モザイクのLove Maze 〜サクラちって サクラ咲いて 2 〜
湿気を帯びた柔らかな空気。
薄暗く、光を遮断していたカーテンの隙間を縫って、目覚し時計のような強烈な光はベッドで眠る者達の顔をそっと・・・撫で付けた。
「・・ん??・・あ、朝か・・・。」
エースは束縛された左手を動かした。
途端に呼び出し用のベルが鳴る。
「・・・もしもし?」
ぷつりと電源を入れたビジョンの中ではダミアンが微笑んでいた。
『エースおはよう。・・・って所で・・・・・・そこにデーモンは・・・居る筈だね?』
途端にエースの顔は紅潮する。そして、隣りで寝返りを打ったデーモンの肩を揺すった。
「・・・デーモン・・・ダミアン殿下が呼んでいるぞ?」
「ふぁああああ・・・・ん?????・・・ダミアン殿下?!」
薄目を開け、突然侵入した光の洪水を邪魔臭そうに避けながらも・・・ダミアンの名前を聞いた途端にその表情は副大魔王に豹変する。
「はいっ!!ダミアン殿下・・・おはようございます。」
その様子を黙って見ていたダミアンが苦笑する。
『・・・惰眠を貪らせてあげたかったんだけどね・・・すまないが二名共、伏魔殿へ登庁してくれないか?大事な話があるのだ。・・・もうみんな集まって
いるよ。』
それだけ言うと、ダミアンは尚も笑いを堪えながら通信を切断した。
ビジョンに残るダミアンの像を観察しながら二名は顔を見合わせる。
そして、エースはデーモンの肩を抱き寄せた。
「・・・着換えるか。」
デーモンもゆっくり頷いた。
最奥のダミアンのプライベートルームには既に各部署の責任者たちが集まり、歓談をしていた。
「・・・遅れてすみませんでした!!」
勢いよく扉を開け、二名が入ってくる。
「ああ・・・思ったよりも早かったね。さ、座って。」
二名はそれぞれ決まった席につき、一番上に座ったダミアンを見る。
その様子を確認して、ダミアンは薄い唇を開いた。
「・・・さて・・・突然すまなかったね、実は軍事局参謀の方から話があるらしい。・・・ルーク。」
ダミアンに言われ、ルークは席を立つ。
そして一息つくと笑みを浮かべた。
「蒼の惑星への選抜隊編成について一つ、提案が・・・。」
「?」
デーモンはふと、表情を暗めた。
「まだ何かあるのか?あの編成で吾輩は完璧だと思うが・・・。」
自分は付いて行けない、何十年かかるか分からない計画。
悪魔の永遠ともいえる様な命の中ではそれは一瞬のような時間・・・だが。
チラリとエースを見る。
視界の中央の情報局長官は顔色一つ変えずにルークの提案の続きを待っている。
誰にも気付かれないような小さな溜息を吐き、デーモンはルークに視線を戻した。
「まぁね、俺だってあの時の編成は完璧だと思ってる。だけどね。」
いつにも増して鮮やかなルークの笑顔が今のデーモンには何故か悲しい。
「やっぱり、ダミアン殿下が降りるとなると・・・それ相当のリスクが考えられる。ましてや今現在、蒼の惑星は事実上、天界の支配下だ。何があるか
分からない。だからもう一度考え直した結果。」
ここでルークは言葉を切り、真っ直ぐに・・・デーモンの方を向いた。
「デーモン、お前も降りてよ。」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「は・・・?」
ただただ頭の中をかける疑問符。
勿論、それはエースも同じだった。
「・・・どういうことだ?」
当然の疑問を投げかけるエースは、話をじっくり聞こうと両手を組み、顎を支える。
そんな中でもダミアンはやはり微笑を浮かべたままだ。
