トリックに著作権は発生するか?

原告:島田荘司(弁護人:御手洗潔)
被告:天城征丸(弁護人:有沢翔治)

裁判長「これより裁判を始めます。両弁護人、準備はいいですかな」
有沢「はい、用意はできてます」
御手洗「僕も用意はできてる」
裁判長「では、原告。訴えをどうぞ」
御手洗「天城さんは島田さんのデビュー作『占星術殺人事件』のメイントリックを『異人館村殺人事件』で盗用したんだぜ。これがその記事だよ」


 週刊文春の今週号の広告トップが、「『金田一少年の事件簿』は盗用だらけ!」であり、島田荘司の「この問題は民事訴訟に発展する」というタイトルの寄稿付きである。
 何をいまさら、という気もする。このマンガが盗用だらけである、というのは、遥か以前から知られていたことである。私は他の作品のネタバラシ(あるいは、アイデアの盗用)をしている作品を読むことを、非常に恐れているので、このマンガに関する、そういう風評を耳にした時点で、(まだ未読であった)この作品を決して読むまい、と決めていた。(家族にも、そう命じた。)それ故未読のままであり、その意味では公平なジャッジなど出来ないのだが、未読の名作ミステリの盗作を読まされる危険を犯すくらいなら、喜んで単なる傍観者にとどまろう。
(廃墟通信より引用)

裁判長「ふむ、証拠品として受理します」
御手洗「他にもこのような事例が報告されてる。なお、エラリイ・クイーンの『アメリカ銃の秘密』と『エジプト十字架の秘密』、金成陽三郎の『上海魚人伝説殺人事件』と『悲恋湖伝説殺人事件』のネタバレがしてあるので注意してほしい・・・これでいいんだよね、石岡君」
石岡「うん、完璧だよ。御手洗」
御手洗「シャーロック・ホームズしか読んだ事ない僕にミステリーを・・・(ぶつぶつ)」
裁判長「静粛に!訴えは解りました。被告側は何か質問はありますかな?」
有沢「それは本当に島田氏が天城氏の小説を盗用した、という証拠なんですか?もしかしたら、逆かも知れないじゃないですか?」

異議あり!


御手洗「いや、それはありえないよ。島田さんの小説は1985年のことだけど天城さんの漫画が出されたのは1993年、8年も後なんだから」
裁判長「つまり、トリックを盗用した事実は認めるんですな?」
有沢「これは認めざるを得ませんね」
御手洗「聞いての通りだよ、石岡君。帰ろう。僕の役目は終わりだろ」
待った!


有沢「いや、まだ終わってませんよ。御手洗さん」
裁判長「まだ言い足りない事があるんですかな?」
有沢「確かにトリックを盗用した事は認める。しかし、それが罪になるかならないかは別問題だ
御手洗「何を言ってるの?」
有沢「こんなことは推理小説の世界においては日常茶飯事です」
裁判長「ほう、例えば?」
有沢「例えば、コナン・ドイルの『踊る人形』はポオの『黄金虫』の盗用です」
御手洗「(欠伸混じりに)それは18世紀後半のお話だろ?」
有沢「いえ、現代の作家ではもっとひどいのがいます。クイーンの真似事をしたいばかりに国名シリーズを作った作家がその一例でしょうね」
御手洗「しかし、それはオマージュって考えるべきだよ」
裁判長「そうですな、それとこれとは別問題です」
有沢「(ネタで言ってみただけなのに・・・)では質問します。これは何の罪に問われるんでしょうか?
御手洗「何だって?そいつは著作権法違反に決まってるじゃないか」

待った!

有沢「もしトリックに著作権があったとしたら、大半のミステリのトリックは使用不可になる」
裁判長「どういうことですかな?」
有沢「はい。ここに推理作家のジョン・ディクソン・カーの有名な論文『密室講義』によりますと以下の七パターンしか存在しえないとの事です」
  1. 偶然の密室
  2. 殺人ではあるが被害者が自殺や事故死に追い込まれてしまった場合
  3. 機械的仕掛けによる殺人
  4. 殺人のように見せかけた自殺
  5. 錯覚・偽装による密室
  6. 遠隔殺人
  7. 被害者が密室状態の中にいるときはまだ生存しており、外から密室に他者が入ったときに、一番最初に部屋に入った者が被害者を殺すという方法
有沢「つまり、もしトリックに著作権があればとっくに著作権法違反で訴えられてるはずなんです
裁判長「ふうむ、そうですな・・・」
島田「そいつはパターンの分類でしかないだろう!こいつはトリックをそのまま盗用したんですよ!」
異議あり!


有沢「どこまでがパターンでどこまでがトリックそのものかは線引できない。これも死体水増しトリックの一パターンだって言う事も出来るんじゃない?それに、トリックは著作権保護の対象にはなっていません
裁判長「確かにそんなものは保護されてませんね」
有沢「被告に無罪を要求します!」
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