〜自転車でペンギンを見に行こう!編〜

探鳥日記 オーストラリア(ノーザン・テリトリー州)

(2002年8月18日〜9月8日 )


8月18日(日)(晴/クタ〜ダーウィン:飛行機+自転車15km)
 飛行機に乗り込んでいくと、スチュワーデスは朝の1時半から「おはようございます。」と挨拶した。離陸してしばらくすると明かりが消えたものの、すぐにまた点灯。そして飲み物や機内食が次々に配られて、6時半頃にはダーウィン空港に着陸。うたた寝する間もなかった。
 オーストラリアは今まで旅したことのあるどこの国よりも、入国チェックが厳しかった。仕事はやめて来たのか、国内でお金を稼ぐつもりはないでしょうね、といった質問を繰り返し聞かれる。さらに、作物の病気を持ち込ませないために、お茶の葉や木彫りのみやげ物まで申告させられる。また土から感染する家畜の病気を防ぐために、スニーカーなどの汚れやすいスポーツ用品までチェックされるのである。そしてその中には、自転車も含まれるのだった。指示されるままダンボールのパッキングを開けると、何ヵ月も洗っていない泥だらけの自転車が目の前に現れた。係官は自転車を給湯室の流し台の上に運び、僕に柄付きのタワシを渡して、「洗いなさい」と言った。シンガポールから3ヵ月半かけて目指してきた南半球の大陸オーストラリア。僕がこの国に着いて初めにしたことは、朝の7時半から台所で自転車を洗うこと、だったのである。
 ダーウィン市街のバックパッカー宿に入る。街で鳥の図鑑を買った。(写真;ダーウィン。人が少なくて、ビルが低いのがいい。)
8月19日(月)(晴、夕方からうす曇/ダーウィン:15km)
 庭先のテーブルで朝食のパンケーキが来るのを、熱い紅茶を飲みながら待つ。おはようと言って向かいにこしかけた女の子が、当たり前だけれど英語で話しかけてくる。物を口にする前に、これはタダなのかお金を払うのか、いくらなのかと確かめないと、定価の5倍もふっかけられるかも知れないと心配をすることもなく、その腕時計はいくらだ、その自転車はいくらした、給料は月にいくらだ、なんていう殺伐とした会話の相手をする必要もない。だれひとりしつこくなく、興味本位でじろじろ見られることもなく、口約束は守られる。“普通にしていられる”のである。僕はアジアを出たと実感した。つまりそれは、発展途上国を出た、ということ。1泊1400円、1食350円は、きのうまでと比べたらものすごいインフレーションだ。けれど、それに余りある設備の充実と精神的なリラックスがここにはある。
 涼しくなってから、自転車で近くのイーストポイント保護区 East Point Reserve へ行った。散歩やジョギング、車椅子の人たちが海沿いの遊歩道で夕暮れを楽しんでいる。ローラーブレードの女の子にワラビーを見られる場所を聞くと、その場所までついてきてくれた。初めて見る野生の有袋類にすっかり夢中になって、フィールドスコープをのぞきながらうわの空で受け答えしていると、「あなたとは、本当に本当に(really, really)、いい時間を過ごせたわ!」と怒って帰ってしまった。夜は公園で開かれるナイトマーケットに韓国人の女の子を誘って出かけた。チョコチップバニラのアイスクリームが甘かった。全てがナチュラルだ。“普通にしていられる”。
 ただ、バードウォッチャーとしての僕は平然とはしていられない。なにしろ、一番多い電線の鳥はモモイロインコで、街路樹の下にはツチスドリムギワラトキズグロトサカゲリベニカノコバト。林のかげのやぶには、オーストラリアツカツクリがいる。海岸で、おお、ユリカモメ、久しぶりじゃん・・・と思って双眼鏡をのぞいたら、えれぇ目つきの悪いギンカモメだった。とにかく見たことのない鳥だらけのうえ、ものすごい数と種類の鳥たちが、日本と変わらない現代的な生活のすぐ近くにいるのである。こんな国、見たことない!(写真;やさしいまなざしのワラビー(Agile wallaby)。なかなか美人でしょ。)
