〜自転車でペンギンを見に行こう!編〜

探鳥日記 オーストラリア


(ウェスタン・オーストラリア州/デナム〜パース)

(2002年10月22日〜)


10月22日(火)(晴/デナム〜オーバーランダーOverlander :130km)
 ゆうべはいつのまにか眠っていたうえ、今朝は起きたらもう7時半。こ うなったらもうのんびりと準備。シャワーを浴びて9時半に出発。ハイウ ェイへ戻る道を東へ。きのうマイクロバスで通ったときには気づかなかっ たけれど、路上にはオーストラリアにはいないはずの、ウサギ(Euro pean Rabbit)の轢死体が驚くほどある。モンキーマイアのあるペロン Peron 半島では、「プロジェクト・エデン」という自然回復事業が行われてい る。半島の根元を通電したフェンスで閉じ、本来ここに住んでいた小さな カンガルー(Mala)やフクロネズミ(Western Barred Bandicot)を再導入。そしてそれを食べてしまう外来の捕食者 、ネコとキツネを毒餌で駆除して、もとの生態系を取り戻そうというわけ 。ウサギはその恩恵を受けて増えまくっているんだろう。外来種のキツネ やネコを駆除すると、外来種のウサギが殖えて、餌の取り合いなどで土着 種の競争相手になってしまう。一度ゆがめてしまった自然を取り戻すのは 、そう簡単ではないのである。
 暗くなるまで走った。オーバーランダーロードハウスの近くにテントを 張る。(写真;道にはいろんなトカゲ類がいる。いちばん見たかった Thorny Devil をゲット。他にも、つぶらな瞳の俊足足のないのスリムが よくいる。)
10月23日(水)(晴/オーバーランダー〜ネレンネレン Neren Neren 付近:100km)
 7時ごろ出発。ハイウェイを南へ下る。朝のまだひんやりした空気の中 を気持ちよく走り、まずはビラボン・ロードハウスで小休止。この50キ ロのうちに、道沿いの植生はアレヨアレヨと変わっていった。見渡す限り アカシア属の低いやぶだったのが、どんどん木の背が高くなっていく・・ ・と思ったら、ユーカリ属が急増化してきたのである。もう「林」と呼べ る茂り方である。鳥もヨコフリオウギビタキやアカオクロオウムが目立ち 、森の厚かったダーウィンあたりを思い起こさせる。昼休みの場所は、い くらでもある木陰から広くて濃いのを選べた。寝転がってこずえのほうを 見上げていると、セイキインコやキバラモズヒタキがやってくる。
 午後は向かい風の中を少し走った。林に入ってテントを張る。(写真;向うの丘まで麦畑。)
10月25日(木)(晴/ネレンネレン付近〜カルバリ Kaibarri :155km)
 南の風に向かって、ノースウエスト コースタル・ハイウェイを行く。ユーカリの林が大きくなっていくのを 期待したのもつかの間、午後には周りは牧草地になってしまった。よい森 ができるような環境は、よい農地になる。それを人間がほっとくはずがな い、というわけ。地形もいままでのような真っ平らではなくなり、小さな 丘が次々にやってくる。4時過ぎには右折してハイウェイを降り、海岸の 町カルバリを目指す。風はいつのまにか南東に変わっていて、追い風。
 町に着いた時には、もうかなり薄暗くなっていた。オーシャンビューの 洒落たホテルやレンタ・ハウスが並ぶメインストリートを、キャラバンパ ークを探しながらゆっくりと進む。町の中心を過ぎたところで、屋根にサ ーフボードを2枚積んだ車が向こうからやってきた。そしてすれ違いざま に、日本語で声を掛けてきた。「オレたち、今日、“家”ゲットしてるん だけど、よかったら来る?」
 行きがかり上、千葉は九十九里浜のサーファー兄弟、リュウとユメトと いっしょに、“ママさんサーファー”シェリーの家に泊まることになった 。聞いてみると、二人がパースのバーで飲みながらカルバリへサーフィン に行く話をしていた時のこと。隣の席だった見知らぬ客が、「だったら、 シェリーんとこに泊まれよ。電話しといてやるから。もちろんタダだ。」 と言った、という成り行き。週末のシェリーは、ウォッカのカクテルを飲 んで上機嫌だった。(写真;シェリーの家にて。)
10月25日(金)(晴/カルバリ:5km)
