不器用な愛を ++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今日は早く切り上げられた。 たまには定時に帰って、ゆっくりと風呂につかって できたてのご飯と冷たいビールに囲まれて優雅に過ごしたい。 おや、家の前に見慣れぬ自転車が置いてある。 誰か遊びに来ているのか? 玄関のドアを開けると・・ 「あ、父さんお帰りー」 「ただいま」 そこには次男の光男と、その友達であろう少年が立っていた。 ちょうど帰るところに出くわしたらしい。 「もう帰るのかい?」 「はい、お邪魔しました!」 光男の友達にしては、ちょっと年下すぎるのではないかと思う。 キリッとした太い眉毛が印象的で、動物を相手に頭を撫でて しまいたくなるかわいらしさを備えている子だ。 (男の子相手に大変失礼だが) 「父さん、こちら後輩の山崎くん」 「初めましてー」 ペコリと頭を下げる彼。礼儀正しいお子さんだ。 「こちらこそ。ついでに夕飯も食べていったらどうだい?」 「い、いえ!お昼ごはんまで頂いたのに、そんなお邪魔は・・!」 「僕も遠慮しなくていいって言ったんだけど」 「あのー、今日は母がもう用意してしまってると思いますんで」 「それもそうだね、じゃあまた今度ゆっくりと」 「はい!また来たいですー」 そして彼は光男に向き直って、賞賛の声を上げた。 「先パイ、あんなに料理が上手なんてびっくりです! ごちそうさまでしたー」 「料理が趣味だからね」 元気いっぱい挨拶した後、山崎くんは自転車にまたがって 夕日に照らされながら帰っていった。 「元気な子だね」 「なんか子犬みたいだろ」 「ああ、全くだ」 息子と感じるところは同じだったようだ。流石親子。 「ねえ父さん、メシこれから作るから先にお風呂入ったら? もう沸いてるから」 「そうするか」 気がきく息子だ。 父子家庭でよくぞここまでグレずに育ってくれたものである。 これも、長男の一の努力の賜物・・・ 仕事で忙しく家庭にまで手がまわらない私に代わって、 健気にも光男を朝から晩まで面倒を見てくれていた。 それに甘えて光男の教育まで任せてしまった結果。 家事は主婦以上、学校での評判は上々、 バスケットの実力は関東No1のポイントガード・全国区の選手 (よくわからんが)にまで成長してくれた。 当然光男は私より一に懐き、光男の生活の半分以上が 一中心にまわっていると言っても過言ではない。 「みつおー、バスタオル持ってくるの忘れた。とってくれー」 「ったくもう、最初に持っていってよ」 渋々言いながら綺麗にたたまれたタオルを持ってくる光男。 洗濯物をたたむ作業を、先ほどの後輩山崎くんにも 手伝ってもらったらしい。 非常に面白い光景だ・・中学生男子が家に遊びに来て 洗濯物をたたむ・・か・・・ ホカホカになって出てきた私に光男が呟く。 「兄貴・・・遅いなあ」 「一か?今日はどこかよるって言ってたかな?」 「ううん、特に連絡ないし・・父さん先にご飯食べてる?」 「光男はどうする」 聞いても答えはわかっているが。 「オレは待ってる」 ・・・やはりな。 「父さんも待つよ。たまには親子で食べよう」 「うん」 テレビのチャンネルを探して、適当な番組にあわせる。 やはりニュースに・・・ 「ん?何を書いてるんだ。そんな眉間にシワよせて」 食卓にプリント一枚広げて、それを凝視している光男。 明日提出の宿題か? 「んー、ちょっとね・・」 「勉強のことなら父さんより一に聞いた方が早いぞ」 「それはわかってる、・・・じゃなくって」 光男はプリントをペラリとめくって私の方に掲げた。 「進路希望調査表?」 「うん」 ああ、もうそんな季節なのか。いつのまにか光男も受験生・・。 「おまえももう中3だもんな。ホントなら受験勉強真っ最中・・の ところなのかもしれないが。おまえの場合は、もう決まったような もんだろ?」 「・・うーん・・」 なにやら浮かぬ顔だ。 リビングのソファから眺めていた私だが、腰を上げて光男の前に 移動し、着席する。 「前に一とバスケ推薦のことで話し合ってたじゃないか。 ・・・気がすすまないか?」 