8月20日(火)(晴/ダーウィン:15km)
 チェックアウトして、オーストラリア最大の国立公園、カカドゥへ向かう・・・予定だった、きのうまでは。けれどゆうべドミトリーの同室の日本人たちと遅くまで飲んでしまったので早起きできず、出発を先延ばしに。朝はダラダラして、昼前にすぐ近くにあるチャールズダーウィン Charles Darwin 国立公園へ行ってみた。フランセス湾の対岸からダーウィン市街を見渡せる眺めのいい公園。広大なマングローブ林が保全されているのだけれど、暑い中歩き回る気にもなれない。芝生を敷きつめた広場のベンチに腰かけて、持ってきた昼ご飯を食べた。満腹に満足して寝転がっていると、鮮やかなゴシキゼイガイインコハチクイ、地味なノドジロムジミツスイヨコフリオウギビタキ、オーストラリアオニサンショウクイ、アカオクロオウムなんかが、入れ替わり立ち替わりやってくる。こいつらが、このあたりの「庭の鳥」ということになるんだろう。
 ダーウィン市内に3泊目。(写真;市街地周辺には自転車道のネットワ ークが広がっていて、安全快適にサイクリングできる。)
8月21日(水)(晴ダーウィン〜カラバリー Corroboree :90km)
 8時前に出発。国道1号線で南東へ下り、アルンへム Arnhem ハイウェイへの分岐から東へ向かう。ダーウィン市街からほんの30キ ロ離れただけで、道は広くまっすぐにサバンナ森林地帯を貫くイメージ通 りのオーストラリア。林を抜けて突然景色が開けると、右手に湿地が広が っていた。乾季のためか水はいくつかの小さな池にあるだけのようで、そ こに鳥たちがたまっている。多くてデカくて動き回っているので良く目立 つカササギガン。岸で 休むのはコシグロペリカンシロハラコビトウオーストラリアヘラサギとミ ナミクロヒメウ。水面にぷかぷか浮いていて、時々思い出したよ うに潜るのはノドグロカイツブリオーストラリアヘビウは、インドやネパールで見慣れたアジアヘビウとおん なじポーズで羽根を乾かす。トサカレンカクは忙 しく餌を探して歩きまわり、その向こうにはシロガシラツクシガモとどこ にでもいるツチスドリがウロウロしている。上空を旋回するのは 、フエフキトビ。これ がオーストラリア・トップエンド地域の、幹線道路沿いにあるフツーの水 辺の風景。
 カラバリーのキャラバンパークでテント泊。カカドゥ国立公園はまだ遠 い。(写真;そこらじゅうにそびえるシロアリ塚。)
8月22日(木)(晴、午後から時々曇/カラバリー〜メリーリバー国立 公園 Mary River NP :30km)
 9時前に出発。25キロほどのところにあったドライブインで休憩しな がら、次のキャンプ場をチェック。これが思ったよりも遠いことがわかっ た。急ぐこたぁないので、少し戻ってマリーリバー国立公園に泊まること にした。
 日が傾いてから、2時間ほど「バンブー・ウォーク」という遊歩道を歩 いた。バンブーとは、もちろん竹。オーストラリアに竹があるなんてちっ とも知らなかった。インドネシアのジャワ島の植物園以来、見た記憶ない けどなぁ。竹林の中を歩いていくと、正面から来たワラビーの親子に出く わした。こちらに気づくと、急に向きを90度左に変えて遠ざかってゆく 。敷きつめられたクリーム色の竹の落ち葉をさくっ、さくっ、さくっ、と 踏みしめながら、ぴょんっ、ぴょんっ、ぴょんっ、と小気味よく竹林を走 り抜けるワラビーたち。絶対に想像じゃイメージできない現実。木陰に座 りこんで一休みしているとオオトカゲ(Mer ten's Water Monitor Lizard ?)がやって来たりする。鳥は人をあまり恐れず、用心深いはずのテリオウチュウムナジロクロサギ、 スコープで覗かれることを嫌うはずの猛禽類チャイロハヤブサま で、驚くほど近くへ寄ることができる。チュウサギの飛び立つ距離も、明 らかに日本のより近い。豊かささえ感じさせるこの余裕は、いったいなん なんだろう。(写真;車の通らないまっすぐな広い道を、アカビタイムジオウムたちが渡ってゆく。)
