- ファンタシースターオンライン二次創作「パイオニア2奮戦記!」 -
 母なる大地の衰えにより余儀なくされた大規模移民計画。
 通称「パイオニア計画」

 無人探索機により発見された惑星「ラグオル」に、
 超長距離惑星間航行用移民船「パイオニア1」が到着して数年後。

 本格的な第二移民船「パイオニア2」が惑星「ラグオル」に到着する。
 惑星軌道上に「パイオニア2」が到着し、
 「セントラルドーム」と通信回線を開く直前、
 惑星表面上に大爆発が発生。
 「セントラルドーム」との通信は途絶えた。

 いったい惑星「ラグオル」に何が起こったのだろうか?

 この物語は巨大移民船「パイオニア2」に存在する数多くのハンターズと共に
 惑星への移民計画を遂行すべく惑星「ラグオル」を探索し、
 人類未踏・未知の世界へ勇敢に挑む者達の物語である!

 ………………多分。


「PHANTASY STAR ONLINE-パイオニア2奮戦記!-」
FIRST STAGE 「LADY LUCK?」〜前編〜

 超長距離惑星間航行用移民船「パイオニア2」
 一般人用の居住区に含め、未知なる宇宙の旅に備えた軍事施設なども存在する大規模船団である。
 惑星ラグオルを目の前にして起きた、突如の大爆発。
 その原因が究明されるまで、移民計画は凍結ということになった。
 現在「パイオニア2」では惑星「ラグオル」に優秀なハンターズを送り、探索を続けている。
 しかし、「セントラルドーム」を襲った謎の爆発も、「パイオニア1」からの移民の行方もようとして知れない。

 今、現在も日夜ハンターズ達は原因を知るためにラグオルに降り立っている。

 〜パイオニア2・ハンターズ居住区「せりか邸」早朝〜

「……さて」
 小型火器とライフルを一挺ずつ。
 それの整備用工具に、メンテナンス用の部品。
 各種、回復用アイテム一式を装備パックに入れ、または装備する。
「あらぁ〜〜また、長期滞在ですふぁ〜〜」
「………………」
 振りかえって声の主を眺める。
 まだ寝たりないのか、それとも朝に弱いのか、何処かふらふらと頼りない。
「……おはよう、ユーリア。留守は頼んだ」
「セーラム姉さんはぁ〜仕事熱心ですねぇ」

 せりか家長女、セーラム。
 パイオニア2の提督から依頼されたラグオル探索の重要任務。
 彼女はその依頼を受けた者の一人。
 優秀なレイキャシールだ。
 昔はハンターとして暮らしていたのだが、
 ある事故で身体を失い、以後アンドロイドとなったせりか家の大黒柱である。

「……生活費は其処にある」
 セーラムは口数が少なく、必要最小限の言葉しか口にしない。
 言葉よりも行動で自分を表現する性格で、一家の中では一番謎の多い人物だろう。
「了解しましたぁ、姉さんもお気をつけてぇ」
 頷いて家を出る姉をユーリアと呼ばれた女性が見送る。

 せりか家三女ユーリア。
 銃・杖を駆使して戦うフォースである。
 彼女もセーラムのラグオル探索を手伝っている。
 腕前は中々なのだが、根がのんびり〜ゆったり〜なので成果はあがっていない。

「あらまぁ〜40万メセタもありますねぇ」
 姉を玄関まで見送った後に封筒の中身を覗いてメセタを確認する。
 危険と隣り合わせであるハンターは収入も大きいが支出も激しい。
 武器・防具、それらの修理は自らの命の値段でもあるわけなので手を抜くわけにもいかない。
「ん〜〜2週間は持ちますかね〜」
 せりか家の家族構成は女4人、男1人の五人家族。
 全員がハンターズでラグオルに降り立っている。
「……いいことを思いつきましたぁ」
 ぽんっ、と手を叩くとユーリアは封筒を懐に入れる。
 そして、のんびりした歩調で街の方角に姿を消した。