「いーや、そんなことはないけど」 どうも言葉を濁しているな。何か言いにくいことがあるようだ。 「光男、言ってごらん」 たまには父さんも相談にのってやろう、いや・・のってみたい。 「はは、父さんとゆっくり話すのって久しぶりな気がする」 釣り目がちの光男の瞳が優しく微笑んだ。 「うーん、いいか。父さんに・・言っちゃおう・・ でも、変な顔しないでくれよ」 「するもんか」 笑顔が戻った光男は、少しずつ話しはじめた。 「オレさ、今現在第一希望のところ・・正直行きたくない・・かも」 「?・・それはなんでまた」 「ここ、遠いじゃん?寮に入らないといけなくなる」 「そうだな」 父さんもそれは寂しいと思っていたが・・おまえの明るい未来のためならと 承諾したんだが。 「オレ、この家にいたいんだ」 「!」 へへ、と光男が寂しげに笑う。 そうか、この家にいたいのか。 ちょっと嬉しくなる私がいた。 「ならば、無理してそこに行かなくてもいいだろ。 あまりバスケのことは詳しくないから口出しはしないように してたけれど、父さんも正直光男に出て行ってほしくないからな」 素直に思ったことを口にしてみると、目を細めて嬉しそう笑ってくれた。 しかし、光男はまだ晴れぬ顔。 「この第一志望さ、兄貴が薦めてきたんだ」 「一が?」 「うん。確かにオレもそこなら行ってみたいと思う。でも、・・」 光男の葛藤がなんとなくわかった。 一から離れたくないんだな。 でも、それを希望したのも、一・・・・・ そして光男は最終的には一の意見に委ねてしまうのだろう。 「はあー、どうせいつかは出ていかなきゃならないだろうに・・ 女々しいよな、オレ」 「そんなことないさ、暮らしたきゃいつまでもこの家にいるがいい」 「いいの?」 「いいさ」 「孫の姿見たくないの?」 孫、か!いきなり話が飛躍したな。 「まだ孫のことなんて考えてもいないが・・私もこうして男手一つで おまえたちを育ててきた。人生いきなりどう転ぶかなんてわかったもんじゃない、 おまえたちの好きに生きなさい」 「うん・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのさ、父さん」 「ん?」 「オレさ、幼稚園の時大泣きして帰ってきて、家に着いても泣きやまなくて 近所にも丸聞こえで大恥かいたことあったよな」 「ああ、そんなこともあったな」 まだ昨日のことのように感じられるが。 あの時のことは鮮明に覚えている。土曜日で仕事が休みだった私は、 学校帰りの一に光男の迎えを頼んで、昼食をつくっていた。 しばらくすると、遠くから子供の泣き声がする。 こんなに響き渡る大声は・・どこのお子様だろう、うちの光男でないことは 確かだ、と思ったら。 光男だった。 一に抱きかかえられて、胸にすがりつくように大泣きしている。 見兼ねた近所の奥さんが飴玉をあげても、いつもなら笑顔で受け取る 愛想の良い光男なのに、今回は拒んでしまったらしい。 一も困り果てて帰ってきた。 「うーん、どうしたんだ光男?」 「・・・ズズッ」 顔中を涙だらけ(鼻水もまじっていたのかも)になっている顔を覗きこむと、 光男はいきなり暴れだして一の腕から逃れようとし、私の方に抱きついてきた。 「?なんだ、一に怒られたのか?」 たとえ一に怒られたとしても、素直に謝る光男・・が常なので 普通ならこんなに泣くはずもないんだが。 「オレ、なんにもしてないよ。普通に迎えにいって、保母さんが光男連れて でてきた時にはすで大泣きしてたんだ。友達とケンカしたみたいだって」 「そっか、ケンカか。勝ったのか?」 話しかけても光男は私の腕の中で泣いたままだった。 「まあこういうこともあるさ」 「そう・・・・・かな?」 一は何やら府におちない・・という顔をしていたが、 光男が言いたくないのなら仕方ない。 「ほら光男。兄ちゃんに抱っこしてもらえ」 光男を離そうとすると・・離れてくれない?一のことを拒んでいるようだ。 これは流石におかしい・・とは思ったのだが。 それから数日の間。いつもは一にべったりのはずの光男が、 何故か避けている姿を見かけるようになった。 