 サーファーの朝は早い。7時前に出かけるリュウたちをベッドから見送 る。今日一日はゆっくりするつもりで、まずは8時半に開いたファストフ ード店で朝食をとる。外ではいつも通り、南西の強い風が吹き始めた。ビ ジターセンターで明日どこへ行こうかと地図やブローチャーを眺め、午後 はインターネットショップへ。モスクワのたてこもりテロは、まだ解決し ていないんだ。日本では民主党代議士刺殺・・・黒幕が絶対逮捕されない タイプの殺人事件。バリ島クタの爆弾テロは、まだあとを引いている・・ ・このご時勢、人が多くて鳥が少ないところなんか行くモンじゃないなぁ 。公園の木々には、もうすっかり見なれたウタイミツスイ がいた。ちなみにこの鳥、“ウタイ”ミツスイ(Singing Honeyeater)という名前なのに、歌わないんだって。和名まで律儀に間違えてる。
 夕方、スーパーマーケットでリュウたちと合流し、食事の材料を買い出 ししてシェリーの家へ戻る。ミルクたっぷりのビーフカレーライスに、コ ーンツナサラダ。体を使って遊ぶヤロウ三人で食う飯は、驚くほどの量が ミルミルなくなってゆく。(写真;カルバリ国立公園。)
10月26日(土)(晴、朝一時うす曇/カラバリ周辺:自転車15km +車でドライブ)
 早朝からサーフィンに出かけたリュウたちは、すぐに帰ってきた。今朝 はべた凪で乗れないそうだ。僕は少し海沿いの景色を見たくて、自転車で 8時半に出かけた。砂岩の断崖が海にそそり立つ“マッシュルーム・ウォ ーク”を歩く。もう日は高く、鳥見にいい時間はとっくに終わっていたけ れど、クロサギやオーストラリアクロミヤコド リが海岸にいた。
 昼にはシェリーの家に戻って、リュウたちと昼食を作る。そして午後は 3人でドライブへ。絶壁の上から日の落ちてゆく水平線を見渡し、夕方の 食事に出てきたカンガルー(Euro)をユメトが写真におさめようと追 いかける。自分にも、同じくらいの年の差の弟がいたことを思い出した週 末。(写真;千葉のサーファー兄弟と。)
10月27日(日)(曇、一時雨がぱらつく/カラバリ〜ジェラルトン Jeraldton :175km)
 波乗りに出かける準備をするリュウたちにあいさつをし、まだ眠ってい るシェリーにはキッチンにお礼のメモを残して、7時過ぎに出発した。三 泊もベッドで眠ったのですっかり疲れがとれ、体調全開である。右手に海 を眺めながら、南東へ向かう。朝から空は厚い雲におおわれ、オーストラ リアで初めて見る悪い天気。いつもと違う何かが起こる雰囲気。8時から 少し風が出始めたのだけれど、これが北風、つまり追い風。月に数回の超 イレギュラーな風向きだ。思い出してみると、カルバリではツイていた。 町に入った日は南東の追い風で155キロ走れた。そしてサーファー兄弟 に偶然出会って、居心地のいい宿にタダで泊まった。さらに町を出る今日 は、また追い風。
 昼にはノーザンプトン Northampton の町についた。まわりの景色は、とうとう麦畑か牧場だけになってしま った。つまり人間が野生動物を締め出している場所。このひと月半走って きた愛しき W.W.W. (ワイルド・ワイルド・ウエスト)は、終わったのである。長い昼休み の後、風はますます強くなり、向きは北西に。いい具合だ。夕方にはノー スウエスト コースタル・ハイウェイに乗る。ジェラルトンの市街地をぬけ、牧場の フェンスわきにテントを張った。終わってみれば175キロ走っていた。 (写真;田舎道の風景。)
10月28日(月)(曇一時雨、夕方には晴/ジェラルトン〜ミンジェニ ュウ Mingenew 西:105km)
 出発準備をしているときに通り雨で、一時テントに入ってやむのを待っ た。7時過ぎ出発。ハイウェイの名前は、ブランド Brand ハイウェイに変わった。ジェラルトンの人口は2万人近い、西海岸では かなり大きめの町だ。そしてパースまでの距離は450キロしかない。そ のせいで交通量が増えてきた。もちろん日本の田舎の幹線道路に比べれば 、「あまり車が通らない」といったレベル。だけれど、もともと街嫌いの うえ、このところずっと人の少ないアウトバック out back を走ってきた僕にはウザい。途中から農耕地をゆく田舎道116号線へ 折れて、やっとまた気持ちの良いサイクリングになった。
