いくじなし

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小さい音だけれども、誰かが走り去って行く音が聞こえる。
廊下をパタパタ・・・段々と遠ざかっていく。

もしかして、晶ちゃん・・?まさか、ね。

そんな僕は、今放課後の教室で

晶ちゃんでない他の人と・・・キスをしていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・




「なあ隣クラスの木地って知ってるか?」
「木地ぃ?・・ああ、知ってるぜ。オレより明の方が仲良かっただろ。」

いきなりのクラスメートの話題に対し、晶ちゃんが僕に話を振ってくる。
確かに木地くんと僕は一年の時クラスが一緒で、図書委員も2人でなったから・・
結構仲良かったんだよな。

晶ちゃんとは正反対の性格で、静かだけれど・・マイペースで、
なんだか頼れる存在だった。
あ、別に晶ちゃんが頼れないって言ってるわけじゃないんだよ。

クラスが違っちゃった今だって、教科書借りたりとか手頃な仲は続いている。
その木地くんがどうしたっていうんだよ?

「転校するらしいぜ。ただでさえ人数が少ない学校だってのによぉ」
「この時期に転校ぅ?受験間近だぜ?」
「だからこそ早めに行って向こうに慣れるんだろ。
高校もあっちの受けるに決まってんだから」

晶ちゃん達の話題を横で聞きつつも、ちょっと寂しい気持ちになる。


そっか、木地くんいなくなっちゃうんだ・・・


「僕、ちょっと挨拶行ってくる」
「へ?もう早速か?」
「うん。晶ちゃんも来る?」
「・・・オレ、名前知ってる程度だし。別にいーや」

・・・嘘だ。ホントは仲悪いの知ってるよ。
そして、仲が悪いのは・・きっと、僕のせいなんだろうな。


休み時間はあと10分。早く行って事の真相を確かめなければ。
急ぎ足で教室を飛び出して、隣クラスに顔を出す。


「きーじーくん・・木地・・って、わっ」


いきなり後ろからポンと肩を叩かれたのでつい驚いてしまった。
どうやら彼もちょうど教室に戻ってきたところだったらしい。

「どうした?」
「あ、・・えーとね・・、木地くん転校しちゃうんだって?」
「今日の朝、初めてオレのクラスのヤツに言ったのに・・
もう隣まで知れ渡ってるのか?」
「うん。ほら、小さい学校だし。」


木地くんはうなずいた後、一呼吸して・・なんだか気難しそうな顔をした。
僕の肩に置いていた手の力を強めた・・ような・・気がする?


「明・・ちょっと話があるんだ、今日の放課後いいか?」
「・・放課後?うん。部活はもうないし。どっか遊びに行く?」
「いや、そうしたいところなんだけど今日はオレ、塾なんだ。
少し話したいことがあるだけ、・・なんだが」
「わかった。じゃあ・・あ!今日は僕、少しだけ居残り授業があるんだけど」
「どれくらいだ?」
「30分くらい」
「それくらいなら待てる」
「そう?ごめんね!じゃあ終わったら木地君の教室に行くよ」
「頼む」

ちょうどチャイムが鳴ったので、僕は木地君に別れを告げて教室に戻った。

「どうだったー」

晶ちゃんがぶっきらぼうに聞いてきた。相変わらずだなあ。

「うん、やっぱり本当だった。」
「・・ふーん・・」

晶ちゃんは雑誌を読みながら、興味なさそうに答える。


「あ、今日は晶ちゃん先に帰ってていいよ?」
「なんだよいきなり」
「ほら、僕今日は居残りあるっていったじゃん」
「ああ、自主参加の数学かあ。質問したい人は来なさいってヤツ。」
「うん。晶ちゃんは聞くことなんかねえ!それほど基礎がわかってねえ!
とか言ってたやつ。」
「・・そんなことは覚えてなくてよろしい。ま、確かにオレは参加しねえよ」
「ん、じゃあやっぱり帰ってて。」
「そんなに時間かかるのか?」

僕は一瞬返答に困る。質問自体はそんなに長くならないだろうけれど・・
その後の約束のこと、なんだか晶ちゃんには言っちゃいけない気がして・・・

晶ちゃん、なんだか不機嫌になるんだもん。
昔からそうだった。僕がとっても仲良くなる人物に対してはいつもケンカごしでさ。
バスケ部の仲間は例外だけど。


「・・うん。それはもうじっくりと勉強する予定なんで。」
「ふーん、じゃ今度オレに勉強教えてくれな」
「晶ちゃんにやる気あんならいいけど」
「あるよ!!」

「ほらー、チャイム鳴ったんだぞ!いつまで立ってんだおまえらは!」

担任がドカドカ教室に入ってきたので、僕達の会話もとりあえず中断となった。







そして昼食も終わり、5時間目は居眠りする晶ちゃんを何度も小突いて起こしてやり、
あっというまに放課後になる。

「んじゃな、明。頑張れよ〜」
「うん。じゃあね晶ちゃん」

「晶平〜、明〜!!」

髪の毛を後ろ2つで結わいている元気な女子生徒、美佳が突然教室に入ってきた。

「ねえねえ、今日体育館空いてるって!ちょっとだけ使ってかない?」
「マジ!?」
「え、そうなの?」

晶ちゃんはすでにやる気満々になっていた。
しかし、僕はというと・・ホントは行きたいけど、今日は予定があるからなあ。

「・・僕、ちょっと用事があるから無理かも」
「なんだよ、今日くらいいいじゃん。質問なんていつでもできるだろ」
「んー、でも」
「明はダメなの?ま、受験生だから仕方ないか。じゃあ晶平行くよ!」
「おお!明ぁ、早く終わったらこっち来いよな」
「うん」

