暁もオレを変に気遣ってか、オレらの間での隠し事が少しずつ増えてきた。

・・・気遣う?
それが逆にオレを苦しめてんのがわかんないのか、あの馬鹿は。


先日、本を返そうと夜の9時に暁ん家を尋ねたら、まだ帰ってきてないとおばさんが
言う。暁はほっとくと無茶しかねないし(一晩校庭300周がいい例)おばさんも
心配してるっぽいので、コンビニ行きがてらちょっと迎え行ってきますと告げ
夜道を歩いていると向こうから見慣れた人物がのこのことやってきた。

「オセえ!!」
と怒鳴ろうとして、声がつまったその理由は。

・・・・何故か化学部(海老原・・だっけか?)が一緒にいたからだ。

「あ、キヨちゃん!!」

オレに気付いた暁がいつもの笑顔でオレに走りよってくる。
無性にハラがたった。暁に・・いや、海老原に。

側にきた暁の腕を掴み、オレの後ろに引き寄せた。
「なんで・・化学部が一緒なんだ?」
オレはつい睨みつけてしまう。

返事をしたのは海老原だった。
「・・・そいつを一人帰らせるのはなんだか危険な気がしてな」

もっともな意見だ。しかし、その答えに尚更怒りが湧上がる。

「暁は男なんだから危険も何もねえだろ!」
心にもないことを叫んでしまった。ヤツも顔をしかめている。

男だって危険な世の中になってることくらいわかってる。ましてや、
か細い暁なんだぞ?危険すぎるに決まってる。

ただ、・・・海老原が暁を守るように隣にいる姿が許せなかったんだ。

「え、海老原君こっちが家なんじゃないの?」
「いや、オレは三丁目の・・」
「うわ、ごめん!!僕送ってく・・」
「「それじゃ意味がねえだろ」」

天然な暁の反応に思わず二人でつっこみを入れてしまった。
・・・ますます気に食わねえ!!

「・・・迎えがきたんならもういいな。それじゃ東野、また明日な。」

あっさりと引き下がる海老原相手に暁は何度もお礼を言っていた。



「キヨちゃん、迎えにきてくれたの?」
「いーや。コンビニ行く途中だったんだよ」
「・・・・ならコンビニあっちだよ」

暁は反対方向を指差した。
「うるせえな!!」
「・・・ごめん」

久しぶりの二人の会話がこれかよ。しゅんと下を向く暁を横目で眺め、
自分の心無い返答に苛立ちが込み上げた。

・・・いつまで続くんだ、こんな状態が。


しかもそれ以来、また二人になる時間がないまま日常が過ぎていく。
今日もどうせ海老原が送ってきてんだろと思うと、外に飛び出す気力もなく。



いつのまにかうとうとし始めたオレはそのまま眠ってしまい・・・

・・・・・・・・小学校の頃の、毎日暁と一緒だった頃の、夢を見た。





「うちのクラスの伊藤、隣のクラスに好きなヤツがいるらしいぜ。」
「ふーん」
「・・なんだ、キヨはホントこういう話に興味ねえなあ」
「あー、どうでもいいな」

恋愛話に興味を持つ年齢のオレ達は、今日もどこかでこんな話で盛り上がっている。

ま、オレはどうでもいいんだよ、ホントに。そんな話よりも校庭でバスケしてる方が
圧倒的に楽しいぜ。

「キヨと暁はお互いがいればそれでいいんだよ」
「あーそうだよなー」

悪友どものいつものからかいにももう慣れた。バスケットボールを人差し指の先で
くるくると回してみる。

「オレさ、暁にも聞いてみたんだよ」
「え、何を?」
「好きなヤツいるかって」

・・・・・暁に聞いたのか。
妙に大人ぶりたいお年頃のヤツらはいつもニコニコ笑ってる暁をガキ扱いする節があり、
「暁にはまだわかんないよなー」とか言って恋愛話をふらないヤツがほとんどだったはず。

さすがのオレも耳を傾けてしまう。

「それがさ、なんて言ったと思う?」

1人がにやにやしながらオレを見る。

ま、まさか・・・・

他のヤツラもやっぱりなと顔をあわせてほくそえむ。


「キヨ!!!!!!!・・・・とバスケだってさ!!」


オレは思わずボールを落としてしまった。
周りは爆笑の渦となる。

「なんだそりゃ!!『キヨ』ならわかるけど、バスケってもはや人じゃねえ!!」
「暁らしいな!」

オレも苦笑いするしかなかったが、あまりにもヤツラがシツコイんで
落としたボールを拾い上げてヤツラに投げてしまった。

「いいかげんにしろォ!!」
「うわ、キヨがキレた!!」



・・・オレが暴れだしたくらいの所で目が覚め始め・・・・
少しずつ、現実世界に引き戻されてしまった。

まだうつろな眼差しを天井に向けながら、あの時の記憶が反芻する。



その日の帰りの会にてつるし上げを食らったとか、途中で現れた暁の顔を
気恥ずかしくてまともに見れなかったとか。



・・・・・笑顔でオレのことを「好き」と言ってくれた暁の勇気とか・・

今のオレには、痛いほど懐かしかった。




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今後の展開次第で書き直したり
するかもしれませぬ(;´д`)





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