 〜せりか邸・朝〜
「ふんふんふ〜ん♪」
 じゅ〜〜っとソーセージの焼ける匂いが家の外にも漏れている。
 テーブルには彩り豊かな野菜とパンが並んでいる。
「よ〜し、お兄ちゃん。準備完了だよ〜」
 せりか家の食を担う末女マティエが機嫌良く言った。
「それじゃ、そろそろ姉さん達を起こしに行きますか」
 準備の完了したテーブルを見て、一度頷いてからクレハが答える。

 せりか家四女マティエ。
 ユーリアと同じのフォースであるが、あくまで魔法主体で戦う生粋のフォースである。
 その秘めたる才能はせりか家の中でも随一。
 いずれは姉を超えるフォースとなるであろう、せりか家の期待の星だ。
 何よりも、この娘がいなくなるとせりか家の食生活は一気に悪化する。

 せりか家長男クレハ。
 せりか家で唯一の男性であり、マティエの兄であり、セーラム達の弟にあたる。
 姉達に遊ばれる受難の日々が続く、せりか家の家事洗濯番である。
 ちなみに彼の職業はハンターだ(近接戦・中距離戦を得意とし、各種武器に精通する戦士)

「じゃあ、私はセーラムお姉ちゃんとユーリアお姉ちゃん起こしに行って来る〜」
「え"、い、いや、僕が起こしに行くから。マティエはラファナ姉を頼むよ」
 何か思う所あるのか、クレハは慌てながら言う。
「やだ。起こしに行って来る〜」
 言うが早いか、マティエはアッと言う間にセーラムの部屋へと走った。
「仕方ないな。
 ユーリア姉さんが起きてたら頼めるのに。
 観念して―――行くか」
 クレハは溜息一つつくと、二階へと続く姉の部屋へと向かった。

 二階にある彼女の部屋から古い音楽がかかっている。
 その昔、母なる大地を席巻した国の言葉で歌われているポップスだ。
 自分達の間では既に古代語とも言われている言葉である。
 姉は何処かしらで手に入れて来ては目覚まし代わりにかけている。
 ベットでは艶やかな肢体をシーツに包んだ女性が幸せそうに眠っている。

 せりか家次女ラファナ。
 各種剣術に精通し、なおかつ魔法も中級程度に嗜むせりか家のハンターだ。
 細かい事や細かくない事もこだわらない性格で大剣や派手な武器を好んで使用する。
 熱気から逃れるためか、剣を氷像のように凍らせて部屋の中央に立てている。

「ねーさん。朝御飯が出来たよ〜」
「ん〜〜〜?」
 返事をしたのか反応しただけか、微妙な返事をかえすラファナ。
「うわ……酒くさい。また飲んできたな」
 とかく珍しい武器を好む彼女はよく剣を持ち変える。
 そして物に執着心がないので、すぐに売り払う。
 それで出来た金で酒を飲むのが彼女の趣味だ。
「ねーさん、起きて! 今日も仕事の時間だよ」
「………………んっ?」
 身体を揺らされて起きたのか、猫のように身体をビクッと震わせる。
「起きたみたいだね」
「おっはよーーーーーークレハ、愛してるわ!」
「うわあああああ」
 姉、ユーリアと違い彼女は寝起きが一番機嫌がいい。
 そう言って、いきなり弟に抱きつき押し倒す。

「あららら、また始った。早く行かないと」
「御迷惑をおかけします、マティエ様」
 ラファナのマグであるアプサラスが礼儀正しく柔らかな声で謝った。

 マグとはハンターズとして認められた時に貰うサポートロボのことである。
 有機体で作られた彼ら(彼女ら)はそれぞれにマスターの元で成長していく。
 ラファナのマグは主人とは違い、非常に真面目な性格に育っている。

「いいよ、アプサラス。早く行かないとお兄ちゃんが危ないし」
 よっこいしょ、っと重たそうな武器を担いでマティエはラファナの部屋に走った。

「ちょっと! 姉さん、やめ」
「んふふふふ、苦しゅうない。弟の成長を見てやろうという姉心よん♪」
「やーーーめーーーろーー」
 そう言いつつも身体がまったく動かない。
「こんな事もあろうかと買っておいたアレスト・ロックガン(極めて高い確率で相手を麻痺させる銃)。
 ああ、武器屋のおじさん! ありがとーー」
 よもや武器屋のおじさんもこんな風に使うとは夢にも思っていなかったであろう。多分。
「ふ、ふ、ふ。クレハぁぁ、かくごぉ!!」
 わきわきと手を動かしながら邪悪な笑みを浮かべる姉が近づいてくる。
「そこまでぇぇ!」

 ドゴオ!