一は心から心配し、光男に問いかける。 光男は口をへの字口に尖らして、下を向いたまま何も言おうとはしない。 私はその姿も可愛くて、つい写真におさめてしまったりもした。 そして段々と光男の機嫌も直っていき、いつのまにか また一にべったりの日々が始まったのだが・・・ 「あの時は困ったよ。一も心配しちゃってな」 「へへ、オレもガキだったから・・・」 今更そんな話を持ち出してくるということは。 「光男、あの時・・何があったんだ?」 話してくれる気になったのだろう? 「・・・・兄貴には秘密にしてよ。 っていうか、言うのも恥ずかしいんだけど・・ オレさ、小さい頃」 と言いかけて、光男は口をつぐんでしまった。 「どうした光男。言いかけたことを途中でやめるなんて 男らしくないぞ」 「うー、やっぱ恥ずかしい・・」 「いいから言えって。誰でも子供時代の恥を抱えているもんだ」 「う、うん、あのさ・・・ オレ、小さい頃は、将来・・・」 一息置いたあと。光男は呟く。 「兄貴のお嫁さんになるつもりでいたんだ・・」 私は飲んでいたお茶を噴出しそうになったが、大人の余裕を見せるために あえてそれを我慢した。 「・・・そ、そうか」 「父さん何気色悪いこと言ってるんだと思ってるだろ。 だから話すの戸惑ったんだい」 光男が恨めしげに私を睨む。 「とんでもない!気色悪いなんてことは全然思ってないぞ、 これっぽっちも思ってない!ちょっと驚いたけどな。」 なんとか笑顔をつくる私だったが、驚きはやはり隠せなかった。 しかし冷静に考えてみれば、現在光男の一へのつくしぶりは良妻以外の 何者でもない気もするが。 「で、さ。そう思ってたから、幼稚園でおっきくなったら何になりたいかな?って 課題が出た時、つい隣にいたヤツ(名前も忘れた)に言っちゃったんだよね。 そしたらさー、『ばっかじゃん!あにきとけっこんできるはずないだろー』って」 ははは、なるほど。 「オレ、すんごいショックでさ。そいつと大ゲンカになったけれど、 事実は変わるはずがなく・・・そいつの言うこと鵜呑みにするものシャクだった けれどどうしようもなくて。迎えに来た兄貴の顔見てたらもっと悲しくなって」 「だから一のこと、無視してたのか?」 「んーん、無視っていうよりは・・キライになろうとしたんだよ。 おっきくなっても結婚できないなら、一緒にいてもつらいだけって 子供心にそこまで思っちゃったんだよね、多分」 いじらしいな光男・・・おまえ、そこまで・・・ 何か励ましの言葉をかけようとして、頭を上げた私の視界の隅に 何やらでかい物体が。 「・・・・・・・・・・・はじめ!!帰ってきてたのか」 「ああ・・ただいま」 リビングの入り口から顔を覗かせた、長男の一。 「あ、あ・・兄貴!?いつのまに帰ってきて・・・」 光男の動揺ぶりが伺える。そりゃあそうだ。 まさか話を全部聞かれていたりしてな。 「玄関のドア、鍵閉まってたから和室の窓から入ってきた・・」 「あ、父さんがいつものくせで鍵閉めちゃったか。すまんすまん」 「と、父さんのバカッ!!・・・・・ご飯そろそろ炊けてるだろうから、 今すぐご飯の用意するねッ」 光男が慌てて台所に行ってしまった。 ハズカシすぎて一の顔が見れないのだろう。 「はじめ・・・」 「?」 「いや、なんでもない」 全部聞いてたのか?なんて聞くのも無粋な気がしたのでやめることにする。 「今日は遅かったな」 「ああ・・ちょっと買い物をね」 「買い物?」 そう言い残して台所に向かう一。 しばらくすると、光男の感動の声が聞こえてきた。 ・・・光男へのプレゼントか。 夕飯の用意ができるまで、ソファに座って夕刊でも読むことにしよう。 今日はやはり早く帰ってきて良かった。 私自身も、もうしばらくは親子3人で仲良く暮らしていきたいと 切に願っている。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++ |
アタシは絶対オヤジとはこんな会話しません。
はずかしいじゃねーかよー(;´д`)
キショクワルイ話を書いてしまい、すいませんでした。
>>モドル