晶ちゃんと美佳が元気に廊下をかけていく。そんな急がなくてもきっと体育館は
なくならないと思うんだけど、2人ともそれだけバスケが好きだから・・

僕も好きなんだけどね。小さい頃からずっと晶ちゃんと2人で頑張ってきたけど・・
中学校入ってからは2人だけじゃあなくなって。女の子しかバスケ志願者が
いなかったので結局は正式な試合には出られなかったけれど。

・・・でも、3年間楽しくやってこれたなあ、と思っている。


さて、指定の教室に行かなくちゃ。教科書の入った重いバックを持って、僕も
教室から急いで飛び出した。




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「きーじー君。待たせてごめん」
「いや、塾の宿題をしてたから・・ちょうどいい感じだ。」

木地君がガタっとイスを動かして、立ち上がる。窓から夕日が
まぶしいくらいさしこんで、教室全体をオレンジ色に染め上げていた。

教室には、もう誰もいない。
いるのは僕と・・木地くんだけ。


「・・・木地くん、話って何かな?」


ホントは、・・なんとなくわかっている。
今までも・・・予感はあった。


木地くんは、きっと・・


「明・・・オレ」

木地くんは目をそらさずに、僕をまっすぐ見つめている。
意思の強そうなまなざし。


「オレ、おまえが・・好きだ」


木地くん・・・!
僕も瞬き一つせず、木地くんをみつめてしまう。


「あんまり驚かないんだな」
「えっ、・・・あ、その、驚きすぎて動きが止まったんだ」
「いや・・だったか?」
「え?」
「気持ち悪いだろ、やっぱり」
「な、なんで!?全然、気持ちわるくなんかない!!」

僕はつい叫んでしまう。だって、ホント気持ち悪くない!
むしろ僕は・・・木地くんを・・・カッコイイと思ってしまった。

「はは、よかった」

でも、僕は・・

「あの・・僕・・」
「あ、返事は別にいらない」
「え?」

「・・・オレが、言いたかっただけだから。転校するまえに、どうしても。
だから返事は・・いいや。なんとなくわかってるし。」

「木地くん・・・」

「オレ、自分の気持ちを結局おまえに押しつけただけだな。自分勝手でごめん」

「そんなことないよ。・・・あのね、僕・・嬉しかった」

こんな僕でも、君は好きになってくれたんだね・・・ありがとう。



木地くんは僕の思いがけない発言にちょっと驚いたらしい。目をまるーくした後、
照れがちに・・すごいことを言い出した。

「ホントか?・・だったら、自分勝手ついでに、お願いがあるんだけど」
「お願い?いいよ、僕にできることだったら」

木地くんはちょっと言いにくそうだったけど、決心したのか口を開く。

「・・キスしていいか?」
「!?」

こ、これは流石に僕も予想していなかった!!

キス・・キスか・・・・

う〜ん、どうしよう。

正式なキスはこれが最初になるわけだが。細かく分析してみると、小さいころ
晶ちゃんと遊び半分でしっかりやってたりするのだが。

まあ減るもんじゃないし。

木地くんの、この学校での大事な思い出となるのなら・・・

「う、うん・・いいよ」
「ホントか?」
「うん・・」

やっぱ恥ずかしいけれど、・・・僕は目を閉じて、木地くんの動作を待つ。

木地くんが僕の頬に手をあてた。うわ、なんだか本格的だ。
緊張の一瞬。

やわらかい感触が、僕の唇につたわってくる。

・・・今、僕はキスしてるんだなあ・・なんてぼんやり考えてみたりしたけれど。

なんで、なんで相手が・・晶ちゃんじゃないんだろうって、思ってしまったもんだから
ちょっと悲しくなったりして。



僕は驚きの連続で精神がちょっと麻痺していたのかもしれない。だから、誰かに
見られてるかもしれないなんてこと、頭の片隅にもなかったんだ。

パタパタと廊下を走る音が聞こえた時・・・

一瞬晶ちゃんだったりして、なんて思ったけれども。

なんだか気持ちよいこの行為に、いつのまにかのめりこんでしまった僕。


・・・長い触れ合いの後、木地くんと照れ笑いして、最後のお別れをした。








「ごめんね〜みんな〜」
「あー、明おそーい」
「大丈夫、まだ間に合うよ〜」

バスケ部の面々がジャージを身にまとい、汗だらけになってこっちに走ってきた。
僕もとっとと着替えなきゃ。広々とした体育館に1、2、・・・3人・・あれ?

