〜自転車でペンギンを見に行こう!編〜

探鳥日記 オーストラリア


(ウェスタン・オーストラリア州/ポートヘッドランド〜デナム)

(2002年9月29日〜10月21日)


9月29日(日)(晴/ポートヘッドランド東〜サウスヘッドランド South Hedland ;50km)
 強い追い風の中、7時半に出発。すぐにポートヘッドランドへの分岐に つき、ハイウェイを下りて町へ向かう。製塩プラントの前には文字通り「 山のような」塩。それを横目に橋を渡り、港町へ。製鉄所のそびえる赤茶 けた町には潮風が吹きぬけ、通りの突き当たりのすぐ向こうを、家並と不 釣りあいに巨大な貨物船が通りすぎてゆく。日曜の朝の通りには人影がな く、ますますさびれた雰囲気に輪をかける。まだぴったりと閉じたツーリ ストインフォメーションのドアに張られた広告から、自転車屋があるのは 16キロ先のサウスヘッドランドだとわかった。
 軽い朝食をとってからハイウェイへ戻り、南西へ下ってサウスヘッドラ ンドへ。キャラバンパークにチェックインし、テントを立ててから町へ出 る。日曜だから当然自転車屋は休み。インターネットショップもなく、ス ーパーで夕食の材料を買い出す。午後は木陰のテーブルで読書の休日。( 写真;ビスケットを食べに来たコシジロミツスイ。)
9月30日(月)(晴/サウスヘドランド:10km)
 今日は祝日。「クイーンズ・バースデイ」なんだそうだ。自転車屋が開 いていますようにと願いながら、朝から町へ出る。果たして自転車屋の前 には、「WE ARE OPEN」の看板がかかげられていた。まずは後輪のスポーク全交換を 頼んでみたけれど、ここでは無理。次の町までおあずけ。サドルのボルト を180円で買う。さっそく店の前で修理していると、バーニー&フロー 、ステュアートが次々にやってきた。フローはリアキャリアが壊れたので 修理を頼むという。けれど、これもここでは無理だった。次の町までおあ ずけ。バーニー&フローに、そういやエイティマイル・ビーチでお互い見 つけられなかったねと話すと、彼らはあの朝ビーチで釣り師のゴードンに 偶然会い、釣果をもらって昼食にしたそうだ。
 ステュアートが同じキャラバンパークにチェックインしてきた。午後は コインランドリーを割り勘して使い、夜は鳥の丸焼きと牛のバーベキュー を割り勘して食べ、ちょっと豪勢に。(写真;3日に1回は顔をあわせる レギュラーメンバー。)
10月1日(火)(曇、昼前後だけ晴/サウスヘドランド〜ウィムクリー ク Whim Creek東;85km)
 きのう一日体を休めたけれど、目覚めてみるといまひとつ疲れが残って いる。ステュアートも同じらしい。いっしょにのんびりと朝食をとりなが ら、怠惰な朝を過ごす。9時半過ぎ、雲が出ていて日差しが弱いので、ま あ出発してみることにした。しばらく走るとステュアートが追いついてき た。彼も町を出たんだ。
 照りつける太陽の中、いつも通り休憩のタイミングで抜いたり抜かれたりしながらステュアートと走る。久しぶりに水のある川を見た。ユール Yule 川。アフリカクロトキキバシヘラサギが、水たまりで餌をついばんでいた。夕方、休憩所でストレッチをするステュアートに手を振り、ウィ ムクリークまであと20キロ、というところで終了。ブッシュの中へ。( 写真;もし自転車以外の交通手段でオーストラリアを旅するとしたら、や っぱオフロードバイクでしょ。4WD車をはるかにしのぐ悪路走破性能。 )
10月2日(水)(晴/ウィムクリーク東〜シャーロックリバー Sharlock River ;50km)
 フルーツとパンを少しかじって、7時に出発。一時間ちょっとでウィム クリーク・ロードハウスに入る。ステュアートは早くから出発したようで 、ここでもう朝食を終えたところだった。パイナップルジュースとベーコ ンエッグバーガーを食べてから、ふたりで走りだした。向かい風。
