おたまじゃくしのしっぽ

 


いったい自分がいくつの頃だったかも忘れてしまったけど、TVで見たバレエ(?たぶん)の「カルメン」の終幕を覚えている。
ホセに刺されたカルメンが、彼のほほをいとおしそうになで、一瞬微笑みをうかべて、死んでいく・・・。

え、なんかおかしくはないかい?と今になって思う。
そんなホセみたいな‘ダメ男’に支配されてうれしいか?
「こんな悪い女でも、あんたはずっと愛してくれていた」で、うれしいか?カルメンよ。
主役を演じた人or演出家の解釈だとは思うが、なんだかなぁ・・・。
やっぱり、カルメンは、ダメ男はすっぱり切り捨て、野の鳥のように次々と新しい恋に飛んで行かねば。

舞台やらビデオやら、いくつか出会ったカルメンには、こいつは入れたくないが、初めて見た「カルメン」には違いない。
2001 10/14の演奏会形式「カルメン」参加記念に、ワタシがこれまで出会ったカルメンの思い出を述べてみよう。




ものがたり

セビリアの街を警護する衛兵で伍長のドン・ホセは、タバコ工場の女工カルメンと運命の出会いをする。
女工同士の乱闘でカルメンを逮捕するが、ホセは許嫁ミカエラがいる身でカルメンの誘惑に負け、彼女を逃がす。
そのため、ホセは一兵卒に格下げとなり、営倉に入れられてしまう。

カルメン達が歌い踊る酒場に、今をときめく闘牛士エスカミューリョが現れ、客達と大騒ぎを始める。
ホセは騒ぎの収まった酒屋を訪ねる。そこは密輸業者ダンカイロ達のアジトであり、カルメンはその一味でもあった。
カルメンはホセを温かく迎えるが、彼が帰営ラッパが聞こえて帰ろうとすると、彼を激しくなじる。
そこにホセの上官スニーガが現れ、「帰れ!」という言葉にカッとしたホセは剣を抜いてしまう。
隠れていた密輸業者まで現れ、スニーガを追い出してしまったため、ホセは彼らの仲間に入らざるを得なくなる。

密輸業者達が隠れる山中。そこにカルメンに惚れたエスカミューリョが訪ねてくる。ホセとエスカミューリョは決闘を
始めるが、カルメン達に押しとどめられる。絶体絶命になっていたエスカミューリョはカルメン達に感謝し、去っていく。
そこに、ホセを迎えに来たミカエラが現れる。カルメンの心変わりを心配して、一緒に行こうとしないホセだったが、
母親が危篤と告げられ、後ろ髪が引かれる思いで山を降りていく。

闘牛の日、まさにエスカミューリョの闘いが行われようとする時、カルメンの前にホセが現れ、復縁をせまる。
が、絶対ホセになびこうとしないカルメンを、ホセは刺し殺してしまう。
闘牛場からの歓声に、悲鳴が重なる・・。

******

メリメの原作は、中学時代だかに読んだ覚えはあるが、内容はほとんど忘れていた。(いいかげんに読んでいたらしい)
原作とビゼーのオペラとは、内容がずいぶん違う。エスカミューリョはチョイ役だし、ミカエラも存在しない。

特にホセの性格付けが違う。
オペラのホセは、そのまんま現代のストーカー。(むちゃくちゃわかりやすい!)

原作のホセは伍長から密輸業者に身を堕としていくのは同じだが、そのままカルメンに振り回されるようなダメ男では
なく、いっぱしの悪党に上り詰める。が、カルメンと足を洗ってアメリカに渡ろうと言って拒否され、彼女を‘支配’するべく
殺害してしまう。
カルメンもわりにおとなしく、ご丁寧にも礼拝堂でミサをあげてもらって、殺されてしまう。

オペラのカルメンは、逆に死に際しても決してホセに支配されようとはしない。
そこがカルメンの性悪さであり、魅力。
間違っても、ホセの頬をなでて死んでいって欲しかない。






LD「カルメン」   
        ホセPlacido Domingo     カルメンJulia Migenes Johnson    エスカミューリョRuggero Raimondi

15年ほど前に、オペラが相継いでLDで発売されたが、これはその一つ。「マニア」と言っていいクラッシック・ファンの兄に、
「椿姫」ともどもLDをビデオにダビングしてもらったものがウチにある。

オールロケで(いや、セットもあるか)、ホントはどこで撮影したかはわからないが、物語の雰囲気はバッチリ。
タバコ工場、セビリア城壁の酒場、ジプシーのキャンプ、闘牛場・・・最高だ。
特に、エスカミューリョが闘牛場へ向かう準備を終え、神に祈っている場面には、おおっ、と思った。

我々の合唱指導の鈴木氏は、セビリアは結構奥地で、めったに日本人は行かない、とお話してくださった。
フラメンコをみせる酒場は、マフィアがからむ事が多く、ボラれる危険があるとか。
あらためてビデオを見て、やたらそんな話を納得してしまう。

