大破壊による復興は、避難用シェルターの拡張から始まった。
 小規模の食料プラント、電力システムを備えた避難シェルターは必要最小限の人数を維持し続ける限り、100年あまりの活動を保証する物ではあったが、千人規模の人口を維持し続けるというのは非常に難しく、また密閉された空間での生活は人々の精神に著しい不安を与えるため、そういう物からの逃避という意味合いもあったと思われる。
 ともあれ、避難民の殆どを労働力として転化した結果、避難用シェルターは驚くべき速度で一つのコミュニティーとなっていった。拡張に際してかつてのジオフロント(大深度に建築される空間)の基盤や地下鉄などを発掘出来たため、それらを資材として居住空間の拡大が図られたことも成長の一要因であろう。
 地上部にあった建築物は完全に消失しているために、生産プラントの殆どは建築途上にあったジオフロントの物を転用した。 
 このシェルターの拡張は企業サイドと民間サイドではその意味合いが微妙に異なったが、居住性の確保は生活レベル向上の基礎要因であり、生活圏を広げるために横へ上へと拡張していったことが都市発生の初期段階であったとされている。
 荒廃した地上には電気資料など殆ど残されておらず、技術の発展はもっぱら技術者達の記憶と、自分たちが使ってきた機材の解析から始まった。(この時点で急速に発展してきたのが後にエクスィードの中核となる各企業体である。)勿論、記憶や解析だけではこのような発展は望めなかったに違いない。当時最も活躍したのがリーディング能力(物に触れることで記憶、過去を読みとったりする力)を持つ能力者達であった。彼らの能力無くしては失われつつあった技術を回収することが出来なかったであろう。だからこそ、企業のトップには感応系能力者が多いである。

 そして環境維持システムが整備され、食料プラントの増設と電力供給の安定、これらの過程を経てコミュニティーは都市となっていく。
 その後は生き残っていたかつての有線ケーブルを復旧させ、各都市を繋ぐハイパーネットワークを整備。
 情報の氾濫と混乱による過渡期を経て、現在に至るわけである。
 
 現在の都市は、常時ナノマシンによる環境浄化が成された半開放型のドーム状となっており、天候などは自然の状況を維持しつつ、都市部は(少なくとも環境的な意味では)安全に管理された空間になっている。環境浄化は広範囲で行われているために必ずしもドーム状にする必要性はないのだが、これはもし再び「大破壊」のような天変地異が起こった場合に都市区画を丸ごとシェルターに出来るようにするためである。
 交通手段は、もっぱらバッテリー駆動によるモーターサイクル、車両である。これらは全て、発掘された廃棄車両を解析、改良した物であり、今現在世界に氾濫する技術の殆どが大破壊前の技術の焼き直しといっても過言ではない。メディアの殆どが電気記録に頼っていたために、大破壊前の技術や情報は何一つとして素の状態で残っていないのである。
 また、都市郊外では積極的に緑化計画が推進されているが、未だ成功例はない。土壌に混じった汚染物質のせいとも言われているが、今のところそのような成分は検出されておらず、原因は不明である。かろうじて地衣類のような物だけが根付くだけで、完全な緑化には相当な年月を要するものと思われる。

 このようにして、大破壊後50年にして以前のような生活レベルを取り戻した人類であるが、一つ不可思議な疑問点が存在する。
 どのシェルターも、ある程度掘り進めば地下鉄のパイプラインや休眠中の電力システムに辿り着くようになっていたことである。

 そう、拡張しようとする意志と行動さえあれば確実に報われるように。

 都市の拡張などといっても、実際は無数に仕切られた薄い壁を取り払っただけに過ぎない。
 ここに、都市の生成そのものが仕組まれていたことであり、ひいては大破壊そのものが人為的な要因によるものである、とする説の根拠がある。


[都市の項目へ]