初めて見た時から、お互い好印象だった。 外見、中身、そして部活が一緒でバスケの技術も確かであったこと。 2人は当然のごとく、一緒に行動することが多くなった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ Over 長い間会話をかわしているうちに、穂村は羽深の二面性に気付く。 それでも特に気にすることなく、穂村が羽深の傍を離れることはなかった。 最初はただの友達として傍にいた。 友達として見る羽深は、外面は良いくせに自分より格下と判断した者への態度の豹変はすさまじい。 穂村は冷静に羽深を分析し始めていた。 羽深の穂村への態度は変わることなく、対等の友達として接していた。 穂村を自分のレベルに見合った人間として認めていたのだろう。 羽深が内心まで穂村に語るようになるのも、そう時間はかからなかった。 穂村は羽深の愚痴をいつも真面目に聞き、素直に思ったことを返答する。 時にはそれで羽深を怒らせたこともあったが、2人の仲は更に深まった。 穂村は羽深が弱い人間であることに気付いていた。 自信家ですぐに人を見下すわりには、ちょっとのことで動揺し落ち込んでしまう。 それを人に悟られないようにはしているようだが。 羽深は動揺すると、すぐに指の爪を噛み始める。 それに気付いた穂村は、そっと手を伸ばして羽深の行動を優しく諌める。 穂村に弱みを見せることに、羽深は抵抗がなくなっていた。 穂村は段々と、羽深の弱い部分に惹かれつつあった。 2人が中学2年に進級した時、城戸清春という少年が転入してきた。 バスケの実力も申し分なく、性格も非常に羽深の好みであった。 隙あらば城戸に近づき、ちょっかいを出す。身体でぶつかるスキンシップは今までの羽深には無いものであった。それほど城戸のことを気にいったのだろうと周りの部員は解釈した。 それを冷静に見つめる穂村。 城戸もまんざらでもなさそうな態度。転入したての彼には友達もいないはず、羽深の存在は嬉しいものだろう。 しかし。 城戸にはすでに相棒がいた。共に転入してきたのだが、相棒だけバスケ部失格チーム「F」に入れられてしまっていた。 城戸は、相棒が自分の所まで上がってくることを信じて待ち続けている。 いつしか城戸へのちょっかいに、微妙な思いが混ざった羽深。 城戸の態度はいつも通りだけれど、ふと気付くと城戸は相棒を求めて目線をさまよわせている。 羽深は非常に気に食わなかった。 城戸のそれが気に食わなかった。 何より穂村の態度が気に食わなかった。 穂村の態度が、全然変わらないことに。 結局穂村と自分の関係は、自分が思っていた以上に深いものではなかった、と解釈した羽深は、更に城戸に興味を向けるようになった。 しかしここからが羽深の地獄であった。 城戸の心は常に違う所にある。相棒の東野暁のところだ。 城戸の思いは一途だった。決して変わることなく東野を見つめ続けている。 羽深は東野をうらやましく思った。そしてねたましく思った。 自分をこうまで思ってくれる相手はいないと思っていたから 穂村の視線の意味も気付かないまま。 そんな羽深を、穂村は部室で犯した。 穂村の蓄積されたものが一気に放出された瞬間だった。 いつもクールな穂村に押さえつけられる羽深。体格が同じくらいなのだから抵抗すればできたものを羽深ができなかったのは、穂村の恐ろしい気迫におされてしまったから。 穂村はクールなんかじゃない、内に秘めた感情はすさまじいものだった。 穂村に犯された羽深は、涙が止まらなかった。 今になって思いをぶつけてくる穂村に対して、怒りなのか、悔しさからか、屈辱からか、痛みに対してか、・・・もはや理由もわからなかった。 行為の最中、穂村の口から出た言葉は何1つ穂村の本心を語るようなものではなかったので、羽深は穂村の行為の意味を理解しようとはしなかった。 今更探ったところで、すでに遅かったから。 羽深はもう、帝北中に転校を決めていたから。 バスケ部が統合されてからは、城戸と東野はいつも一緒にいた。 B対Fの試合は羽深にしてみれば屈辱でしかなかったし、 東野の実力・・バスケ、そしてそれ以外においても羽深にとって気に入らないことばかりだった。 鷹鳥一中バスケ部を率いていた里見光男の卒業も間近だ。鷹鳥一中はこのままでは落ちていく一方・・何より、自分はもう・・・ここには居たくない。 そんな羽深に帝北中からスカウトがくる。 羽深は冷静に返答した。 羽深は部活に行かなくなった。 誰にも転校の話を告げていなかったし、鷹鳥一中バスケ部の連中には 黙って去るつもりでいた。 だが、真っ先に城戸が来た。 城戸が自分の家の前に立つ姿を見た時、羽深は心から嬉しかった。が、同時に恐ろしくもあった。 自分の裏切り行為を、城戸は怒るだろう。 案の定、城戸に殴られそうになった、その時。 ・・・・・・・・止めたのは穂村だった。 一瞬驚いた羽深。穂村には全てがわかっていたのだ。 しかし裏切りの言葉を吐き捨てた羽深に、城戸と穂村は背中を見せて 去っていった。 これでいい、これで全てが終わったと羽深も背を向けた。 しかし、最後に一言だけ 数日後、部活の帰り道。夕暮れのオレンジが照らす淡い光の下に、 羽深が立っていた。 穂村も足を止める。 ほんの少しの間だけれども、肩を並べて歩いた。 「穂村は・・・・」 「・・・・なんだ?」 穂村の声は初めて会った時と同じ、優しいものであった。思わず全てを 話してしまいたくなる、そんな深い音色。 それをグッと飲みこむ羽深。 「・・・バイバイ」 「・・・?」 「バイバイ、穂村」 「・・・・」 穂村は静かに、ゆっくりと羽深へ瞳を向けた。 羽深も真っ直ぐに穂村を見つめる。 やっと、お互い真っ直ぐに見つめあうことができたのは、 2人の、最後の時だった。 2人とも、お互いに恋心があったことは自覚していた。 ・・・・・今、自覚できた。 羽深が背中を向けて、離れていく。 穂村はその場に立ち尽くしたまま。 2人は最後まで思いを告げることなく、その場を後にした。 誰に知られることもなく、静かに底に沈めたまま |
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