ザイクのLove Maze 〜ARCADIA 3〜

 

「ルークのヤツ・・・来ないと言うことは吾輩の今日の仕事は終わりってコトか?」
革張りの大きめの椅子に身体を預け、嬉しそうにデーモンは呟いた。
・・・となれば善は急げということで机の上の書類をまとめて、右隅に押しやった。
空いたスペースに両足を乗せ、頭の後ろで手を組み、宙を眺める。
「ああ・・・・もう記憶が吹っ飛んでるくらいなんだというのだ・・・。『ほんの少し』消えてるってだけで前線に帰してもらえないなんて・・・。」
そうぼやくワリには頭の中は失ってしまった記憶の破片のことでいつも一杯だった。
たった一名だけ。
キレイに消えている。まるでコンピューターの中のファイルを削除してしまったかのように。
彼奴は自分の恋悪魔だと言った。
・・・愛していたのか?吾輩を。
愛していたのか?・・・彼奴を。
窓の外は、朱色に染め変えられていく。
夜の化身の紅月が、黄金の月を圧倒していく。
「・・・我等のようだな・・・。」
デーモンは苦笑した。
二つの月の存在が自分達のように見えてくる。
・・・と、遠慮がちなノックの音で我に返った。
「・・・開いてるぞ?誰だ。」
声をかけると夜の闇色をした髪が始めに覗いた。
「・・・エース長官・・・か?」
確かめるように尋ねる。するとノック同様、少し遠慮がちにその本体は部屋の中に滑り込んできた。
「・・・デーモン。」
艶のある少しハスキーな声で名を呼ばれる。
・・・朱の化身だ・・・。
その美しさにデーモンは改めて気付き、目を細める。
いつも黒い軍服に身を包んではいるが、その輝きは黒ではなく、紛れもない紅。
極上のルビーのように深く、そして燃え尽きることのない紅。
「デーモン、仕事は?」
「あ、ルークが来ないから、もう止める。」
ペロリと舌を出し、戯けたように答える。
その様子に思いもかけずエースに笑みが漏れた。
「・・・ったく・・・一名でやろうとは思わないのか?」
「やろうと思えばできんこともないが。しかし、殆ど前線にいた吾輩にデスクワークだけというのはどだい無理な話だと思わないか?」
「確かに・・・。」
そう言いながらエースは机に足をかけ、デーモンの目の前を陣取った。
開けっ放しの窓から風が滑り込み、二名の間を過ぎ去る。
サラサラと流れる金糸。
捕らえられたら誰であろうと二度と逃れられない、アクアブルーの大きな宝石が二つ。
誰よりも、何よりも、その瞳に捕らわれて抜け出せなくなった自分に、エースは苦笑していた。
「何が可笑しいのだ?」
怪訝に思ったのか、デーモンがあまり機嫌の良くない顔でこちらを見つめてくる。
「イヤ・・・何でも・・・。」
瞬間、ダミアンの言葉が頭を掠めた。

【・・・誰かに乗り移っている可能性が・・・】

「エース長官、トコロで執務室(ここ)に何の用だ?吾輩は・・・!!」
椅子から立ち上がり、言葉を続けようとするデーモンの肩をいきなり掴み、エースは机から降りた。

【・・・デーモンに・・・】

「何をする?!離せ!!」
デーモンも、副大魔王として、そして軍の最高司令官としてそれなりの力はある。エースの手を振り解こうともがくが、いかんせん体格の差には敵わ
ない。

【・・・天使が・・・】

「・・・!!!」
エースは力任せにデーモンを机の上に押し倒した。
「止めろ!エース長官!!」

【・・・乗り移っている・・・】

デーモンの軍服をボタンごと引き裂く。
露わになった素肌には生々しい傷跡が数カ所に残っていた。
「・・・っ!!」
引きつったような、声にならないデーモンの拒否の念。
「デーモン・・・!」
己が口にした名前で、エースは我に返った。
気付くと、衣服を引き裂かれたデーモンの両腕を掴み、獣と化そうとした自分がいる。
その自分を哀しそうな瞳が貫いていた。
「・・・吾輩はお前の恋悪魔・・・だそうだが。・・・エース長官。」
ふいに呼びかけられて、エースはデーモンを見つめた。
「お前との『こういった行為』は何回もあったんだろう・・・が、今。お前は吾輩を抱いて、何かを感じ取ることができるのか?できるのなら・・・・
吾輩を抱け。しかし・・・。」
それ以上は何も言わず、湖水の瞳は一心にエースを見つめた。

