〜自転車でペンギンを見に行こう!編〜

探鳥日記 オーストラリア


(ウェスタン・オーストラリア州/カナナラ〜ポートヘッドランド)

(2002年9月9日〜 28日)


9月9日(月)(晴/キープリバー国立公園〜カナナラ Kununurra :65km)
 きのう歩いたトレッキングルートをもう一度7時から歩き、朝の景色を眺める。そのあと出発準備をし、赤い砂利の道を戻ってヴィクトリア・ハイウェイへ出る。西へ。あいにくの向かい風、そしていつも通りの炎天下をしばらく走るとウェスタンオーストラリア州との州境のチェックポイント。作物の害虫や病気の拡散を防ぐために、果物やハチミツを持っていると没収される・・・か、あるいはその場で食べてしまわなければならない。このチェックポイントに、なんと“冷た〜い”ジュースの自販機があった。かなりうれしかった。
 午後、カナナラ Kununurra の町へ着く。2日前に折れた後輪のスポークはギア側だったので、応急 処置用のスポークでごまかしている。普通のに取り換えるため、工具を借りに自転車パーツ屋へ。ここでバーニー&フローに会う。そのあとスーパーで買い出し中にマーカスと会い、いっしょに夕食へ。そのレストランの入り口でステュアートに声をかけられた。別に一緒に旅しているわけではないのだけれど、同じ方角へ走るチャリダー同士には、緩い連帯感がある。
 町から5分、ミリーマ Mirima 国立公園横のキャラバンパークにテント泊。(写真;この景色・・・。 )
9月10日(火)(晴/カナナラ:5km)
 キャンプサイトからすぐ裏に見上げる赤い砂岩の崖。そこから先がミリーマ国立公園、歩いて2分だ。公園の面積は小さく、トレッキングルートもせいぜい数百メートルのがいくつかあるだけ。けれど、崖の上から見下ろすミリーマ谷の地形は、首を軽く振りながら、ふぅ〜と息を吹き出してしまうほどの迫力がある。
 公園についつい長居してしまったので、今日は移動はやめた。洗濯をし、インターネットショップでニュースを読み、時間つぶしに髪を切った。シャンプー付きで700円。スーパーマーケットの肉や野菜、果物もかなり安い。東海岸には定年退職した日本人がたくさん住んでいると聞いたけれど、この物価ならわかる。そのうえ人はフレンドリーだし、いたるところに国立公園があって、生活環境が日本と比べて格段にいいし。
 カナナラのキャラバンパークに2泊目。(写真;“キャラ・パー”の午後。定年後に何ヵ月も旅をしている仲の良い老夫婦を良く見かける。)
9月11日(水)(晴、夕方少し雲が出た/カナナラ〜ドゥーンドゥーン Doon Doon 西:130km)
 6時過ぎに出発。腕時計の時間ではかなり朝早くから出たように思えるけれど、これはウェスタンオーストラリア州とノーザンテリトリー州との時差(1時間半)のせい。腹時計ではいつも通りの時間に出発。ヴィクトリア・ハイウェイからグレイトノーザン・ハイウェイに乗り換えて南へ。
 州政府が変わると、ハイウェイ沿いの貯水タンクの設置状況も変わるようで、昼休みをとった休憩所で水が補給できなかった。残り4リットルでは心細いので、ワニに注意しながら川でくむ。当てにしていなかったのだけれど、「2001年末に開店」と聞いていたドゥーンドゥーンのロードハウスが幸いにも営業を始めていた。エアコンの効いた店内で熱々のミートパイをかじり、沸かさずに飲める水を9リットルゲット。これだけあれば、顔も洗える。
 太陽が山陰に入ったところで、今日はおしまい。林へ入り、ブッシュキャンプ。(写真;3億6千年の造形。タイやネパールやインドで、数百年前の寺や遺跡をいくつも見た。けれど、この荘厳さに比べたら、人間の造ったモンなんて全部「新品」だ。)
9月12日(水)(晴、夕方少し雲/ドゥーンドゥーン西〜オードリバー Ord River 東:125km)
 6時過ぎに出発。時々緩いアップダウンのあるグレイトノーザン・ハイウェイを南へ。十日ほど前にいたカスリーンからこっち、空気はカラッカラに乾いていたけれど、カナナラの少し前から蒸し暑さを感じることが時々ある。道沿いの林には、水場の近くに生えるパンダナスの木を良く見かけるし、時々渡る川には水たまりが残っていることが多い。鳥も変わってきて、コシジロミツスイの群や、ハトのような格好で地面を歩く奇妙なCuckoo-shrike類、ジサンショウクイをよく見かけるようになった。
