Another Side Stories 〜雨夜の月〜 3th Night
目が覚めた時には既に陽が上ろうとしていた。
ゼノンは慌てて飛び起き、横の扉を開けた。
「・・・?おや?」
通常なら底冷えのする空気が彼の体を意地でも起こすのだが・・・気持ちの良い温もりが肌に伝わってきた。
明かりのついた研究所の中に影が揺らぐ。
「誰?」
ゆっくりと扉を開けると、シルバーグレーの髪が振り向き、笑った。
「おはようございますゼノン博士。」
植物達が嬉しそうにBの周りに纏わりついて離れない。それを相手しながら彼は水をかけていた。
安心したのか、ゼノンも笑いながら懐いてきた植物達を指で巻き取り、弄ぶ。
「随分前から起きてたみたいだね・・・この子達とこんなに仲良くなるなんて・・・。」
扉に身体を預けて、ゼノンは腕を組む。
「この子達はとても良い子ですね。私が初めて入ってきたのに、すぐに心を開いてくれました。何でも話してくれましたよ、あなたの事も、皆様の事
も。」
「ダミ様も良い悪魔手を捜してきてくれたもんだ・・・おいでよB、この子達からお裾分けして貰ったお茶を御馳走するよ。」
そんな平和な時間が一方で流れてたりするが・・・もう一方では・・・・・・・・・・・・・。
「座らねぇッ!ぜってぇ座らねぇっ!!!俺の椅子はそこじゃねぇ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
無駄な足掻きというか、無駄な抵抗というか、無駄な労力というか・・・シェリーはデーモンの執務室の扉に縋り付いて離れないのを、エースとルーク
が渾身の力を込めて引っ張っていた。
「バカヤロウ!お前の仕事は今、デーモンの影武者だろうが!そこに座らないで何処に座るつもりだよ!いい加減に諦めろ!!少なくとも俺んとこ
に居候してる間ぐらい、つべこべ言わずに働け!!!!」
「俺の仕事はデーモンの枕元でリンゴの皮を剥いて『はい、あ〜〜ん♪』してやることだ!俺は手先が器用だからナイフの扱いがとても上手いんだ!
俺に仕事をさせろ!!!」
・・・段々自分でも何を言って良いのやら訳分からなくなってきたシェリーは、普段なら絶対にやらないような事を言い散らかしている。
よっぽどイヤなのか?影武者家業・・・。
「リンゴの皮でも梨の皮でもそんなもん俺が剥いてやる!お前はとりあえずココに座ってろ!!!!!」
エース本悪魔も段々何言ってるのか分からなくなってきたが、更にマントを引っ張り上げて、シェリーの手を扉から引き剥がすの成功した。
その瞬間・・・後ろから激しい音でシェリーのドタマをドツく手が出現し、見事クリーンヒットした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・相も変わらず性懲りもない方ですね・・・」
その辺の扱いは慣れているのか、ミューが片手でシェリーの身体を持ち上げると、デーモンの椅子に投げ飛ばした。
「これでようございますか?エース様、ルーク様。」
いつもの様にニッコリと笑いかけ、ちょうどここにいる人数分用意したティーセットを両手に持ち替えた。
「ダミ様に頂いた茶葉がありますので・・・皆様、いかがですか?ちょうどお呼びしようと思って来たのですが・・・。」
ルークはティーサーバーの蓋を開け、開け放たれた香りを楽しむ。
「朝のティータイムにはちょうどいいな、向こうのベランダで頂くとするか・・・ルーク、デーモンも呼んでこいよ。」
エースの声にルークは了解とばかりに背中の羽を広げて、直ぐ横の窓から飛び降りた。
「・・・ミュー・・・で、アイツはあのままでいいのか?」
助かったとは言え、あんまりにもあんまりなので、一応、エースは確認を取る。
ミューの目がパチクリと開き、すぐに微笑みに変わった。
「大丈夫です、3分後には起き上がって猛ダッシュでお茶の匂いを嗅ぎ分けてこられますから・・・・。」
言い残すと、ミューはベランダの方へ歩き出した。
エースも扉を閉め、その後に続く・・・・・・・・・・・・・・・。
執務室内の、開けっ放しにしていった窓から、クルリと一回転した風がシェリーの顔を撫でて行った。
むくりと起き上がると、シェリーは風の道を目で追いかけた。
風は再び一回転すると壁に激突し、炎を作り出した。
「・・・。」
じ・・・と睨むと、その炎は壁紙に一つの紋様を描き出した。
揺らめく炎の影、拮抗するように絡み合う風・・・一瞬激しく燃えて・・・消えた。
「・・・・・・・・・バカ共が・・・宣戦布告かよ。・・・お前らにデーモンは倒せねぇよ・・・。」
呟くと、邪魔くさいマントを脱ぎ、壁に残された紋章の染みを拭い去った。
「この喧嘩、俺が貰っておくぞ。」