オーケストラアンサンブル金沢第116回定期公演M 2002 3/10(日)
                                        in石川県立音楽堂 コンサートホール


    モーツァルト レクイエム ニ短調K.626 
  
   
定演パンフレット
指揮        岩城宏之

ソプラノ      中村智子


メゾソプラノ    鳥木弥生


テノール    佐々木正利


バリトン      三原 剛

合唱      OEK合唱団


*結構マジで本音まるだしで涙ナミダの練習記*


3度目のモーツァルトのレクイエム。
そう、自分では昨年のドイツレクイエムに比べ、「今年は楽勝・・」なんて気分があったかもしれない。
音楽堂こけら落とし公演やら、「カルメン」はどことなくお祭り気分があった。
が〜、そんなお気楽気分がぶっとんだ今年の練習だった。

モツレクから合唱指揮が大谷研二氏から佐々木正利氏に替わった。
佐々木先生は合唱指導もされるが、声楽家としてソリストを務められる。
声楽家としての腕を買われて、今回佐々木先生が合唱指揮になったとのこと。
10月に初顔合わせがあった時に、
発声の引き出しをもっと増やそう(いろんな曲に対応できるようにしよう)」というお話があった。
それはそれで納得はいった。
確かにノンビブラートの澄んだ発声ではオペラは歌えないし。(今まで指導がなかったワケでは無いが)

全体に対しては、「子音の処理が甘い。歌心が伝わってこない。」
女声に対しては、「透明な声が出ているが、出している声がフォルテで棒声(ただのびているだけ)に聞こえる。
聴いていても心が安らがない。」との評価が。
後半部分は結構ぐさっと来た。
( 私個人としては、「eの発音が生っぽい声(浅い発声)になる」との指摘がズボシで、
以後、歌う毎にかなり気をつけております。)

ではどうするか。
伸ばす音に対しては、少しビブラートを入れるように、
真ん中をふくらまして(messa di voce)生気が感じられる音に。
「棒のような声では聴く人の心に届かないんです!」と言うのが、佐々木語録。

子音については、だいたい普段使う言葉でないので(ラテン語は誰も使ってないって)、
いちいち指摘されないと定着しないのだが、
言葉の意味をもっと自分で調べて、イメージを持って歌うように」の指示は、アイタタだった。
佐々木先生は信者さんだそうで、この点むちゃくちゃキビシイものがあった。

「少しずつビブラートを入れるように」以外は別段初めて聞く指摘ではない。
つまり、我々は積み重ねが出来ていなかったと言う事なのだ・・・・なさけない。



1月にあった岩城氏初レッスンで、
声楽家として持てる力をすべて出して歌えるように
「人間的な(レクイエム)をつくりたい」
というお話があった。
だいたいこんな早い時期に、本番指揮者の指導が入る事は無い。
それだけ岩城氏のモツレクに対する意気込みがわかるというものだった。
おまけに、今まで聴いたどのモツレクよりもテンポが遅い!
ただでさえ伸ばす音が‘棒声’と言われているのに、これだとか〜な〜り腹筋が必要とされる。
テンションを保つのも大変。
合唱団全員真っ青になったものだ。
それから2ヶ月間、レッスンは熾烈を極めていった。(マジです)

岩城マエストロが欲する声,佐々木先生が要求する声は、なんとなくわかるような気がするのだが、出せない。
3時間で1曲半とか、
1ページに1時間以上とか。
先生はイラつく、我々は縮こまるで、なかなかとんでもない練習風景だったと思う。

「OEK合唱団員はめぐまれた環境に甘えている」
「・・(同上)天狗になっていないか」と指摘されれば、やっぱそうかな、とも思ってしまう。
とにかく要求通りの声が出せないのだから、ひとりひとり努力するしか舞台に立つ道は無い。


だけど、ちょっとだけ愚痴ってもいいですか?
「呼び交わす山河」で短い練習期間で‘日本語をハッキリ伝える事’を求められ、
「カルメン」でいつもと違う練習環境に置かれ、
「夜叉が池」でまたまた短期間でのややこしい音取りと‘日本語をハッキリ伝える事’を求められ、
「カウントダウン」でさらに短い練習期間でオペラの発声を求められ、
それでOEK合唱団はヘタになったと言われては、
無理して全部参加した私はせつなくなるしかありませんです。

その上、自分のホーム合唱団でも歌っている私は、タダの合唱バカですわ・・・トホホ。



本番10日前の2/28の岩城氏の練習で、ずいぶんほめられて面食らったものだが、
それで少しは、遙か先に小さな灯りを見つけた気分になったものだった。
それでも佐々木先生には、「岩城先生にお渡しするには、もう1年先にしたいくらい
と言われたくらいなのだけれども。
このころから‘褒め’の後に‘けなし’が入るようになってきた。(もち、逆もある)
我々は佐々木先生の練習を‘ジェットコースター’と呼ぶようになった。
「今度は何を言われるのか」と、楽しみにする余裕もちょっとは出てきたものだ。
そう、私は「巨人の星」世代〜♪


