- ファンタシースターオンライン二次創作「パイオニア2奮戦記!」 -
「PHANTASY STAR ONLINE-パイオニア2奮戦記!-」
FIRST STAGE「LADY LUCK?」〜後編〜

 〜前回までのあらすじ〜
 妹達の為に残した生活資金だが、三女ユーリアが全部使いきってしまう。
 いきなり貧乏生活を強いられたせりか家。
 それに合わせるかのようにハンターズギルドの仕事も枯渇する。
 果たして起死回生の一手を打つ事は出来るか!?

 〜パイオニア2・夕暮れ〜
「う〜〜〜お腹すいたよ」
 夕暮れの赤に彩られたパイオニア2
 人々の一日は終わりを告げ、それぞれの道を歩いて行く。
 足取りの軽い者、重い者、どちらでもない者。
 彼女の足取りは何処かふらついていた。
(何とか……何とかしないと)
 生活資金が底を尽きて、一週間が経った。
 もうそろそろ倒れる者がいてもおかしくない頃だ。
「やあ、マティエくん。随分と危機感迫った表情だね」
「ふえ?」
 浮かない顔をしたマティエの肩を誰かがポンッと叩く。
「モンタギュー博士?」
「エルノアから話しは聞いたよ。
 何でも食べることに困ってるとか?」
「え、ええ。そうなんですけど……」
 心持ち後ろに下がりながらマティエは言った。
 このモンタギュー博士、パイオニア2でも指折りの科学者でフォースでもある人物なのだが……。
 天才の典型的な例と言うか何と言うか………とにかく変わり者なのである。
「そんな君達にプレゼントを用意したんだよ」
「プレゼント?」
「ああ、肉だよ、肉。珍しい肉が手に入ったんだ」
「お肉!」
 しかも珍しい肉!
 瞬間、マティエの頭の中に高そうな肉のビジョンが浮かぶ。
「これが結構な量あってね。
 僕一人じゃ、食べきれないから。それを使ってパーティでも…」
「わあ〜! パーティしましょう!
 もう、今直ぐにでも。ありがとー博士!」
「いやあ、気にしなくていいんだよ。君達には世話になってるからね」
 メガネに隠された瞳がキラリと光ったことにマティエは気付いていない。
「それじゃ、他にも食材を買っていこうか。勿論、僕がおごるよ」
「わーい! やったね、お父さん! 今日はスキヤキだよ〜」
 くるくる〜とプリマのように回りながらマティエはスーパーへと向かっていた。
「……一体、いつの時代の子だ?マティエくんは」
 ずれた眼鏡をなおしながら博士は彼女の後を追った。

 せりか家ではユーリアとラファナの二人が話し合っていた。
「ラグオルの原生動物を捕まえるですって?」
「その通りよ〜それで飢えを凌ぐの」
「うう〜原始人みたいだけど、背に腹は変えられないわね」
 力無く言ってラファナは珈琲を啜る(もうこれ位しか残っていないのだ)
「そろそろ貴方あたりが死にそうだもの〜
 背に腹も何も、やるしかないでしょう?」
「ちなみにその原因があんたにある事を忘れてないでしょうねぇ?」
「若いうちの苦労は買ってでもしましょうよ〜〜」
「……あんたねえ」
 ラファナの皮肉も彼女には通じない。
 と、言うか。ここ一週間、ユーリアはほとんど食べ物を口にしていない。
 燃費が極端に悪いのか、彼女は食べなくてもそれなりに凌げるらしい。
 ちなみに彼女の腰は抱けば冗談抜きに折れそうな程に細い。
「まあ、何時までも終わったことを言ってもしゃーないわ。
 で、原生動物ったって…掃討作戦したんだから残ってないでしょ?」
「その点は大丈夫よぉ〜」
「あんたのその自信に幾度騙されたことやら………」
 自信たっぷりにいうユーリアをラファナは半眼で見つめる。
「ほら、ラファナ〜何か忘れてない?
 殺そうと思っても殺せない原生動物のこと」
「殺そうと思っても殺せない動物?」
 まるで謎かけのようなユーリアの問いに首を傾げる。
 ブーマは幾度となく一刀両断にしたことがある。
 モスマントはそもそも食べるつもりなどないし、食べれないだろう。
 なら、サベージウルフ? どうにもまずそうだ。
 ヒルデベア……あれも、見た目が美味しそうではない。
 見た目が美味しそうで殺したことのないモンスターと言えば……。