 昼前に着いたターキークリーク Turky Creek には、1軒のロードハウスと1軒のみやげ物屋があるだけだった。けれどエアコンの良く効いたレストランとインターネット部屋があり、日中の 暑さをしのぐにはもってこい。皮張りの椅子で居眠りもさせてもらって、2時間半つぶす。
 2時から再スタートで日没まで走り、オードリバー手前5キロの休憩所にテントを張る。川沿いなので当然ここも蒸し暑い。(写真;ハイウェイを外れると、道は赤い。)
9月11日(金)(晴/オードリバー東〜ホールズクリーク Halls Creek :110km)
 6時半出発。南西へ。風は最悪の向かい風で、そのうえ道にはアップダ ウンがある。たまにすれ違う車のドライバーは、だいたいみんな手を振っ ていくのでこちらも答えるのだけれど、今日は珍しく、追い越していく車 が一台前方に停車。窓からイスラエル人の旅行者が、「ハロー、Cosh y、元気?」と声を掛けてきた。名前を呼ばれて少し驚く。話してみると 、きのうマーカスと同じキャラバンパークに泊まったとのこと。そうか、 彼は50キロ遅れで走って来ているんだ。そのイスラエル人は、リンゴと オレンジとキウイフルーツをひとつずつくれて走り去った。
 午後、丘を次々に越えていくと、遠くに先をゆくチャリダーを発見。追 いついてみると日本人。シュウだった。彼のうわさは、これまでに何度か 聞いていた。広島カープの赤いヘルメットをかぶった、脚の不自由な日本 人チャリダーがオーストラリアをまわっている、と。少し話すと、今日の 目的地の町が同じだったので、またあとで、とその場は別れる。夕方、キ ャラバンパークで再会。缶ビールで乾杯。(写真;初めて見た野生の Red Kangaroo ・・・は、交通事故死体だった。)
9月14日(土)(晴/ホールズクリーク:0km)
 きのうの向かい風に疲れたので、シュウと一緒に一日休むことにした。 コインランドリーをワリカンで使い、プールサイドで旅の話をしながら、 週末の午後がゆっくりと過ぎてゆくのを見送る。そういや、キャンプ場に いる鳥もだいぶ変わってきた。ヒメハゲミツスイはあいかわらず見かける けれど、キイロコバシミツスイやミドリコバシミツスイがメインキャラ。 ヤドリギハナドリもいる。ハナドリ類といえば、ついこの間まで、マレー シアやインドネシアでいろんな種類を双眼鏡で追いかけていた。けれど、 オーストラリアに棲むのはこの1種だけ。真紅の喉が色鮮やかなこの鳥は 、僕には東南アジアの残り香のように感じられる。
 今日も一日、西風だった。もし走っていたなら向かい風だから、タイミ ングの良い休日。(写真;「牛にはねられないように注意」。)
9月15日(晴/ホールズクリーク〜メリープール Mary Pool :110km)
 夜が開けたころには、シュウの準備はもう完了していた。彼を見送って から、テントをたたむ。6時半出発。今日も向かい風。幸いなのは、きの うまでの「越えても越えてもまた見えてくる次の丘」というアップダウン のあるエリアを抜けたこと。道が平坦に戻っている。しばらく進んでシュ ウを追い越し、「ブルーム Broom で会おう!」と手を振る。
 気候はまた乾燥しはじめていて、道沿いに日陰を落としてくれるような 木さえなくなった。仕方なく、道路の下を通っている洪水路の狭いトンネ ルの中に寝転んで休む。高さわずか60センチ、幅1メートルのカルヴァ ート。これが実に気持ちよかった。ひんやりしたコンクリートと吹きぬけ る風。ズアカガケツバメの巣を見上げているうちに眠くなって、昼寝一時間。車で通りかかった親切 な人に、「大丈夫か?」と起こされた。シンパイヲオカケシマシタ。
 一日じゅう向かい風。脚はもちろん、腕と肩が疲れて、メリープールの キャンプ場に到着。(写真;一時間早く出発するシュウを見送る。)