「勿論、エースやゼノンもライデンも蒼の惑星に降りるから、ダミアン殿下のことをきっちりお守りしてくれると確信してるよ?皆を信じてる。
だけど、俺はそれ以上に天界に毒されているあの惑星の知的生命の方が怖い。更に堅い護衛が必要だと思う。だからデーモン・・・君に・・・。」
「そんな!!吾輩はここを守るという重要な任務が・・・。」
たまらず立ち上がって抗議する。
魔界(ここ)を守る、とても重要な任務だ。
しかし・・・色んな葛藤がないまぜになり、デーモンの思考は混乱していた。
「大丈夫。蒼の惑星に気を取られている天界の攻撃なんてたかが知れてるさ。大魔王様だって一応は存在している。」
「一応って・・・そんな風に言わなくともいいだろう?」
言葉とは裏腹にダミアンの表情は極めて上機嫌だ。
クスリとルークは笑い、言葉を続ける。
「すみません、・・・で?デーモン。お前はどうしたい?」
今度か真剣な眼差しでデーモンに答えを求めてきた。
「・・・ルーク?」
ストンとデーモンは椅子に座りなおし、ルークを見つめ返す。
「それは・・・お前の独断か?それとも、軍事局参謀としての意見か?」
ようやく紡いだ言葉。
「俺の独断である・・・と言っても本当だけど、軍事的情報や今の状況を考えての意見でもある。どちらかと言えば後者のほうが大きい。」
デーモンは困ったように周りの者たちを見回した。
ダミアンの表情は・・・変わらない。
ゼノンもライデンも・・・ただ、自分の答えを待っている。
そしてエースは・・・誰よりも真剣な表情でこちらを見つめていた。
「・・・吾輩が惑星に降りて・・・ここは誰が守る?」
少し上ずった声に、ルークは苦笑した。
「ここは俺が守る。」
思いも寄らないルークの返答に、デーモンは目を見開いた。
「お・・・まえが?」
「そう。俺が。俺がここに残る。」
冗談などではなかった。
答えが頭に浮かぶ前に・・・デーモンは自分の本心を口に出していた。
「行く・・・。」
その返事を合図にダミアンは立ち上がった。
「決定だ。さぁ、これから忙しくなるよ。・・・各自部署で引継ぎ作業を頼んだぞ。出発は追って沙汰をする。」
言い放つと、ダミアンはさっさと真後ろの扉から退室してしまった。
がたがたと椅子を引き、参加者たちも扉から出て行く。
残ったのは・・・自分の回答に呆然としているデーモンとそれを待つエース、そしてただただ微笑んで二名を見つめるルークだけだった。
はっとしてデーモンは立ち上がり、ルークの傍に走りよった。
「どういうことだ?!ルーク・・・!!!」
困惑してデーモンは問い詰めた。
「え?聞いた通りの内容さ。デーモン・・・ほら、引継ぎ作業を始めてくれよ。でないと計画が遅れちまう。」
「そういうことではない!!吾輩は・・・!!!」
しかし、その後が出てこない。
「心配するなって・・・・。絶対に俺も後から行く。絶対にだ。約束するから・・・。」
そう言って、ルークはぐいっとデーモンの肩を引き、耳元に口を寄せた。
「・・・失恋の痛手を癒すのに丁度良い。」
囁くと、ルークはぽんぽんと肩を叩き、手を上げて扉を出てしまった。
「ルーク・・・。」
黄金月の光が広間の中を満たす。
ポツリと残ったデーモンの声。
不意に身体を寄せられ、デーモンは後ろに倒れこんだ。
それを支えたのはエースの胸だった。
「エース・・・?」
「デーモン・・・お前も来るんだ。俺と一緒に・・・蒼の惑星へ・・・。」
どちらからかは分からない・・・が、それはしっかりと・・・。
月明かり、広間に大きな影を作る。
黒に程近いグレイの影は二名を映し出して離さなかった。
出発が間近に迫っていた。
正式な出発日はダミアンとデーモンしか知らない。
