*伊那谷スケッチ(猛暑の夏)


空木岳・こもりが沢の滝

9/17 米国同時テロ事件もどこ吹く風、巷では週末にかけて一斉に稲刈り
が始まった。といっても最近の稲刈りはほとんど機械でやれるところまで
やってしまう。散歩ついでに見ていたら、刈り取られた稲が全自動式に脱
穀されて稲刈り機の後ろから糞でもひねるみたいに藁束となって出てくる
のには驚いた。確かにこれなら人手も最少で済むわけだ。でもその分、高
価な機械を一家で何台も買わねばならない羽目になる。
それにしても 「また戦争かよ!」と思うと、こんな田舎の風景を見ているだけ
でもほっとしてくる。

9/10 山はいよいよ茸の季節だ。といっても、近くの私
有林はどこも「茸止め山」で、うっかり余所者が立ち入ることはできない。そ
こで車で1時間ほど谷を遡行し、以前住んでいた廃村の山へ行った。久々
に歩く林道は雑草が生い茂り、5〜6年前まで毎夏水浴びをしていた川原
も、ヒコバエがぎっしりと繁って鬱蒼とした藪になっていた。自然の復元力
とは凄いものである。荒れた山道をところどころ道に迷いながら茸を探して
歩いたが、寝坊して出かけたせいか、もう誰か先に入っていて、収穫は
いまいちだった。

9/3 先日山へ行く途中に、飯田市郊外の山寺の境内
にある「森の納骨堂」に立ち寄った。南アルプスを望む小高い林のなかに
作られたいまふうの共同墓地で、供養は仏式で行うが宗旨は一切関係な
く、管理費として10万円払えば、永代供養してくれるという。敷地のはずれ
にはカメラが据え付けられており、納骨堂の模様は常時インターネットで見
ることもできる。海への散骨や宇宙葬と並ぶ新手の墓商売だが、なかなか
静かないい雰囲気の場所で、我々のような子どものいない流れ者の夫婦
にとっては悪くない葬られ方かもしれないなと思い、しばしそこに佇んで沢
のせせらぎの音に耳を傾けていた。

8/29 季節の変わり目には人がよく亡くなる。大家の
爺さんの葬式から戻った翌日、末期癌で療養中だった屋久島の詩人・山尾
三省さんの訃報に接した。たまたまこの6月に雑誌のインタビューの仕事で
無理をお願いして屋久島のご自宅まで話を伺いに行ったばかりである。
あれから2ヶ月余り。今年も厳しい夏だったな…、とつくづく思う。

8/23 台風一過。幸い、こちらでは大した被害も出ず
に済んだ。まだ残暑は続いているが、もうこの辺では学校も2学期が始
まり、田んぼの稲も少しずつ色づいてきて、いよいよ秋の気配である。

8/15 毎年今頃の季節になると、周辺の畑や田んぼの
ところどころに案山子(かかし)の姿を見かけるようになる。棒に雨合羽を被
せただけのものから、ほとんど人と見紛うほど精巧に作られたものまでいろ
いろで、それぞれに目を楽しませてくれる。一度案山子の品評会でもやった
らどうかと思うぐらいだが、作っている方は決して冗談でやっているわけでは
ない。我々も以前、山の廃村に住んでいた頃、あまりに猪の被害がひどいの
で、ヘルメットにゲバ棒姿の派手な案山子を畑に立てたことがある。近所の人
にはうけたが、効果のほどはいまいちだった。それでも、周囲に騒音を撒き散
らす獅子脅しの仕掛花火よりは、案山子の方がよほど風情があっていい。

8/14 この夏の猛暑と渇水で、畑の胡瓜の茎が
とうとう干上がってしまった。こんなに胡瓜が採れなかった年も珍し
い。それでも夜明け方、秋の虫の音を聞くようになった。季節は
一歩一歩秋へと進んではいる。