9月16日(晴/メリープール〜フィッツロイクロッシング Fitzroy Clossing :180km)
 旅に出て以来の、一日の最長走行記録を塗り替えた日。まず夜明け間も ない6時過ぎに出発。グレートノーザン・ハイウェイを西へ。早朝は風が なく、やがて西風、つまり向かい風が吹き始める。きのうまでの3日間、 毎日西寄りの風だった。今日も一日こんなのかな・・・と思っていたら、 8時前、突然追い風に変わる。「ぉお、きたかぁ!?」と思わず口に出す 。南東の風なので、まうしろからは吹いてくれないけれど、それでもかな り楽だ。
 昼過ぎには予定していた100キロを走ってしまい、木陰で昼食のリン ゴをかじる。風はユーカリの枝をしならせるほど強く吹いている。この調 子なら今日はもうちょっと走れそうだからどこまでいこうかなと、地図を 広げる。そして気づいた。カナナラから南南西へ下っていたグレートノー ザン・ハイウェイは、南向きに大きく弧を描いて、はじめは南西、次は西 へと進む方向を変えている。そして今いるここから先は、北西向きになる 。つまり、風はこの先、まうしろから吹くことになるんじゃないか? 休んでいるのがもったいなく思えて、あわただしく午後の部スタート。 思った通り、5キロも行かないうちにパーフェクトな追い風になった。軽 くこいでいるのに20キロ以上キープだ。進む進む。
 日暮れにはじゅうぶん間に合って、フィッツロイクロッシングのキャラ バンパークに到着。フロント横のバーのテラスからステュアートが出迎え てくれた。おぉ、約1週間ぶり、元気だった?、今日180キロも走った よ・・・なんて話していたら、彼の隣のテーブルにいた客が、「180キ ロ!?、そりゃすごい!」と言って冷たいビールをおごってくれた。この 一杯は、マジうまかった。(写真;砂岩崖地の景観が変わってきた。垂直 な絶壁ではなく、崩壊した岩が斜面を作り、そこに草が生える。)
9月17日(火)(晴/フィッツロイクロッシング:5km)
 いつも通り5時前には目が覚めたけれど、今日は休息日。ステュアート を見送って、朝食のしたくをする。朝っぱらから強い南東の風。こりゃス テュアート、かなりのスピードで進んでるだろう。
 キャンプ場の隅にオオニワシドリの巣 があった。ペットボトルのキャップやら、洗濯バサミのかけらやら、どこ かで拾ってきた青いモノを巣の前の「庭」にちりばめている。そのくせ部屋の中の「宝物」には青いもの はなくって、白っぽい石や銀の金属ばかり。時々女の子を引っ掛けては、 「うちに遊びに来ない?」ってな感じで誘う。そんな時、オスはうなじに 隠されたピンクの羽毛を出していた。
 きのうと同じキャラバンパークに2泊目。(写真;川に水がある! 乾季のオーストラリアを走るサイクリストにとって、一番大きな問題は 、飲み水の確保。時々ワニが浮いているので、注意しながら河原に下りる 。)
9月18日(水)(晴/フィッツロイクロッシング〜デベサ Debesa 東:150km)
 6時半に出発。西へ。今日も追い風、これで3日連続で東寄りの風が吹 いている。その前の3日間は、正反対だった。恐いね、風っていうのは。 昼時の休憩所で、オーストリア人のカップル・チャリダー、ベグットちゃ んとイワツバメ(Martin)に会う。彼女らは、バーニー&フローの 知り合いだった。
 午後は風が気まぐれな方角からに吹くようになり、時々吹きぬけるつむ じ風が空き缶を浮きあがらせたりする。遠くに細い竜巻が起こり、森から 天に昇る龍のようにくねっていた。
 夕方には無風になった。ハイウェイから外れてブッシュに入り、テント を張る。(写真;日も暮れてきたし、今日はこのへんで。)
9月19日(木)(晴/デベサ東〜ベッドアンブラ Bedunburra 東:130km)
 6時半に出発。グレートノーザン・ハイウェイを西へ。風は弱く北寄り 。早朝の草原から、用心深い巨鳥、オーストラリアオオノガンが次々に飛 び立つ。林にはハゴロモインコの群が飛ぶ。昼休みをウィルアー Willare のロードハウスで3時間とった。ここは物が高く、水もにごっている。 午後はおおむね追い風。