晶ちゃんがいない。

「ねえ、晶ちゃんは?」
「え、一緒じゃないの?
明終わったかなあとか行って先ほど迎えにいったから、てっきり・・」
「え!?」

一瞬目の前がまっくらになる。

・・・な、なんだって!?
僕は背中にゾクッと悪寒が走った。

しょ、晶ちゃん・・迎えにきてたの!?

じゃあさっき、聞こえた走る音・・・やっぱり晶ちゃん!?
そんな、ドラマみたいなタイミングじゃないか〜

「あきら?明ったらどうしたの?」
「い、いや・・」

「あ、晶平戻ってきた」

美佳の言葉に思わず後ろを向く。

そこには、無表情・・というか、不機嫌オーラを背負った晶ちゃんが立っていた。

「オレ・・・今日、もう帰るわ」
「え〜、なんでよ!明、来たばっかりだよ?」

晶ちゃんはそれ以上何も言わずにくるっと後ろをむくと、スタスタと歩いていってしまう。

「晶平、晶平ってばぁ!」

「あ、しょ・・・晶ちゃん・・!!ごめん皆、僕も帰る」
「ええええ?・・まあ仕方ないか。何よあんた達ケンカでもしたの?」
「え、えっと・・よくわかんない・・」
「ふーん、早くおっかけなさいよ。あいつ足速いわよ?」
「あ、そーだった!じゃあねみんな!!」


晶ちゃんの後を追って僕もとにかく走る。
昇降口に行くと、晶ちゃんがちょうど上履きを履きかえているところだった。

「晶ちゃん・・」

晶ちゃんは無言だ。

「晶ちゃんってばぁ」

無視して校門へ向かう晶ちゃん。・・・もう、なんだか腹がたってきたぞ!!
こうなったら腹をくくってやる!!

「晶ちゃん!!何を怒ってるんだよ!!」

晶ちゃんの肩をグッと掴んで、動きをなんとか止めてやる。
晶ちゃんはどうやら僕の発言にカチンときたらしい。

「何を怒ってって、・・・おまえッ!!!」
「なんだよ!」

晶ちゃんはこぶしを握ったまま、僕をにらんでいる。なんだよ殴るなら殴れよ。
言いたいことがあるんなら、ハッキリ言ってくれよ、いっそ・・


そう、晶ちゃんは前からそうだった。

僕、晶ちゃんの気持ち知ってる。

晶ちゃんは、絶対僕のこと好きなんだ。

そして僕も晶ちゃんが・・・好き。

なのに、晶ちゃんからは何も言ってくれない。

・・・・だから僕たちの関係は友達のままなんだよ?


「友達」だったら、僕が他の誰とキスしてようとなんだろうと文句言う権利なんて
ない!!

ねえ、そうだろ?・・・晶ちゃん。


「・・・・・・・・・・・・・ッ」


握り締めていたこぶしを降ろした晶ちゃんは、
また無言のままスタスタ歩いていってしまう。

え、それだけ?・・・・何も言ってくれない・・・・?




僕はとうとう我慢できなくなって・・・




涙があふれてきた。




責めたかったら責めればいいじゃん!

なんで他のヤツとキスしてんだよって!

晶ちゃんのいくじなし!!



僕、さっき木地くんのこと、かっこいいって思ったし、更に見直してしまった。

だって木地くんはとっても勇気があるんだもの。

木地くん、男同士だってこと関係なしに、僕に告白した。
僕の気持ちだって、わかってたのに。


なのに晶ちゃんは・・・どうして僕に何も言ってくれないの?


ちっちゃい頃にしたキスだって、遊び半分のものだったし・・いや、違う。
あの頃の晶ちゃんの方がよっぽど素直だった。

晶ちゃんの馬鹿ったれ!
意気地なし!
弱虫!!


僕の視界は涙のせいでほとんど遮断された。

晶ちゃんが見えない。

でもね、きっと目が見えたところで、晶ちゃんは
振り返らずに歩き続けて姿を消してしまってる。

溢れ出す涙がうっとうしくて、でも止まらなくって、悲しくって悔しくて・・・



いくじなしの晶ちゃんなんか、キライ・・・



でも、やっぱりスキ・・・なんだ、晶ちゃんのこと。







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明くんが自分から告白しないのは、
晶ちゃんのプライドのためです。
(´ー`).。o○(どこまで健気なんだこの子は)

晶平と明の関係は微妙だと思うんですよ。
もちろん超仲良しでいつも一緒にいるけれど、
キヨ×暁のように周りが見えてないわけでもなさそう。
(ほら、キヨちゃんは暁たんに青春をささげているから・・)

んで、島ちゃん似の晶ちゃんなら結構あっさり折れる
かなあと思いきや下手に成長してる分、
なかなか頑固っていうか難しく考えていたりして。

まあようするにヘタレ夫に健気妻って感じですか。
いやはやもちろんベタベタ晶平×明も大好きですよ?
今回の小説は一例にすぎないということでよろしく。
それにしても・・オリキャラでばりすぎだっちゅうの(´ε`*)



書いてる自分が >>モドル