錬金術には文字通り、卑金属(空気中で容易に酸化する金属)から貴金属(酸やアルカリに冒されにくい金属、銀、白金、金)を作り出す技術、というのが一般的な説明だが、錬金術にはもう一つの意味がある。

 それは、霊的黄金を得て神になること。 

 自らの魂を昇華させ最高知を得ることである。

 賢者の石を製作し、その霊的作業によって自らの魂を高める。
 最高度の錬金術によって自らを高め、達人、超人といった神に近い(あるいは神に等しい)存在になることが最終目的である。
 このための方法を大いなる秘法、アルス・マグナと呼称する。

 アルス・マグナは神への段階として3つの復活をあげており

 「理性の復活」

 「意志の復活」

 「身体の復活」

 この3つの行程によって人間は超越存在となり、「知識」「力」「不死」の三つの能力を得ることが出来るとされている。

 イシカワによれば、人間は肉体を持たない高度な意識体が肉体を持った状態になる、つまりは生殖によって誕生した時点で第一の復活が成されており、ホモ・サピエンスの名の通り、「知識」を持った存在であるとしている。
 そして第2の復活によって得られる「力」こそ、能力者達の所持する特殊能力に他ならない。
 その根拠は、能力者達が瀕死、あるいは臨死体験のような、危機的状況からの復帰を果たしたとき、微量ではあるが確実に能力の向上が見られるという、統計結果からだ。

 身体的な「復活」による能力の向上は元の数値に対して1%未満が殆どであるが、被験者のじつに80%以上がその恩恵を受けている。死からの復活によって能力が向上するなら、不死性を獲得した人間は理論上、無限に能力を高めることができる。
 現在において欠損した部分を人工物で置き換えるような方法では能力の向上が見られない。
 となれば、あくまで生身のまま不死となる必要がある。
 必要とされる賢者の石とは、単純な物質名ではなく人間に変化を促す因子を指し、それさえ解き明かせば人間は遙かに高次の存在として昇華できる。
 そのための技術の探求。
 それこそが彼の言う錬金術である。

 イシカワの提唱した錬金術の復興(発表時の論文名はアルス・マグナの応用による人工進化)は学会からは当然黙殺されている。
 しかし、エクスィードは、錬金術という名称はともかくとして、能力者達のその性質に興味を示しており、独立したセクションを設立して研究を行っている。
 それはもちろん超人創造のためではなく、不死性の獲得が半身の喪失を克服する方法になるのではないか、という考えからである。

 当初、このセクションの主幹技師は提唱者であるイシカワ自身であったが、設立後半年で主幹技師を辞任。その2ヶ月後に謎の自殺を遂げているが、その原因、理由は今を持っても謎である。


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