アーケードを出てすぐ右に曲がったところのショーウィンドウ。
扉と少し離れたところに、その女の子はずっと立っていた。
周りの目にはどう見たってこんな日に待ちぼうけを食わされた可哀想な彼女にしか見えないのだろうけど、実際のところ。
彼女は約束の時間の約一時間前からここにいるだけなのだ。
柄にもなくウキウキした気分でオシャレして・・・ばっちりメイクも決めて・・・場違いなことをしてるような気分でとても落ち着かない。
そわそわしながら待ち合わせの場所・・・数メートル先の巨大ツリーのオブジェを見つめる。
時計を見ると、さらに彼女の心臓は倍速で動き始める。
後五分・・・。
気分はまるで処刑前五分のようだ。
「・・・何やってんだろう?」
両手でコートの上から心臓を押さえて自分自身を宥めようとする。
が・・・あまり効果はないようだ。
「帰っちゃおうかなぁ?」
半分本気のように呟いたら・・・なぜか落ち着いた。
彼とつきあい始めてもう半年以上。
最初は何となくではあったが、彼のことを知るたびにどんどん思いが募り続けている自分に気がついた。
だが・・・。
伝えたいのに、肝腎のことが伝えられないでいる。
何度も、何度も、彼は自分にとても優しい言葉をかけてくれたし、嬉しいと思うこともしてくれたのは知っていた。
んが。
「だって・・・柄じゃないんだし。」
それだけ。
彼女の強がりで勝ち気な性格がとても邪魔をしてありがとうの言葉すら出てこない。
笑ってみようとも思ったが・・・残念ながら、彼女はそういう場合の笑い方を知らなかった。
その言い訳は全て。
「キャラじゃないし・・・。」
これじゃぁいけないとは気づいているのに・・・とうとうこの日までずるずると引きずっていた。
決心をして彼女が言うには【柄じゃなく】プレゼントを、後ろに聳えるファッションビルの中で選んだのは何と午前中。
何をあげて良いのか全く分からず、当てもなく何時間も彷徨い続けて・・・やっと選んだモノは彼女のコートのポケットの中に収まっている。
「あ〜〜〜〜〜〜!!!!もうっ!!!私何やってるんだろう?!」
こんなに想いを募らせる自分と、こんなところで待ちながら心臓バクバクさせてる自分と、このまま帰りたいと思っている自分とにだんだん腹が立って仕舞いには泣けてきてしまった。
じわっと涙がかすんで視界を緩める。
正直・・・怖かったのだ。
彼に会って、どんな風に顔を作ればいいのか?
どんな顔で会うと彼が喜んでくれるのか?
いつもだったらいつものように普通にしてればいいのだが、今日はクリスマス。
誰かが魔法でもかけたのか?
周りの甘い雰囲気に酔ったのか?
いつものポーカーフェイスが作ることができない。
「・・・どうしたらいいんだ???」
そのとき・・・。
それは確かな声で。
だけど優しく小さく。
声が聞こえた。
「だ・・・誰???」
いつの間にか座り込んでしまった体を起こして、彼女は辺りを見回した。
だが、誰も彼女に声をかけそうな者はいない。
「誰なのよ・・・。」
しっとりと濡れた瞳を軽く拭いて、彼女は顔を上げた。
その表情にいくらかの無愛想さは残るが、明らかに先ほどより違う。
それは勇気を含めていた。
彼女はコートの裾を払い、ゆっくりと待ち合わせの場所に歩き始めた。
言うべき言葉は・・・いや、言いたかった言葉は今、見つかった。
もう大丈夫。そして・・・。