8/7 朝の散歩の途次、道沿いの民家から何か獣が
呻くような声が聞こえてきた。いったん通り過ぎたのだが、ふと気になる
ものがあって引き返すと、やはり「オイッ、オイ」という人の呼び声である。
妻が中庭に入ってみると、網戸の向こうから寝たきり老人が「おいで、お
いで」をしている。隣家に駆け込んで事情を話すと、一ト月前、脳溢血で
倒れた寝たきり老人だと判明。この春連れに先立たれ、以来娘と二人暮
らしだが、娘も介抱疲れで「もうどこかに捨ててしまいたい」と近所に洩ら
しているとか。人恋しくて呼んでいるだけだから気にしなくていいとのこと
だったが、あとでまたそこを通るとホームヘルパーの車が停まっていた。
周囲はそんな老人だらけの過疎の山村である。

7/29  半ズボンに長靴を突っ掛けて、畑にキュウリを取り
に行こうとしたら、蜂に襲われた。むきだしの足とズボンの上からケツを刺さ
れ、悲鳴を上げながら家の中に転がり込んだ。敵はどうやら足長バチらしい
が、バカにできない痛さだ。アンモニアをすり込んで、しばしぐったりする。
あとで襲われた場所の周辺をよく見てみると、窓の下の木枠にやはり足長
が巣を作っていた。夕方、スプレーを噴霧して巣は取り払ったが、この夏は
取っても取ってもまたどこかに巣を作られてしまう。せめてもまだ、スズメ
バチの巣ができていないのが不幸中の幸いである。

7/23 信州の夏って、こんなに暑かったっけ !? と思う毎日
が続いている。今日は涼を求めて、近くの戸倉山まで犬と長めの散歩。沢伝い
に1時間ほど登ると日向の滝・日影の滝と呼ばれる二筋の滝が、高さ50mほど
の岩場から流れ落ちている場所に出る。そこで滝に打たれ、水浴びでもしようと
思ったのだが、たどりついてみると、ここしばらくの渇水で、流れはチョロチョロ。
やむなく手前の沢で、手で水をすくって頭からかぶる。でも沢の流れる音ってい
いな。耳を傾けているだけで、気持ちが涼しくなってくる。

7/16 梅雨の終わりから、伊那谷でも連日の猛暑が続
いている。「長野ではエアコンはいらない」という常識を覆す暑さだ。昨夜も
窓を開け放したまま横になり、眠れずにうつらうつらしていると、いつのまに
か外が白み始めてきた。そうすると鳥の声とともに「カナカナカナカナー」とい
う蜩の鳴き声が響き始め、それが次第に唱和して夜明けの一大交響楽とな
った。するとそこに「ポトン」とポストに新聞の投げ入れられる音。ああもう朝
か、ようやく涼しくなってきたなと思っているうちに、また寝てしまった。

7/9 飼い犬ポンタにはできないが、リキにはできること
がある。水泳である。臆病なポンタは暑い最中、川岸につれていっても申し
訳程度に水浴びをするのがせいぜいだが、若いリキは怖いもの知らずの
勢いで深みに飛び込み、あっという間に犬掻きをマスターしてしまった。リ
キの泳ぎを見ていると、歩く要領で四本足を前後させているだけのことだが
沈みもせず、りっぱに前にすすんでいる。水中散歩のついでに川の小魚を
パクリと食べて見せたりして、やんやの喝采を受けたのは去年の夏のことで
あった。梅雨の後半から蒸し風呂のような暑さが続く今日この頃、リキの元
気もちょっと停滞気味である。川岸の散歩コースがお気に入りなのは相変
わらずだが、浅瀬で伏せた姿勢をとり、水の流れの涼しさに目を細めて十
分ご満足の様子だ。(y)

7/1 朝の散歩は犬の散歩も兼ねている。隣家の
犬も余裕があれば連れていく。我が愛犬と違って血統証付きの由緒
正しいミニ柴犬である。名前はリキ。リキにとってうちのポンタは唯一
の友達犬である。散歩に連れ出すようになったころ、まだ子犬だった
リキはなんでもポンタの真似をするようになった。石段の上り下りも水
遊びも全てポンタのやり方を見ておぼえた。片足をあげてオシッコを
するしぐさも例外ではない。リキは雌犬なのだが…。(y)

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