「あ」
「思いだしたみたいねぇ〜」
「ラッピーの事か!」
 ラグオル原生動物の中でも最も大人しく戦闘力のない雑魚である。
 ただ、その鍛えられた逃げ足は素晴らしく、屈強なハンター達も追いつく事は出来ない。
「問題は……その追いつけないモンスターをどうするか、か」
「モンスターが手に入れば肉料理だけど……難しいわね〜
 私が狙っているのは卵よぉ。卵なら逃げないでしょ?」
「あ、そっか。失念してたわ」
 あはははは、と豪快に笑うラファナにユーリアも微苦笑している。
 今回の原因がユーリアにあることなど、すっかり忘れて談笑している。
 こんな感じで、毎回の苦難を家族は乗り越えているのである。
「それにしても〜マティエは遅いわねぇ」
「ん〜〜まあ、しっかりしてるから大丈夫だと思うけど
 って、クレハは? あの子の姿もないじゃない」
「ああ〜〜〜、あの子はお向かいさんの所に行ってるわよ」
「へ? 向かいの家に誰か越して来たの?」
「言わなかったかしら? 一週間前から居るわよ。
 ティアって言う女の子……あら?」
 名前だけで女だと分かったのか、ラファナは全て聞き終わらぬうちに家を飛び出した。
 そのスピードは地表すれすれを飛ぶ燕の如し、無駄のない体さばきだ。
(無駄な体力を使わなくてもいいのに……)
 そんな事を思いながらモノメイトをかじる。
 この回復薬、大量のタンパク質でも含んでいるのか、使いすぎるとアッと言う間に太る。
 彼女の貴重なエネルギー源は皆が『持ってるから』と言って跳ね除けたこの薬であった。

「たっだいまーーー! 収穫&お客さんだよ〜」
「お邪魔致しますぅ」
「どうも」
 ラファナに遅れること少し、マティエの元気良い挨拶が家に響く。
「あら? 博士にエルノアさん。こんな所までようこそ〜」
「久しぶりだね、ユーリア君。元気そうで何よりだ」
「あのね、博士が皆でお肉食べましょうって持ってきてくれたんだ〜
 後、魚に野菜にお酒も! だから、今日はパーティだよ〜」
(それじゃ、わざわざ原生動物を取りに行かなくてもいいわね)
 自分の提案が潰れたことは淋しいが、良しとしておく。
「かなりの量だからね、僕達だけでは辛いかもしれない」
「それじゃあ、お隣のティアさんも呼びましょう。残ったら勿体無いですし」
「あ、そうだね!
 そう言えばラファナ姉は何処に行ったの?
 すんごいスピードだったけど……」
「ああ……丁度、お隣さんに顔を見せに、ね」
 そういってユーリアはにっこりと微笑んだ。