 派手な轟音を立てて、インフェルノバズーカから弾が発射される。

 ドゴーーーーーン

「うきゃあああ」
 悲鳴と共に微かに家を揺らした後、辺り一体が静かになる。
「ちょっとマティエ! 死んだらどーすんのよ!?」
「ちぇ、やっぱり私の腕じゃ当たらないなあ」
 狙って撃った筈だが、ラファナもクレハも無事のようだ。
 さすが優秀なハンター、邪念に心を奪われていても咄嗟の緊急回避は出来るらしい。
「御安心をマスター。仮に命中しても練習弾に変えております」
「ちっ、また邪魔が入ったわ」
 練習用の弾とは言え、当たれば骨折くらいはするだろう。
 興を削がれたようでラファナはベッドから身体を起こして着替えを始める。
 恥の概念が抜けている姉に赤面しつつ、マティエは気絶しているクレハの首根っこをつかむ。
「早く降りてきてね」
 ずりずりとクレハを引きずってマティエが退場する。
「御迷惑をおかけしました。マティエ様、クレハ様」
 ぷかぷかと浮きながらアプサラスは礼をするように二人に身体を傾けた。

 ここまでは。
 いつも繰り広げられる、せりか家の日常であった。

「ってわけでねぇ。あの子達のせいで、ここら一体に人が住み着かないんだよ」
「………………」
 初老の老婆は何処か嬉しそうに語っていた。
 せりか家の向こう三軒両隣に住んでる者はいない。
 毎朝、毎日、何かと騒ぎを起こしているからだ。
「まあ、私はあの子達の親に世話になったから構わないんけどね。
 でも、悪いことは言わないよ。他を探したほうがいいと思うけどねぇ」
「いえ、ここで構いませんわ。多少、騒がしいくらいが好みですし」
 先ほどからの一連の騒ぎを見て、『多少騒がしい』レベルと見たらしい。
 目の前にいる小さなフォースの少女は笑って答えた。
「まあ、あんたがそう言うなら構わないけどね。
 じゃあ、住んでみるかい?」
「ええ、是非とも。今日からでも構いませんか?」
 初老の老婆は思った。
 この娘は変わっている。
 なら、あの変わった家族とも上手くやっていけるだろう。
「ああ、いいともさ」
 機嫌の良い笑みを浮かべて少女の問いに頷いた。
「あの子達とも仲良くやっておくれ」
 ………………。
 一手遅れてから少女は透明な笑みを浮かべて言った。
「勿論。喜んで………」
 と。


「取りあえずこれは没収」
 朝御飯を食べながらマティエは手に持った小銃を姉の視界に入れる。
「えー、せっかく買ったのに〜」
「お姉ちゃんが使うにはレベル低すぎるでしょ?  この銃は、わたしが有効利用するよ〜」
 それを聞いて、ラファナは椅子を引きずって後ろに下がった。
「有効利用? まさか、それでいい男を拉致監禁!?」
「するわけないでしょ! お姉ちゃんと一緒にしないでよぉ!?」
(二人とも朝から元気だな)
 起きてからエンジンがかかるまで数時間かかる自分には羨ましい話しだ。
 と、そこで二人の姉が姿を見せていないことに気付いた。
「マティエ、ユーリア姉さんとセーラム姉さんは?」
 もぐもぐとトーストの二枚目をかじりながらクレハが聞いてくる。
「それがね、二人とも部屋にいないの。何処行ったんだろ?」
「「………………」」
 クレハとラファナが二人して押し黙る。
「どしたの? 二人とも」
 マティエの疑問に二人は同時に口を開いた。
「「嫌な予感がする」」
「またまた〜二人とも。脅かさないでよぉ」
 そう言うマティエの頬に一筋の汗が流れている。
「ラファナ様。このような物があちらのテーブルに」
「ん? なにその便箋」
 便箋を身体に乗せたアプサラスからラファナが受け取って中身を見る。
「セーラム姉さんの字じゃない。
 なになに、またしばらく留守にします。
 この生活費で帰ってくるまで過ごすように……って。生活費は?」
「存知ません。便箋のみで封筒は見当たりませんでした」
 アプサラスの言葉で深海よりも深い沈黙がせりか家を襲った。
「ただいまです〜〜〜」
「ユーーーリアーーー」
「お姉ちゃん! 何処に行ってたの!?」
 椅子を蹴り上げて、玄関に向かうラファナにマティエが続く。
「………………はあ」
「心中お察し致します」
 クレハの諦めの溜息にアプサラスがお悔やみを言った。

