〜自転車でペンギンを見に行こう!編〜

探鳥日記 インドネシア (ジャワ島 その3)

(2002年7月10日〜7月18日)


7月10日(水)(晴/海上〜スラバヤ:客船+自転車15km)
 寝転がる人の隙間に足を運びながら、朝の散歩をする。今回は船室内に 場所を取ったのでデッキでは眠らなかったのだけれど、これが幸い。夜、 雨が降ったようで、デッキ組は髪が濡れている。タフな船旅だなぁ。タバ コの煙の充満したエアコン長距離バスにしてもそうだけれど、安い公共の 交通機関を利用してインドネシアのジャワ島近辺を旅するのは大変。ビザ の有効期間さえもっと長ければ、僕はあんなに精神的に不衛生なもの使わ ないで自転車で走るのに。
 夕暮れのスラバヤの街を自転車で縫い、安宿に入った。(写真;路上は 混沌である。)
7月11日(木)(晴/スラバヤ〜パスルーアン Pasuruan :90km)
 9時出発。混雑するスラバヤの街を南へ抜ける。市内を出ても、車は渋 滞はしない程度に減っただけ。しばらく南へ下ってから西へ折れるはずが 、分岐を見逃したらしくマラン Malang 方面へオーバーラン。車が少なければ、マランを抜けてジャワ島南岸を 西へ走るのも悪くないなと進んでみたけれど、相変わらずの交通量。少し 大回りしてまた北岸方面へ戻った。さいわいこの道は車が少なく、活火山 ブロモを右手に望みながらの快適なサイクリングになった。
 パスルーアンのホテルに入る。(写真;鮮やかな中国仏教寺院。)
7月12日(金)(晴のち曇/パスルーアン〜バニュワンイ Banyuwangi :自転車20+車200km)
 10時前出発。横長(東西長)の長方形をしたジャワ島の、右上(北東 )の角にあるバルーラン国立公園へ向かっていく。明日には公園に着き、 そこで数日過ごしてからバリ島へ渡るというスケジュール。
 国道を東へ走り始めて2時間弱。追い越していくワンボックスカーが、 こちらに速度を合わせて窓を開ける。どこへ行くんだと運転手が聞くので 、バリ島へ、と言うと、ちょっと止まりなよと合図する。これは乗って行 くように勧められるパターンだ。やっと交通量もひどくはなくなってきた 所、自転車で走り続けたかったので、笑顔で手を振って断る。ところがむ こうは熱心で、三度も誘うので断りきれなくなり、結局は乗った。ま、こ こはインドネシアの郷に従って、イージー・ゴーイングで行っとこう。
 一行は、華僑のおばちゃんと、マレー系の使用人の女の子。そして運転 手は、おばちゃんの旦那さんが経営するエビの養殖場の従業員が勤める。 僕はこの世話好きのおばちゃん、リンさんにひどく気に入られたようで、 ドライブ中にあれ食えこれ食えと次々に勧められたうえ、その晩はバニュ ワンイにあるお宅に泊めてもらうことになってしまった。旦那さんのワン さんは口数の少ない人だったけれど、とにかく奥さんの方があの中国人の あっかるいノリで大歓迎してくれる。こうなっちゃもう世話にならない方 が失礼とばかりに、僕はおいしいエビ料理をほおばるのだった。ちなみに インドネシアの華僑の人口は、国民の3%。(写真;台所。中華ナベ、全 自動洗濯機、井戸、こんなところ撮らないでと恥ずかしがるリンさん。)
7月13日(土)(曇時々雨/バニュワンイ:0km)
 リンさん、ワンさん夫婦は、バリ島に住む息子さんの家へ今日から遊び に行く予定だったのだけれど、出発を一日先のばしにするという。養殖池 のエビの世話から手が離せないからだそうだ。生き物相手の仕事をする人 は、有給休暇を取るサラリーマンのようにはいかないのである。そういう ことなら僕は自転車でバルーラン国立公園へ向かいますので、と言っては みたものの、世話好きのリンさんがうんと答えるはずはなかった。当然の ようにもう一晩泊まることに決まっていて、朝から手製のプディングまで 作ってくれる。英語を話さないワンさんとも中国語の筆談で会話をしはじ めるとすっかりなごみ、僕は親戚の家にでもいるように、ずうずうしくリ ラックスしてしまうのであった。