 まわりは麦秋の丘が延々と続く。とっくに花の時期は終わっているけれ ど、まだ花粉は舞っているらしい。目頭がイネ科花粉症のせいでかゆい。 入り口の開いていた農場に入り、木の影にテントを張る。この旅のゴール 、パースは、もうすぐそこ。(写真;田舎町の風景。)
10月29日(火)(晴/ミンジェニュウ西〜クーロウ Coorow 北:105km)
 116号線を南東へ。午前中はかなり涼しい。午後からの日差しは強い けれど、暑いのは日向だけ。道行くオサムシも冬眠から 覚めたばかりなのか、もうひとつ動きが鈍い。昼は太陽を避けてスリース プリングス Three Springs の小さな公園へ。鳥は農場モノや街モノばかりになった。マキエゴシキインコ にワライバト。
 夕方から必ず強い南西の風が吹くので、午後の距離が伸びない。牧場の 中に残されたユーカリの林の中にテントを張る。(写真;羊、四階建て。)
10月30日(水)(晴/クーロウ北〜ウェイルビン Walebing 南:135km)
 花粉症の時は寝起きがつらい。だるい体をひきずるように朝食を食べ、 濃いお茶を飲む。体が温まると、やっとテンションが上がってきて走る気 になった。7時半過ぎに出発。川面にニオイガモとシラガカイツブリが浮 いていた。
 昼前に小さなワセルー Watheroo の町に着く。テイクアウトできるレストランが開くのを待つ間にビスケ ットを15枚食べたら、じっとしていられなくなった。開店を待たずにあ と40キロ走ってムーラ Moora で遅い昼食。大きなオジロクロオウムが鷹のように上空を横切ってゆく 。ムーラは三叉路の町だった。それに気づかず、まっすぐパースへ南下す る116号線を知らないうちに降りてしまい、気が付いてみたら東側を迂 回する95号線に出ていた。まあいいや。
 夕方、いつものようにテントを張る場所を物色しながら走る。野生動物 を締め出す農場のフェンスは、野宿場所を探すチャリダーをも締め出して しまう。なんとか牧草地の横に場所を確保。地面が小石混じりで、あまり 快適じゃないけれど。(写真;「カンガルー注意」の道路標識は有名だけれど、こんなのもある。「ヘビクビガメ横断注意」!)
10月31日(木)(曇一時雨/ウェイルビン南〜パース Perth :165km)
 この旅のゴール、パースに着くのは明日の午前中かな、とテキトーな計 画を立てながら出発したのは7時過ぎ。朝から雲が厚い。こんなときは風 向きもいつもと違っていて、東から。95号線を南へ下る。南半球を南下 する旅は、季節を逆行する旅だ。風は冷たく、静かな教会の町ニューノル シア New Norcia で最初の休憩をとった時には、長袖を着た。
 ほんの少し雨も降り、気温もあまり上がらない。そのせいで、午後2時 なのに汗もかかずにサイクリングできる。ビンドゥーン Bindoon のベーカリーで遅い昼食にシナモンバンズを食べながら、ひょっとした ら今日じゅうにパースをゲットできるかもしれない、という思いが浮かぶ 。問題は日没まで時間がないこと。だけれど、そろそろ交通量も増えてき たし、道沿いの農場は単調な環境で、お決まりの鳥しか飛んでいない。た まには急いでみるのもいい。
 小刻みな丘を越えてゆくのは、息をエクササイズのレベルに保つのにち ょうどいい。“チャリダーズ・ハイ”に届いたら、あとは呼吸を整えてペ ダルを踏むことに集中する。夕方、ミッドランド Midland あたりでやっとパースが見えて来た気がした。バイパスを敬遠し、51 号線に沿った自転車道をゆく。暗くなった頃、遠くに摩天楼の夜景。
 僕にはパースに泊まる場所の当てがあった。ステュアートの家である。 彼はブリスベン在住だけれど、パースにもうひとつ、かつてここに住んで いたころに買った家がある。夜の都会を迷いながら、郊外にやっと住所の 通りを見つけた。そして番地に向かって坂を登りきると、川の向こうに見 下ろす週末の街から、大きな打ち上げ花火が上がり始めた。高層ビルの上空に咲く赤や緑の光の粒と、少し遅れて届く炸裂音の低い響き。おぉー、まるで旅の終わりを祝福してくれているようだ!、と勝手な解釈をして坂を下る。と、道路沿いの家から花火を見ようと出てきた数人。こちらに気づいて振り返ったその顔は、ステュアート、それにバーニー&フロー!