「あああーーーーお、遅かったぁぁぁ!」
「ゆ、ユーリアお姉ちゃんが生活費を……」
「?」
 これ以上ないくらいに大量の買い物をしたユーリアが玄関に立っている。
「そうそう、みんなの分も庭に置いてあるわよ〜」
 なんですってと叫びつつ、ラファナは庭に走る。
 絶望的な面持ちでマティエはユーリアに尋ねた。
「お姉ちゃん……お釣りは?」
「お釣りって?」
 幸せそうな笑顔を浮かべる姉にマティエは諦めの溜息をついた。
「ぬわんなの〜〜〜これはぁ!?」
 庭に所狭しと置かれたアイテムを見て、ラファナが頭を抱えて絶叫した。
「皆に回復アイテム一式を20個ずつ買ってきたの」
「か、回復アイテム一式!」
「お姉ちゃん………私、持ってる」
 マティエは奥義「目の幅涙」を流しながらユーリアに抗議した。
「大丈夫よ〜いらないアイテムは私がマグ育成に使うから」
「あ、あんた―――まだ、マグを作ってたのね」
 庭の芝生にへたり込みながらラファナは呟いた。
「ええ〜だって今回のマグ、防御力が高くなりすぎちゃって〜」
「金のかかるものを……何度も作るなああ!」
 懐からナイフを取り出して、ユーリアに投げつける。

 キン!

 金属の弾ける音がしてナイフはあらぬ方向に飛んで行った。
 何処から取り出したのかユーリアの手にはロッドが握られている。
 これで飛んできたナイフを弾いたのだ。
「そんなに怒らなくてもいいじゃな〜〜い。
 回復アイテムなんて、いずれ使うものだし」
「おのれはああああ!」
 ラファナの放った斬撃をユーリアは軽々と杖で止める。
「そ・れ・で、姉さんが帰ってくるまでどうするってーのよ!?」
 渾身の力を込めてユーリアの杖をはじこうとするラファナ。
 たくみに力のベクトルを操作してやり過ごすユーリア。
 姉妹喧嘩もここまで来れば真剣勝負の域だ。
「大丈夫よ〜人間。少し位食べなくっても死にはしないわ」
「頼むから反省しろぉ!」
「?」
 ユーリアに何を言っても無駄だ。
 彼女は天然ボケのマイペース。
 確かに長い目で見れば無駄ではないものしかない買っていない。
 逆を言えば今、必要かと言われれば必要ではないものが多い。
 限りなく無駄に近く、遠い目で見ると無駄にはならない買い物なのだ。
 これは悪気があるのか、それともまったくないのか?
 正直、判断に苦しむ。
「お姉ちゃん、今はどうやって状況を打開するかが問題だよぉ」
 マティエの情けない声にチッっと舌撃ちして、剣を収める。
「確かにそうだわ。今、買った物を売り払うのは主義に反するし」
(お姉ちゃんも妙な所で甘いんだから………)
 ここで売ればユーリアの無駄に近い厚意を無にすることにもなる。
 そこら辺の優しさがラファナの良い所であることを家族は知っている。
「売ればいいじゃな〜い」
 理解してないのが一人居た。
「一回死んでくるかーーーあんたはあああ!」
「あ〜〜〜〜う〜〜〜」
 妹の首を絞めてガクガクと振る。
「お姉ちゃん達」
「「……………ん?」」
「それよりも、これからの生活どうするの〜?」
「「………………」」
 先程の喧騒も一瞬で静まり、地獄のような沈黙が辺りを覆うのであった。