 休憩中に草原を歩いていて、2週間前に交通事故死体で初めて見た“ツ チノコ”(実はトカゲ、Blue-tongued Lizard の一種)の生きているのを捕獲! アリ塚にもぐり込んでいるのを引っぱり出したら、ボンレスハムのよう にずしりと重い。怒ると体をふくらませるので、ますますツチノコに似てくる。シューシューと荒い息を吐き、青い舌をチロチロ出し、時には噛みつきかかってくるポーズで威嚇。・・・暇つぶしにからか ってごめんね。
 日暮れ前まで走って、今日もブッシュキャンプ。(写真;まるで妖怪。 地上3メートルのアリの巣。)
9月20日(金)(晴/ベドゥンブラ〜ブルーム Broome:120km)
 向かい風のハイウェイを西へ。丘の多かったキンバリー地方も今日まで。久々の「街」、ブルームへ向かう。昼、手前30キロの“ローバック・ロードハウス”で、レモネードとステーキバーガーを注文し、4時間のビッグブレイク。風がやまないので、もう今日はここまでにしようかと思って、テント泊代を聞いてみたら1000円。高いので、店を出た。
 ブルームに着いたときには、もう薄暗かった。シュウから推薦されていたバックパッカー宿へ。そこで偶然ヨハンと再会。おおー、久しぶり、ここへはいつ着いたんだ?、と立ち話。彼はイギリス人の女の子を連れていた。ここでできた彼女なんだそうだ・・・けど、明日の朝には飛行機でパースへ行ってしまうという。ステュアートもこの宿に泊まっているそうだけれど、ドミトリーが満室で僕はベッドがとれなかった。海岸沿いのキャラバンパークにテントを張る。(写真;乾くと木はなくなる。ちくちくした葉の草(Spinefix)が茂る。)
9月21日(土)(晴/ブルーム:10km)
 さて今日からしばらくは休息。自転車でツーリストインフォメーション をたずね、ぶらぶらと街の様子を見る。街角から時折見える海は、宝石の 色。
 ヨハンとステュアートが、昼までにバックパッカー宿からこのキャンプ 場に移ってきた。他のチャリダーから話だけ聞いていたイギリス人のベリ ーとも初めて会えた。暗くなってからシュウも到着、お疲れさん。ベグッ トちゃんとイワツバメも街で見かけたし、節約家バーニー&フローは海岸 のブッシュでキャンプしていると聞いた。早く着いても遅く進んでも、「 月への階段」を見る満月の夜まで、サイクリストたちはブルームにとどま ることになる。
 週末の夜。ベリー、ステュアートと街へ出て、バーでビールを飲みなが ら夜がふけるのを待つ。そして盛り上がり始めた頃にダンスパーティーへ 。(写真;海の色。)
9月22日(日)(晴/ブルーム周辺:15km)
 テントの中の暑さに起きたら、9時半。シャワーを浴び、歯を磨き、食 事の準備をし、食事を食べ、洗濯をし、洗濯物を干し、要するにだらだら と過ごした。夕方涼しくなってから、自転車で岬にあるガンスオウム Gantheaume ポイントへ。青い静かな海と赤い奇岩のコントラストが鮮やかな磯。涼 しい海風を受けながら水平線を眺め、潮が引いていくのをのんびりと待つ 。そして日暮れちょっと前に海岸に下りると、平たい砂岩の上に1億2千 年前の鳥の足跡、つまり恐竜 の足跡が残っているのだった。
 干潮時に足跡を見たあと急いで町へ戻り、「月への階段」を見にタウン 海岸へ。ベリー、ステュアート、シュウと合流し、人ごみに混じって昇る 月を眺める。宵の海沿いなのに、澄みわたった空気。くっきりとした輪郭 の、オレンジ色がかった地球の衛星。干潟に反射する月明かりの「階段」 も、バーコードのようにクリアできれいだった。お月見のあとは“真珠祭 り”の町へ流れ、打ち上げ花火を眺めては、ビールを飲む。そういや、だ れもマーカスを見ていないという。たぶんツアー参加好きの彼は、ところ どころ連泊しながらじわじわ走っているんだろう。(写真;ブルームの満 月。)
9月23日(月)(晴/ブルーム〜ローバック Roebuck ロードハウス南:60km)
 日も高くなってから起きてみると、ヨハンのテントはもうなかった。彼 はイギリス人の彼女を追って、バスでパースへ飛んでいってしまった。ス テュアートも、休みすぎるとダレそうだからと言ってチェックアウトし、 道へ戻って行った。シュウもユースホステルのベッドに今夜から移るとい ってテントをたたむ。僕は風を見て少し走る気になり、最後にキャラバン パークを出た。