8月23日(金)(晴/メリーリバー国立公園〜サウスアリゲーター South Alligator :95km)
 8時半に出発。両側に乾いた林以外は何もない、まっすぐなアルンへム ・ハイウェイをゆく。カカドゥ国立公園の入り口まで半日がかりだった。 入場券を買い、駐車場で一休み。なにしろ昼を過ぎたら、暑いなんてもん じゃない。インドネシアのフローレス島と比べたら、ダーウィンはだいぶ 赤道から離れているので、少しゃ涼しいだろ、と来る前は思っていた。と んだ楽天だった。午後の1時から3時頃に自転車で日向を走るのは、危険 ですらある。とはいえ、都合良く屋根のある休憩所なんてありゃしない。 案内板の小さな陰に座り込んで、陽が傾くのを待つばかり。1メートル四 方の日陰の中じゃすることがないので、今、こうやってこの日記を書いて いたりするのである。
 午後は3時から走り始めて45キロ、サウスアリゲーターのキャラバン パークにテント泊。キャンプ場によくいる鳥は、 モリショウビンパプアソデグロバトミナミガラス。オー ストラリアのカラス類は、不思議とみんな目が白いのである(ただし、迷 鳥のイエガラスを除く)。(写真;葉先のとがったパンダナスの木は、オ ーストラリア・サバンナ林のメインキャラ。)
8月24日(土)(晴/サウスアリゲーター:5km)
 8時から「グ・ンガレ Gu-ngarre ウォーク」を歩く。だいたい自転車で走りながら見て種類までわかる鳥なんてのは、大味なやつばっかり。だから森を歩いている時は、自然と小鳥たちに目がとまる。林床をはねてゆくムナグロヤイロチョウや、林の低いところを動き回るセアカオーストラリアムシクイ、 ムナフオウギビタキレモンオリーブヒタキ。池のほとりに出ると蓮の花咲く水面にオオリュウキュウガモ、木のこずえにはキバタンがいた。
 オーブンの中で焼かれるような昼間は、洗濯や自転車の整備や昼寝。そして夕方から、地平線まで見えそうな湿原・・・のはずだけれど、今は干上がって草原・・・へ自転車で出かけた。くちばしを地面に突っ込んで餌をとるオーストラリアヅルの周りに、アシナガツバメチドリたちが胸を張って立っていた。
 サウスアリゲーターのキャラバンパークに2泊目。(写真;いろいろ、いっぱい、いる。)
8月25日(日)(晴/サウスアリゲーター〜メアル Merl ;90km)
 朝からいきなり前輪がパンクしたので、出発が9時を過ぎてしまった。小一時間でマムカラ Mamukala、湿原を見渡す水鳥の観察小屋がある。目の前にいるセイケイはかなり黒っぽい亜種で、インドやネパールで見た目の覚めるような美しさはない。ここは「観光地」で、鳥も多いが人も多い。半径10メートル以内に5人以上の人がいるなんて、この広大なカカドゥ国立公園内じゃ、メシどきのレストランかこの観察小屋くらいでしか経験してないョ。けど、人が集まるおかげで、スイス人チャリダーのマーカスに会う。
 ジャビル Jabiru は公園職員のための静かな町で、交番や図書館がある。スポーツクラブのカフェで昼を食べながら、庭木の影が伸びてくるのを待つ。3時半からの暑さは、上からよりも下からのほうが強く熱を感じる。メアルのキャラバンパークに着く頃にやっと涼しくなってきた。ここ、チャリダーはテント場代がタダ。400円足らずの金額だけれど、ウェルカムされているのがうれしい。(写真;先住民族アボリジニの壁画、首の長いカメ。)