エースは苛立ちを覚えていた。
もう既に情報局の引継ぎも完了し、後は降りるだけだ。
そんな時。
「エース・・・今夜お前の屋敷に行ってもいいか?」
デーモンが言ってきた。
断る理由もないエースは二つ返事で了承する。
思えばあの日のルークの決定以来、二名とも忙しく、顔をあわせてもろくに挨拶も交わせないような状態だったのだ。
久しぶりにデーモンとの時間を過ごせる・・・。
エースはデーモンの訪れを待っていた。
外は紅い月を雲が隠し、今にも雨が降り始めそうだった。
待ちきれずに酒を酌み、一名で一本空けた頃、扉をノックする音がする。
「誰だ?」
ぶっきらぼうに言い放つと顔を出したのは薄い笑みを浮かべた侍従長だった。
「失礼いたします。御客様です。」
主の苛立ちの原因を知っている侍従長は部屋の中で少し不機嫌になっているエースを見て笑いを堪える。
「通せ。」
そう告げる前に客は既に入室し、扉を閉めようとしていた。
「久しぶりだな。」
デーモンは部屋の中の様子を見て苦笑する。
ソファーに寝そべり、小さなテーブルの上に置かれた酒の残り具合を機嫌悪そうに見つめながらチビチビと酒を舐めるエース。
「遅かったじゃないか。何をしてた?」
ありったけの平静を示そうと頑張るが、いかんせん語尾が少しきつくなっている。
「すまない。ダミアン殿下に呼び出されてな。・・・寄り道をしていた。」
紅い礼服のボタンを上から二つ開けながら、デーモンはソファーのエースの足元の方に座った。
そして既に用意されたグラスに自分の分の酒を満たし、口をつける。
朝焼け色の液体はゆっくりとデーモンの薄碧の唇を通して体内へ滑り込んでゆく。
「・・・何の用だったんだ?殿下は・・・・。」
いつの間にか起き上がり、デーモンの傍らに座る。
一瞬、デーモンはグラスを持った手を震えさせたが、すぐに元に戻った。
「何でもない、野暮用だ。・・・それよりもエース・・・。」
グラスを置き、デーモンはするりとソファーから床に座り込んだ。
そしてそのまま両手を挙げる。
手はエースの頬をなぞり、自分の方へ引き寄せた。
黙ってエースも彼の行為に従う。
重なる唇。
微かな酒の香り。
じっくりと堪能し、二名は更により深い口付けへと移行した。
「どうした?デーモン・・・。」
一瞬離れた時、エースは言葉を紡ぐ。
しかしそのことに答えを言わない為にデーモンは直ぐに舌を絡めてきた。
「ふぅ・・・っ!」
珍しくエースの声が先に上がる。
滑らかな感触の口内を掻き乱される。
「エース・・・・。」
デーモンは囁いた。
言葉の意味を掴み、エースもデーモンと同じ位置に座りなおした。
そして改めてデーモンの唇を奪う。
片手で頭を支え、尖らせた舌でゆっくりと口唇を舐める。
デーモンの息が大きく吐かれた。
「エ・・・・・・・ース・・・。」
力を失いかけた両手が、エースの胸の上で滑り落ちて行く。
歯の裏を舐め、ときに早く、優しく、乱暴にエースの舌はデーモンの理性を奪い続ける。
「ん・・・・あ・・・・。」
礼服のボタンはあっと言う間に外された。
袖を抜くと、シャツの下からエースのもう一方の手が侵入を開始する。
そして手探りで敏感な部分を見つけると、触れるか触れないかの微かな刺激でそこを行ったり来たりし始めた。
「ふぁ・・・。」
グズリ・・・と下半身が濡れ、熱くなるのが分かる。
感じてきている自分に、デーモンは身を任せた。
「・・・デーモン・・・。」
うっすらと紅潮するデーモンの身体を見て、エースは満足そうにその名を呼んだ。
そして支えてやりつつ、二名はゆっくりと絨毯の上に落ちていった。