 カタアカチドリのい るシャーロックリバーの休憩所で、昼食を食べ、お茶を飲み、ベンチで昼 寝をし、起きてみたら風はかなり強くなっていた。もう今日は閉店しよう とステュアートと話し、早々とテントを張る。川には水たまりがいくつか あったけれど、塩度が高いので料理にしか使えなかった。(写真;古き良 きゴールドラッシュ時代のパブ・・・が、今はかわいらしいロードハウス 。)
10月3日(木)(晴/シャーロックリバー〜カラサ Karratha ロードハウス;110km)
 6時前に出発できた。ロケットスタートだ。ノーザンコースタル・ハイ ウェイを西へ。風は追い風、ステュアートと並んで朝日の中をぐんぐん進 んでゆく。道の両側は牧場で、こちらを見つけた羊たちがあわてて駆けて ゆく。あっというまに50キロ走ってしまい、さびれきった町ローボルン Roeborne で休憩。ミートパイとコカコーラでエネルギー補給して再スタート。午 前中には100キロほどを終えて、カラサの町へ入れた。
 さっそく自転車屋へ行き、1ヶ月も前から念願だった後輪のスポークの 全換えを頼む。作業中の半日はショッピングセンターで時間をつぶして、 4時半にステュアートと町を出る。風は向かい風に変わっていた。小一時 間ハイウェイを進んで、カラサロードハウス。キャンプ場はなかったけれ ど、芝生の生えた小さな庭にテントを張らせてもらった。丸一日誰かとい っしょに走るなんて、この17ヶ月で初めてのことだった。(写真;朝日 の中を走る。)
10月4日(金)(晴/カラサロードハウス〜フォーテスキューリバー Fortescue River 南;110km)
 近くに貨物列車用の鉄道が通っているため、騒音で良く眠れなかった。 6時前にステュアートと出発。初めは調子良く走っていたものの、向かい 風のせいか全てをヘビーに感じる。前輪あたりからから空気の抜けるよう な雑音がするので、ひどくならないうちにとチューブを換えた。けれど、 音は消えない。どうもペダルかそのアームの付け根から金属の摩擦音がし ているらしい。まあいいや、どこだかよくわからないし、このまま行こう 。
 ステュアートにかなりの遅れをとり、古びたフォーテスキューリバー Fortescue Rived ロードハウスに着いた。もう彼は昼寝の真っ最中だった。夕方からまた いっしょにスタートし、やまない向かい風の中をゆく。相変わらずペダル を踏むのがヘビーだ。
 日没前にブッシュにテントを張る。疲れきっていたけれど、とりあえず 自転車だけはチェックておかかないと。摩擦音は、右ペダルのベアリング に油をさしたら消えた。それより今日のサイクリングが大変だった理由を 発見。後輪のベアリングのネジが締めすぎられている。これじゃ、ブレー キをかけながらこいでるようなもの。スポークを交換した、あの自転車屋 の仕事だ・・・・知らない人に「相棒」を預けたあとは、自分で点検し直 したほうがいい。(写真;“砂漠豆”の花。これから春を迎えるオーストラリア。)
10月5日(土)(晴、夕方前に少し雲が出た/フォーテスキューリバー 南〜ケインリバー Cane River 北:85km)
 7時前、ステュアートと出発。今日も向かい風だ。きのうの「重労働」 のせいで脚から疲れがとれず、朝からローペース。ローブレッドヒル Robe Red Hill クリークの休憩所でやっとステュアートに追いついた。けれど、どう考 えてもその先続きそうになかったので、今日はもうマイペースで行くから と彼に告げて別れた。悪いことに風は強くなる一方、ゆさぶられながら時 速8キロでひとり進む。1時間ごとに休憩するのでちっとも進まない。こ んな時は無心になるしかないのだけれど、残りの水と食料のことを思うと 、どうしても急ごうとしてしまう。