8月26日(月)(晴メアル〜ウビルー Ubirr(往復):10km)
 朝、バーデッドジルイドゥジー Bardedjiilidji ウォークを歩く。サバンナ林、氾濫原に続くカカドゥのもうひとつの顔、砂岩崖地の中を通る遊歩道。規模は小さいけれど、そのぶん歩きやすい奇岩の並ぶ景勝地。イワバト類とかロックワラビー類とか、「岩モノ」を期待したけれど見つけられなかった。午後はマンーガレー Manngarre ウォーク へ。こっちはモンスーン雨林の中を通っている。カカドゥには乾いた林ばかりじゃなく、クリーク沿いに雨林まであったりするのである。ヒジリショウビンカオジロサギのほか、ワニ(Saltwater Crocodile)やらコウモリ(Little Red Flying-fox)やらたくさんいて、ほんとうに熱帯雨林の雰囲気だった。
 3時のお茶のあと、「岩モノ」と夕焼けを期待して、ウビルーの丘へ登る。目玉のくりっとしたロックワラビー(Short-eared Rock-Wallaby)がいた。空を見上げるように崖の突端に立つチャバラモズツグミがいた。しかしそれより何より、丘から見渡すパノラマの大迫力。森から付き出す巨大な岩山。その横縞模様を火色に染めながら、無数の水鳥のいる大湿原のむこうに沈んでゆく夕日。立ちつくしたまま、ただ、眺めた。(写真;丘に登ってはじめて、自分がこの数日いったいどういうところで過ごしているのかを知った。)
8月27日(火)(メアル〜マルドゥガル Mardugal :100km)
 朝は良く冷え込むので、長袖を着て7時半にスタート・・・しようとしたら、また前輪がパンクしてる。チューブを出してみたらバルブの根元がゴムからはがれている。このチューブも終わりか。交換して8時前スタート。10時には炎天。
 昼前、ボワリ Bowali の公園ビジターセンターのカフェで、なるべくカロリーの高そうなものを食えるだけ食ってから、後半戦。カカドゥ・ハイウェイを南西へ。午後1時から3時は、いつも通り木陰へ逃げ込む。ただし、まとわりつく大量のハエやアブと戦いつづけなければならないので、完全休養というわけにはいかない。
 夕方、クーインダ Cooinda に着いて受け付けカウンターに行く。「全てが高い」とは聞いていたけれど、テント泊1500円! 冗談じゃないので食糧の買い出しだけして、あと6キロ走る。マルドゥガルのキャラバンパークに泊まる。夜、2日前にパンクしたチューブを直そうと、新品の接着剤を開けてみたら、乾ききってゴム状態・・・・・インドネシアで買ったやつだ。(写真;こういうところに一番多い鳥はどんなのだと思いますか?意外にも、白くてでっかいオウム類だったりする。)
8月28日(水)(晴/マルドゥガル〜メリーリバー Mary River :105km)
 8時前に出発。このあたりからカカドゥ国立公園の南部。両側にはユーカリの林が広がっている。公園の入場チケットは1100円で7日間有効。あした分まで残っているので、午前中だけ走って Gungurul キャンプ場に泊まる予定だった。ところが着いてみるとここには汲み取り式のトイレがあるだけで水がない。おかしいなあ、ガイドブックにはあるって書いてあったのに、ともう一度本を開いてみると、「Gunlom」の読み違い。たまにはこういうこともある。
 水がなけりゃメシも炊けないので、あと50キロ、公園の南出口まで走って、すぐ外にあるメリーリバーのキャラバンパークにテント泊。公園の境界線を出たからって、日本みたいにそこからいきなり伐採地や植林地が始まったりはしない。あいかわらず自然林が、見渡す限りのそのむこうまで続いている。島国暮らしと大陸暮らしじゃ、野生の生き物に対するおおらかさが違うのである。(写真;あっつい。二時間休憩。)
8月29日(木)(晴/メリーリバー:0km)