 〜パイオニア2 繁華街〜
「………………うわ」
 日々の蓄えなどを確かめに来たラファナ達だったが。
 数字は無情だった。
「昨日、どうしてあんなに酒飲んだんだろ」
「ううっ、お姉ちゃんは悪くないよ」
 たそがれる姉を妹が励ます横で預金残高に目を通す騒動の原因が一人。
「いよいよ働くしか道がなくなったわね〜」
「こいつは……ぬけぬけ、と」
 ユーリアの一言に、ラファナの手が拳を作る。
「落ちついて、ラファナお姉ちゃん。ここで喧嘩はしないでね?」
「まあ、実際の話し。働かないとヤバイわね」
「それも直ぐお金になる仕事じゃないと困るよ。  冷蔵庫の中身も悲しいくらいにないから〜〜」
「誰かさんが遠慮の欠片もなく食べるからぁ〜」
 ゴインッ!
 取り出したロッドで姉を黙らせるマティエ。
「……いい加減、現状を把握してね?」
「ふぁい」
「二チームに別れて稼ぐわよ。私とクレハ、ユーリアとあんたでね」
「「………却下」」
 ユーリアとマティエの声と冷たい視線がラファナを突き刺す。
「な、なんでよ!」
「だって、それじゃあ剣士組と魔法組じゃん。戦力的に考えて無駄が多いよ」
 飽きれた目でラファナを眺めつつ、鋭い突っ込みを入れるマティエ。
「それに〜純真なクレハが歪んでしまうわ〜」
 側頭部を撫でながらユーリアが続く。
「わかったわ。じゃあ、あたしとマティエ&ユーリアとクレハね」
「それなら問題なし!」
「じゃあ、各自手分けして稼ぐということでぇ〜」
 そこで3人は別れた。
 ラファナ&マティエはそのままラグオルへ。
 ユーリアは留守番をしているクレハを迎えに居住区に。
 ここに生死を賭けた生存合戦が繰り広げられようとしていた。


 〜パイオニア2・ハンターズ居住区「せりか邸」〜
「ふう、これで掃除は終了だな」
 はたきと掃除機を持ったクレハが手で汗を拭う。
 朝の一件でバズーカを撃ちこまれ、散々な状態になった姉の部屋を掃除した所である。
 基本的にあの姉は放っておくと際限なく部屋を汚くしていく。
 そこで定期的に彼が部屋を綺麗にしているのだ。
「なんだかなぁ、僕は男として何か大事な物を失ってる気がする」
 腕を組んで悩むクレハの耳に玄関からの声が聞こえてくる。
「……誰だろ?」
 姉の友人かもしれない。
 クレハは急いで階下に向かった。