 〜パイオニア2・せりか家近所「ティア」の家〜
「へぇ〜クレハ君達って結構苦労してるのね」
「苦労……とは少し違うかな?
 どっちかと言うと毎度の厄介事みたいな感じで」
 金銭感覚が壊滅しているユーリアやラファナが起こす失態の数々を笑い話に会話は進む。
「毎度の厄介事で片付けられるなんて、家族が信頼しあってる証拠よね」
 そういってティアは視線を逸らした。
 何かを思い出したのか、黙ってティーカップの紅茶をスプーンでかき混ぜている。
(しまった。余計なことを……)
 ティアはこの家に一人で暮らしているという。
 家族がいないのか、それとも一緒には居れない理由があるのか。
 とにかく、あまり楽しい事情ではないのは明白だろう。
 だから、クレハは頭を下げた。
「あっ……ごめんなさい。つまらない事を話して」
「ううん、別にいいの。こういう話しを聞くの好きだから」
 クレハの謝罪の言葉で逸らした視線が戻ってくる。
 その時にはすっかり『御近所のお姉さん』の顔に戻っていた。
「私の身内はね、とうの昔に死んだわ。
 でもね、そういう感情も次第に薄れていくものなの。
 今は家族がいなくても、それなりに楽しく暮らしてるよ」
 今は、と彼女は言った。
 そういう風に考えられるまでに、この少女は幾度悲しんだことだろう?
「クレハ君、そんな暗い顔しないでよ〜
 今は、ほら!近所に私を心配してくれる弟も出来たから、ね?」
「あっ、どうも、です」
 もう少し気のきいた言葉でも喋れればいいのだが、とか思いながらクレハは紅茶を口にする。

「すいませーん。うちの弟がお邪魔してると思うんですけどぉ」

 ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん
 と、旧時代から変わらない呼び鈴の音がこだまする。

「あら? 本当のお姉さんが迎えに来たみたいね」
 呼び鈴の音がさっきから途切れることなく続いている。
「ったく、もう! あの人は〜」
 ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん
「ラファナ姉さん! 迷惑だからやめて」
 ティアよりも先に玄関へと向かい、扉を開ける。

「こ・ん・に・ち・わ」

 ずさあっ!
 姉の顔を見た瞬間、反射的に飛び退く。
「……どうしたの? クレハくん」
 言葉も出ない。
 ラファナの異様な気配にクレハは全身の毛が逆立っている。
 そんな事態を分かって居ないのか、ティアは「どうぞ、はいってください」と迎え入れた。
「どうも〜せりか家次女でクレハの姉、ラファナです〜」
「今度こちらに越して来ました。ティアと申します」
 傍から見れば何の変哲もない初めましての挨拶である。
 ………………。
 が、その後が全然続かない。
 二人はにっこりと笑顔を浮かべたまま、時間が止まったかのように静止している。
 たった数秒が恐ろしいくらい長く感じられる。
「……あの、どうしたの?」
 その空気に堪えかねてクレハが口を開いた。
「いんや、何でもない。
 それよりクレハ、今日は外食に行くよ。
 早く戻って用意しな」
 いつもなら全力で相手を脅すラファナが静かに言った。
「へっ? あ、分かった」
 そんな姉の態度を不思議に思いつつ空ろな返事を返す。
 その二人を見て何が可笑しいのかティアはクスッと軽く笑った。
「クレハ君、またいつでも遊びに来てね。勿論ラファナさんも」
 軽く会釈だけで返事してラファナは帰っていく。
「あ、お邪魔さまでした」
 礼儀正しく頭を下げてからクレハはラファナの後を追っていった。

「姉さん、どうしたの?」
 先を行く姉に走って追いつき声をかける。
「何が?」
「いや、いつもと違うなと思ってさ」
 いつもなら、クレハが女友達を連れて来たら、
 ありとあらゆる手段を使って割り込んでくると言うのに。
「何と言うか純粋に嬉しそうだったから邪魔しちゃ悪いな、と思った」
 少々ばつが悪そうにラファナは答える。
「ふ〜ん。まあ、お隣同士になったわけだし、仲良くね」
「分かってる」
 煩わしそうに言って、ツタツタと歩く速度を上げていく。
 その仕草を見て、クレハは仕方ないな、と思いながら嘆息する。
「あんたは先に帰ってな。わたしは森に行って来るから」
「え? 森に用でもあるの?」
「夕飯を探してくるって言えばユーリアには分かる」
 それだけ言うとラファナは『タンッ』と土を蹴って走り出した。
(むう〜〜〜あの女、強敵だわ)
 とにかく釈然としない靄のような物を抱えて。
 そして、そんな自分に無性に苛立ちながら。
「こういう時はストレス発散よね」
 ラファナはラグオルへ降り立つ転送装置の元へと駆けた。