音はいいんだろうが(なんせ、ウチのビデオはステレオには繋いでないし)、映像優先なので、効果音が勝る所もあり、
音楽だけをじっくり聴きたい人には、邪道か。
ホセのPlacid Domingoは、堕ちて行ってからの苦悩が最高(?)。
カルメン役は、なかなか色っぽくてはすっぱな女を好演。ただ、声だけだとちょっと線が細いか。
エスカミューリョは少々背が低く、ちょっと額が後退ぎみなのがちょっと残念。*
ミカエラ(Faith Esham)は何だか老けて見える・・・・。


*この記述について、メールをいただきましたところ、
エスカミューリョのRaimondi(ライモンディ)は、ドミンゴよりはるかに高い、198センチ(!!)なのだそうです。
映画じゃ背比べして並ぶ事はないし、‘背が高い’という印象をまるで持たなかったもんで(←言い訳 ^^;)。


余談だが、「椿姫」のヴィオレッタは、ホントにポキッと折れそうなくらいスレンダーな歌い手さん。
物語の入りの演出が好きだ。
(競売にかけられるヴィオレッタの家具の整理に来ている少年が、ヴィオレッタを見つめている・・・。)






チェコ国立ブルノ歌劇場1999日本公演
         ホセFrancesco Petrozzi  カルメンJitka Sapara Fischerova  エスカミューリョRichard Haan
パンフレット
                       1999 6/8 石川厚生年金会館

初めて生で見たカルメン。きばってS席。
もう2年も前なので、歌の出来も正確に覚えていない。
が、エスカミューリョの歌があまり迫力が無く、不満に思った覚えが。(真ん中S席だよ、おい!)
でも、カルメン役はそれっぽい容姿&声で、そこそこ良かったように思う。
子供達の合唱は歌劇場の少年少女合唱団で、そんなに小さい子はいないんだけれど、かわいかったし出来も良かった。

でも、一番気に入ったのはバレエ。
よく、第4幕のマーチをバレエで表現する事が多いが(だって舞台に牛もってこられないもん)、この演出は、その他の場面
にもバレエがふんだんに取り入れられていた。顔が見えない不気味な闘牛士が何度も現れ、カルメンとホセを悲劇に導く、
という演出。そして、終幕もバレエで締めくくられる。バレエ大好きの私には得した気分だったし、優れた演出だったと思う。


私の席にまわりは、なかなかマニアな人々が締めていたようだ。
開幕ギリギリ駆け込んできた作務衣姿のお坊さんは、CDの歌詞カードを握りしめての観演。
私のお隣にいた老婦人(おばあさん、なんて書かない!)は、「足が悪いので、普段は家でLD(!)でオペラを観ている。
山蓄(地元老舗レコード店)に新しいのが入ったら、家に届けてもらう。」などと話してくださった。
金沢でのオペラ公演はそうそう無いので、あの晩はがんばって出ていらっしゃったのだろう。
元気でいらっしゃるだろうか。






TETUYA KUMAKAWA KーBALLET COMPANY 2000
                                  「カルメン」振り付けRoland Petit  オーケストラ(金沢公演のみ)OEK
パンフレット(白くてわかりにくい・・・)ローラン・プティ&熊川哲也  
                         2000 6/11 石川厚生年金会館

熊川哲也&ヴィヴィアナ・デュランテのホセとカルメンが観られるハズだった・・・・。

Kカンパニーの金沢公演は3回目、ハガキ予約で娘と2人分買って、意気揚々と会場に行ったのに。
なんだか会場時間がやたら遅れている。ウォーミングアップが遅れているのかなと待っていると、主催者側の説明。
「カルメン役ヴィヴィアナ・デュランテ足の捻挫のため、コンビを徳井美可子&・・・(忘れた)に変更・・。」

な、なんと、熊川哲也まで変更?!

コンビで息をピッタリ合わせてレッスンするため、こういう時はコンビごと取り替えになっちゃうのだ!
「6/12にはもとのコンビで公演を行えそうなので、明日いらっしゃりたいかたは、申し出てください・・・」と言われましても。
月曜の夜に子供を連れて行くのもなあ、と、あっさりあきらめて当日公演を観た。
500円だか1000円だかのパンフを ただで2冊もらっても、なんだか悲しい・・。
(熊川哲也は休憩前の小作品に振り替え出演。カーテンコールの最後にも顔を出した。)

とは言え、振り付けは、かのローラン・プティ(写真左)。モーリス・ベジャール同様、20世紀を代表する振り付け師だ。
これを観のがすわけにはいけない。
「カルメン」はミュージカルやフラメンコの舞踏劇にもなっているらしいが、バレエの方も、様々な振り付け師が競作している。
前年のマイヤ・プリセツカヤのインペリアル・ロシア・バレエにも「カルメン」の小品があったのだが、あまり覚えていない。