 きのうは予定外に長く走ったので、一日休みをとる。洗濯をしたり、プールで泳いだり。日陰のベンチでお茶を飲んでいると、キャンプサイトの芝生のために回しているスプリンクラーに、鳥が水浴びにやってくるのが見える。一番多いのはヒメハゲミツスイで 、その次がコブハゲミツスイ、 そしてアオツラミツスイ。 他にノドグロモズガラスオオニワシドリもくる。夕方、ワニに気をつけながら川沿いの森を歩く。岸に座り込んでいると、チャイロモズツグミやナマリイロヒラハシが水辺に下りてくる。帰り道の木々のまばらな草原には、アオバネワライカワセミヒメモリツバメ、オーストラリアカワリオオタカがいた。
 ここのキャラバンパークには、もう2週間も住み込みで働いているベルギー人の自転車旅行者ヨハンがいた。ニュージーランド、オーストラリア東岸を旅して8ヶ月。今は、少し長めの休暇中(・・・チャリダーとしての)、とのこと。ヨハンは当然、パンク修理用の接着剤を持っていたので、それを借りておとといからやり残していたチューブの補修をした。(写真;ユーカリの林から、「日本のみなさんお元気ですか?」)
8月30日(金)(晴/メリーリバー〜パインクリーク Pine Creek :60km)
 8時出発。カカドゥ・ハイウェイを南西へ。ペダルが軽いのは、道がおおむね下っているからだろう。相変わらずサバンナ林の中を走っているけれど、たまにガソリンスタンドやモーテルの宣伝看板が立っていたりして、もう国立公園は出たんだと思い出す。
 午前中にはパインクリークのキャラバンパークへ。テントを張ってから、レストランで昼食、おやつ、夕食。その昔、ゴールドラッシュで栄えたこの町は、今はなんにも見るものがない、ただのんびりとしたところなんである。(写真;カカドゥ国立公園を出て最初の町、パインクリーク。の、メインストリート。)
8月31日(土)(晴/パインクリーク〜カスリーン Katherine :105km)
 またしても朝、パンクしているのを発見。こう何度も続くと、タイヤかリムに問題があるんじゃないかと疑ってかかるわけだが、原因はダーウィンで買った新しいチューブ。新品なのにもうバルブの根元がゴムからはがれている。リムのバルブ穴を良く見たけれど、とくに問題があると思えないし。不良品をつかまされたのはムカつくけれど、この先同じトラブルが続かないなら、まあそれでいい。
 午後1時過ぎにはカスリーンに着く。スペアチューブやらパンク修理用の接着剤やら、この町で買いたいものがある。なのに、あいにくの土曜日。スーパーやレストラン以外の店は、半日で閉店している。あす日曜日は、当然のように町じゅう休みだし。とりあえず町外れのキャラバンパークにテントを張り、町には数日後に出直すことにした。それまで近くの国立公園へ行って来よう。(写真;どの町も、道が広く建物が低い。)
9月1日(日)(晴/カスリーン〜ニトミラック国立公園 Nitmiluk NP :30km)
 日曜日だ。峡谷のあるニトミラック国立公園への道を行くのは一日観光客の車ばかり。みんな手を振りながら追い越して行ったり、自転車の横に並んで走りながら冷たいジュースを手渡してくれる人もいる。
  二時間足らずでキャンプ場に着き、ハイイロツチスドリが群で歩き回る芝生のそばにテントを張る。日が傾いてからニトミラック峡谷のほんの入り口を見に小高い岩場へ登ると、ニジハバトカオグロモリツバメがいた。(写真;ニトミラック峡谷。カヌーで下る観光客ふたり。)
9月2日(月)(晴/ニトミラック国立公園:0km)
 峡谷を見るのにはカヌーを借りて川をさかのぼっていくのが、いちばんきれいな観光コースらしい。けれど、友達と二人用カヌーで行くならともかく、一人用で漕ぎ続けるのもダルい。カカドゥで見落としたイワバト類も拾っときたいしと思い、トレッキングルートをたどって歩くことにした。