今回の本番前初のオケ合わせでは、オケだけを先に聴かせてもらい、その後合唱が入ると言う、
これまでにない丁寧な練習を受ける事が出来た。
合唱がオケを聴けずに速くなるのを心配されての配慮だったと思うが、
我々にとって、とってもいい練習だったと思う。
自分のパートの音をなぞっている楽器が何かよくわかり、安心感がわいた。
逆に第6曲Confutatisの女声(voca me com benedictis!我を選ばれし者のひとりとして招きたまえ)
は、バイオリンが分散和音をひそやかに弾いているだけで、コーラスがとっても目立つ。
もうあこがれに似た気持ちで、このフレーズを美しく歌いたい!と思った。
ホールに響き渡るのではなくて、しみ込んでいくみたいに声を出せたら!

それから、ふたつのHosannaの弦楽合奏の優雅な事!
きびきびした演奏が多いこの曲を 岩城マエストロはまるでワルツのように仕上げている。
団員みんな、目からウロコ状態。



意外に思われるかもしれないが、後から聞けば、岩城宏之氏がモツレクを振るのは初めてなのだとか。
(以前OEKで中西前石川県知事の追悼演奏会でモツレクを抜粋で振っているので、全曲という意味で)
2/26にNHK教育「ETV2002」で放映された挑戦者としての岩城氏の姿勢に、強い感銘を受けたものだが、
してみればこの‘モツレク’も岩城氏のひとつの挑戦なのだろう。
この放送で、ぐっと「岩城氏とのモツレク」に対する団員のテンションが上がったはずだ。

それと、ちょっとは身につけたテクニックと、そして誰かのために,誰かを想って歌いたい気持ちとを武器に、
本番を迎えた。



練習とリハーサルと本番の速度が違う事が多い岩城マエストロだが、さすがに1月の初合わせに比べれば
若干速い。それでもお客さんの多くは‘ゆっくりめなモツレク’と捉えたようだ。
5曲目のRex tremendaeに至っては、私はもっとゆっくり歌いたいと思ったくらい。
ちょいと集中力を欠いたり、いつも間違えないところで早く出そうになった事があったが、
自分としては、前回よりさらにやるべき事は出来たのではと思う。

指揮が降りた後のしばらくの間の沈黙・・・そして拍手、なんだか泣きたい気分になった。


我が家のモツレクCD


我が家のCDは、イシュトヴァン・ケルテス指揮、ウィーンフィル1965年録音です。
わりにモツレクCDの中ではゆっくりめだと思う。
Dies iraeはさすがにぐんと速かったが、他は岩城氏と似たテンポだった。
Amenや終曲のquia pius es なんて、CDの方がはるかに長く伸ばしているくらい。
5曲目のRexは、短く歌うものがあるが(前回はそうだった)、これは長めで、岩城氏とだいたい同じ。

ソプラノは、かのエリー・アメリンクで、なんだかピュアで美しい感じ。
今回ソプラノ・ソロの中村智子さんは、それよりオトナな感じで、私はこちらの方が好みだ。
中村さんといえば、終曲で、ソロにはずいぶん間があるのに立ってしまって、
『わ〜、どうするんだろ』と後姿を見つめていたものでした。

メゾソプラノは、その音域にしては低めだと思うが、CDの方はまるでカウンターテノールのような
中性的な感じがする声(マリリン・ホーン)。なんだか鳥木さんの声がソフトにきこえた。

佐々木先生はテノール・ソロであるのにかかわらず(つまり、我々が不甲斐ないので)、
申し訳ない事にギリギリまでダメ出しをしてくださいました。(元気いっぱいのソロでしたが。)

CD合唱はさすが子音なんか、ハッキリ聞こえてきますが、キレイさはどうでしょう。
CDのテノールはHosannnaの中で in excelsisのところで「インネクシェール」とみごとに怒鳴っている。
ここだけは(いや、もちろんもっとある)絶対ウチの合唱の方が美しいんでは、と思っています。

佐々木先生曰く、「今までかかわったモツレク50数回のうち、今回の合唱が一番よかった。」と。
やっぱり思った。「次は何がくるんだろ?」と。


左 佐々木先生  右 岩城先生 左 佐々木正利氏

右 岩城マエストロ

(カフェ・コンチェルトにて
     打ち上げ1次会)
佐々木氏のサイン
(楽譜の中表紙に書いてもらった。)
最後にグローリアと書かれている。
ひょっとして、4回目を歌う事があっても、
この楽譜はもう使わないだろう。
(だって、3回分の書き込みだらけになっている・・)
佐々木先生のサイン