 乾季なのに一日中雨が降ったり止んだりで、チャリダーの休日にはちょ うど良かった。(写真;移民80年、華僑のアルバム。)
7月14日(晴時々曇/バニュワンイ〜ベコル Bekol :車40km+自転車10km)
 バニュワンイにはモスクが乱立していた。スピーカーから流れる朝のム スリム“お祈りソング”が、鳴き交わす狼の遠吠えのように響く。おかげ 様で今日も4時半には起床。もちろん中国仏教徒のリンさんたちは、歌と は関係ないのに毎日そうやって暮らしている。7時前、運転手つきのトラ ックに自転車をつみ、仕事へ向かうワンさんと家を出た。エビの都合で、 夫婦のバリ行きはもう一日延期とのこと。リンさんは弁当を持たせてくれ 、熱烈な投げキッスで送り出してくれた。
 40キロメートルなんて、車ならあっという間。バルーラン国立公園の 入り口で降ろしてもらい、そこからは乾いた林の中を自転車で小一時間、 ベコルのゲストハウスに入った。昼前に少し歩いて、カノコバトやらナンヨウショウビン やら、いかにも粗林にいそうなのを15種ほど。ムネアカゴシキドリ は顔じゅう真っ赤な歌舞伎顔の亜種で、ネパールやタイで見たやつとは 違う。夕方、ゲストハウスの裏の観察塔に登ると、目前に広がる草原に大 量のシカ(Javan Deer)と、ヤギュウ(Wild Cattle, Banteng)がちらほら。そして向こうの方に海が見え、海岸線に 沿ってヤシとマングローブの林。ようし、あしたは、あそこまで行ってみ ようっ!(写真;観察塔からの眺め。)
7月15日(月)(晴時々曇、夜一時雨/ベコル〜バタンガン Batangan(往復):25km)
 腕時計のアラーム通り、朝4時に起きた。・・・体調が悪い。スラバヤ へ向かう船に泊まった日から風邪気味だったのだけれど、それがここへ来 てひどくなったらしい。無理せず寝なおして休養。
 症状が軽ければ薬はできるだけ使わないようにしているので、治療は食 べることしかない。ところがこの国立公園の中では、レストランも売店も ない。朝昼は買い置きのインスタントラーメンなどを食べたものの、病人 が夜もそんなものという訳にはいかないだろ。涼しくなってきた頃を見計 らって、自転車で公園の入り口の村まで出た。
 この往復25キロの夕方のサイクリングが、実にいい鳥見だった。アオ エリヤケイやセキショクヤケイの群が道から藪へ逃げていき、サイチョウ が頭上をこえてゆく。道のわきにつっ立っているキマユシマヤイロチョウ を見つけて走っていくと、わずか2メートルまで近づける。とつぜん林か ら現れた道幅ほどもあるマクジャクは、自転車に少し驚いて先を走りはじ める。とっ、とっ、とっ、とっとっとととと・・・と助走をつけたあと、 わっさわっさと大きな翼をはばたかせて離陸。緑に輝く長い尾羽の束を垂 らしながら、もうすこしで追いつきそうなところを舞いあがってゆくので あった。
 ベコルのゲストハウスに2泊目。夕食のアジのフライとゆで卵が効いて 、明日までに風邪が治るといいんだけれど。(写真;サバンナからバルー ラン山1247mを望む。)
7月16日(火)(晴/ベコル〜バタンガン(往復):30km)
 体調は、8時には出かけられる程度に回復していた。自転車でマングローブ林のあるバマ Bama へ。海岸に自転車を残し、海沿いの遊歩道をたどりながら鳥を見る。もうだいぶ陽が高いせいかさえずりは少ないけれど、小魚を狙うヒメアオカワセミがヒルギの枝にとまっていたり、キタカササギサイチョウの十羽ほどの群が飛んでいったりする。やぶの中のサイホウチョウ類が出てくるのをじっと待っていると、別の方向から落ち葉を踏む足音が近づいてきて、野生のイヌ(Wild Dog)や小さなシカ( Barking Deer)が小走りに過ぎてゆく。
 昼前に自転車へ帰ってくると、なんとサドルが動物にかじられてぼろぼろだった。さらにキャリアにつけっぱなしだったテントは引き裂かれ、ドリンクホルダーのミネラルウォーターが飲み干されている。このへんをウロウロしてるサル、Long-tailed Macaqu の仕業に違いない。ったく、乾季で餌が少ないからって、なぁんてことしやがる!