 〜せりか邸〜
「どうも、お邪魔します」
「はいはい〜いらっしゃいませぇ」
 緊張気味のティアをいつもの調子でユーリアが迎える。
「あれ? ラファナさんは?」
「姉さんはラグオルに用事があるとか言って出掛けました」
「へえ〜そうなの」
 人見知りするのか、何となくかは知らないが、ティアはクレハの近くから離れない。
 そんなティアの元へちょこちょことマティエは寄っていく。
「こんにちは、ティアお姉ちゃん。せりか家四女のマティエだよ〜」
 何の意もない純度100%の笑顔で挨拶する。
 それと同時にハンターズギルドより支給されたギルドカードを差し出す。
「ありがとうマティエちゃん。よろしくね」
 ティアもカードを出して交換する。
 パイオニア2お決まりのハンター同士の挨拶である。
「さてと。それじゃ挨拶も済んだことだし、パーティの準備を始めましょうか?」
「うん! 博士も手伝ってね」
「えっ? 僕もかい、マティエくん?」
「働かざる者死して屍拾う者なし、ですよ。博士?」
(……何かが間違ってるような気もするけど)
 ユーリアのボケを胸中でつっこみながらティアは視線を巡らせる。
「まあ、たまには僕自身が動くのもいいかもな」
「そうそう。家事は女の仕事なんて、前時代の遺物だもん」
「エルノア、君も手伝いたまえ。こういう経験もいいだろう」
「了解しましたぁ」
 ………………。
(羨ましい、な)
 自分がとうの昔に失ってしまった物。
 多分、普通に生きていれば最初から持っている物。
 それがここにはある。
(私だって、望めば、この程度の物は手に入る)
 見ていられない、とばかりに彼女達から目を逸らす。
 その瞬間、激痛が身体を支配した。
「っ!!」
「ティアさん!?」
 視界が真っ暗に染まって何処か遠くから自分を呼ぶ声が。
 聞こえた
 ような
 気が
 し
 た
 。

 〜森北部・ラファナ〜
「見つからないな。あいつらって何処に巣作ってるんだろ?」
 普段の散策では歩かないような場所を重点的に探しているが見当たらない。
(……ポイントを変えてみるか)
 思い立ったら即実行。
 ラファナは場所を変えるために森を走り出す。
 舗装などされていない森を最高速で駆ける彼女。
 邪魔になる木や草を剣で払いながら進む彼女の視界が大きく開けた。
 そこから先に大地は存在しない。
 しかしラファナは止まる所か、どんどん走る速度をあげていく。
「ショートカット!」
 高らかに宣言し大地を蹴る!
 彼女の身体が大地の束縛を離れて宙を舞った。

 タンッ!

「やっぱ道無き道を進むのが冒険者の基本よね♪」
 数秒後には二階分くらいある高さから彼女は飛び降りていた。
 度胸があるだけでは困難なことである。その辺りは流石は冒険者と言った所だろう。
 しかし……。
「相変わらず無茶をするんだな、君は」
「男のくせに軟弱なこと言わないでよね、アッシュ」
 ラファナが降り立った場所にはすでに先客が居た。

 アッシュ・カナン。
 ラファナが以前に仕事で救助した新米ハンターである。
 才能はあるのだろうが、まだまだやる気が空回り気味な好青年だ。
 ラファナの数少ない男友達と言える。