 午後、かげろうのゆれる路上に、自転車を押す人影が路肩から現れた。 むこうもこっちに気づいたようで立ち止まっている。ステュアートだった 。風があんまり強いので、干上がった小川で長いこと休憩していたそうだ 。コンディションの悪い時に人と話しながら走るのは、気がまぎれていい もんだ。日没少し前にブッシュに入る。(写真;夜明け。まずは熱いスー プを沸かして・・・。)
10月6日(日)(晴/ケインリバー北〜ナヌタラ Nanutarra 南:85km)
 良く眠った。6時に起きると、めちゃめちゃ寒かった。長袖を着て朝食 を作り、7時前にステュアートと出発。今日もお約束のように向かい風。 この南極海方面から吹く南風が冷たい。体は、やっとステュアートと並ん で走れるくらいには回復しているようだ。小刻みに休憩を入れながらナヌ タラ・ロードハウスを目指す。道沿いの草や木には、咲いたばかりのの小 さな花がちりばめられていて、季節の変わり目を感じさせる。昼頃から風 が弱まったので、徐々にスピードアップしてロードハウスへピットイン。 食えるだけ食って、飲めるだけ飲んだら、やっといつもの調子を取り戻し た。
 夕方少し走って、ブッシュキャンピングへ。(写真;休憩中にはストレ ッチで筋肉をやわらげる。)
10月7日(月)(晴/ナヌタラ南〜ギラリア Giralia :145km)
 7時前にステュアートと出発。向かい風じゃない日なんて、久しぶりだ 。南東から吹く風は右手からの横風だけれど、ときには追い風。冷たかっ た朝の空気はだんだん暖かくなって、サイクリングにちょうど良い気温に 。午前中に60キロ走ってステュアートと昼食。今日の彼はやる気満々、 あと80キロ走ってギラリアをゲットする気だと言う。僕は調子はもうひ とつだけれど、風の怖さは良く知っている。180度変わる前にできるだ け進んでおきたいので、話に乗った。
 このところ走りつづけてきたノース ウエスト コースタル・ハイウェイを夕方には下りて、バーケット Burkett ロードを西へ向かう。車の通らない道を調子良く進み、“ギラリア・ホ ームステッド”の看板を右折。4キロの未舗装路を真後からの追い風を受 けてぶっとばしていった。日没と同時にキャンプ場に到着。よく走った日 はレストランでディナーにしようということにして、ラザニアとビール。 (写真;道端で日光浴をしていた、やせっぽっちのトカゲ。・・・が、顔を近づけると、まるで別人(別トカゲ?)に。まるでカメ。)
10月8日(火)(晴/ギラリア〜エクスマウス Exmouth :130km)
 今朝も冷たい風は、南南東から吹く。この季節、東よりの風が2日続く なんてイレギュラーだ。目的地のエクスマウスは北西、このチャンスを逃 しちゃ行けない。ステュアートと7時に出発し、バーケットロードを西へ 。道路は赤い砂丘をいくつか越えて、ミニリアエクスマウス Minilya Exmouth ロードへのT字路にぶつかった。南のコーラルベイ Coaral Bay へ向かうステュアートとは、ここでお別れ。握手をし、よい旅をと声を かけ合う。
 午後から風は少し東よりに変わり、まっすぐな追い風というわけにはい かなかったけれど、順調にサイクリング。3時過ぎにはエクスマウスに着 いた。キャラバンパークにテントを立ててから、小さな町で買い物やイン ターネット、ツーリストインフォメーションをまわって、日没。(写真; ここからステュアートは南へ、僕は北へ。最後に記念撮影。)
10月9日(水)(晴/エクスマウス:5km)