・・・奇妙なことを口走った。

デーモンは少し後悔をしていた。
彼と仲魔だったことは疎か、恋悪魔という意識は一切無いまま、抱いても良いとなどと口走った自分。
「・・・デーモン。」
エースの目が悲しみに揺れていた。
不安げな、危うい雰囲気を漂わせる彼のルビー色した瞳。
見つめていると・・・・。
「・・・っつあっ!!!」
突然、デーモンの顔に苦悶が現れた。
「デーモン?!」
「・・・っ痛ぅ!!頭・・・が・・・・!」
そう呟き、デーモンは机に突っ伏した。
「大丈夫か?!」
「・・・エース・・・・っ!!」
名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
「え・・・?」
「痛い・・・頭がぁッ・・・・!!!」
・・・正確に言えば、頭だけではなかった。
身体中が・・・いや、魂ごと軋み、引き千切られるような激痛がデーモンを襲っていた。
藻掻くようにデーモンはエースの服を握りしめた。
「・・・エ・・・・ス・・・!!!」
突然のことにエースもどうして良いのか分からない。
「デーモン?!・・・待ってろ・・・すぐに誰か・・・・!!」
組み敷いていた手を離し、ドアのところまで駆け出そうとしたが、縋り付くデーモンに止められる。
「・・・デーモ・・・・ン?」
「・・・い・・・て・・・・。」
絞り出す声に、思わず耳をそばだてた。
「え?」
「抱・・・いて・・・。エース・・・吾輩を・・・・。」
目を細め、救いを求めるような視線。
何の事だか分からずに、エースはただ、眉をひそめる。
「デーモン何を言って・・・・。」
「お・・・願い・・・・。」
一瞬のうちにデーモンはエースにしがみつくと、唇を重ねた。
「・・・っ!!」
ねっとりと絡みつく舌先。
吸われる度にエースの心臓が大きく拍動する。
「・・・デ・・・モン・・・!!」
記憶を失う前でさえこんなコトはなかった。デーモンから・・・求めてくることなんて・・・。
先程、危ういところで切り離さなかった理性の糸が、今、虚しい音で切れていくのが分かった。
「・・・後悔・・・するなよ?」
デーモンの自分を捕らえていた両腕を優しく外し、自由になった右手で後頭部を支える。
そして勢いよく舌を改めて押し込んだ。
「ふっ・・・・!」
熱に浮かされたようにデーモンが反応を示す。
歯の裏側までじっくりと刺激を繰り返す。
「あ・・・は・・・。」
掬い上げきれなかった口内の蜜が一筋、口の端から伝い落ちていく。
エースは軽く口唇を噛んだ。
ピクリとデーモンの細すぎる下半身が動く。それに気付いて、エースの左手は熱くなった箇所を攻め始めた。
「はぁっ・・・っ!!!」
やっと唇を外し、それまで快感で息も出来なかったデーモンは大きく息を吸った。
その動作はエースをゾクゾクさせるほどに艶めかしく、色気に満ちていた。
「・・・お前はココが好きだったな・・・。」
そう囁き、舌を首筋に這わせ、ゆっくりと下へ落ちてゆく。
既に露わになっていた胸を吸われ、デーモンは小さく震えた。
「・・・・あっ・・・あ・・・・あ・・・・。」
湖水の瞳にうっすらと歓喜の涙を浮かべ、尚もしがみついてくるデーモン。
エースの左手の動きはより、濃厚なモノへと変化する。
「・・・ん?どうした?もう・・・・して欲しいのか?」
意地悪く笑みを漏らすエースを見て、デーモンは大きく首を振った
「じゃぁどうしたい?ん?」
絶頂をワザと誘い、じれったげにかわしていく底意地の悪いエースの行為に、デーモンの熱を帯びた箇所は女のそれよりも熱く、独特の香りを漂わ
せ、怪しく震えていた。
エースの舌はそれを知ってか知らずか、より下へと降りてゆき、とうとう左手と同じ部分へ到達した。
「・・・っ!!はぁっ・・・・!!!」
我慢できないようにデーモンは息を呑み、肩で早めの呼吸を繰り返す。
