「三河弓術風土記」 下巻の出版に寄せて

 高柳先生の著した「三河弓術風土記」は上巻が出版されてから、すでにほぼ四半世紀という時間がたちました。
この著書は数多くの文献や古文書、三河各地を自身の足で歩いた精査な実証研究に裏打ちされています。
三河の弓道を理解する上で貴重な資料となっています。

 数年前、島原のためさんから教えていただくまでこの本のことを知りませんでした。
一読して、この著書(上巻)が出版されてからの20数年の間に消え去った三河古流弓道の多くのことに愕然としました。

今ではこの著書が三河の古流弓道を継承する上で貴重なガイドラインとなっています。
また、日本の他の地域に残る流派弓術を理解する上でも、数多くの示唆に富む内容が残されています。

ただ残念ながら下巻を出版されるまえに高柳先生がお亡くなりになられて
上巻をすでに読み、下巻の目次を知る者には幻の下巻でした。

このたび、ご家族の尽力で「三河弓術風土記」の下巻が出版されるはこびとなりました。
下巻の出版を待ち望んでいた私たちには大きな喜びです。
多くの方々に読んで頂きたいと思います。(管理人)

上巻は完売しました
下巻は限定250部で発行されました

興味のある方は下記のアドレスに連絡願います
お送り致します

willownb2000@yahoo.co.jp (高柳)

以下に目次を掲載します。



三河弓術風土記
 
高柳静雄 著


 上・下巻
上巻 本文:296ページ
下巻 本文:234ページ
初版:昭和53年3月1日発行

定価
上巻 3500円
下巻 4800円


まえがき

 弓は太古の有史以前から、衣食の資料を求めるための道具として生まれ、主に狩猟の道具であった。
平時には全く経済生活の必要道具として利用されたものとはいえ、しだいに人間の増加するにつれて、
種族間や部落間等の利害関係や勢力関係の衝突から起きる闘争の具とし重要な位置をしめるようになり、
平時有事の別なく男子は生きるためにその技を修練した。

武士の台頭とともに弓矢は戦場にかくことの出来ない武器となったが、
この時代の弓矢は、専ら目的物に的中させること、遠くへ矢を送って相手を畏怖させたり、追い払ったりすることが主で、
そのために矢とびのするどさや、すぐれた貫通力のもとに的中のたしかさが要求されこれにかなうような鍛錬をし、
この技にすぐれたものを弓の名人といった。
 したがってこの時代の弓射の主たるねらいは、これ等のことを修練することでこれを弓術とよび、
弓術は実に生きるための手段であった。

 この書はこのようにして戦場からはじまった武士の弓術をはじめとし、
とくに三河という徳川発祥の地にあって、
蔵人元康の「弓之事」のお墨付以来その庇護をうけて栄えた他国にその例をみない三河の国独特の弓術について、
各地に残っている事蹟や古い文書を探り何かまとまったものを得ようとこころみた。
 これを系統的に整理することはたいへん困難な仕事であることを知ったが、
各所に残されている資料もそのすべてが日置流に関するもので、
このことからも、日置流は日本弓術の本流であったことがわかる。

 日置流は日置弾正正次の創始した弓術でとくに、実戦の射、実利の射として発達し、数多くの分派を生じて栄えたもので、
弾正はまた武士のみならず一般庶民に弓を与えようとし、全国遍歴によって四民悉くに弓を普及させようとした。
 この正次の理想は長い年月には、さまざまな曲折を経た時代はあったにせよ、
とくに三河の地にあっては武士の表芸であった弓術がいつしか庶民に浸透し、
正次の理想は、長く生きつづけてきた。
 これは一部の階層にのみ伝承されてきた流派と異なり、いわば大衆に愛され大衆の中に生きてきた弓、
それは日置流そのものであり、三河の弓そのものであった。
 従って本書はまた三河日置流物語であるともいえよう。

 ともあれ、せっかくの資料や調査もじゅうぶんにこれを生かしえなかったが、
三河各地に栄えた各流派の系譜とその伝承を中心としてこの書をまとめ、
さらに、目次第三章以下については下巻として整理する考えである。

          昭和五十二年十一月二十二日    著書誌す

目次

   上巻

第一章 日本弓術の歴史

  第一節 日本弓術史の概要

  第二節 歩射小史

  第三節 三河弓術年表


第二章 流派の系譜とその伝承

  第一節 流派弓術


   (1) 廃絶した古流
     ○ 日本流 ○鹿島流 ○八幡流 ○逸見流 ○その他の古流

  第二節 近代流派とその基礎

   (1) 小笠原流
   (2) 日置流

  第三節 日置流の弓術

   (1) 革新射法のおこり
     ○ 日置流のあらまし ○日置流の二派とその分派
   (2) 日置弾正正次のこと
     ○日置弾正の生い立ちとその弓術 ○弓術普及と勧進的
   (3) 実戦射術としての日置流