いやあ、「ハバネラ」の場面が面白かった!
ど真ん中で踊るホセとカルメンを、他のダンサーが取り囲み、ハバネラの歌詞を音楽に合わせてリズム読みをしている!
まるでお立ち台で踊るダンサーをひやかしている風。
そして、終幕のホセとカルメンの対決シーン、本当に‘対決’であり、‘決闘’だった。
ライトは落とし、音楽も「フィナーレ」を使わず、打楽器だけで表現。
‘恋とは、戦い’でもあるのだ。


先日の合唱練習の合間のおしゃべりで、この公演の話が出た。
「私、二日とも行ったんよ。やっぱり、熊川哲也の踊り、違うわ〜!」
「私は12日だったよ。」
「・・・・」
くやしい〜!
(熊川哲也の踊りは、ホントに違います!わたしゃ、彼のローザンヌコンクール出場から目付けてんだから。)






2001ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭 歌劇「カルメン」
         ホセ五十嵐 修  カルメン伊原 直子  エスカミューリョシリル・ロヴィリィ  演出・ダンカイロ池田 直樹
       
    ミカエラ広瀬 美和     フラスキータ山崎 小桃     メルセデス西けい子   レメンダート大野 光彦

 
        
伊原カルメン直子        カルメン・パンフレット      伊原さんのサイン

指揮ジャン=ルイ・フォレスティエ    管弦楽オーケストラアンサンブル金沢     副指揮鈴木織衛
もりのみやこ合唱団、もりのみやこ少年少女合唱団、オーケストラアンサンブル金沢合唱団 

演奏会形式で、オケ(オーケストラアンサンブル金沢)もピットではなく舞台に上がります。
池田氏が同じく演出&出演した2000の「椿姫」では、合唱団もステージ前面で演技をしましたが、今回はまったくの黒子。
演出は昨年通りにしたかったらしいが、合唱団は今年はいろいろ忙しすぎて、とてもとても演技までいけそうになかった。
終わってみれば、ソリストがベテラン陣ぞろい&フレッシュで、合唱団がちょろちょろする必要は全然なかった・・・と思う。

練習時にはいろいろドラマがあったが、事務局側にもそれはあったらしい。
(打ち上げの時に事務局の山田氏がおっしゃっていた話によれば・・・)
今回エスカミューリョのみがフランス人ソリストになったのだが、これは原語公演にこだわったため、国内に引き受ける人が
いなかった&東京から人を呼ぶのも外国から呼ぶのも、費用の面では変わらないのだとか。
もう、それは大成功、観客はすっかりシリル・ロヴィリィに魅了されていました。
牛も逃げだしそうな長身、顔はイイ、迫力のある声!
(・・・ただし言葉をハッキリ出すために、唾がいっぱい飛んでいました。やっぱ、コレですよ!)
わたしゃまた、‘ホセ’と‘エスカミューリョ’の差をつけるための演出かと思っていました・・・汗。

また、主役陣も原語で歌って演技できる方が少なく、ベテラン起用になったらしい。
もう、伊原カルメンと五十嵐ホセの歌と演技、もうおなかいっぱい!
ストーリーなんていやというほど知っているのに、最後の場面、もうドキドキでした。
指揮者とエスカミューリョがフランス人であった事は、ベテラン陣にもずいぶん刺激的であったらしく、
打ち上げでは、そのような趣旨の話をそれぞれなさっていました。

広瀬ミカエラは、今回初のオペラ出演だったそうです。
10/9の「カルメンの魅力」での歌は、まだ弱さが目立ったのですが、本番はみごとでした。
カーテンコールで泣き出しそうな(泣いていたかも)彼女の顔が印象的でした。
&サインをねだられる立場なのに、伊原さんと五十嵐さんのスナップを撮って喜んでいる姿がほほえましい・・・
なんて言ったら失礼かな。

さて、自分はどうかと言いますと・・・3週間前までぜえ〜んぜん歌えていない状態でしたが、直前1週間でなんとか・・。
おふらんすはチョイきつかったですぅ。
特にマーチはテンションをあげていないと歌えない、アドレナリン出っぱなしの曲でした。
アルトたる自分には得るものはあまり無かったのですが、やり終えてとても楽しかったです。

「演奏会形式というのに演技がつくオペラ」は、また次がありそうです。
でも、なるべくオケはピットに入れて、ちゃんとしたオペラになる予算を付けてほしいです。
ホセに投げ返した指輪がオケの楽器に当たるようじゃあ(舞台稽古でホントにあった)、オケも困る・・・。


五十嵐さん,伊原さんと
伊原さんっ、おっちゃめ〜!
(左はホセ五十嵐さん)



シリル・ロヴィリィ 背が高すぎる〜!