 「到着おめでとう! ほらあの花火、Coshyのために用意しておいたんだ。」と冗談を飛ばす3人に招かれて家へ入り、まずはビールで乾杯。夜遅くには、街に遊びに出ていたベリーとボハイスも帰ってきた。チャリダー6人の飲み会は朝方まで盛り上がり、最後はラム酒で酔いつぶれて眠った。イイカンジの終わり方。(写真;2002年10月31日、パース着。それを迎えてくれた5人の友達。)
11月1日(金)(朝曇一時雨、のち晴/パース:0km)
 早起きぐせがついているせいで、まだ息に酒のにおいが残っているうち に起きた。キッチンでお茶を入れて頭をすっきりさせていると、他の連中 もひとりまたひとりと起き出して来る。ゆうべフローが焼いておいたオー ストリア式のパンで朝食を済ませ、みんなそれぞれ出かける準備をする。 ボハイスはアデレードを目指して今日からまた走り始める。ベリーはシド ニーまで列車に乗ることに決め、出発までの数日を海沿いの町フレマント ルで過ごす。バーニー&フローは、今夜フィレッヴィレントンというオー ストリア料理をごちそうしてくれると言って、買い物へ出かける。僕は街 をただ歩いてみたくてバスに乗った。
 パースの街並みは、明るくておおらかだった。ガラス張りのビジネスビ ルとレンガ作りの教会。天井の高い、落ち着いた雰囲気の本屋。クロワッ サンやミートパイやチーズケーキが並ぶパン屋。腰でジーンズをはいた道 行く女の子たち。目に入るもの全てをさわやかに感じる。そしてそれがき れいな街だけのせいではないことに、もう僕は気づいている。このすっき りした気分。走ってきた2万5千キロの旅。
 夜はまた飲む。フィレッヴィレントンに合わせて、いりこ出汁で豆腐ワ カメの赤味噌汁を作った。好評。(写真;真夏のクリスマスへ向かうパー ス。)
11月2日(土)(晴時々曇/パース周辺:車)
 ステュアートの友達、ジェイソンの招きでドライブへ出かけた。パース の近郊は森。土着のユーカリやキャリーの木がほとんどだけれど、もう樹 齢が7、80年もありそうなマツやモミの木も住宅の周りにはある。もち ろん白人が持ちこんだものだ。
 まずは植物学者ステュアートがイチオシするガーデニングショップへ。 オーストラリアの野生の草木をそろえたところが、この店のウリ。不自然 に刈り込んだり、枝を矯正したりしていない庭は、わざとらしい日本庭園 と比べたらずっとここちよい。一角にはコケやシダが茂ったところもある 。つまりケアンズあたりの植物を集めたものだ。そのしっとりとした景観 を見ていると、岩清水の流れる日本の谷を思い出した。そしてガーデニン グショップの次は、森に囲まれたケーキのおいしいカフェへ。チャリダー 4人とジェイソンは、みんな甘いものが大好きなのである。
 夜はステュアートが子ヤギをローストした。“白人たち”は、まるで日 本人がカニを食べる時のように骨つき肉にかじりつく。(写真;春霞に煙 る街。)
11月3日(日)(晴/パース〜フレマントル Fremantle (往復):バス、電車)
 10時頃に目が覚めた。他のメンバーも同じくらいに起きて来て、紅茶 を入れ、トーストを焼く。朝から暖かく、窓の外にはさわやかな青空が広 がっている。4人でテーブルを囲んで朝食をとったあと、今日からまた道 に帰ってゆくバーニー&フローは荷物をまとめ始めた。僕は少し切ない気 持ちでそれを眺めていた。
 二人が出発する時、僕らは1本の苗木をステュアートの家の庭に植えた 。きのうガーデニングショップで買った Common Red Bush という名前の木。あの暑く乾いていた西海岸のハイウェイ沿いで、ペダ ルを踏みながら毎日毎日目にしてきた木。4人で小さな穴を掘り、植え込 んで土を盛り、根元に水を注ぐ。それが終わると、別れの時間だ。かわる がわる握手を交わし、さよならを口にする。バーニーは、「10年後また ここに来た時には、この木を自転車の形に刈り込んでおいてよ。」とステ ュアートに言って笑った。そして二人は春の日差しの中、閑静な住宅街の 通りを静かに自転車で滑っていった。僕は手を振って2人を送り出した。 そして、自分はもう旅立つ人を見送る側にいるんだ、と感じた。(写真; 旅の思い出に、赤い花の咲く木を植えた。)