「で、あんたこんな所で何してるの?」
「それは俺の台詞だよ、ラファナ。
 今はラグオルにモンスターはいないぞ?」
「分かってるわよ、んな事は。でも、女には色々事情ってもんがあるのよ」
 家計が火の車で狩猟生活をしているだけ、なのだが格好悪いので女の事情と言って誤魔化すラファナ。
「そんなものか? へえ〜」
 アッシュは納得したようだ。
「で、あんたは?」
「俺か? 俺は軍に依頼されて最後の仕上げに行く途中なんだ」
 本来、仕事に関することは他のハンターに言う事ではないのだが、
 その辺りの事を気にすることなく依頼内容を喋った。
 ここら辺がまだまだ新米な彼の良い所であり、未熟な点である。
「最後の仕上げ?」
「そう、セントラルドーム内に存在するドラゴンを退治にしにいくんだ」
「ほおう」
(チャ〜〜ンス!)
「ねえ、アッシュ? その仕事、私にも手伝わせてくれない?」
「えっ? どうして?」
「いやぁ〜実は今月ピンチでね。お金が欲しいのよ〜お願い!」
 両手を合わせてアッシュに拝む。
「まあ、君達には借りがあるからいいさ」
「いや〜ほんと助かるわ。じゃあ、早速行きましょう!」
(やっぱ卵料理より肉料理よね♪)
 まさに一石二鳥な案を思いついたラファナはアッシュと共に森の奥へと姿を消した。

 〜せりか邸〜
「………………」
 頭がふらつく。
(ああ…そうか)
 また気を失ったのか。
「ふっ!」
 息吹を放って、身体を起こす。
「良かったわ〜目を覚ましてくれて」
 横から聞こえた声は私の意識を眠りに誘おうとするような声だった。
「すいません。御迷惑をおかけして」
 そちらの方向を向いて頭を下げる。
「いえいえ、それよりも大丈夫?」
「はい、おかげさまで。寝れば治りますから」
 そう言ってから瞳を閉じて、精神を落ち着かせる。
「もうすぐ料理は出来ると思うけど〜食べれるかしら?」
「ええ。もう、驚くくらい食べますよ」
 冗談めかして言った言葉にユーリアさんはようやく笑みを浮かべた。
 その瞬間
「!!」  「なに! この波動」
 ティアとユーリアが忙しなく辺りを見回す。
 強烈なプレッシャーが辺りを覆っているのだ。
「ユーリアさん!?」
(この波動……以前に何処かで会った事がある?)
 似たような波動を感じたことがある。
 これは確か……。
「ボス?」
 ユーリアの声に答えるように……ソレは現れた。


 〜ラグオル中央部〜
 母なる大地を席巻した人間という名の勢力。
 偶然か必然か、其処にある種を駆逐し、彼らは種の頂点に立った。
 その方法は別に珍しい物ではない。
 単に敵は自分の出来うる限り、最大の手を尽くして殲滅するだけだ。
 そして。
 惑星ラグオルの原生動物の頂点たる彼も同じ手を使う。
 其処に居る人間を滅ぼし、己が頂点に立つ為に。

 おおおおおおおおおおお
 鍋の中より生まれ出でたソレは己に出来る最大限の力で世界に吼えた!

「近い!?」
「おねーちゃん、大変だよ〜〜」
 エプロンをつけたマティエが部屋に雪崩れ込んで来る。
 それを追うようにエルノア、クレハ、モンタギューが続く。
「な、何? 一体何が起きたんですか!?」
 ティアが半ば叫び気味の声で質問する。
 その視界の隅……厨房の方向から何か巨大な尻尾のような物が見えた。
(エビ?)
 に酷似した尻尾が厨房を所狭しと跳ねまわる。
「こいつは凄いな」
「は、博士! 一体何が起きたんですかぁ?」
 いつもと変わらず平静なモンタギューにエルノアが詰め寄った。
「いや、例の肉を調理していたときに体液が漏れ出たみたいだね。
 しかし、よもやあの短時間で爆発的な成長をするとは。
 これはどう考えても異常だな、一体どういう事だ?」
「ちょっと待てぃ!
 今の台詞はおかしいぞ。
 その肉って一体何の肉だ!?」
「体液で成長?」
「……それってもしかして」
 首を傾げたユーリアに頬を引きつらせたティアが続く。