 このところ向かい風と戦いながら走りつづけてきた。少し前からひざが 痛むので、しばらく休養。朝から何もしないことと、夜は焼肉でビールを 飲むことを決めて、プールサイドで時を見送る。一日中、南西の強い風。 これがこの季節のスタンダードだそうだ。夜は涼しくて、よく眠れた。( 写真;チャリダーの天敵、ロード トレイン。これがハイウェイを爆走している。)
10月10日(木)(晴/エクスマウス:5km)
 休養ったって、まる二日も何にもせずにいる気にはなれない。ジンベイ ザメのシーズンからは外れているけれど、クジラ(Humpback Whale)はちょうど南へ向かう渡りの時期にぴったり当たっている 。ここはツアーに参加。午後からクルーザーに乗って沖へ。クジラが背を浮き沈みさせながら泳いでいったり、時々あの左右に開いた尾を水面に立 てたり、ひれ(前足)で海面をばっしゃんばっしゃん叩いたり、“ベリー ロール”をして白い腹を見せたりするのを見た。デカい哺乳類だこと。
 実はその前、午前中には、ケープレンジ Cape Range 国立公園内でのシュノーケリングに行った。午後からクジラウォッチン グに行くなら、1000円プラスでいいというので、まんまと抱き合わせ 商法にひっかかったというわけ。場所はターコイズ ベイ。これが、もんのすごく綺麗だった。カラフルな珊瑚礁のなかを、 大きくて鮮やかな魚が50匹くらいの群で泳いでいく。
 実はそのまた前、早朝にロビーでツアーの出発待ちをしていたら、バー ニー&フローがやってきた。イトマキエイを見るために、ダイビングツア ーに行くという。聞いてみると、彼らはもう70回も潜った経験があるダ イブマニア。ネイチャー派チャリダーの横顔をかい間見せるふたり。(写 真;シュノーケリングツアーは、運転手を含めて全員女の子だったのであ る。)
10月11日(金)(晴/エクスマウス〜ケープレンジ Cape Range 国立公園:50km)
 きのうシュノーケリングをしたターコイズベイは、ケープレンジ国立公 園の中。エクスマウス半島の西岸だ。東岸のエクスマウスの町からは北の 岬をぐるっと回って、車で1時間だった。これを自転車でもう一回たどっ てみることにした。というのは、公園の中できのう車窓から“マングロー ブ・ベイ”という案内標識を見つけたのだけれど、その矢印の方向を眺め てもそれらしいものはまるっきり見えなかった。ただ砂丘植物の茂る砂地 が海まで続いているだけ。マングローブ林なんてホントーにあるのかよ、 といつものように自分の目で確かめないと気が済まない性格がゆり起こさ れる。昼過ぎに出発。
 岬を回ったら向かい風の強風。3時にはなんとかマングローブベイに着 き、野鳥観察小屋へ。そこは海と細くつながった小さな入り江。絶えず吹 く強風にまるで身をかがめたような背の低いマングローブたちが寄り添い 、確かに林になっていた。イギリス人&アイルランド人のバードウォッチ ャーカップル、M&Mに会い、3人でマミジロウシロハラウミワシを 眺めるプチ探鳥会。日本列島を渡りのルートに使うので、古い友達に会っ たような気持ちになるトウネンやキョウジョシギ、キアシシギ もいる。ただ、ハマシギ類は全てサルハマシギ
 日が暮れてきたので、近くのネッズ Neds キャンプ場にテントを張る。まだ強い南西の風が吹いている。(写真; 砂丘に隠された鳥たちの憩いの場、マングローブ・サンクチュアリ。)
10月12日(土)(晴/ケープレンジ国立公園〜エクスマウス:50k m)
 早朝、キャンプ場の近くの浜を歩いてみた。ちょうどいまはウミガメ類 の産卵シーズンのスタート。もしゆうべ上陸していれば、その足あとが残 っているはず。・・・だったけれど、残念ながらその形跡は見つからなか った。まだ時期が早いようだ。