 ばかみたいに暑い午後3時までは、ゲストハウスのロビーで涼む。そして今日もバタンアンの村まで、早い夕食、兼、往復25キロのサイクリング・エクササイズ。公園の入り口近くで、ベニガシラヒメアオバト。(写真;バマ地区のマングローブ林。)
7月17日(水)(晴/ベコル〜バタンアン(往復):30km)
 5時半に宿を出た。薄明るくなってきた草原の中の道を、自転車でバマ へ向かう。きのうは海岸から南へ歩いたので、今日は北。2時間ほど進ん で漁船の船付き場に行き当たるまで行っても、林はあまり密じゃない。ど こにでもいるコモンアカゲラか、たまにマングローブヒメアオヒタキ がいる程度。引き返して南ルートへ。頭上をキタタキが飛んだ。 宿に帰るまでの草原にいるタヒバリ類が気になって、炎天下にフィールド スコープを立ててにらんでみる。ヒメマミジロタヒバリのようだった。意識が薄らいでいきそうな乾いた暑さのなか、かげろう がゆらめいていた。
 早起きが効いて、午後はゲストハウスのソファでうたた寝。3時から自 転車でまたバタンアンまで出て夕食。発電機が止まる10時にはベッドに 入り、「コ、コ、コ、コココ・・・・、トッケイ! トッケイ!  トッケイ!」という大きなヤモリの鳴き 声を聞きながら眠る。(写真;ベコル地区は乾いている。)
7月18日(火)(晴/ベコル〜バタンアン(往復):25km)
 5時半に歩き始める。バタンアン方面に道路を500メートルほど進ん だところから干上がった川に下りた。乾季の落葉樹林は日本の晩秋の景色 とそっくりだ。敷きつめられた落ち葉をかさかさと踏みしめながら、明る い林を通り抜けていく。鳥影は熱帯雨林と比べたらはるかに少なく、たま に会う混群に入っているのはムナオビオウギビタキやヒメコノハドリ、シ ジュウカラがメインで、クロエリヒタキかチメドリ類が少し混じるくらい のせいぜい3、4種。このあたりには、良く似たオナガサイホウチョウと インドネシアサイホウチョウがいっしょにいるので、違いを確認するのに はいい。
 手元にあるインドネシアの鳥のチェックリストでは、きのう見たヒメマ ミジロタヒバリが載っていなかった。ジャワ島にいることになっているの はマミジロタヒバリの方。けれど図鑑の方では両方分布していることにな っている。気になったので、またあのくそ暑い草原へもう一度出て、着地 の時の行動や鳴き声を確かめに行った。・・・やっぱりヒメマミジロタヒバリじゃないのかなぁ・・・。
 インド、ネパールを旅している時にも感じたけれど、乾いた暑さのもと を歩き回るのは、思いのほか消耗する。で、午後からは日課の昼寝。涼し くなってから、これも日課の自転車エクササイズ。(写真;常緑の樹林帯 もある。)

探鳥日記 インドネシア(バリ島)