「お察しの通り。
 あれはダル・ラ・リーの肉だよ」

「「「何を食わす気だ、おまえはあああ!」」」
 呆然とするティアとエルノア以外の三人の声が唱和する。
 そして、同時に巨大化する生物に堪えられなくなった建物が倒壊した。

 崩れ落ちる建物から間一髪逃げ出したティアの耳にマティエの声がこだました。
「にょおおおおお〜家のローンがぁ!?」
 頭を抱えて叫んでいる。
(子供なのに世知辛い悩みを持ってるのね)
 他人事のように……他人事だが、そんな事を思いながら周りの状況を観察するティア。
 皆、それぞれ荒事を経験したハンターだ。
 家の倒壊に巻きこまれずに脱出は出来たらしい。
「はかせ〜〜この負債。高くつきますよ〜」
 幽鬼のような気配を放ちながらもユーリアがいつもの微笑を向けた。
「それはともかく!
 今はこいつを片付けるのが先だろう」
(確かにそうよね)
 ドラゴン並に大きくなった巨大エビが両側二件の家をなぎ倒す。
 このままでは自分の家も危ないと感じたティアが服の裾からロッドを取り出した。
「それじゃ、ちゃちゃっと倒しましょうか?」
「少しは平穏な生活を送りたい」
 皆がそれぞれの散開して、巨大エビとの間合をあける。
 ドガッ!
 食材であった頃とは比べ物にならない鋭く尖った触角が地面を突き刺した。
「ちっ! 食らいやがれ」
 クレハが突っ込み、棍の一撃を見舞う!
 が、異常成長して甲殻は鎧のように硬い。
「既に装甲も並じゃない!」
 棍を伸縮させて懐にいれ、クレハは一度間合を外した。
 そしてそのまま姉と妹の近くまで寄る。
「マティエ〜行くわよ」
 それを確認してからマティエとユーリアは呪文を唱えた。
「オッケー! 神の力を剣に纏え! シフタ」
「大いなる慈愛の盾をその身に纏え! デバンド!」
 攻撃&防御力アップのフィールドが皆を覆う。
 これでボス戦の準備は出来た。
「ザルア!」
「あっ」
「これで少しは殺しやすくなったでしょ?」
 ロッドからハンドガンに持ち替えると早速攻撃を開始する。
「エルノア、全力で敵を抹殺。短時間でケリをつけるぞ」
「らじゃです」
 強大な敵との戦いは常に最大威力の攻撃でもって、最小限の時間で決めるのが基本だ。
 人間とは比べ物にならない身体能力を有するモンスター相手に長期戦は向かない。
 長引けば長引くほど魔物の尋常でない体力に、こちらが追い詰められるからだ。

(……まずいですねぇ)
 表情には出さずユーリアは思った。
 クレハの近距離からの物理攻撃。
 中距離からのエルノアの支援攻撃。
 その隙をモンタギュー、ティア、マティエ、自分の魔術で援護する。
 時には攻撃を受ける皆の傷を癒すことも忘れない。
 が、状況はどんどん悪化していた。
 マティエのスタミナが限界に近い。
 自分と同レベルの魔術を扱う彼女だが、所詮は子供だ。
 クレハの方も倒れないモンスターに焦りの表情が見え隠れしている。
(このまま逃げるのが一番なんでしょうけどねぇ〜)
 と、ユーリアが心の隅で弱音を吐きかけていた、その時。
「ごめん! お姉ちゃん。魔力が尽きた」
 今まで途切れることなく続いた波状攻撃がとうとう隙を見せた。
 戦闘中も成長し、すでに食材の頃の面影など消えたエビの口が大きく開く。
「ちょっと! まさか、ブレス攻撃!?」
 口内が鈍く光るのを見て、ユーリアが珍しく慌てた声をあげた。
 その標的は……。
「お兄ちゃん! 逃げてぇぇ」
「!!」
 クレハも標的は自分だと分かっているのだが触覚の攻撃に邪魔されて動けないでいる。
(駄目……間にあわない)
 ティアが攻撃呪文の集中を止めて蘇生魔法に切り替える。
 損傷が激しくなければ間に合うはずだ。
 しかし、ここまで自分たちが手間取っている敵の攻撃がそこまで生易しいものか?
 きゅぃぃん!
 口から放たれたレーザーが一直線にクレハに走る。
「くそっ!」
 知覚は出来るが防御は許さない速度でレーザーが来る。
 ヒュン
 レーザーとクレハの直線状に何かが飛びこんでくる。
 何かは接触した瞬間、派手な音を立てて爆発を起こした。
 その間にクレハは間合を開けている。
(やる……多分、あの人がこの家のエースね)
 横から赤のハンドガンを投げて囮にしたのだ。
 ティアの視線の先。
 自分が見つめる女性はすでに化け物に肉薄していた。