  第四節 三河に伝わる各流派

   (1) 吉田流と出雲派
     ○ 日置流と吉田流 ○ 日置、吉田分派系図
   (2) 印西派
     ○ 印西派、三河系統の祖 ○ 吉田印西派系図 ○ 印西派の継承 ○ 印西派の特徴
   (3) 雪荷派
     ○ 吉田雪荷と三河雪荷の祖 ○ 雪荷の正統 ○ 雪荷派と印西派の関係
     ○ 三河に残る雪荷派の系譜 ○ 三河雑鈔にみる原春甫斉と雪荷派
   (4) 大和流
     ○ 大和流と二つの三河系  ○ 大和流系譜
   (5) 竹林流
     ○ 竹林派の祖と三河の竹林派 ○ 竹林派系譜 ○ 三河に残る石堂家譜
   (6) 大蔵派
     ○数少ない三河の大蔵派
   (7) 山科派
     ○吉田藩士と山科派
   (8) 長篠合戦に消えた甲斐武田流

  第五節 弓術の伝承(入門と掟)

   (1) 誓約の門のこと
    ○ 誓約の門の事 ○ 誓約状 ○ 当流掟之条云 ○ 学規のこと ○ 時習館の規定
   (2) 武術師範入門の誓約
    ○ 起請文の事 ○ 三浦覚春の誓祝詞と入門の証 ○ 真弓家弓修行心得七か条 ○ 民間矢場の掟
   (3) 弓術流派の継承
    ○ 口伝口訣から書き物へ ○ 天下免許と国内免許
   (4) 三河各地に残る弓術伝書とその内容
    ○ 三河各地に残る弓術伝書とその内容
    ○ 日置流之目録 ○ 日置流印可の事 ○ 日置流弓許状 ○ 当流目録二十一か条解義
    ○ 教歌(指南歌)のこと ○ 堀義仙と弓口伝書聞書(1) ○ 堀義仙(堀八郎永正)弓口伝聞書(2)。 その他の伝書

  第六節 金的奉納額からみた流派の系譜と伝承

    ○ 三河の弓 ○ 西三河の大矢場 ○ 御神的料のこと ○ 奉納額のいろいろ
    ○ 金的奉納額からみた庶民の弓術 ○弓術からみた三河と遠州

   下巻

第三章 後世に残る弓術と弓術家

  第1節 戦場で活躍した弓矢

   (1) 弓矢執るもの
   (2) 弓矢の戦法
    ○ 佐々木義賢と弓術集団戦法 ○ 明大寺合戦における弓矢の戦 ○天正の野田合戦と弓矢
   (3) 後世に名を残した人々
    ○ 三河伴氏一族 ○ 源義家と伴資兼 ○ 足助次郎重範 ○ 采倉左近と流鏑馬 ○ 大屋金太夫頼次の遠矢
    ○ 山口五郎作の奮戦 ○ 射芸の達人左橋甚兵衛吉久 ○ 柴田七九郎と康の字
    ○ 内藤弥次郎右衛門家長の騎射 ○ 斉藤子六 ○ 伊庭総兵衛の妙技
   (4) 農工商に諸士同様の弓を許すこと
    ○ 弓のお墨付のこと ○ 射好箆という事 ○ 家康と中山之庄 ○ 御免許元のこと
    ○ 鈴木右門三と弓術家系
   (5) 刀狩りのこと
   (6) 町人の射術甲州勢を防ぐ
   (7) 村々弓手百人衆のこと
   (8) 火矢(火箭)のこと
    ○ 長篠城攻略と火矢 ○ 火矢拵様のこと ○ 日置流火矢の法 ○ 筒火矢拵様のこと
   (9) 三河の根鍛冶と矢の根
    ○ 竹下五郎と作手の田原 ○ 渥美の田原文殊と矢の根 ○ 田原の矢根スケミチ
    ○ 三河の刀匠と矢の根
   (10) 武射としての弓術
    ○ 戦場での射術 ○鉄砲と弓矢 ○ 弓奉行心得と弓術戦法

  第二節 戦場にわかれをつげた弓矢

   (1) 三十三間堂通し矢と三河武士
    ○ 移り変わる射術 ○ 通し矢のおこり ○ 三河武士の活躍 ○ 高木応心済と安藤貴果
    ○ 星野勘左衛門茂則の弓術
   (2) 的の弓射のこと
    ○ さかんになった的射 ○ 射法のこと ○ 安土と公文のこと ○ 的前射術の上手
    ○ 強弓と弱弓射ようのこと ○ 弓稽古における中り ○ 少年射士の活躍

  第三節 三河各藩の弓術

   (1) 岡崎藩
    ○ 大和流と廣瀬親英 ○ 親英系大和流系図
   (2) 西尾藩(1)
    ○ 大和流と田中仁左衛門周則 ○ 田中系大和流系図 ○ 田中系大和流の逸材
   (3) 西尾藩(2)
    ○ 瓦林次右衛門成直 ○ 西尾藩主と弓術
   (4) 挙母藩
    ○ 藩主内藤家の弓術 ○ 応心流
   (5) 吉田藩
    ○ 吉田藩の弓術とその祖 ○ 雪荷派の弓術師範 ○ 川野六右衛盛政 ○ 印西派と弓術師範
    ○ 弓術師範と砲術師範 ○ 上村清兵衛正敬と民間嫡伝の弓術 ○ 弓術家とその禄高
   (6) 新城陣屋
    ○ 菅沼家と弓術 ○ 長寿を祝う

