シャーロック・ホームズは本当に文学、天文について無知か?


一、文学の知識---ゼロ
二、哲学の知識---ゼロ
三、天文学の知識---ゼロ
四、政治学の知識---きわめて薄弱
(以下略)
 これはワトソン博士が『緋色の研究(A Study in Scarlet)』で書いた「シャーロック・ホームズの知識、及び能力」の一覧の一部だ。しかし赤字の所は他のシャーロッキアンからも指摘の通り後の話と合致しない。一はゲーテやシェイクスピアからの引用が多数見られるし、フレーズを間違えてはいるが適切な箇所で引用している。『ボスコム谷の秘密(The Boscombe Valley Mystery)』では黄色の背表紙のポケット・ブックを持っていたしまた、『ライオンのたてがみ(The Adventure of the Lion's Mane)』ではこう言っている。
>「ぼくは乱読家の方でしてつまらない事でも覚えているんですよ」
と。これは一体どう言う事なのだろう?
 「?」は他にもある。上記三、の天文についてだが『緋色の研究』では地球が公転している事を知らないのに、『ギリシャ語通訳(The Asventure of the Greek Interpreter)』では太陽黄道傾斜角の変化の原因についてワトソンと議論している。
 ここで考えられるのは二つの可能性だ。一つは何らかの理由でホームズはワトソンを騙していた。二つ目は何らかの理由で文学に興味を持ち始めた。ここで考慮に入れなければいけないのは「いつ」という点だ。可能性としては1903年の10/8、つまり引退して養蜂業に専念した年があげられる。しかし、ホームズはそれ以前の事件『ボスコム谷の秘密』等でも引用しているのでこの可能性は否定される。では「何かの理由」とは何だろうか?
 彼風に言えば「あらゆる可能性を考えて完全にありえない物を取り除けばどんなに信じ難くても真実に違いない。」であるので1番になる。
 では天文学についてはどうなのだろう?これについては次の仮説が成り立つ。というかこれしかない。その仮説は、『緋色の研究』以後、ワトソンに言われて渋々、天文についての本を読み始めた。しかし、意外とはまってしまい詳しくなったのではないだろうか。
 なぜなら『緋色の研究』の事件発生年は1881年であり、『ギリシャ語通訳』1888年。7年も開いてるように思えるが“聖典”発表の事件だけでも『まだらの紐(The Adventure of the Speckled Band)』等約15件の殺人、窃盗、脅迫事件を手掛けているのだからじっくり天文の研究に浸る暇なんてないと思う。それに加わりワトソンがまだ発表していない“語られざる事件”もあるのだからその2〜3倍にはなるだろう。
 以上がぼくのホームズがいるとした場合の仮説である。実際には作者であるアーサー・コナン・ドイルが『緋色の研究』の設定を忘れてしまったのだろう。

参考文献

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