11月4日(月)(晴のち曇/パース〜ロッキングハム Rockingham :バス)
 きのうは“ FAI ラリー世界選手権オーストラリア”の最終日だった。たまたま街にいた 僕は、パースの北で行われたレースから帰って来たラリーカーのウイニン グ・ランを見た。繁華街の真ん中に作られたフィニッシュゲートの周りは 人垣で埋め尽くされ、そこへゼッケンナンバーと協賛各社のステッカーで 飾った、フォードやスバルやシトロエンが大きな排気音を上げて入ってく る。長いレースを終えた車のホイールやフェンダーは、巻き上げられた赤 い土で汚れ、中にはドアやフロントグリルがボコボコになっているのもあ る。優勝は日本人だった。歓声の中、シャンパンを抜いて観衆 に浴びせ勝利を祝う。それを見ていたら、自分にも旅の最後に行ってお かなければならない場所があることを思い出した。
 午後、パースのバス・ポートから、フリーウェイを走る特急バスで南へ 。ロッキングハムのバス・ステイションで乗り継ぎをして、セイフティ Safety 湾へ出る。そしてそこから、傾いた太陽に向かって“ペンギン・ロード ”をしばらく歩くと、岬へ出た。目の前には、15分も泳げば届きそうな 所に“ペンギン島”。南西からの海風は、ここちよく暖かかった。
 海沿いの散歩道を東へ引き返し、こぎれいなパブのあるモーテルを見つ けた。(写真;たそがれの釣り人と、ハールバルッキタゼッ、ペンギン島 。)
11月5日(火)(晴のち曇/ロッキングハム〜パース:バス)
 8時半にチェックアウト。朝の海岸通りは、ジョギングや犬の散歩をす る人が行き交う。すれ違う人におはようと挨拶をしながら、桟橋までの2 キロを歩いてゆく。空は青く、風も気温もおだやかな一日の始まり。
 ボートで10分。ペンギン島は、春の花咲くきれいな島だった。木道を進むと、何十羽ものギンカモメが「キャラララッ!、キ ャラララッ!」とまずは大ブーイングで迎えてくれる ちょうど繁殖期の盛りで、縄張り意識が強いのである。マミジロアジサシも大量 にいるけれど、こちらは穏健
 島にはペンギン飼育センターがある。けれどそこで“家畜”を見てもし ょうがないので、レインジャーの女性に野生のペンギンはどこで見られま すかと聞いてみた。彼女はセンターのすぐ前にあるペンギンの巣・・・と はいえ、知らなかったらただの砂丘植物の茂み・・・を2、3覗き込み、 ここにいるよと指差す。しゃがみこんで、こんもりした小さなやぶの奥を 見ると、おお、いたいた、たしかに。うつぶせて、卵を抱いている青色のペンギン、コビトペンギン。日中 はみんな魚を食べに海に出ているけれど、卵を抱いているのは居残ってい るわけだ。見つけ方の要領がわかったので、島の反対側の海岸へ出て探し てみた。ペンギンの足跡のついた砂浜を歩いてゆくと、岩の下に発見!( 表題写真)。カナリ目つき鋭どい
 観光の呼び物としてのペンギンなら、夕暮れに海から次々に帰ってくる “パレード”が有名。だけれど、この島でそれを見ることはできない。島 に泊まることはできないうえ、渡し舟の最終が午後4時発だからである。 もちろん僕は、見られるものならパレードを見てみたかったけれど、でき ないならまあそれはそれでいいや、と思った。僕は確かに、ペンギンを見 るためにシンガポールからここまで自転車で来た。けれど、実はそれが旅 の本当の目的ではないことは、このホームページをリアルタイムで読みな がら“いっしょに旅をしてくれた人”にはわかってもらえていると思う。 ペンギンを見ることは、積み上げたピラミッドの頂上に、最後にちょっと きれいな小石を置いてみる、といった程度のことなのである。たとえ小石 がなかったとしても、空に向かって積み上げたものは、そこにある。

・・・・というわけで、

自転車で鳥を見に行こう!

「自転車でペンギンを見に行こう!編」 ・ 完