 本気で歩きたいなら5泊6日コースとかあるけれど、もちろん選んだのはイージーな半日コース。朝日に当たるチャバネイワバトを見ながら丘をひとつ越えると、深い谷沿いに下って渓谷へ出た。切り立つ崖の岩肌にある、非常階段のようなちょっとした出っ張りを、カンガルー(Antilopine Wallaroo)がぴょんこ、ぴょんこと跳ねて行く。危なっかしく見えるけれど、本人は無表情だ。穏やかな水面を見ていると、澄んだ水の中をテッポウウオや頭のでかいカメが泳いでいく。釣り竿でもあったら、一日中遊べそう。
 午後には岩場の気温は平気で40度を越えるので、早めに戻ってレストランで乾いた喉にビールを流し込む。庭に来るコブハゲミツスイも水道の蛇口で渇きを癒している。ニトミラックに連泊。(写真;峡谷は続く。)
9月3日(火)(晴/ニトミラック国立公園〜カスリーン:40km)
 1時間半でカスリーンまで帰ってきた時には、まだ午前中。この先町は300キロ以上ないので、インターネット、自転車屋、ATM、と用事を済ませてもう少し走るつもりだった。ところが郵便局に行った時に、カカドゥで会ったチャリダー、マーカスに再会。すぐ近くの安宿でテント泊していて、自転車旅行情報がたくさんあるから見に来ないか、という。行ってみると、ロードハウスの仕事をやめてチャリダー復帰したヨハンもいた。さらに、5月にインドネシアのスマトラ島でひと言だけ話したスイス人バックパッカーまでいて驚いた。彼は今体調が悪く、熱が42度もあって血液検査の結果待ち。たぶんマラリアだという。おだいじに・・・。
 いろんな人と話しているうちに昼を過ぎて、結局ここに泊まることにした。せっかく時間ができたので、新しいタイヤを買って、前後ともオンロード用に交換。その2時間後、またしてもパンク。古いタイヤからチューブを引き剥がす時、ずっと前に直したパンクのパッチが浮いたらしい。ここんところ前輪のトラブル続き。厄除けのおはらいでもしたほうがいいかも・・・この国には神社ないけれど。(写真;トライサイクルで1輪のトレーラーを牽引し、合計4輪の自転車で旅をする人。)
9月4日(水)(晴/カスリーン〜地名不明:105km)
 一晩で5人のサイクリストと会った宿を8時前に出発。オーストラリアには自転車旅行者が多い。途中、シドニーから走って来ているオーストラリア人のステュアートに休憩所で会う。お互いの休憩のたびに抜いたり抜かれたりで何度か会っては話す。午後、スポークが折れて木陰で交換。前輪トラブルがひと段落したと思ったら、今度は後輪か、ったくぅ。草原沿いの路上にツチノコの轢死体を発見!・・・と思ったら、足生えてるじゃん。トカゲ(Blue-tongued Lizard の一種)だ。
 地名不明の、カスリーンから2つめのキャンプ場に泊まる。ステュアートはもう少し走ると言って夕暮れのハイウェイへ出ていった。(写真;少しずつ乾いてきた景色。1500キロ先はグレートサンディ砂漠。)
9月5日(木)(晴時々曇/地名不明〜ヴィクトリアリバー Victoria River:95km)
 カスリーンの宿の情報ノートにあった通り、このキャンプ場は汚かった。ゴミが散乱しているのは実害はないとしても、とにかくハエが多い。朝6時半から顔の周りをまとわりつき始め、15分後には背中に20匹も止まっていた。ハエから逃げるように7時に出発して、ヴィクトリア・ハイウェイを西へ。曇り気味のうえ追い風で、サイクリング日和。早朝の路上にはレンジャクバトが歩き、オカメインコが飛び交う。むかしオカメインコを飼ってたことあったけれど、20年近くもたった今、やっと自分にとってこの鳥が「野鳥」になった。どう見てもカゴの中より元気で綺麗だ。