  第四節 三河各藩の藩校と弓術

    ○ 各藩と藩校 ○ 時習館 ○ 修道館と崇化館 ○ 成章館 ○ 允武館 ○ 健武館 ○ 有教館
    ○ 養正館

  第五節 民間に弓術をひろめた人々

   (1) 土着した武士
    ○ 佐竹正武 ○ 本田弥九郎 ○ 稲葉吉右衛門と子孫
   (2)  深沢系印西派の人々
    ○ 深沢勘左衛門 ○ 三浦覚春入道吉忠 ○ 堀友八郎永正と加茂系 ○松井源之進と野間系
    ○ 小原系の祖原田儀右衛門とその系統 ○服織神社と権田一族 ○ 足助の弓術 ○ 小泉佐治右衛門
   (3) 雪荷派の人々
    ○ 原春輔と門人 ○ 渡辺崋山と津藩主 ○ 小原三太夫 ○ 林高英と門人 ○ 林高根
    ○ 稲吉庄衛門応貞 ○ 浅見与兵衛とその師
   (4) 新城印西派の人々
    ○ 真弓家とその門人

  第六節  幕末の弓術家

   (1) 師家を守った人々
   (2) 奥村閑水とその生涯
    ○ 奥村閑水の生いたち ○ 閑水の遺品 ○ 短矢の秘法と逸話 ○ 閑水の門人 ○ 奥村家と田原
    ○ 少年政次郎の面影 ○ 奥村家系図 ○ 奥村家の印西派 ○ 晩年の閑水と後継者
   (3) 横浜有仲とその門人
    ○ 横浜有仲の生いたち ○ 晩年の有仲 ○ 有仲と稲葉佐和吉

  第七節 衰退の途を辿る弓術

   (1) 賭弓からかけ的へ
    ○ 遊芸の射 ○ 炮術の研究と弓術 ○ 南京玉の射術 ○ 各藩にのこった正統派弓術

  第八節 第日本武徳会の創設と新時代

   (1) 弓道の黎明
   (2) 武徳会の創設と武徳祭
    ○ 財団法人武徳会 ○ 明治時代と弓道範士

第四章 奉射神事

  第一節 神と弓矢

    ○ 弓矢八幡 ○ 八幡様と弓矢の信仰 ○ 弓矢の神菅原道真

  第二節 奉射のこと

   (1) 奉射の射儀
   (2) 邪霊悪鬼を射る鬼の的
    ○ 砥鹿神社の弓始 ○ 大室神社の奉射祭 ○ 佐久島八剣神社の八角凧 ○ 豊橋に見る鬼の的
    ○鬼の字のこと
   (3) 鹿射ちの神事
    ○ 鹿射ちの由来 ○ 能登瀬の鹿射ち ○ 恩原の鹿射ち神事 ○ 諏訪神社のブサ祭
    ○ 東栄町の鹿射ち神事 ○ 消えた鹿射祭 ○ 箆矢神社
   (4) 伊知多神社の朝的と川売の彼岸祭
   (5) 流鏑馬のこと
    ○ 流鏑馬の神事 ○ 各地の流鏑馬 ○ 鳳来寺田楽弓納めのこと
   (6) 射放ち弓と雀射神事
    ○ 神明社、八幡社の射放弓 ○ 雀射神事
   (7) 置的の行事
    ○ 安土にかけた的を射る ○ 本置射様のこと ○ 金的飾的のこと ○ 矢ぬき様のこと
    ○ 神事的例式之書 ○ 炮術奉納額のこと

第五章 射芸雑抄

  第一節 弓矢とゆがけのこと

    ○ 三河ゆがけ ○ 麻生田の麻と弦 ○ 弓とニベ ○ 管矢の秘法 ○ 上差矢のこと
    ○ つくという金具のこと

  第二節 弓に打根を添えること

   (1) 打根は武器の一つ 
   (2) 打根の起源
   (3) 試合十五箇条

  第三節 鳴呟蟇目のこと

   (1) 伝授目録にみる鳴呟蟇目
   (2) 嗚呟のこと

  第四節 魔性退散のこと

   (1) 魔性化性のものを射ること
   (2) 魔性化性を封ずる弓のこと
   (3) 破魔矢と破魔弓のこと
   (4) 山鳥の羽根兵破

  第五節 弓矢の地名と伝説

   (1) 的場と矢場
   (2) 矢作と矢部
   (3) 矢部というところ
   (4) 弓木という村
   (5) 篠束の里

  第六節 由比正雪の謀反と奥村家

  第七節 各地にのこる名人のはなし

  第八節 古書よりみた的のこと

  第九節 足助の雁塚




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