 ダイビングに行くと言う M&M を見送り、こちらは再びマングローブベイへ。昼までムジセッカやキバ ラメジロを見て過ごし、メインロードへ戻った。相変わらずの南寄りの強 風にくじかれ、それ以上公園の奥へ行くのはやめた。北へ戻って岬の灯台 、ウミガメの産卵を見るのに一番いい浜へ。ものすごく綺麗な女の子が受 付にいるキャラバンパークで、潮と月齢をチェックした。今夜は半月で、 満潮は深夜・・・最悪だ。カメの上陸する時間にはもう月は沈んで真っ暗 というわけ。とりあえず女の子が教えてくれたミサゴの地上巣を見 たあと、カメはあきらめてエクスマウスへ戻った。
 きのう出たキャラバンパークへ再びチェックイン。(写真;エミューを よく見かけるようになった。並んで走ることもある。)
10月13日(日)(晴/エクスマウス〜ブララ Bullara 北:80km)
 7時半に出発。エクスマウス半島の旅を終え、南へ戻る。風は、きのう の朝から東寄りの南風に変わっていた。こうなったあとは、しばらく風は 弱くなると聞いた。その通りに、今朝は穏やかな天気。ノースウエスト コースタル・ハイウェイへ出てからのやや向かい風も、気になるほどで はない。
 海風の入らない日の午後は暑くなる。とても日向にいられなかったので 、草原に一本の立ち木を見つけ、その木陰に寝転がって昼休み。樹上には オーストラリアチョウゲンボウの巣があって、くりくり目玉のヒナ がいた。それにしてもさっきから餌を運んでくるのは、“お父さん”の方 ばっかり。巣に餌を置いた後は、高枝からちょっとこちらを見つめて、ま た出かけてゆく。
 夕方から少し走り、丘のうえのブッシュで今日もキャンプの夜は更ける 。実はあんまり夜空がきれいなので、星座盤を買ったのである。サジタリ ウス座に南の三角座、カメレオン座やハエ座も初めて見る。南十字星には “南極星”が入っているのかと思い込んでいたら、ゼンゼン遠かった。単 にそれを探す手がかりになる、というもの。北の空で言ったらカシオペア 座みたいな感じ。(写真;日中のゆらめく熱気のむこうに、おっ、オナガ イヌワシ。)
10月14日(月)(晴/ブララ北〜コーラルベイ Coral Bay :70km)
 起きたらテントがびっしょり濡れていた。夜、海風が吹いて冷え込んだ んだろう。7時半前に出発。南西の風は向かい風気味だけれど、午前中は それほど強くなかった。昼頃、前輪がパンク。チューブを取り出して見る と、バルブの根元がゴムからはがれて穴。これ、サウスヘッドランドで買 った新しいやつなのに・・・。ったく、ダーウィンで買ったチューブもそ うだったけれど、オーストラリアで売っているプレスタ・タイプのチュー ブは、品質が悪いのか、あるいは古いのかもしれない。
 午後は風が強くなった。ミニリヤ エクスマウス・ロードから外れて右へ折れ、コーラルベイへ。砂丘越え の道を風にもてあそばれながら走る。3時にはキャラバンパークにテント を張った。「町」じゃないので住宅街はなく、海で遊ぶ観光客のためだけの小さな集落。 パン屋の軒先に、 セキセイインコの巣オーストラリアツバメ。 (写真;パラダイスビーチ。まだここは「ペンギンのいない海」。)
10月15日(火)(朝曇、のち晴/コーラルベイ Coral Bay :0km)
 朝は寒い。シュノーケリングは午後からでないととてもできないので、 午前中はキャラバンパークの中で過ごす。朝食を作り、洗濯をし、爪を切 った。
 太陽が北の空高くに上がった頃、さあ珊瑚礁へ。ビーチから潮に乗って 500メートルほど泳いでみた。・・・・けれど魚は少なめ、珊瑚はすす けていて、ちょっとがっかり。先週行ったケープレンジ国立公園の方が、 ダンッゼン良かった。それじゃあ、ということで、魚見はやめて鳥見に変 更。足ひれとゴーグルをテントに放り込み、かわりにフィールドスコープ を持ち出して浜を歩いてゆく。干潟で休むアジサシ類50羽の群がいた。 ベンガルアジサシにオオアジ サシオニアジサシベニアジサシヒメアジサシの5種 類がミックスされている。その回りを小さなシギ・チドリたちが駆け回る。
