法外に広いアーケード内には着飾った若者達が溢れている。
その表情は寒さも手伝ってか、ほんの少し赤味を増していた。
そしてとても喜びに満ちている。
アーケードの主要出入り口の街角。
大きめのファッションビルが聳え、色とりどりの電飾、緑と赤を主体に輝いていた。
アーケード側に設置されたビルの扉。
そこが結構勢い良く開いた。
余程走ってきたのだろう、かなり息を切らせて若い男が一人、すぐ近くのショーウィンドウに背を凭れた。
右手に握りしめた箱を今にも笑いが止まらなくなりそうな満面の微笑みで見つめる。
「やった・・・買った・・・。」
白い箱に淡いピンクの小さなリボン。中身は・・・推して知るべし・・・だろうか?
「買っちまった・・・さて・・・。」
大事にそれをロングコートのポケットに押し込み、深呼吸を一つ。
五分後に会う予定の彼女のことをふと思い浮かべた。
「喜べばいいけど・・・。」
彼女とこういう仲になり、初めてのクリスマス。
出会って、何となくつきあいを始めたが。
もう数ヶ月も経つのに肝腎の一言がまだ言えずにいた。
自分で考えるより以上に、彼女のことを気にかけ続けている彼がここにいる。
「今日こそは・・・。」
そう決めたのはつい数日前のこと。
何をしてても、何と言葉をかけてみても、何となく・・・愛想なく逃げてしまう彼女。
いい加減、自分のことを気にしているのかも不安になる。
「・・・まぁ・・・俺が大事なことを言わないのも・・・悪いけどさ・・・。」
そう、その通りなのだ。
いくらその言葉を思っていても、口にすることができないのなら話にならないのだ。
「笑うときっと可愛いのに。」
独り言を呟き続ける彼の横を少し不審そうに何人もが通り過ぎていく。
半年以上つきあってきて、彼も少なからず気がついていた。
彼女がとても照れ屋だということ。
気障なことを口にしても、彼女はいつも下斜め四十五度の視線。
笑うとすれば・・・頬を少し上げてはにかむ程度。
勢いつけてプレゼント何ぞを買ってはみたものの・・・。
正直なところ、彼も怖じ気づいていた。
・・・と、突然、彼はきっと顔を上げた。
「よっしゃぁ!!練習するぞ!!!」
こんなもんに練習なぞ必要なのかはさておき・・・。
周りの目もあることだし、彼は聞こえるか聞こえないかのささやかな声でとりあえず呟いてみることにした。
「・・・好きだよ。」
たった四言。
それだけで顔中が熱くなる。
が、気を取り直してもう一度。
「・・・好きです・・・あ、これじゃぁ堅すぎるかも・・・好きだ・・・何か投げ遣りだなぁ・・・こりゃぁ・・・。」
瞬間、思いついたのは・・・。
「愛してるよ。」
先ほどとは比べものにならないくらいのものすごい恥ずかしさが彼の中で渦巻いた。
「うわあああああああああああ!!!!!!だめだこりゃぁああああああああ!!!!」
思わず叫んで、その場に頭を抱えて蹲ってしまう。
もちろん、その場に存在した人たちの視線はすべて彼に注がれている。
我に返って、彼はすぐに立ち上がり、コートの裾についたほこりを払う振りをした。
そのとき・・・。
「・・・え???誰だ?」
それは微かなモノだったが、でも明らかに。
彼の耳元で何かを囁いた。
多分それは彼が一番言いたかった言葉。
もう一度彼は、ポケットの中身を触った。
小物はここにある。
大切な事も教えてもらった。
いざ・・・。