 インターネットとスーパーマーケットで午前中をつぶし、午後2時に出 発。行きに寄ったローバック・ロードハウスで水を汲んで、15リットル を満タンに。店の前の交差点を南に折れて、いよいよ「グレートサンディ 砂漠」へ向かう。ダーウィン〜パース間のルートでは、チャリダーにとっ て最大の難所だ。次の水場は300キロ先、次の町は600キロ先だ。夕 暮れの牧草地の中を、風に乗って流れるミナミチュウヒを追って進む。日 没ちょっと前にブッシュに入り、テントを張る。(写真;海と岩。岩のて っぺんには、ミサゴ。)
9月24日(火)(濃霧のち晴/ローバック ロードハウス南〜フレイザーダウンズ Frazier Downs 北:120km)
 夜明け前に起きたら濃霧、たぶん海側から風が吹いたんだろう。寒くて フリースジャケットを着た。6時前出発。「グレートサンディ砂漠」って いったいどんなのなんだろうと、なかばビビリながら、砂嵐吹きまくる荒 野、みたいなスゴいのを期待していた。けれど、実際にハイウェイが走っ ているところは、道の両側とも葉が細くて背の低い木(Greville a)と草のやぶ。また海に近いため蒸し暑くさえある。砂漠らしいのは、 もっと内陸なんだろう。ただし、ハイウェイ沿いに川や池は全くない。
 昼時、休憩所で話しかけて来たキャンピングカーの旅行者に、一杯のミ ルクティーと3リットルの水をもらう。これで半日分の飲み水の余裕がで きた。あした無理して長距離を走らなくても済みそう。日暮れ前にブッシ ュに入りキャンプ。(写真;ひがな一日この景色。10キロ先まで見えて いる。)
9月25日(水)(早朝濃霧で曇、のち晴/ローバック ロードハウス南〜フレイザーダウンズ Frazier Downs 北:100km)
 霧が晴れてきた6時出発。グレートノーザン・ハイウェイを南西へ。曇 っていて肌寒い。東から吹く風が雲を海へと追いやり、一時無風。そして 西風になった。きのうと同じく右斜め前からの向かい風だ。景色もきのう と同じ、行っても行っても変わらない。午後、遠くに岩山が見えたのがと ても新鮮に感じられた。
 道のカーブ具合で向かい風になり、思うように進まない。こぐのにも景 色にも飽きたので、トリップメーターが100キロになったところでやめ た。ブッシュに入りテントを張る。自転車のスポークやタイヤを点検して みると、後タイヤがすりへってゴム層の下の繊維が見えているところがあ る。交換してまだ2000キロ足らず。さすが1000円のタイヤ、寿命 が短い。スペアは持っていないので、タイヤの外側にパンク修理パッチを 貼ってみた。こんなんで、どのくらいもつのかしらん。(写真;きのうと 変わらない景色よりは、木陰で見つけた虫の写真でも・・・。)
9月26日(木)(晴/フレイザーダウンズ〜エイティマイル・ビーチ 80 Mile Beach :徒歩10km、車30km、自転車60km)
 もし「今日のオーストラリア一幸運な男賞」というのがあるのなら、僕 はベスト100くらいには入るかもしれない。きのうは疲れていたらしく 、いつもより遅く起床。次のロードハウスまではわずか40キロ。そこで 昼飯を食べてから、きのう見つけた後タイヤのトラブルをなんとかしよう 。裏側からも補強をして、負担の少ない前輪と交換すれば、この先も何と かなるだろう。と、いつものように楽天かまして7時半出発。
 進んで5キロ、後輪からプシューーーーーッ!!!と音を立ててエアー が吹きだした。タイヤの側面がバーストしている・・・最悪である。スペ アタイヤはないから自転車を押していくしかない。問題は水。35キロ自 転車で走るには十分だけれど、歩くには少ない。けれど、とりあえず自力 で進めるだけ行ってみよう。歩いて5キロ、バーニー&フローが後から追 いついてきた。彼らもスペアタイヤは持っていなかったけれど、水を5リ ットルくれた。さらに5キロ歩いたところで、通りかかった4WDの釣り 師ゴードンが止まってくれた。暑くなり始めた頃だったので、自力到達は あきらめて自転車ごと車に乗った。時速100キロは速い速い。バーニー &フローを追い抜いて、わずか20分でロードハウス。