 夕方、オーストラリア人チャリダーのボハイスが同じキャラバンパーク にチェックインしてきた。分厚い胸板の長身で、バリバリの体育会系。ダ ーウィンからここまでの3300キロをなんとたった1ヶ月で! その分飲み食いする量もはんぱじゃなくて、水を1日半で18リットル 飲むという。荷台にはでっかいポリタンクが乗せてあった。その大きさに 、思わず笑った。(写真;10年後にはもうないかもしれないこの美しさ 。今コーラルベイでは、リゾートホテル建設の推進派と反対派がにらみあ っている。)
10月16日(水)(晴/コーラルベイ〜ミニリア Minilya :110km)
 出発準備をしていると、隣のテントからボハイスが起きてきた。そうや って毎朝同じパターンで荷物を片付け、自転車に積むのって、まるで宗教 の儀式みたいに感じないか?、と彼は言う。あ、たしかに。人それぞれ自 分のペースと順序があって、朝必ずそれを一通りやってから出発する。み んな「敬虔なサイクリスト」だ。
 2、3日ここで休息するというボハイトに見送られ、8時半にはキャラ バンパークを出た。まもなくバーニー&フローが反対車線を走ってくるの を発見。僕より1日遅くエクスマウスを出た彼らは、今日1日をコーラル ベイのビーチで過ごすそうだ。ミニリア エクスマウス・ロードへ出て南へ下り始める。それほど強くないやや向 かい風。昼過ぎに休憩所へ入ると、見知らぬキャンピングカーの老人に拍 手で迎えられ、冷たい缶ビールで乾杯。これが後へひっくり返りそうにな るほど、んまいっ!
 夕方、約1週間ぶりにノースウエスト コースタル・ハイウェイに戻った。ミニリア・ロードハウスで食料と水 を調達し、少し走ってブッシュへ入る。(写真;南緯23.5度。緯度の うえでは、ここまでが熱帯。)
10月17日(木)(晴/ミニリア〜クーラルヤ Cooralya 南:75km)
 7時半出発。南西から吹く強い風に押し戻されそうなサイクリング。低 い木々の間を飛ぶほんのり紫がかったウスユキバトや、マキエゴシキイン コの翼の緑と黒のコントラストに目を止めて、ひとときの休息。そしてま た風に向かって自転車をこぐ。
 長い昼休みのあとまた走り出したものの、風はますます強くなる。これ 以上続けたら「がんばる」域に入りそうになったので、やぁあ〜めたっ、 と言ってからブレーキレバーをにぎった。何事も無理は禁物。ブッシュに 入り、早めの夕食を作り始めた。(写真;乾燥地帯によくいるマツボックリみたいなトカゲ、Singleback。)
10月18日(金)(晴/クーラルヤ南〜カーナーボン Carnarvon :60km)
 7時半出発。風は東から。イレギュラーだ。やや追い風で、海沿いの町 カーナーボンへ向かう。特に何もないこの町で、僕にはやることがあった 。使っている図鑑によると、ペンギンの分布の北限はシャークベイ Shark Bay という湾なのだけれど、カーナーボン沖は湾の北端にあたる。その海を 見晴らしておきたい。
 橋で町と結ばれたバブエイジ Babbage 島に渡り、西の突端へ。そこは、19世紀に羊毛を輸出していた船着き 場を保存した小さな歴史公園。貨物列車が走っていた線路が、オーストラ リアの国旗はためく長い長い桟橋の向こうまで続き、その向こうに強風で 白波の立つ「ペンギンの海」。
 午後は、たまたまカフェで居合わせた旅行者や、夕方になって町に入っ てきたボハイスと話すうち、あっという間に時間が過ぎてしまった。自転 車屋であわただしく後タイヤを新品に交換し、町を出てすぐブッシュに入 る。風はいつもの南西向きに戻っている。(写真;“1マイル桟橋”と「 ペンギンの海」。)