 道路標識の影で休憩したりしながら、昼過ぎにはヴィクトリアリバーのキャラバンパークへ。ステュアートはもう着いていた。彼とビールを飲みながら夕食をとっていると、突然ヨハンが登場。「今朝、カスリーンを出てきた」・・・って、180km以上あるケド・・・。(写真;グレゴリー国立公園の赤い崖。)
9月6日(金)(晴/ヴィクトリアリバー〜ティンバークリーク Timber Creek:90km)
 8時、3人のサイクリストの中では一番に出発。グレゴリー国立公園の 切立った赤い崖を見上げながら、ヴィクトリア・ハイウェイを西へ。風はないか、時々弱い向かい風。 オーストラリアチゴハヤブサの巣を見つけてフィールドスコープで覗いていると、ヨハンがやってきて隣で行動食のサンドイッチを作り始めた。しばらく休憩のあと二人で再スタートすると、まもなくステュアートが追いついてきて3人でゆく。風あたりの強い先頭をローテーションで代わりながら、まっすぐな道を一列で走る。めいめいのタイミングで休憩をとるので、そのうちまたバラバラに。
 1時過ぎ、ティンバークリークのガソリンスタンドでヨハンに追いつき、まもなくステュアートも来た。遅い昼食に巨大なハンバーガーをかじり ながら話すと、ヨハンはあと60キロ走るという。ステュアートと僕は彼を見送って、スタンド裏のキャラバンパークにテントを張った。テントサイトにはオーストラリア人チャリダー、バーニー&フローがいて、そばのドブ川にはワニ(Freshwater Crocodile)がいた。(写真;追いつけば一緒に走り、ペースが合わなくなればまた離れていく。)
9月7日(土)(晴/ティンバークリーク〜サドルクリーク Saddle Creek :120km)
 7時半に出発。ヴィクトリア・ハイウェイを西へ。ステュアートもすぐあとに出たらしく、途中でビスケットをかじっていたら手を振って追い越していった。屋根付きのテーブルのある休憩所で追いついて、いっしょに昼食。そしてまた別々に出発。今日は走行中に車で過ぎてゆく人から冷たいコカコーラとダイエットコーラを1本ずつ、それと休憩中に熱いミルクコーヒーをもらった。親切な人が多い日だ・・・と思ったら土曜日だ。遊びに出かける人は良く声をかけ、物をくれる。一日中弱い追い風の走りやすい日。気温はもちろん35度を越えているけれど。
 夕方、泊まろうとしていたサドルクリークのキャンプ場の手前100メートルで、後輪のスポークが折れる。折れたのはアンラッキーだけれど、タイミングはラッキーだ。タイで全換えしてから、もう1万キロくらい走った。そろそろ二度目の交換時期だなぁ。あとから来たステュアートは水だけ補給してもう少し走る・・・はずが、キャンプ場内で前輪パンク。結局テントを並べて張った。(写真;デブな木、ボアブ Boab。)
9月8日(日)(晴/サドルクリーク〜グランダルン Gurrandalng :85km)
 8時前に出発、西へ。今日もステュアートに時々会うサイクリング。彼は以前、森林関係の政府機関で働いていたことのあるナチュラリストで、植物に詳しい。ダーウィンを出てからもう1200キロほど走ったのだけれど、道沿いの森は少しずつではあっても、毎日確実に変わってゆく。ステュアートと並んで走りながら、彼に聞きたいことはいくらでもある。
 ノーザンテリトリー州からウエストオーストラリア州へ入る州境手前で右折、キープリバー Keep River 国立公園へ。直進してさらに西へゆくステュアートに手を振った。赤っぽい砂利の未舗装路を、後輪のスポークを気にしながら15キロあまり走ると、グランダルンキャンプ場に着いた。夕方、岩場をたどるトレッキングルートを歩くと、モンツキイワバトがいた。翼の白い「モン(紋)」がデカい方の亜種だった。(写真;キープリバー国立公園。)

探鳥日記 オーストラリア (ウェスタン・オーストラリア州)