「ん・ふっ・ふっ。この腐れ外道!
 よくも私の可愛い弟に手ぇ出したわねぇぇ!」


 いつものラファナの叫び声に、みんな苦笑しつつも士気が湧き上がるのを感じていた。

「やれ! チェイン・ソード」

 ぎゅぃぃぃぃぃぃぃん

 ラファナの気迫に答えるべく、大剣についたフォトンの刃が激しく回転する。
 普通、剣とは刃を引いて斬るものである。
 が、このチェイン・ソードは違う。
 その刃自体が、まさしくチェーンソーのように回転し目標をズタズタに切り裂くのだ。
「切り刻めぇぇぇぇぇぇ」
 両手に持った大剣を大上段に振りかぶり、上体を右へ逸らしながら斬りつける。
 袈裟懸けに刃が走り、刃を返して追撃をかける。
(デ・ロル・レと同じタイプか)
 その強固な殻に傷が入ったのを確認してから大きく後ろに飛び退く。
「で、一体何がどーなってるわけ?」
「夕飯が突然変異して暴れたって所かしら〜」
 ユーリアの言葉に返事してラファナは黙考する。
「それなら私が取ってきた物の方がいいわね。
 アッシュが持ってくるまでにケリをつけるわよ!」
 今、彼女の頭の中にある言葉はただ一つ。
 すなわち、完全殲滅。
「ま、奴の体力も限界に近そうだし。
 私の一撃で何とかなるでしょ。
 皆! これで、決めるよっ!

 ラファナの視線を受けて、クレハが走る。
「クレハさん。波状攻撃ですぅ」
「いつでも!」
 クレハの持つ赤のセイバーとエルノアのフォトンライフルが休むことなく攻撃を続ける。
「離脱開始!」
 スタミナが切れるまで斬り続けた後、二人が左右に別れて後退する。
「いっけええええ、其は闇を穿つ光なり!」
 マティエが持つ奥義。
光の最強魔法「グランツ」発動!
 本来なら上空から放たれる光の矢が敵を撃つ魔法なのだが………。
「「「其は闇を穿つ光の雨なり」」」
 ユーリアとティア、モンタギューがマティエに合わせてグランツを発動させた。
 同じに放たれた光の矢は雨となり怪物の身体を削り取る。