10月19日(土)(晴/カーナーボン〜ワンヌービラボン Wannoo Billabong :120km+車115km)
 7時に出発。ノースウエスト コースタル・ハイウェイは、ブルームからここまでの1500キロは南 西に走っていた。これがカーナーボンを境に南東へ折れる。つまり、いつ も吹く西または南西の風が、向かい風から横風に変わったということ。こ れは走りだしてすぐ実感できるほどの、大きな違い。3時間ほど走ってか らいつも通り一回目の休憩をとっていると、パトカーがすごい勢いで南へ 走り過ぎていった・・・と思ったら、路肩で赤い砂ぼこりをあげて急停車 。Uターンしてこちらへ引き返して来る。そして、車から降りてきた警察 官はこう言った。「この先でガン・ファイトがあった。犯人が逃走中なの で道路を封鎖する。いいね。」
 午後のウーラメル Wooramel ロードハウスは、開通を待つ人と車であふれかえっていた。長い人はも う4時間ほど待っているはずだけれど、イライラした雰囲気はどこにも感 じられない。木陰に折りたたみ椅子を出し、アイスクリームを食べていた りする。午後4時過ぎ、警察から発表があるというのでパトカーのまわり へ。アースカラーの制服を着た警察官は事件の概要を説明したあとこう言 った。「犯人は依然逃走中。南へ下りたい者は、これから警察車両が先導 するので、115キロ先のビラボンロードハウスまで一列でついてくるこ と。途中停車も、シャークベイ方面への右折もしてはならない。出発は1 0分後。」。
 僕の次の目的地はそのシャークベイ。・・・さて、どうするか。 ここでいつとも知れない開通を待つか? いや、不安定な状況下での旅の鉄則は、通れるときに通れ、だ。もし明 日の朝開通したなら、向こう側からシャークベイへ戻ればいいだろう。そ うと決めたらすぐに数台の車に声を掛け、デビットさん夫妻のトレーラー 付き4WD車に自転車ごと乗せてもらうことになった。
 2時間の行列ドライブが終わるともう暗かった。南へ向かう夫婦を見送 り、ビラボンロードハウス前の休憩所にテントを張る。(写真;警察発表 を聞きに集まる人たち。)
10月20日(日)(晴/ビラボン〜デナム Denham :85km+マイクロバス90km)
 いろいろあって長い一日だった。6時に起きてまずはロードハウスへ。 ゆうべ止まっていたパトカーはもうない。軽い朝食を買いながら、レジの 女性に道はもう開いたのかと聞くと、イエス、と答える。犯人は逮捕され たのかとたずねると、知らないわ、という。もうちょっと情報がほしいな ぁと思いながらベンチでミートパイを食べていると、団体ツアー一行を乗 せたミニバスが北から給油に入ってきた。降りてきた旅行者をつかまえて 様子を聞く。約50キロ先のオーバーランダーロードハウスに検問があっ て、荷物チェックをされたという。とりあえずそこまでは行けるというこ とがわかった。問題はその警官が「チャリでなんか通っちゃダメダメ!」 というかどうかだ。しかし、ま、考えていてもしょうがないので、7時過 ぎ出発。シャークベイを目指す。この旅の中で、ノースウエスト コースタル・ハイウェイを北へ向かう日が来るとは、夢にも思わなかっ た。
 追い風を受けてあっという間の50キロ。ロードハウスが見えてきた時 、その向こうから走ってくるチャリダーを発見。ありゃステュアートだ。 ロードハウスの前で2週間ぶりの再会を喜び、何よりもまず先に、「ステ ィープポイント Steep Point 、ゲットした?」と聞いた。彼は力強く「Yes!!」と答える。彼の 旅の最大の目的地は、シャークベイのさらに西、オーストラリア大陸の最 西端、スティープポイント。そこまでの長い悪路を走り終え、今ハイウェ イまで戻って来たところなのである。コングラーチュレイション!