 売店には車のタイヤは売っていても自転車のタイヤはやっぱりなかった 。このロードハウスの前後300キロに町はない。ヒッチハイクでブルー ムの自転車屋へ戻るつもりで、店の人に事情を説明し、荷物と自転車を一 晩預かってくれるように頼む。快く了解してくれたので、カバンを運び込 もうと店を出る。すると、キャンピングカー旅行者のマットとトニーが声 をかけてきた。車に自転車を積んでいるので、そのタイヤでよければ譲る 、自分たちは次の町で新しいのを買うから、という。感謝して、受け取っ た。2日がかりのはずのトラブルが3時間で解決。
 譲り受けたのはオフロードタイヤ。せっかくだから、とハイウェイを外 れて赤い砂の道を10キロ。エイティマイル・ビーチにテントを張る。二 度と会うことのないだろう人から受けた恩は、いつか誰かに返さなければ ならない。(写真;きのうと変わらない景色よりは、木陰で見つけた虫の 写真でも・・・その2。)
9月27日(金)(早朝曇のち晴/エイティマイル・ビーチ〜パルドゥー Pardoo :105km)
 早朝のエイティマイル・ビーチを歩く。80マイルって、何十キロなん だろう。とにかく西も東も、朝もやの霞の向こうまで、延々薄灰色のビー チが続いている。そのうえ引き潮。遠浅の海の波打ち際ははるか彼方で、 散歩をするまばらな人影のおかげでその線がなんとなくわかる。その向こ うには空の雲とにじんだ水平線。
 バーニー&フローもこのあたりに泊まったはずだけれど見つけられず、 7時出発。路面の波打った未舗装路でハイウェイへ戻り、西へ。この3日 間ほとんど変わらない景色、そして変わらない右前方からの向かい風の中 を今日もゆく。単調なサイクリングをしていると、突然体がガクンと沈ん だ。そしてチャリンチャリンと金属部品の落ちる音。おいおい2日連続で トラブルかよ、今度はどこだ?、と自転車を止めると、サドルが道に落ち ていた。部品を拾い集めてみると、サドルをステーに固定するぶっといボ ルトがまっぷたつに折れている。笑うしかなかった。自転車って2万キロ 乗ると、こんなところが壊れるんだ。針金で固定してはみたものの、径が 細いのでサドルに体重をかけることができず、結局残りの20キロは立ち こぎ。パルドゥー・ロードハウスに泊まる。しかし、ボルトが金属疲労で 折れるなんて、この自転車もうどこが壊れてもおかしくないなぁ。次の自 転車屋まで、150キロ。(写真;言葉では何とも表現できない、水平線 のほのかな色合い。)
9月28日(土)(晴/パルドゥー〜ポートヘッドランド Porthedland 東;130km)
 サドルを直すところから一日が始まる。ロードハウスの庭にうち捨てて あった太い針金をもらい、これでもかというくらいグルグル巻きにしてサ ドルをステーに取り付けた。出遅れた日はレストランで朝食でもとって、 ゆっくりミルクティーでも飲もう・・・と、やっと目覚め始めた脳ミソで ぼんやり考えながらテントからフライシートをはずす。バタバタとはため くのを見て、今日は風が強いなぁ、と思う。あれ、待てよ、風向きがきの うと180度違う。これは追い風! 優雅な朝食はあきらめて、サンドイッチふた切れをほおばり、ミックス ジュース1リットルをあわただしく飲み干して9時前出発。まもなくぴっ たり追い風になり、快調に進む。
 午後、風はまた180度変わった。これがオーストラリアの怖いところ 。気温40度超えの中の向かい風は健康によくないので、夕方まで木陰で 休む。夕日に向かって走り始め、あと30キロ足らずでポートヘッドラン ド、というところで日没。ブッシュに入ってテントを張ると、遠くに街の 明かりが見えた。あれがニンゲンという名の哺乳類の生息場所。(写真; 夕暮れのロードハウス。シャワーとプールと、そして冷たいビールのある オアシス。)

探鳥日記 オーストラリア(ウエスタン・オーストラリア州/ポートヘッドランド〜)