「すいませーん! どなたかいらっしゃいますか」
「はいはーーい!」
 トン、トン、トンと階段を下りて、玄関のドアを開く。
「こんにちわ、初めまして」
 玄関を開けた途端、若い女性の声が響いた。
「あ、どうも………」
 年は自分より少し上、16歳くらいだろうか?
 切れ長の眼差しに淡いルージュに彩られた唇。
 形のよい眉と、その瞳の輝きが何処か冷たい印象をクレハに与える。
 見たことのない顔だ。
「今日、ここに越して来ました。ティアって言います」
 そう言って、ティアは頭を下げた。
 見た目の印象に反比例するかのような明るい声である。
 クレハも慌てて頭を下げる。
「僕はクレハって言います。えっと……」
「朝の騒ぎ、管理人さんと一緒に聞いてました。
 とても賑やかで、楽しそうな家族なんですね。
 憧れます……そういうの」
 自分が何かを言い淀んでいる内に、ティアから会話をふってくる。
「毎日、あんな感じで。
 だからうるさかったら言ってくださいね。
 出来るだけ静かにしますから」
「大丈夫ですよ。ああいう賑やかなのは好きですから」
 そう言って、ティアは右手で髪を撫でる。
 しなやかな指先が髪を梳いていく。
 その腕に光る腕輪を見て、クレハは驚いた。
「ホワイトリング! ティアさんって強いんですね」
「ええ、まあ。
 管理人さんから聞きましたけど、貴方もハンターなんですよね?」
「はい! そうです」
 クレハの声が少しうわずっている。
 ホワイトリングはそう簡単に手に入るものではない。
 これを身につけるという事自体が一流の証のようなものである。
 少なくともティアは姉であるラファナと同等か、それ以上の力を持っている。
 ハンターとして自分より上の実力者と話せるのは光栄なことだ。
「じゃあ、今度一緒にラグオル探索しましょうね?」
「はい! お願いします」
 生真面目なクレハに対して、軽い微笑を浮かべる。
「今度は皆様が居る時に挨拶しに来ます。それじゃ、お邪魔様でした」
「はい、また来てくださいね。ティアさん」
「クレハくんもいつでも家に来てね、歓迎するから」
 そして背を向けて向かいの家と歩いていくティア。
「はぁ〜〜、いい人だな。綺麗で」
 その後姿を見つめて、クレハは溜息をついた。
「……良かったわねぇ」
 耳元での〜〜んびりとした声が響いた。
「うおわぁ! ユーリア姉さん、いつの間に」
「まだまだ〜隙だらけねぇ」
 両肩に置いた手を離して、クレハの前へと歩く。
「裏口から入って〜こっちに来たら
 誰かと話してるみたいだったから〜終わるのを待ってたのよぉ」
 くすくすくす、と笑いながらユーリアもティアが去ったほうを見る。
「いい人そうで良かったわね」
「うん、礼儀正しいし」
「……………綺麗だし。ね」
 ユーリアは『綺麗』の部分を強調する。
 クレハは慌てて話題を逸らした。
「それよりも、あの人ホワイトリングを持ってたよ!
 かなり実力のある人なんじゃないかな?」
「リングを装備してるならそうでしょうね。良かったわ〜そんな人で」
 それならラファナとも渡り合えるだろうから、と胸中で付け足す。
「さてと。それじゃあラグオルに降りるわよ〜稼がないと今日の夕飯は抜きだから〜」
「うっ、そうだった」
 人生楽あれば苦あり。
 ティアと知り合えたのは嬉しいことだが、それで腹がふくれるわけではない。
 せりか家の経済状態は最悪なのだ。
「よーし! 頑張るぞ」
「そうそう。その意気で苦難を乗り越えるわよ〜」
 取りあえず苦難の原因がクレハを強く応援してくれていた。


 〜惑星「ラグオル」・森〜
 惑星「ラグオル」、移民であるパイオニア1の人間達が暮らしていた場所。
 例の大爆発よりパイオニア1の住民の居所はようとして知れない。
 比較的、大人しいと言われた原生動物も
 現在はここに来るハンター達の命を狙い襲い掛かってくる。
「ん〜〜〜、っかしいなぁ」
「なんにも、誰もいないねぇ」
 そう、普段は何処からともなく現れ、
自分達に襲いかかってくるモンスターも影を潜めている。
「世界が私達を殺そうとしてるんだわ」
 がっくりと地べたに座り込んで泣き崩れるフリをするラファナ。
 そんな姉を妹が元気付ける。
「お姉ちゃん、そんな大げさな……
 そうだ! ハンターズギルドでお仕事引き受けようよ!」
「い・や。前に欲張りなじいさんがいてさ。
 そいつを捜す任務を引きうけたんだよねぇ……」
 姉は機嫌悪そうに立ちあがって頬を軽く引っ掻き始める。
「ふ〜ん、それで?」
「見つけたはいいんだけど。
 森に置いたカプセルをお前が集めてくるまで帰らない!って言い出したのよ。
 だから、ちょっと強引な手段で連れて帰ったんだけど。
 それからギルドの女、私が仕事受けようとすると嫌な顔すんのよね〜。
 だから絶対ギルドの世話にはなんないの」
「ところで強引な手段って?」
 妹の疑問に「ん?」と返事のような物を返してからマティエの頭ほどの石を放り投げた。
「こうやって………」
 瞬間、腰のホルスターから赤い色のハンドガンを引き抜く。

 ドン! ドン! ドン!