 しばらくするとチャリダー二人の立ち話に警官が割って入ってきて、事 件のことを知っているかと話しかけてきた。こちらはニュースとうわさし か知らないので、現状を逆に聞き返す。犯人はまだ逃走中で、おそらくシ ャークベイ方面だという。つまり、今ステュアートが走り終えたばかりの 方、そしてこれから僕が行く方だ。二度目の朝食をとりながらの休憩のあ と、デナムハメリン Denham-Hamelin ロードを西へ。マジで気を付けろよと送り出してくれたステュアートに 、今夜はブッシュキャンプはやめて、ハメリンプール Hamelin Pool キャラバンパークに泊まるから大丈夫、と答えた。
 昼過ぎにはキャラバンパークへ。キャンプ場にチェックインしようとす ると、今日から数日間閉鎖するので泊めることはできない、と言われた。 発砲事件のせいかと思ったら、マネージャーが葬式に行くからだそうだ。 シャークベイ観光の拠点、モンキーマイア Monkey Mia までは、途中一泊が必要な距離。ここに泊まれないとすると、次のキャ ラバンパークはあと60キロ先。この向かい風の中じゃ、たどり着けない だろう。発砲犯がいるかもしれないブッシュでは眠りたくないので、選択 肢は2つ。戻るか、ヒッチハイクで先へ進むか。
 とりあえずハメリンプール海洋自然保護区の駐車場で休みながら、たま に来る車をチェック。そこへ観光ツアーのマイクロバスが入ってきた。2 0人乗りに客はたった3人で、ユミ、カオル、ジンの日本人トリオ。今日 はデナムまで行くというので、乗車料金を払うから同乗させてくれないか と運転手のアンディに尋ねる。彼は、お金はいらないが、ユミたちが賛成 することと、夕食のときにビールを買ってくることを条件にOKだといっ た。
 僕と自転車は晴れてツアーに途中参加。シェルビーチ Shell Beach で遊んでから、夕方デナムについた。アンディが勧めるので、同じ「ハ ウス」に泊まることになった。野菜より肉の方が多いビーフシチューを5 人で囲み、ビールを飲む。建物の中で、しかもベッドで眠るなんて、実に 2ヶ月ぶり。(写真;シェルビーチ。浜は、地下10メートルまで全部貝 殻。)
10月21日(月)(晴/デナム〜モンキーマイア Monkey Mia (往復) :60km)
 朝食のあと、バスでモンキーマイアへ向かうユミたち一行を見送り、こ ちらも7時半過ぎ出発。行き先は同じだ。一時間半で着いてビーチに行く と、ジンとカオリが眠っているのを見つけた。その近くに場所をとり、入 り口でもらったパンフレットを開き、さて今日一日ここで何しよっかな。 絶対はずせないのは、ジュゴンを見ること。
 それにしてもモンキーマイアには日本人が多い。それも女の子ばっかり 。きのうハメリンプールで見かけたリエちゃんがジュゴンクルーズの割引 券をくれたので、午後は彼女と同じ船に乗った。ジュゴンは群で泳いでい た。ただし水面から顔を出すのは船からちょっと離れたところばかりで、 すぐ足元にいるときには海面下1、2メートル。はっきりは見えないけれ ど、印象派の油絵みたいな感じに見えて、それはそれできれい。
 夕方になっても風がそれほど強くならなかったので、デナムまで帰った 。キャラバンパーク泊。(写真;あ、ジュゴン。)

探鳥日記 オーストラリア(ウエスタン・オーストラリア州/デナム〜パース)