ファサリと優しい音がする。
長い黄金の髪が毛足の長い絨毯の上に広がる音だ。
落ちかけた黄金月がセピア色の光を部屋中に撒き散らす。
エースはようやく唇を離すと、潤んだデーモンの瞳に軽く口付けた。
「んん・・・・・・。」
既にエースの手は胸の突起で遊ぶ事を止め、下半身の攻撃に移りかけていた。
膨らみかけた其れを覆うようにエースは指先を巧みに使って刺激を与え始める。
既に口付けで快感を露にしていたデーモンにとって、スパッツの上からの刺激でもそれは十分すぎた。
思わず身体がピクリと仰け反る。
「うあぁ・・・っ!!・・・ああん・・・。」
それに合わせてエースの唇はゆっくりと下へ降りていった。
首筋、鎖骨、胸・・・更に下へと・・・。
シャツさえも剥がれ、デーモンの桜色に色付いた上半身はエースの前に現れた。
ヒクヒクと痙攣し、全神経を快楽に委ねたデーモンはエースから与えられる刺激に全てを任せる。
それ以上に、エースの激しさを求めるように両腕を彼の背中に絡みつかせて腰を摺り寄せてきた。
「分かった・・・分かったからデーモン・・・焦るなよ。」
望み通りの事をしようと、エースはスパッツの上からの刺激を止めて、その部分を直接刺激する為に手を中に滑り込ませた。
「ひぃっ!!・・・くぅ・・・。」
待ち望んだ事に、デーモンは嬌声を上げた。
エースのシャツを背中から握り絞め、声をこれ以上上げることを堪える。
「・・・聞かせてくれ。デーモン・・・お前を・・・。」
くいっとそれを握り、デーモンの甘い声を促す。
「ううん・・っ!!あ・・・あああああ・・・・・。」
いきなりの強い刺激に、デーモンも堪えられない。
スパッツを自ら脱ぎ捨て、エースのシャツも取ろうとボタンを外しかける。
しかし、快感に五感を奪われて上手く外すことが出来ない。焦れったそうにデーモンはエースの顔を見つめた。
「・・・ん?・・・ああ・・・。」
名残惜しそうにエースはデーモンから手を離すと、シャツを脱ぎ捨てた。
ブロンズの化身のような四肢が露になる。
安心したようにデーモンはまた、背中に手を回した。
「エースぅ・・・・!!」
完全な形をなしたデーモンの雄にエースは笑みを洩らし、その先端に舌を乗せた。
「・・・っ!!!」
濡れた舌先を最初に次第にそれはエースの口の中へ納まってゆく。
裏側を舐め、不規則な刺激を繰り返し、デーモンを高みへと導く。
「んんっ!!ああああ・・・あっ!!はぁ・・・っ!!あっ!!あっ!あっ!あっ!」
放たれる吐息と共に声が上がる。
デーモンの腕に力が入った。
そして・・・。
「くぅっ!!!・・・・・・・・・・。」
エースの口内で何かが弾けて震える。瞬間、独特に臭いを放つ液体が溢れた。
荒い息を吐き、エースを見つめてくるデーモン。
顔を上げたエースの紅い口元から、白濁したデーモンの生暖かい液が伝う。
「!!」
羞恥心がデーモンの身体を流れ、彼の皮膚を艶っぽくさせている。
全てを舐め取り、エースはデーモンの身体を裏返した。
「っ!」
引き締まった双丘を抉じ開け、目的の所を視界に入れる。
たった今開放しただけあり、既にそこはエースを待ち構えているようにヒクついている。
「体勢万全だな・・・。」
嬉しそうなエースの声が背後から聞こえる。
「・・・エース・・・。おねがい・・・〜〜〜〜・・・。」
強請る様に舌っ足らずなデーモンの懇願。
「よしよし・・・。」
そう言ったかと思うと、エースはデーモンの身体を抱き上げ、胡座をかいた自分の下半身の中央へとあてがった。
いつの間にかカタチを形成し終わったエースの雄はデーモンを貫く為だけにそそり立つ。