 小気味良く銃声が鳴り響き、石を幾つかの破片へと変える。
 そこで終わったわけではない。
 右手で拳銃をホルスターに戻し、左手で一本の短い棒のような物を取りだす。
「砕!」
 息吹と共に棒が伸びて一本の棍となって石へと向かう。
 放たれた突きは石の破片を全て砕いて粉に変えた。
「ほえ〜〜」
 姉の軽やかな技に思わず感嘆の溜息が漏れる。
 その隙を見逃すことなく、棍が風を斬って、マティエの鼻筋に突きつけられた。
「私が向かった時には既に肉の塊でした。
 そう言ってもいいのよ、おじさま? ってね」
(要するに脅迫して、それがギルドにばれたってわけだね…………)
 一部の人間にはハンターはならず者の集まりだと思われている。
 ギルドとしては出来るだけ速やかに、かつ可能な限り依頼人の意志に従って仕事を進めた方がよい。
 が、姉は依頼人の我侭が気に入らなかったのだろう。
 使われる者が依頼人の要求を嫌うようでは仕事にならない。
「まあ………とにかく依頼は嫌なんだね」
「まあね。掃討や全滅作戦ならしてもいいけど」
 それも殺伐とした話しである。
「でも、何があったんだろうね?」
 その時、後ろでプッシュ、と扉の開閉音が聞こえた。

 二人が後ろを振りかえると其処には見知った顔が立っていた。
「あれぇ? ラファナさんにマティエさんじゃないですか〜」
「あっ、機械のお姉ちゃんだ」
「エルノアとか言ったっけ? お久しぶり」
 フォトンライフルを構えた女性型アンドロイド「エルノア」
 パイオニア2の天才「モンタギュー博士」のアンドロイドで
 マティエは何回か共に仕事をしたことがあり、よく会っているらしい。
「どうしたんですか〜こんな所で?」
「あんたと同じ、お仕事に決まってんでしょ?
 うちは今、生きるか死ぬかの際どい状況に立ってるのよ」
 そのどうにもスローな発言がユーリアを思い出させるのか、ラファナの声は少々不機嫌だ。
「いつも通りにユーリアお姉ちゃんがお金を使いこんじゃって。
 今、食費を稼ぐためにラグオルを探査してるんだ〜」
 マティエの言った言葉にエルノアは首を傾げた。
「あのぉ、二人とも。ハンターズギルドから聞いてないんですかぁ?」
「「…………何を?…………」」
 今度はラファナ達が首を傾げる。
「ラグオルの森、洞窟、坑道、遺跡にて
 軍が大規模な掃討作戦を実行したんで、モンスターはいないと思いますよ〜」

………………。
…………。
……。

「なんですってええええええええ!!!」
 ラファナの絶叫が高く、高く、ラグオルの森にこだました。
「ど、どうしよう?」
「あのぉ〜お困りでしたら私が博士に相談してみましょうか?」
 マティエとラファナの様子を見て、エルノアが進言する。
 が。
「こ、このままじゃ、せーかつが」
 真っ白くなったラファナの耳にはエルノアの言葉は届いていなかった。
 これが後の大事件と発展する大事な場面だったとは、ラファナは勿論気付いていなかった。

〜一方、その頃………〜
「参ったな、ギルドの仕事も全然ないや」
「何処も考えることは同じねぇ〜」
 ラグオルには倒すべきモンスターがいない。
 必然的にモンスター退治などで生計を立てている者はギルドへと向かう。
 結果、ギルドの仕事は枯渇する、という分かりやすい系図だ。
「これは、あれね。きっと世界が私達を殺そうとしてるのよぉ〜」
 さすが姉妹。
 考えることは似たような物なのかラファナと同じ台詞を言う。
「冗談はいいから……でも、本気で困ったな」
 台所事情を考えても、長く見積もって後3日が限度だろう。
「みんな揃って、お金なんか持ってないし」
 仕事はないわ、モンスターはいないわ、八方塞もいいところだ。
「こうなったら倉庫に預けてる武器からいらないのを見繕って売るしかないわね」
(………いきなり最終手段か)
 胸中で突っ込みを入れるも、それ以外の方法となると彼自身も思いつかない。
「何か余ってるといいけどな」
「そうねぇ、余ってるといいわねぇ」

―――FIRST STAGE 「LADY LUCK?」〜後編へ〜―――

《 良ければ感想くださいね 》