「マスター、最後のトドメです」
「……了解!」
 チェインソードの回転音がどんどんと高くなり、それに合わせてエンジンが悲鳴をあげる。
 目の前には光の雨を受けて悲鳴をあげる化け物の姿がある。
「この一瞬を大事にしましょう。私とあんたの唯一の接点よ!」
 渾身の力をこの一撃に込めて……
「いけぇぇぇぇぇ!」
 飛びあがり相手の頭を目掛けて刃先を立てる。
 回転する刃が脳天に接触、火花が散る。
 ザンッ!
 しかし、それも一瞬のこと。
 チェイン・ソードはいとも容易く化け物の頭を両断した。
「お見事です、マスター」
「うん。オーバードライブさせたせいで剣壊れたけどね」
 突き刺さった剣を抜いて、後ろにいる皆に向かって。
「楽勝♪」
 とVサインを送る。
「……ふむ、流石だな。
 しかし、今回は予想外の出来事が多過ぎる。
 あれを使うまでもなかったか」
「一体何を企んでたんですか〜」
 ユーリアが肩を『がしいっ』と掴んで固定する。
「いや、それはだね……」
 そこで皆の顔が凍りつく。
「ねえさん!」 「ラファナさん! 危ない」
「へっ?」
 後ろに居る化け物はまだ死んでいない。
 お返しのつもりか、触覚が弾丸の早さでラファナの頭を狙う。
 ドン! ドン!
 一発が触覚を、もう一発が今度こそ怪物の息の根を完全にとめる。
「………………油断大敵」
 こちらに聞こえる最低限の声量でライフルを構えた女性型アンドロイドは呟いた。
「あらあら〜」
「セーラムお姉ちゃん!」
 ドラゴンの肉を担いで来たアッシュと一緒にセーラムは周りの様子を見て溜息をあげた。


〜エピローグ〜
「……自分の家が実験場に使われるなんて思わなかった」
「その点については申し訳無い。こちらの目論見が甘かったよ」
 ぼそっ、と呟いたセーラムに頭を下げるモンタギュー。
「……どういう事なの、姉さん?」
 姉と博士の会話にラファナが横から口を挟む。
「それについては僕が説明しよう。
 軍はハンター達を使って惑星ラグオルの事故究明に全力をあげている。
 それと同時に惑星移民計画の方も進めているんだよ。
 そして出来たのが彼女のライフルにつけた装置なんだ」
「装置? 何の装置なんですか?」
「うむ。ラグオルの原生動物はある種の体液が原因で狂暴化している。
 これはその体液を中和する装置なんだ。実験段階だけどね。
 だが、実現すれば移民計画も一歩前進する。僕達には住む星が必要だからね」
「……そして暴走した怪物にこれを撃ち込む。
 それが今回、私が受けた仕事依頼なの」
 ………………。
「まあ、事情のほどは分かりましたけど〜
 そ れ が、ど〜〜〜して私の家で行われたんですか?」
 にっこりと微笑むユーリアにセーラムも博士も黙り込む。
「いや、最初は驚かせるつもりだったんだけどね。
 何がどうした事か、あんな急激な成長をしてしまってねぇ
 とにかく、あいつの死体を調べてみようと思う。
 家の方は建て直すように言っておくので。
 その……勘弁してくれないかな?」

「「「「それだけで済むと思ってるんですか?」」」」

「やっぱり?」
「はう〜博士。みなさん、すっごく怒ってますよぉ」
 ユーリア達の気配に怯えながらエルノアがずざざっ、と後ろに下がった。
「食べ損ねた夕飯くらいはおごってくれるよね、博士?」
「ああ! それくらいは喜んで!!」
「お安いご用ですよぉ」
 まずは子供から説得、とでも思ったかマティエの言葉に頷くエルノアとモンタギュー。
「まあ、家も建て直してくれるって言ってるし。
 それで手を打ちますか」
「もう何でもいいから早く食べにいこうよ」
「じゃあ、ティアさんもアッシュ君も連れて。
 パイオニア2、名物料理食べ歩きに行きましょうか?」
 全員一致で『賛成』の声があがる。
「博士〜大丈夫ですよねぇ?」
「多分……な」
 こうして、せりか家の面々は博士の奢りで今回の窮地を脱した。

 ちなみにラファナが採って来たドラゴンの肉だが
『食べたら何が起きるか分からないんじゃ?』
 というティアの冷静な意見からラッピーの餌になったということだけ記しておくことにする。


 ―――あとがき―――
 長々と書いた割には中身が今一つな感じです。
 ちょっとした中編小説並に時間がかかってたりします
 ……トホホ=■●_
 今度はもっと短く内容のある物を書きたいと思います。
 う〜〜作者としては反省点の多い作品でした。
 そいでは、また次の作品でお会いしましょう〜

《 良ければ感想くださいね 》