「いくぞ・・・。」
エースは彼の双丘を両手で鷲掴み、開いた。
デーモンも受け入れる体制を整え、エースの身体にしがみつく。
「力を抜け・・・。」
エースの言葉にデーモンは一瞬、全身の力を抜いた。
タイミングを合わせ、エースはゆっくりとデーモンとの結合を開始する。
「・・・っ!!うあああ・・・・・・・ああああ・・・・・。」
明らかな侵入。
内臓を突き上げられるような感触にデーモンも慣れた事とは言え、身を捩った。
「・・・辛いか?」
途中で行為を中断し、エースが自分の肩に顔を埋めたデーモンの表情を読もうとする。
そのエースの優しさにデーモンは泣きそうになりながら大きく首を振った。
「少し・・・我慢してくれ。直ぐに良くなるから。」
せめて異物が侵入してくる不快感だけでも早めにとってやろうと、やや強引ではあったが一気に全てをデーモンの中に沈め込んだ。
「きゃぁっ!!・・・・うあ・・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・・・。」
いきなりの事にデーモンも悲鳴をあげる。
瞬間、彼の瞳にエースの背中が映った。
褐色の肌に刻まれた黒の刻印。
それはエース自身が最も忌み嫌うブラック・ジャガーの末裔であることの印。
以前も、そして記憶が無くなっていた時も絶対に見せてはくれなかった。
それが今、何の躊躇もなく自分の前に曝け出してくれている。
デーモンはぎゅうぅぅぅ・・・と彼を抱き締め返した。
「・・・デーモン・・・?」
少し荒くなった息の下でエースが囁く。
「エース・・・エース・・・。」
その声に安心し、エースはゆっくりと身体を動かし始めた。
「あんっ!!・・・あああ・・・っ!!エー・・スっ!!・・・エース・・・・ぅううううう・・・!!!」
肩口で揺れる紅と黄金の髪。
乱れて跳ねて、薄らと肌に乗った汗と共に二名の周りを踊る。
完全に理性を切り離し、ただ欲望の中でエースはデーモンを抱いていた。
悪魔と天使の不完全体。
それがこの、自分の中で快楽だけを貪り、自分だけを求めてくるデーモン。
本来なら出会うべきでなかった自分達。
魔界の創始者や、闇の目達が最も恐れた我々の融合。
計り知れない力を秘め、全てを混乱に導く凶と出るか・・・それとも・・・?
しかしエースに迷いはなかった。
少なくとも自分の中では幸運だと・・・感じている。
遥かな時間を掛け、回り道を繰り返した。
モザイク模様の迷路を彷徨い続けた。
だけど・・・誰も自分たちを引き離すことは・・・・出来なかった。
それが運命だったと信じたい。
多分その想いはデーモンも・・・。
「エース!!エース!!!!!」
自分の名を呼び、自分の中でただ、淫らに踊る彼が・・・愛しい。
今ここに居るデーモンが真実だと信じたい。エースはさらに強く腰を打ち付ける。
「ひぃっ!!!・・・ああ・・・あああああ・・・あああ・・吾輩・・・もう・・・・。」
「・・・一緒に・・・・・・・・・デーモン・・・!!!!」
エースは視界に入るだけの光を掻き集め、最後の高みに向かってありったけの想いをぶつけた。
「エース・・・!!」
「デーモン・・・!!!」
一瞬、漆黒の闇が意識を喰らい、二名は既に藍色の輝きを灯した空間の中に沈んでいった・・・・。
一瞬の白い光にデーモンはふと目を覚ました。
そのまま敷物の上で眠り込んでしまったらしく、身体が痛い。
背中に掛けられたエースの手を起きないように離し、身体を起こす。
痺れた様な感覚が何故か心地よい。
黄金の髪を掻き上げて、デーモンの瞳は真っ直ぐにエースを見下ろしていた。