机の上に大股で着席させられて、身体を支える両腕がカクカク震えて快感を貪り続ける。
敏感な場所は既に完全なカタチを成し、エースの執拗なまでの行為に痙攣していた。
ふと・・・途切れる感触。
「・・・?」
半ば朦朧とした意識でエースの方を見る。と、腰を抱かれ、身体を反転させられて後ろ向きに腰を突き出す格好にされた。
恥ずかしさに全身がふわり・・・と紅潮する。
「・・・っうわっ・・・・!」
しかし、それも一瞬だった。
根元から双丘に向かって湿っぽい感触に捕らえられる。
「っ・・・・・!う・・・は・・・・・っ!!」
「ちゃんと慣らさないとダメだろう?」
声しか聞こえずとも、エースがどういう表情で自分を弄んでいるかは手に取るように分かっていた。
幸福な悔しさにデーモンは、片手でエースの下半身を掴み取る。
「っ?!」
懸命に手繰り寄せて、スパッツを少し引き下げる。
自分と同じく、既に膨らんだエースの雄を握りしめた。
「っ・・・・っ!!デー・・・モ・・・・?!」
その声に力無く笑うと、デーモンはできる範囲で掴んだモノを弄り始めた。
「あ・・・っ!こ・・・こら・・・・うっ!!」
しどけない声が思わず漏れる。
弄られる程、エースの身体は電流が走るような快感を覚えていた。
百戦錬磨の総司令官とは思えぬほどに白く、美しい指先がエース自身を滑る。
「あ・・・あっ・・・・!」
・・・と、エースの手がデーモンを止めた。
「・・・?」
「・・・俺でアソブとは・・・イイ度胸だ・・・!」
デーモンの手を掴み、そのまま背後で組み締める。
そして、腰を少し抱えると、デーモンの双丘の中心に自分を銜え込ませた。
「くぅっ!!!」
分かっていたこととは言え、突然のことにデーモンの背が弓なりに反り返る。
一瞬の痛み。
「・・・エ・・・・スぅ・・・・・・・!」
甘えるようなデーモンの声にエースはそのままゆっくりと腰を前後に動かし始めた。
ジリジリと奥まで入り込んでゆく。
それがもどかしいのか、デーモンは殆ど無意識に自らの腰を揺らしてエースを迎え入れようとしていた。
「・・・っ!・・・っあっ!・・・や・・・だぁ・・・。」
その甲斐あってか、思ったよりも早く、エースは全てをデーモンの中に滑り入れた。
「・・・っ!・・・」
灼熱の炎のような熱さが2名の中を駆け抜ける。
「・・・っデーモン・・・・はぁっ・・・あっ!!あっ!!!」
「エースぅ・・・・ッ!」
コレ以上の言葉は要らなかった。
エースは止めどなく流れ出そうな激情をありったけの思いを込めてデーモンへ送る。
そしてデーモンも・・・。
いや、彼は・・・。
荒れ狂う快感の中に小さく空いた自分の中の暗闇に気付いた。

【・・・・え?・・・・】

エースに抱かれている自分とはまた違う自分。
一心に暗闇を見つめる。
するとそれはだんだん大きくなり・・・。
その中に一筋の視線を確認した。

「はぁっ!!ああっ!!!うっ!!!・・・・・・・!!」
ともすればオモテの自分が受け止めている快楽に溺れそうになりながらも、自分を絡め取る視線の主を追った。

【・・・ア・レ・ハ・ダ・レ・・・?】

「デーモンっ!!!・・・・」
刹那の閃光。
エースは、脈打つ己自身を感じていた。
「・・・くぅっ・・・・・!!!」
デーモンの目に輝く涙。

【・・・シ・ッ・テ・ル・・・ア・レ・ハ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

津浪のように熱く、重いものがデーモンの全てを飲み込んでいく。
・・・と・・・すぐに意識は精神の奥へと引きずり込まれていった・・・。
「・・・デーモン?!」
遠くで何故か懐かしい声を感じながら。

 

                                                          to be continude・・・