瞬間、窓の外から入り込んできた強烈な光に目を瞬く。
雲に覆われた空の彼方から雷鳴が轟いていた。
ふぅ・・・と溜息をつく。
そして今日、ダミアンから言われたことを思い出した。
『天界のことを危惧して・・・できるなら本格的な活動を開始するまで私とデーモン以外、先発隊メンバーの魔界での記憶を・・・預かっておこうと
思う。勿論、エースの記憶も・・・だ。』
確かにそうだとデーモンも思う。
蒼の惑星に降りた時、悪魔としての自覚が無い方が天界の連中も自分達の動きを掴み難いだろう。
降りた瞬間、抹殺させられるようだったら・・・話にならない。
自分とダミアンだけなら天界の追跡を免れることは出来るだろう。
「エース・・・。」
サラリとした漆黒の髪を左手で梳く。
記憶。
そう、デーモンは全てを知っていた。
記憶が無い間の自分の行動。
欠け落ちていたエースの存在を見つける自分を。
そして、【あの時】。
意識を失いながらも頭の中に直接入り込んできた声の主を。
知っていた。
記憶の無い自分にいつも語りかけてきた。
エースを思い出そうとする度にセーブをかけてきた優しい意識体。
それは決して自分を傷つけるためではなく守る為に。
「エース・・・。」
この名を呼びかける度に涙が零れてきそうになる。
「何を泣いてる?」
不意に掛けられた声にデーモンはびくりとした。
見ると、ルビー色の瞳が雷鳴に時々反射しながらこちらを見つめてくる。
「起こして・・・しまったか?」
申し訳無さそうにデーモンが呟く。
「・・・お前が泣いているような気がした。」
エースの右手が差し出される。
そしてそれはデーモンの溢れかけた涙を掬い上げた。
「・・・エース・・・吾輩は・・・。」
ダミアンの命令を口にしようとしたが、それはエースの指が口元を押さえた事で阻まれた。
「エース?」
「大丈夫だ。俺はどんなことがあってもお前を見つけ出す。心配しなくても良いから。」
デーモンは驚愕の表情を顔に貼り付け、動けなかった。
知ってる・・・?
何故・・・?
「エース・・・お前は・・・。」
「時が来たら・・・俺はお前を捜す。絶対に見つけ出してみせる。俺達は長い時間を掛けてとんでもない回り道をした。その時の苦しみに比べた
ら・・・俺は耐えてみせるさ。」
エースはゆっくりと微笑を浮かべた。
耐え切れなくなってデーモンは涙を零した。
「エース・・・!!!」
瞬間、エースはデーモンの小さな身体を抱き締めた。
「泣くな・・・じゃないと安心して行けない。」
あやす様に形良いデーモンの頭を撫でる。
「すまない・・・。」
そう呟き、デーモンは雷鳴轟く窓の傍に寄った。
「デーモン?」
エースの声に振り向き、まだ涙を浮かべたままのデーモンは笑った。
その時、今までより大きな雷が地面を叩きつけた。
「っ!!」
あまりの光にエースも目を背ける。
そして次に目を開いた時には・・・デーモンの両手の中に淡いクリーム色の光を見つけた。
「なんだ?それは・・・。」
「光の粒だ。」
言い放つデーモンにエースは不思議そうな顔をする。
「・・・吾輩は待っているから・・・お前が覚醒するその時を・・・そしてこれは目印だ。お前の記憶と共に吾輩がその時まで・・・預かっておくから。」
デーモンの言葉が途切れがちになる。
そしてそれは彼が泣いているからではなく、自分の意識が少しずつ奪われていくからだと・・・気が付いた。
薄れる視界の中で光の粒は自分の身体を包み、一つ一つ何かを奪っていく喪失感をエースは感じていた。
しかしそれは・・・何故か快楽だった・・・。
「・・・待っているから・・・吾輩は・・・待って・・・・・・・・・・・・・・・・。」